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【第一章完結】最弱たる牙の王  作者: 吉 稲荷
第一章 最弱の魔物、異世界を往く
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第十六話 運命を越えて

『グワァッハッハッハ、木の実の森の王はこの俺様、ローデント様だぁ! 万事一切ひれ伏すがよいわっ! グワァッハッハッハ』


 色々と吹っ切れた上に、立て続けに良いことばかりが起きる神々の愛し子こと俺様、ローデントは現在、有頂天真っ盛りだった。

 すぐにでも小躍りしそうな、いや既に小躍りし始めている体を抑えるのが、辛くて辛くて仕方がなかった。


 しかし、そんな俺を鬱陶し気に見る生き物の気配が一つだけすぐ真下に存在していた。


『デントうるさい。っていうか勝手に頭の上に登らないで』


 ニャア、ベシッ、ビタン。

 透明感のある猫の鳴き声がしたかと思うと、直後容赦ない肉球パンチによって、俺は地面と熱烈な接吻を交す。


『あぅち、べ、ベルさんちょっと生命力削れてるんですけど……もうちょっとこうか弱い鼠に優しさをですね』

『知らない、デントだって私を齧った。あれだけ優しくしてあげてたのに』

『そ、それは誤解といいますか、不幸な行き違いといいますか、えぇえぇ、もちろん拙僧が十割いや十二割悪いのでございますれば』

『謝って』

『ぬぐっ、ご、ごめんなさい……』


 先程の興奮はどこへやら、シオシオと気分が萎れていく。

 しかし、隣を歩く美しい純白の悪魔、改め、純白の天使ベル=エトラピーデちゃんのお姿を視界に入れるだけで、メキメキと魂がいきり立っていくのを感じた。


『なんか嫌な気分になった、次同じこと考えたら食べる』

『ひ、ひぃ、合点承知でごわすっ!』


 ただ一点、《超知覚》で思考を読み取られかねないことだけが玉に瑕であった。

 気を取り直して、目的地も知らされず歩いていることにいい加減頭が疑問を覚えだしたので、前を先導するベル殿に行き先を尋ねる。


『そ、それでベル殿、拙者たちは』

『ベルでいい、デントは弱いのに私に勝った。凄いこと』

『へ、へえ、それで目的地と言いますか、一体どこに向かってるんで?』

『うーん、エト……着けばわかる』

『今、絶対、説明めんどくさいって思ったでしょ! こっちはベルと違って貧弱なんですからねっ?? ベルは……』


 くどくどと説教を続けるが、当の本猫はどこ吹く風。

 つい先程まで、殺し殺されの死闘を演じたはずの俺達が、一体なぜこんな奇天烈な状況になっているのか、それを説明するためには随分と時を遡ることとなる。


 *****


 時は、高揚した気分とノリにまかせ、眩く輝く前歯で憎き白猫を齧ろうとした瞬間まで遡る。


 俺は、雨粒さえ止まって見えそうなほど強化された知覚の中、ありえるはずのない助けを求める声を聴いた。

 加速する思考の中で、それが目の前の白猫から発せられていることに遅れて気が付いたが、状況は後の祭り。


 称号の説明通り、不可避の尖撃は因果を越えて、攻撃を必中に導くようで、咄嗟に機転を利かせた俺はなんとか致命傷にならなさそうな場所に攻撃を当てた。

 しかし、それでさえ相手の()()を大きく傷つけたのか、ぐったりと横たわる白猫を見て、俺は滝のような汗を流した。


『ど、ど、ど、どうしよう、しゃ、喋る猫ちゃんをや、ヤっちゃった? ま、待て、大丈夫だ、一旦、猫ちゃんが転生する系のなろう小説を思い出せっ』


 状況を整理するように記憶を探った俺は、しばらくして冷静になり、白猫ベル=エトラピーデちゃんのステータスを見ればよいことに気が付いた。


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個体名:ベル=エトラピーデ

種族名:ノブレスブランシャ Lv 13/100

状態 :衰弱


生命力:2950/3240

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 生命力は一割も減っていないことにほっと息を吐き安心するも、状態が『衰弱』となっていることに、再び危機感と焦躁感を覚える。

 何かできることはないかと周囲や自身のステータスを確認し、そこで見慣れない表示が増えていることを認識する。


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個体名:ローデント

種族名:プレイグラット Lv 10/10 (進化可能)

状態 :健康

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『進化可能っ?! いくつか称号も消えてるし、どういうこった??』


 既に頭では、猫ちゃんを心配していたことなどすっかり抜け落ち、詳細を確認するようステータスに念じていた。


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選択可能な種族

・レジェンダリープレイグラット

 有史以来、数度のみ存在が確認された鈍重な鼠の魔物。

 個体自体の危険度は低いが歴史上、最も多くの人種に被害を与えた魔物であり、存在が確認される度、完全に未知の疫病を何種類も振りまき、人種を何度も絶滅の淵に立たせてきた伝説級の魔物。


