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【第一章完結】最弱たる牙の王  作者: 吉 稲荷
第二章 酷暑極寒大わらわ、鼠と犬と夢うつつ
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第二話 vsファイアレイス

 凄まじい温度の蒼炎が何本も立ち上り周囲を照らす中、一本の蒼炎が意志を持つようにゆらゆらと揺れていた。

 蒼炎を纏った浮遊霊、ファイアレイスだ。

 奴の移動速度は大したことなく、腹立たしいことにこちらを脅威と認識していないのか無警戒にふわふわと近寄って来ていた。


『とりあえず、色々試してみるか』


 ファイアレイスと適切な距離感を保ちながら、手始めに《齧削》、《瘴牙》、《練気》を発動させ、蒼炎に臆することなく奴の中心目掛けて跳びあがる。

 一瞬掠る程度であれば熱くもないだろうとサーカスの猛獣よろしく火に突っ込んだ俺は、的確に奴の土手っ腹に風穴を開ける。が、実体のないレイスは腹に穴が開こうと関係ないのか、少しの反応も帰ってこない。


-------------------------------------------------

個体名:(なし)

種族名:ファイアレイス Lv 1/30

状態 :健康


生命力:-/-

精神力:310/310

-------------------------------------------------


 《鑑定》を掛けてみても、これといった変化は見られず、やはり物理攻撃での討伐は無理そうだと改めて確認する。


 続いて、近くにあった蒼炎の後ろに回り込み、直線で突っ込んでくるしか脳のないファイアレイスを火炙りにしてみるが、何事もなかったかのように蒼炎を素通りして奴は近付いてきた。


『やっぱ耐性レベルが三になっと、完全に無効になるって感じなのか』


 悪足掻きとばかりに、近くのガラスや熱砂を奴にぶつけてみても結果は同じ。

 《物理耐性 Lv3》と《火炎耐性 Lv3》を持つ奴には、それらは全く通用しない。

 今後、活かせそうな教訓ではあったが、今この場においては微塵も嬉しくない情報だった。


 残る手札は《静骸》と《癒しの波動》のみで早速手詰まりかと思いきや、俺には先程の戦闘で手に入れた秘密の隠し玉があった。


 その名も《清めの波動》。

 《癒しの波動》と似た技なのか、技能の説明はこうだ。


-------------------------------------------------

《清めの波動》

 体から溢れ出る清らかな波動で周囲を浄化する

-------------------------------------------------


 予測に過ぎないが、状態異常か精神に作用するタイプの治癒技能であり、『浄化』と聞いてはアンデット相手に試さない訳にはいかないだろう。


『(回復技がアンデットの毒になるなんざ、教科書にだって載ってる定番中の定番。十分に勝算はある)』


 思考している間にもひっそりと距離を詰めてくる奴をどっしりと構えて待ち、突進の間合いに入ったところで《清めの波動》を発動させる。

 ファイアレイスも何かを感じ取ったのか、大きく炎を揺らし右に逸れようとしたが既に手遅れ、俺の跳躍突進が奴の体の八割を消し飛ばした。


「ォロロォォ」

『はっ、やっぱり効果抜群ってかっ。ベルにできて俺に出来ねぇなんてこたあないよなあ!』


 喜色満面で声を弾ませ、挑発するようにぷいぷいと鳴く。

 こちらの精神力も思ったより削れていたが、どう見ても相手はそれ以上に大きなダメージを負っていた。


-------------------------------------------------

個体名:(なし)

種族名:ファイアレイス Lv 1/30

状態 :健康


生命力:-/-

精神力:147/310

-------------------------------------------------


 身体の大半を失ったにしては、まだ余裕がありそうに見えるが、レイスにも急所となるような部位があるのだろうか?

