第十七話 新たな技能
興奮に任せてリルの部屋を飛び出したものの、敢え無くベル達に追いつかれた俺は、手持ち無沙汰な時間を埋める様に街へと繰り出していた。
直ぐにでも技能を試しに行きたい所ではあったが、先の戦いのせいで街の外はかなり混沌としているのだという。
まああれだけの魔物が森を蠢けば、縄張りも何もあったものではないと思うし、むべなるかなといったところである。
『にしてもどこに行こうかねぇ。ベルはどっか行きたいところはあるか?』
忙しさにかまけ、観光らしき観光をしていなかったので、これはこれでなかなか捨てたものでもないかと思い直し、俺はベルに問いかける。
素っ気ない答えが返ってくるだろうなぁと思って返答を待つと、ベルは案の定端的に『んん』と呟いて、首を振った。
『ほんじゃあ、治療院にでも行くか』
『ん』
変わらずクールな相棒の返事を聞き、俺達は唯一場所の分かる治療院へと歩き出す。
俺とベルでは当然土地勘もなく、リルだけが頼みの綱だった。だというのに、当のリルは用事でもあるのか俺達を置いてどこかに行ってしまい、現状行ける場所はほとんど限られていた。
『ドンドンかポーラさんいっかなぁ、暇だったら街を案内して貰いたいんだが』
『ゴードンさんはまだ森を見回ってるはず、今朝会った』
『ほーん……って、えらい朝早く外出するなあとは思ってたけど、ベルも見回りに行ってたのか?』
『ん、私はもっと強くならなきゃいけない』
『……なんという向上心、流石は神獣様ですなぁ』
お前も神獣だろう、というベルの視線をビシバシ感じたが、俺は気にしない。しないったらしない。
そんな会話をぼちぼち交わしながら、街灯の標に従って雪道を進んだ俺達は、ほどなくして治療院へと辿り着く。
中に入るとタヌキっぽい犬人、カルムの面々が例によって忙しそうに小走りで動き回っていた。
一瞬、街に来て直ぐのあの光景が過ぎったが、今の治療院は本来の穏やかさを取り戻しているのか、緊張感はない。
あれだけの戦いの後なのに、怪我人もちらほらとしかいないようだった。
暇だし何か手伝おうかと中に入ると、こちらに気付いたポーラさんが慌ただしく駆け寄ってくる。
ポーラさんは新しい俺の姿にやや困惑しつつも、ニコニコと愛想よく俺の前に屈んだ。
『おいっす、ポーラさんっ。ついさっき進化したばっかりなんだけど、どうかな? 中々いい感じだろ?』
『ええ、とっても可愛らしいと思います』
『ヒーリングラットにも似てるし、ポーラさんの好みに合ってると思ったんだよ~。お目が高いポーラさんには、特別にファーストもちもちの権利を進呈しようっ』
『ふふっ、ではお言葉に甘えましょうか』
もちもち、ふさふさと互いの友情を確かめ合い、俺は折角来たのだからと何か手伝えることがないか尋ねてみる。
何か一つくらいあると思ったが、ポーラさんは俺達に遠慮でもしているのか、俺の申し出をバツが悪そうに断った。
しかし、代わりになのか南門で人手が足りていないという情報を教えてくれ、特にやることもなかった俺達はポーラさんに別れを告げて、そそくさと南へと向かった。
街の南といえば謎の霧が発生していた方角だし、魔物でも襲ってきたのかと多少は身構えていたが、そこに待ち受けていたのは想像を絶する魔物達の亡骸の山だった。
気温が氷点下を下回っているおかげか腐敗臭こそしないものの、辺りにはいくつもの血だまりが出来上がっていた。
『(おぅ……こりゃまた壮絶だな)』
亡骸の山は猪、熊、鹿、蝿、キノコ、根っこ等々、種類ごとに分けられ、いくつか見覚えのない魔物もいた。
俺でさえ百や二百以上屠っていたのだから、全部集めればこれだけの数になるんだろうと納得したが、それらが山と積まれている様は壮絶以外に表現できない光景だった。
『よく全部集めたなぁ。放置しちゃやっぱ不味いのか?』
『ん、森が死霊達だらけになる』
『ああ、そういうのもあるのか……その場で燃やす、って訳にもいかんよなぁこの寒さだし』