・ヒーリングラット

 癒しの技能を持つ極めて珍しい鼠の魔物。

 王族や最上位貴族のペットとして飼われる程、温厚かつ可憐な魔物で、小国が傾く程の価格で売買されることもある。

 進化元となる種族が未だ特定されておらず、日夜研究が進められている。

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『お、おう、これまたなんとも強烈な……選択肢なんてほぼないようなものだろ』


 呟きながら、俺は実質一つしかない選択肢の片割れを選び、『進化しろー』と念じる。

 すると、覚悟していたような痛みや精神的苦痛はなく、自身の身体が作り変えられていく、未だかつて経験したことのないふわふわとした感覚に身を投じる。


 数秒して、その感覚がなくなったことを確認してから、自分の存在が根本的に作り変えられたことを自然に理解し、体から底知れない力が湧き上がってくるのを感じる。


『おぉー、これがヒーリングラットか』


 鏡がないので分かり辛いが、ぱっと感じる変化と言えば、尖っていた口周りがやや丸みを帯びたことと尻尾がほとんどなくなってしまったことだろうか。

 体はかなり大きくなったのか以前までは尻尾含め二十センチほどだった体が、尻尾無しで三十センチほどに膨らんでいた。違和感は全くないが、脚も短くなっているのか、全体としてずんぐりとした印象を受ける。

 体毛も灰色から仄かにくすんだ白色へと変わり、キツイ獣臭のようなものもだいぶんと薄れていた。


『さて、ステータスはどうなってるかね』


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個体名:ローデント

種族名:ヒーリングラット Lv 1/30

状態 :健康


生命力:740/740 ⇒ 770/770

精神力:250/250 ⇒ 380/380

攻撃力:21 ⇒ 24

知力 :124 ⇒ 138

敏捷 :30 ⇒ 33

技量 :21 ⇒ 25

運  :151 ⇒ 161


技能:

齧削(げっさく)》《瘴牙(しょうが)》《静骸(せいがい)》《練気(れんき)》《鑑定》《癒しの波動》new!!

特性:

《疫病耐性 Lv2》《飢餓耐性 Lv1》《登攀》《掘削》

称号:

《運命の反逆者》new!!《誇り高き魔物》new!!《鼠王の因子》《託されし者》

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 前回の進化では、ステータスの伸びはほぼ誤差といって遜色ないレベルだったが、今回の進化では色々と目まぐるしく変わっていた。


 精神力と知力、運が十以上伸びており、このヒーリングラット特有の個性のような物を感じる。他ステータスの伸びは控えめだが、まあ文句は言うまい。

 レベルの上限も、前回、前々回と十だったものが三十まで拡張されている。レベルをあげる毎に一ずつステータスが上昇していたので、レベル三十になる頃には、更なる成長を遂げていること間違いなしで、思わず笑みが零れた。

 特性の追加はないが、待ち望んでいた技能や未知の称号が頭に浮かび、待ちきれないとばかりにその説明を読む。


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《癒しの波動》

 体から溢れ出る癒しの波動で周囲を癒す


《運命の反逆者》

 過酷な定めに逆らい続ける運命の反逆者、理を捻じ曲げ他種族への進化を可能とする

《誇り高き魔物》

 己が存在を肯定する誇り高き魔物、知力が大幅に上昇する

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『《癒しの波動》はヒーリングラットの説明にあった通り、回復系の技能。あって損はないどころかなんなら必須まであるな。《最弱の魔物》と《愚かな転生者》の称号が消えた分、それぞれ《運命の反逆者》と《誇り高き魔物》に変わったの感じか? 進化が可能になったのはこの《運命の反逆者》のおかげなのか』


 考察を進めながらも、新しく覚えた技能を使ってみたいという欲求が頭を満たし、うってつけの存在がすぐ隣にいることを思い出す。


『べ、別に忘れていた訳で全然ないぞ。もちろんこうして、この子を癒すために色々と思案していただけだ。そうだぞ』


 誰も居ない虚空に言い訳を言いながら、早速、横たわるもっふもふのあんちくしょうに《癒しの波動》を発動する。


『うわぉ、なんというふぁびゅらすででんじゃらすなもふもふさん……って顔をうずめてる場合じゃなかった、生命力、生命力はっと』


 蕩ける触り心地を全身で堪能し続けながら、《鑑定》を発動させる。


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個体名:ベル=エトラピーデ

種族名:ノブレスブランシャ Lv 13/100

状態 :衰弱


生命力:3000/3240

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 生命力はきちんと回復しているようだったが、衰弱状態が解除される気配はなく、ステータスを眺めながら絶えず《癒しの波動》発動し続ける。

 数十秒が経過し、生命力が全快したところで未だ白猫は目覚める気配すらない。

 焦りに焦った俺は、自身の精神力の限界にすら気付かず技能を使い続け、ようやくステータスから衰弱の文字が消えた瞬間、突然背後から頭をぶん殴られたような頭痛に蝕まれ、いとも簡単にその意識を手放した。

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