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【第一章完結】最弱たる牙の王  作者: 吉 稲荷
第二章 酷暑極寒大わらわ、鼠と犬と夢うつつ
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第四話 犬人と凍てつく森

 ベルと砂漠を歩いて二週間と少し。


 目的地などあってないような旅ではあったが、俺達は『不死の炎漠』に隣接する二つ目の人外魔境『月下の凍て地』を目指していた。

 何も魔境から魔境へ渡り歩かなくてもと思いはしたが、魔境以外の土地は魔族領域とのことで、実質選択肢は無いに等しかった。


 加えて、もう一つ俺が『月下の凍て地』を目指した理由があり、それは目の前で佇むワンちゃん、あらため犬人さんに会うためであった。


『お待ちしておりました、ベル様。一度しかお会いしたことがないので覚えておられぬかもしれませんが、騎士のゴードンと申します』


 砂漠の切れ目、薄っすら雪のようなものが見える森から現れた犬人さんはベルを見るや否やぺこりとお辞儀をした。

 ここでもベルの威厳は健在かと相棒の偉大さを思い知りながらも、ちらちらと俺の様子を伺う犬人さんを観察する。


 体格は猫さん達よりいいのかガッチリとした筋肉が伺え、腕に装着しているアイアンクローが無骨に輝いていた。

 身長は大体百八十センチメートル程で、ゴールデンレトリバーのような優し気な顔と垂れ耳に親近感が湧く。

 クリーム色の体毛は仕事柄なのかややくすんでおり、使い込まれた革鎧と癒えていない生傷が少し痛々しかった。


『ん、覚えてる。前に犬コ……リルと一緒にエトラピーデの里に来た人。リルは元気?』

『覚えておられましたか。リル様は相変わらず研究熱心で我らのためにその叡知を存分に振るっておられます、が……ベル様、つかぬことをお聞きしますが、こちらの鼠の魔物は一体何を?』

『……その子はデントって名前で一応神獣、かもしれない。何をしてるかは気にしないでいい、ちょっとおばかなの』

『し、神獣様でしたかっ、これは失礼を』

『いい、どうせ話は分かってない』


 ベルと犬人さんが話している間、前みたいに暇になるかと思い、俺は犬人さんの体をよじ登る。

 断じてモフモフ度を確かめようとしていた訳ではない、あくまで治療のため、致し方なくだ。


 だから、そんな目で睨んじゃ駄目だぞ、そこの白猫。


 ベルの冷たい視線を遮るように、頭の上に陣取った俺は、体中を包み込むようなごわごわした毛の感触を楽しむ。

 他にも垂れ耳をパタパタしたり、ほんのり弛んだ首の皮をブヨブヨしていたら流石にベルに怒られたので、その後は大人しく治療に専念した。

 頭の上で急に《癒しの波動》を使ったのが不味かったのか、犬人さんはビクッと体を跳ねさせて動揺を見せたが、治癒の技能だとわかるとすぐに落ち着きを取り戻した。


 幸い犬人さんの怪我は大したことがなく、直ぐに治療が終わり、ベル達の会話もそう長くはかからなかった。


『デント、ゴードンさんが犬人の街まで案内して……って降りないの? 凄く話し辛い』

『お、おお、丁度今降りようと思ってたんだ。あ、案内は助かるが、よくこんなぴったり迎えに来てくれたな、事前に頼んでたのか?』

『んん、頼んでない。説明は……面倒だから後でする』

『後でって、ほんとに後で説明してくれる?』

『……ん』


 絶対に説明はしてくれなさそうではあったが、ぷいっと視線を逸らす仕草が可愛かったので、許す他なかった。


 俺達の会話が終わったのを察してか、犬人ことゴードンさんは冷たい風が吹く森の方へと歩いて行く。

 ベルと俺はその後ろをてくてくとついていき、間近に迫った針葉樹林を見て、その異様な威容に思わず立ち止まる。


『(やっぱり雪なのか、これ。後ろじゃ炎がゴウゴウいってるってのに、こんな数十メートル離れただけで雪が積もるってんだから、たまげるなぁ)』


 どうやらベルもこの光景を見るのが初めてなのか、俺と同じようにきょろきょろと辺りを見渡している。

 さらには、好奇心こらえきれず雪をちょんちょんと触り、「ニャ!」とその冷たさに驚く姿は凄く可愛らしかった。


『ベル様はこちらに来られるのは初めてでしたか』

『ん、里の皆が心配性で行かせてくれなかった。でも、この冷たさならちょっと分かるかも、私達には向いてない』

『ふふっ、猫人の皆さんは寒がりですからね。我らからしたら、あの炎漠で生きていける方が凄いように思えますが』


 二人が和やかに何かを話す中、手持ち無沙汰な俺は足跡のついていない新雪にドサッと飛び込む。

 熱砂と陽光で火照った体が冷えていく心地いい感覚に身をゆだね、俺は仰向けになってそそり立つ針葉樹林を眺めた。


 この森は、木の実の森とは違い天然の森なのか無秩序で鬱蒼としており、空や太陽はほとんど見えない。

 真っ白に輝く雪のお陰かそこまで暗い印象はないものの、それでもやはり燦々と輝く太陽が少しだけ恋しくなる程度には薄暗い雰囲気だった。


 正直な所、『不死の炎漠』を初めて見た時ほどの感動はなかった。しかし、人の手が行き届いていない未開の森と体が埋まるほどの積雪は十二分に俺をワクワクとした気持ちにさせていた。