 道中で対峙したラヴァスライムにはこれ見よがしに核のような器官が存在していたが、ファイアレイスにはそれが見当たらない(遠目に見るとただの火柱にしかみえない)。

 一体、どういう理屈で動いているのだろうか。


 まじまじとサッカーボール程度の鬼火となったファイアレイスを眺め、戦闘中ということも忘れ、思考を巡らせる。


 すると、奴は命の危機を感じてか、こちらを最大限警戒した様子を見せ、一時作戦を練り直すためか、近くにある蒼炎の中へと移動を始める。

 小さくなったせいかさっきより動きが速く、素直に逃走を許してしまった俺は『いかんいかん』と弛んでいた気分を引き締め直した。


『あの蒼炎につっこむのは……ナシだよな。あの分厚さじゃ普通に焼け死にかねん。っつか、完全に同化しててどこに突っ込めばいいかもわかんねえ』


 どうしたものかと一旦、蒼炎の周囲をぐるぐると歩いてみるが、特に成果はなく徒労に終わる。ビビッと妙案を思い付き、蒼炎に向けて当たり次第に《鑑定》を飛ばしてみるが、残念ながらこれも失敗。

 どうしようもなくなり、しばらく待ってみるが浮遊霊の奴とて魔物。命が惜しいのか無策で突進してくるような馬鹿な行動は起こさなかった。


 ……どうやら単純ながら地味に面倒くさい状況に追い込まれてしまったようだ。


『完全な膠着状態……死にゃあしないが、他の魔物が襲ってこないとも限らんな』


 少し忘れかけていた周囲への警戒を行いながら、作戦を練るがこれといった案は浮かんでこない。

 先にベルが帰ってくれば俺の勝ちだし、別の厄介な魔物が湧いてくれば奴の勝ちだ。

 ベルが周囲の魔物を片付けてくれてることを思えば俺の方が有利な気もするが、ここは炎漠、絶対の保証などあろうはずもなかった。


 逃げる振りをしてみるのはどうかと一瞬思案するが、奴が炎から出てくる確証がない(というかまず出てこないだろう)上、万一ベルと逸れたり、知らん魔物に遭遇する可能性が上がる以上、賢い策とは言えなさそうだった。


『睨めっこが最善手、か』


 色々と考慮した結果、情けなくはあるが頼れる相棒の到着を待つのが最もクレバーな作戦と言えそうだった。

 もう見飽きた感は凄まじいが、立ち上る炎を見て心を落ち着けるっての……かかったな喰らえ突進!!


『アッツ、アチ、アチチチッ』


 蒼炎の端を掠めるように、フェイント(……一体誰に?)突進を仕掛けるが、やや目算を見誤ったせいか、俺のもふもふ可愛いお尻の毛に炎が燃え移った。

 何とか熱砂にお尻を擦りつけて炎を消化し、その場には精神力を無駄遣いし倦怠感に襲われる可哀そうな鼠だけがそこにいた。……いや、まあ俺なんだけど。


『許さねぇぞ、このあほレイスっ! 一度ならず二度までもこの俺の体に傷を付けようとはっ。万死に値する!!』


 怒り狂ったようにプィーと吠え、蒼炎を睨みつけるがやはり少しの変化も……いや、なんかさっきより小さくなってねえか?

 ゆらゆらと揺れる蒼炎は、先程と何も変わっていないようにも見えたが、よくよく見るとその体積が減少していた。


 流石、俺様。どうやら無意識のうちに勝利への布石を打ってしまったようだ。


『ふふふ、このままじわじわと削り切ってもいいが、我こそは知恵の神獣(自称)。この上ない秘策を思いついた。まったく己の頭脳ながら末恐ろしいものよ』


 先程と打って変わって、勝利にほくそ笑みながら、《清めの波動》の説明をもう一度心中で反芻する。


-------------------------------------------------

《清めの波動》

 体から溢れ出る清らかな波動で周囲を浄化する

-------------------------------------------------


 この技能は()()()()()()()技能なのだ。

 だからこそ、生命ですらない異常現象である蒼炎にすら効果があるし、多分《練気》のように発動の範囲や場所を意識的に変更することができる。


 そして、そうであれば一体何ができるか?


