第一話 未知なる魔境
第二章がスタートしましたが、第一章はお楽しみいただけたでしょうか?
ややネタバレにはなりますが、章題の通り第二章のテーマは『犬』です。
私はどちらかといえば、猫派ですがわんちゃんもやはり至高(大型犬が特に好きです、賢いのにあほっぽい感じがたまらなく可愛いですよね)。
「俺は○○が好きだぜっ!」、「私は××飼ってます」等々、動物に関する愛情エピソードがありましたら、今後の参考に致しますので、どしどし送ってくださると泣いて喜びます。
引き続き皆様が楽しめるよう全力で執筆していくので、気長にお付き合いよろしくお願いします。
昼夜問わずそこかしこに蒼色の炎が立ち上る六大魔境。
『不死の炎漠』
植物という植物は燃やし尽くされ、そこには高温の熱砂とその熱砂すら溶けて固まったキラキラと輝くガラスのみが残る荒廃した砂漠。
そんな不毛の大地の真っ只中、巨大なモルモットのような見た目をした可愛らしい鼠がぽつんと立っていた。
傍に居るはずの相棒の姿はそこにはなく、その鼠、ローデントは短い手足を忙しなく動かしながら、周囲を絶えず警戒していた。
『……チッ、またお前かっ。何回も何回も何回も何回も襲ってきやがって、俺は餌じゃねえって言ってんだろっ!!』
俺は苛立ちに任せて声をあげ、眼前に迫る十数センチはあろうかというドデカい蝿の魔物の攻撃を避ける。
ぷいぷいと気の抜ける鳴き声とぶぶぶぶと不気味な虫の羽音が砂漠に響いた。
何度も何度も襲撃されもはや確認するまでもなかったが、俺は狙いを定めて《鑑定》の技能を発動させる。
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個体名:(なし)
種族名:ヴァンピィフライ Lv 5/30
状態 :魅了、飢餓
生命力:188/200
精神力:180/180
攻撃力:19
知力 :15
敏捷 :27
技量 :17
運 :13
技能:
《吸血》
特性:
《火炎耐性 Lv1》
称号:
《禁忌の子》《女王の下僕》《共食い》
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やはりというか案の定というか、既に見飽きたステータスに苛立ちが募る。
油断して足元を掬われないようにだけ気を付け、俺はじっと次の攻撃のタイミングを計った。
『いい加減、勝てねえって学習しやがれっ!』
《齧削》、《瘴牙》、《練気》の技能を前歯に重ね掛けし、空中から突進してきたヴァンピィフライに対し、完璧なカウンター攻撃を決める。
一撃で奴の生命力を削り切るほどの威力はなかったが、こちらには《瘴牙》での麻痺付与がある。
墜落した巨大な蝿は運悪くそのまま蒼炎の中に直行し、砂漠の塵となった。
ヴァンピィフライとの戦闘は、最初こそ慣れない空中戦に戸惑いはしたが、十回いや数十回も繰り返す内にただの流れ作業となりつつあった。
こいつらは元々群れを成す魔物のようで、碌でもなさそうな称号を持ってはいるが単体では大したことはない。
群れで襲い掛かってきたらこちらとしても脅威ではあるが、虎の猫人族率いる重装歩兵部隊によって大きな群れは既に壊滅させられ、この砂漠に残っている個体は全て群れから逸れた個体だった。
……とはいえ、元々の個体数が膨大だったせいか、逸れ個体もそれなりに居て、休憩中食事中睡眠中いついかなる時でも見境なく襲ってくるため、苛立ちは最高潮に達しようとしていた。
なんなら既に苛立ちが限界を迎えた、ぷりちーもふもふあんちくしょうこと我が相棒ベル殿は『……』と無言の殺意を抱えたままどこかへと走っていった。
今頃、付近の魔物達は地獄を見ているに違いない。
『……まあ、地獄なのは俺も一緒なんだが』
そう呟いて辺りを見渡してみても、そこにあるのは暑苦しい蒼炎と憎たらしいガラスのみ。
傍から見る分には最高の景色であった『不死の炎漠』ではあったが、その中身は正しく魔境と呼ばれるにふさわしい地獄の土地だった。
まずシンプルにクソ暑いを越えて、死ぬほど熱いのだ。
そりゃあ燃える砂漠なんだからそうだろうという話だが、これがもうとにかく熱いのなんの。
前世の俺が立ち入ろうものなら熱砂同様溶けてどろどろになっていても何の不思議もないほどだった。