『ベルっすげえぞ! ふっかふかだ!』

『……冷たくないの?』

『さっきまで死ぬほど暑かったからな、ほらほら早くっ』


 手招きする俺と隣に居るゴードンさんを交互に見て、ベルはひとしきり悩む姿を見せる。が、ゴードンさんがどうぞどうぞと言わんばかりに軽く会釈すると、ベルはその重い腰を上げてこちらに近付いてきた。


 踏ん切りがつかないのかツンツンと触るだけで飛び込んではこなかったので、ええいじれったいと雪玉をぶつけると、きょとんとした顔でこちらを見た。

 真っ白な毛に真っ白な雪が乗っかているのが何だか愉快でげらげらと笑っていると、途端にその表情は怒りに染まる。


『あ、やべ』

『齧る』


 頭に乗っていた雪を置き去りにするような速度で突っ込んできたベルは雪塗れになるのにも構わず俺に突進する。

 もちろん抵抗できるはずもなくしばらくの間ガジガジと齧られることとなったが、何はともあれ俺達は二匹揃って雪塗れにになりながら、童の様に雪遊びに興じた。


 *****


 存分に遊んだ結果、案の定、体の芯まで凍えた俺はベルの《豪炎爪(ごうえんそう)》で暖を取りながら、犬人さん達の街を目指していた。


 一人と二匹の行軍は、傍から見ると中々に面白い絵面になっていること間違いなしだが、悲しいかなここは異世界。

 誰一人つっこむ人間はいなかった。


『ってか魔物もいねえなぁ。ドンドン、魔境にしちゃあ魔物が少なくねえか?』

『む、そうですかな? 言われてみれば、普段はもっといるような気はしますが、恐らくベル様のお陰でしょうな』

『ん、こんな冷たいとこで動きたくないし助かる』

『あともうちょっとで進化だし、できれば二、三匹狩っときたいんだが、まあ文句言ってもしゃあないか』


 それに、いたとしても狩れるかどうかは別問題だ。

 幾分か慣れてきた砂漠の魔物で進化しとくんだったと後悔しても時すでに遅し。

 今や百八十度環境の違う凍える森の中だ。


 ここではどんな生き物がいるのだろうかと、気にならない訳もなかったが、それは今後のお楽しみとしておこう。


『あ、そういやドンドンに《鑑定》していいいか訊いて見てくれよベル……ほらそんな嫌な顔せずにさ』


 鑑定という言葉を聞くだけで拒絶反応を示すベルを何とか宥めて頼み込むと、予想外にドンドンは非常に嬉しそうにお願いを快諾してくれる。

 化け物でも見るような目でベルがドン引きしていたが、向こうも喜んでいるようなので俺は遠慮なく《鑑定》を発動させた。


-------------------------------------------------

個体名:ゴードン=カヴァル=プロシュヴェリテ

種族名:犬人 Lv 49/100

状態 :健康


生命力:1600/1600

精神力:2330/2330

攻撃力:186

知力 :278

敏捷 :211

技量 :193

運  :90


技能:

《爪術》《狼術》《闇衣(やみごろも)》《獣化》

特性:

《打撃耐性 Lv1》《斬撃耐性 Lv1》《水氷耐性 Lv1》

称号:

(なし)

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『おぉ、やっぱし強ぇな。ってかドンドンはなんでそんなに嬉しそうなんだ?』

『すみません一人で舞い上がってしまって。実は我らの神獣であるリル様も《鑑定》をお使いになるのですよ。ですから、犬人にとって《鑑定》を掛けていただくのは凄く名誉なことなのです』

『ほ~ん、場所が違えば文化も違うもんだねぇ、ってベルちゃん? そんなヤバい奴見るみたいな目で見ちゃだめよ、失礼だからね?』

『……信じられない、多分犬コロに騙されてる、可哀そう』


 随分と酷い言い草だったが、どうやらベルも配慮したのかドンドンには伝えなかったようだ。


『ドンドン、《爪術》ってのは分かるが《狼術》ってなんなんだ? 狼を振り回すのか?』

『ふふっ、そうではありませんよデント様。我らカヴァルの者は相棒である狼、シャドウウルフと共に闘うのです』

『今日は連れて来てないのか?』

『……私が至らぬばかりに怪我を負わせてしまったので、現在は療養中なのです』

『そ、そうか、すまんな不躾に。お詫びと言っちゃなんだが、後で治せるかどうか試してみてもいいか?』

『は、はいっ! 是非ともお願いします!』


 期待にきらきらと輝く瞳が実に眩しく、これは安請け合いしちまったかとほんの少し後悔が過ぎる。

 まあ、自分のせいで傷付いたペットが元気になるかもしれないというならその期待の視線も分からないではなかったが、こちらは貧弱な鼠。

 期待に応えられるかは微妙な所だった。


『では、直ぐにでも街に向かいましょうっ。さあデント様、どうぞ頭にお乗りください!』

『お、おう』


 別人のように明るくなったドンドンに流され、俺達は困惑したまま、街へと向かう。

 ドンドンが脇目も振らず全力疾走したおかげか、思ったよりも早く俺達は犬人さんの街に到着し、そこで驚愕の光景に出くわすこととなった。

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