 そう、この忌まわしい蒼炎ごと奴を消し飛ばせるのだ。


『さぁさぁ、隠れたまんまじゃお家ごと消し飛ぶぜぇ、あほレイス! 発動対象は前方の蒼炎、周囲に敵影なしっ! 行け、《清めの波動》っ!!』


 何も口上を述べる必要は全くなかったが、それでも俺は新技能のお披露目だと声を張り上げる。


 しっかり狙ったお陰か今度は目算を誤ることなく、輝かしい覇気に触れた所から揮発するように蒼炎が消えていく。

 ファイアレイスは小賢しいことに蒼炎の根元に居座っていたらしく、『オロォォ』と情けない声を上げてそのまま消滅した。


『ふっ、またつまらぬ物を……ん、この感覚? あっ、やべ精神力…』


 覚えのある激痛が俺の灰色の頭脳を襲った。


 *****


 ここは誰。私はどこ?


『……確か『転生したら鼠だった件ですが、なんぞ? ~最弱以外目指さないべ~』を読んでいた途中で…』

『馬鹿デント。起きたと思ったらまた変なこと言ってる』


 ん? なにやら凄く可愛い白猫さんが目の前に、じゃあここは天国か……じゃなくて、ああそうだ。ファイアレイスとの戦闘で調子に乗って精神力切れになってたんだった。っていうかベルさん、なんか怒ってないですか? 気のせい?


『あ、あの何かご不満そうなのですが…』

『凄く怒ってる。見て分からない?』

『は、はい、お怒りなのは重々承知…』

『馬鹿デント』

『え、えぇえぇ、全く仰る通りで、はい……なんか、すいやせん』


 とりあえず平身低頭で謝ってみるもののベルさんの機嫌は一向に直りそうにない。ふさふさの尻尾はぶんぶんと力強く振られているし、何より目力が凄かった。

 原因は恐らくというか十中八九、俺が気絶していたせい。まあ、こんな魔境で呑気に気絶してたらそりゃ正気を疑うというものである。


『私、デントになんて言った?』

『ちょっとイラついたから、その辺の魔物をシバいて…』

『分かった、齧る』

『じょ、冗談でごわす。す、砂に隠れて大人しくしていろと仰られましたっ』

『それがどうしてこうなったの? 私が助けなかったら、デントは鳥に食べられる寸前だった。私が目を放したのも悪いけど、十分もしないでこうなるとは思わなかった。あまりにお馬鹿、間抜け、あんぽんたん』

『……か、返す言葉ございません』


 ここで『砂風呂でぽかぽかしてきたから、外気浴をば……』なんて答えた日には、命が無事で済むとは思えなかったので、平に謝罪を繰り返す。

 普段寡黙であまり喋らないベルさんでも、俺へのお怒りが止まらないのか、お説教は延々と続き、次第に関係ない話にまで飛び火し始めた。


 しかし、そうと分かっていても無力な俺にはどうすることもできず、蝿でも飛んでこないかななどと考えていたら、更に逆鱗に触れてしまったようで、お説教は延長戦へと突入した(ちなみに蝿はベルさんにきっちり滅ぼされたのか、飛んでこなかった)。


「ニャ(デントが死んじゃったと思って、凄く不安になった。デントのばか)」


 浴びせられる正論という正論を正面から受け止め、黙してお説教に聞き入っていると、ベルも説教のネタが尽きたのか、翻訳できない程の悪口らしき言葉を放って、お説教を締めくくった。

 何を言ったのか聞いてみたい気持ちはあったが、虎の尾を敢えて踏む勇気は俺にはなかった。


『ごめんなぁベル、お詫びにもふもふしてあげるからさ、機嫌直してくれよ』

『デントが触りたいだけ、反省するまで触るの禁止』

『なっ! そない殺生なぁ……もふもふ、もふもふぅ……』


 情けない鼠の鳴き声が炎漠に静かに響き渡った。

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