『使える素材も多い、無駄にするのは可哀そう』
至極真っ当な判断の結果、こうなったことは分かった。
けれど、この寒さの中、延々と解体作業を続ける悲し気な犬人さん達を見ると、少しだけやるせなかった。
まあ、当の犬人さん達は元気溌剌に作業しているのだから余計な心配ではあるのだが。
お喋りも程々に手伝いに向かった俺達は、現場を仕切っていたフェネックの様な大きな耳を持った犬人さんに近寄り、指示を仰いだ。
『手伝う、何をすればいい?』
『べ、ベル様っ?! 神獣様にそのような…』
『そういうのはいい、困った時は助け合う』
『し、しかし、何をお願いすれば…』
『私は自由に炎が出せるし、解体くらいならできる。デントは、まあそこそこ器用だから適当に働かせとけばいい』
『な、なるほど……で、ではベル様には解体を、デント様には氷室への運搬をお願いいたします』
何やら失礼な物言いを感じ取ってはいたが、話がややこしくなりそうなので、ベルをもふもふするだけで我慢する。
ベル経由で伝えられた役割は、街の南西にある天然の冷凍庫、氷室に使えそうな素材や食料を運搬すること。
犬人の皆は悠々と肩に担いだり、荷車に乗せて運んでおり、荷車を曳くくらいなら進化して多少大きくなった俺でもできそうだった。
早速、作業に取り掛かろうと思ったが、俺はそこで丁度試そうと思っていた技能が有ったことを思い出す。
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《頬界》
口に含んだあらゆるものを異界へと収納することができる
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素材やら何やらを口に入れるのは、ちょっとばっちぃ様な気もしなくはないが、これだけの魔物の山、ちまちまと運んでいては日が暮れそうだ(ずっと夜だけどねっ!)。
駄目だったら普通に運べばいいだけだし、とりあえず試してみようとベルに話しかける。
無論、要らぬことをして怒られない様にするためである。
俺もベルに叱られ、日々着実に成長しているのだ。
『なぁベル、ちょっと試したい技能があるからさ、怒んないよう言っといてくれないか?』
『ん? いいけど何するの?』
『俺にも分からん、が、ちょいと試してみる』
言うが早いか、荷車に積まれていた解体肉を手に取り、あーんと口をかっぴらいて、突っ込んでは取り出してみる。
すると、本当に異界に繋がっているのか、涎が付いている様子もないし、逆に口の中に何かが触れた感覚もなかった。
俺はどのくらいの物まで、またどれくらいの量入るか試したくなり、荷車の積み荷を片っ端から吞み込んでいった。
傍から見たらそれなりに奇妙な絵面なのか俺並みにあんぐりと大口を開けて犬人さん達が眺めていたが、ベルが状況を説明してくれたのか、理解してくれたようだ。
『(荷車丸々なんかは流石に無理だが、明らかに口のサイズより大きいのも普通に入るな。容量についちゃ今んとこ底なしだし、結構すんげぇ技能だ)』
実験結果を考察しながらも次々と素材を平らげていき、山盛りに積まれていた荷車八つ分に差し掛かったところで荷物が入らなくなるのを感じる。
ベル含め、その場に居た全員が俺のことを呆然と見ていたが、その気持ちは痛いほどに理解できた。
何しろやっている俺が一番引いてるのだから。
『じゃ、じゃあ、ちょっと運んでくるわっ』
針の筵の様な視線から逃げるため、俺はせっせと氷室へと向かい、そこでまた穴が開きそうなくらい犬人さん達に奇異の視線を向けられる。
ベルが居ないので説明のしようもなかったが、犬人さん達の適応力が凄いのか、まあそういうものか、という顔をして作業に戻っていった。
恐らく彼らと俺とで考えてることは同じ。
「きゅぅ~(魔物って凄ぇんだなぁ~)」
我ながらアホっぽい独り言が氷室の中に響いた。