そして何より、当たり前のように散らばっているガラス達がこの上なく憎たらしかった。
他の魔物が踏み砕いたガラスに触れようものなら当然貧弱な俺は怪我をする。そのため細心の注意を払う必要があるというのに、ガラスが陽光を反射してチラチラチラチラ目つぶしを仕掛けてきて、ものすご~く鬱陶しい。
誰だこんなゴミを綺麗だ何だと褒めそやしていた馬鹿は。
ぶっちゃけ今の所、魔物から受けた攻撃より、この炎漠から受けた地形ダメージの方が圧倒的に多かった。
そのおかげなのか《斬撃耐性》と《火炎耐性》を獲得できたのだから痛し痒しといった所なのだが。
『ベルの奴、中々帰ってこねえ……不安で仕方ねぇんだが』
俺は周囲を警戒しつつもそんな愚痴を零す。
無論、ベルの安否を心配してではなく、貧弱な己の身を心配して、である。
頼れる我が相棒ベルさんはこの魔境においても向かう所敵なしであり、心配する方が失礼に当たるだろう。
一方の俺はというと相も変わらず貧弱な鼠で、ヴァンピィフライ以外の魔物から勝利をもぎとるのも難儀していた(なんなら十戦くらいして七回は負けている)。
この砂漠で主に遭遇する魔物は大まかに六種。
燃え盛る不死鳥、レッサーフェニックス。
動くマグマ、ラヴァスライム。
炎を纏った浮遊霊、ファイアレイス。
馬鹿デカ猪、ジャイアントボア。
毎度お馴染み赤茶蛙&焦げ茶蛙、フレイムトード。
群れる吸血蜥蜴、ブラッドサラマンダー。
他にも極まれに燃える鬣を持つ馬やドス黒い体毛を持った三つ首の犬なんかも現れるが、流石に(俺の命が)危険なのか、《鑑定》の射程に入る前にベルさんに駆除されていた。
『急に湧くのが厄介なんだよなぁ。これだから魔物はよぉ』
自分の存在を棚に上げ、とめどなく溢れる愚痴を零す。
この砂漠が人外の魔境である最大の理由、それは魔物が異常に発生しやすいことであった。
そもそも里の猫人さん達曰くこの燃え続ける炎も『精霊』なる不思議存在が原因とのことで、精霊に近い我々魔物はここ炎漠では自然発生しやすいのだという。
蒼炎の陽炎と砂丘で満足な視界も取れない中、音も無く発生した魔物に急に背後から襲われるのだから、もういくら警戒しても警戒し足りないということはなかった。
チリチリ、チリチリ。
今この瞬間にも、俺の背後からデカ猪が突然……ってアッッッツゥ!!
『っ!! ……てんめぇ、あほレイス、俺のもちもちボディに何しやがるっ!!』
火にかけられた鍋を素手で触った時の様に脊髄反射で飛び退き、背後を振り返りながら怒りの声を張り上げる。
そこには、俺を小馬鹿にしたようにご機嫌にゆらゆらと揺れる蒼炎、ファイアレイスの姿が映った。
意識があるのかないのか奴の動きは緩慢で、今直ぐに追いつかれはしない。
なんなら逃げることさえできるが、俺としてはこの炎漠の中で出会う魔物の中でファイアレイスが最も戦いたくない魔物であった。
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個体名:(なし)
種族名:ファイアレイス Lv 1/30
状態 :健康
生命力:-/-
精神力:310/310
攻撃力:84
知力 :32
敏捷 :21
技量 :35
運 :23
技能:
《吸精》
特性:
《物理耐性 Lv3》《火炎耐性 Lv3》
称号:
(なし)
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何故かといえば、《物理耐性 Lv3》のせいで俺ができることがこうして《鑑定》を発動し、奴を観察するくらいのものだからである。
『《練気》や《瘴牙》が効かねえことは確認済み、砂を掛けても炎が弱まりもしねえし……そもそも実体がない相手をどうやって倒せってんだよ』
ファイアレイスを睨み据えながら、一歩また一歩とジリジリと後退する。
俺とて色々と試してはみたが、如何せん相性が最悪でこいつが現れた時は基本的にベルに何とかしてもらっていたのだ(ベルはというと《純白の聖女》っつう無法な特性で普通にレイスをぶん殴っていた、怖い)。
ベルが助けに来てくれるまでの間、時間を稼いでもいいが、やれることはやっておきたい。
そう考えて俺はつい先程手に入れたとある技能を試そうとしていた。




