異世界
日曜日の昼、静かな家の中で、少年がテレビの誕生日占いを見ていた。
「3位は7月生まれの方」
「お、俺の月だな」
「日常に良くも悪くも大きな変化が訪れるでしょう、頭痛に注意、ラッキーアイテムは塩です」
「塩、、そういえば今塩無かったな、暇だしちょっと買いに行くか」
そうしてコンビニで塩を買い、その帰り道
「大きな変化か、何も起きそうにないな。まぁ占いなんてそんなもんだよな、頭痛の気配も無いし」
「また明日から学校だな、結局ダラダラとして終わった休日だったな。」
「、、、」
「あれ、もしかして先週もこんな感じだったような」
そんなことを考えていた時、少年はひどい頭痛に襲われた
「な、なんだ急に頭が、まさか本当に占いが当たったのか?」
一瞬占いのことが頭に浮かんだが、痛みが強くなるにつれ、だんだんとそのような事も考えられなくなっていき、いよちよ立つので精一杯になっていた。
「目の前がクラクラする、まずい、、、」
「、、、バタン」
少年はついに気を失ってしまった。
それからしばらく時間がたった頃、少年はゆっくりと目を開けた。
「、、、気を失っていたのか、頭痛は病んだようだな、塩も持ってる」
少年は頭を抑えながら立ち上がり、周囲を見渡した
「一体どのくらい時間が経ったんだろ、、、え」
目の前に広がる景色に少年は呆気にとられた。目の前に広がるのは、人工物の気配が一切ない、自然豊かな森林だった。
「ここどこ!?さっきまで歩道にいたはずなのに、確かに占いどうり変化したけど変化しすぎだろ!?」
突然の出来事に混乱しているところに野太い声が響いた
「おい、お前」
少年が戸惑っていると、ふと後ろから低い声が響いた。人がいる事に安心した少年は、後ろを振り向き、ここがどこかを聞こうとした。
「すみませ、、、」
少年が後ろを振り向くと、そこにはただの人間ではなく、体を分厚い粘液で覆われたナメクジのような生き物が、少年を見下ろしていた。
「お前だなぁ、魔王様の言う異世界人はぁ」
「、、、」
あまりの光景に、少年は戸惑いを隠せなかった。しかし、せっかく話せそうな人?に出会えた事を無駄にする訳にはいかないと思った少年は、恐る恐る目の前のナメクジらしき生き物に話しかけた。
「あ、あああなたは誰ですかかか」
「俺かぁ?俺は魔王軍、十災魔神が一人ぃ、東のぉ湿地帯エリアのぉ守護者ゃ、粘液獣ドロトだぁ」
情報量が多すぎる回答に、少年はフリーズしていた。そんな少年をよそに、ドロトは少年の持っている瓶を見つめ、興味深そうにしていた。
「それよりぃ、お前ぇ、その手にぃ持っている物はぁなんだぁ?」
顔と思われる部分を瓶に近づけ、そう尋ねてくるドロトに対し、ラオトは怯えながら回答した。
「し、しし塩で、ですけどど」
「塩だとぉ?本当かぁ?」
「は、はははい!!」
「そうかぁ、なるほどなぁ」
ドロトが瓶を見つめながら何かを考えていた時、急に辺りに女の人の声が響いた。
「そこまでよ!!」
その声に気を取られていると、急に辺りに突風が吹き荒れ、体の大きなドロトは、風に流されるように少年から離れていった。そして、少年とドロトに間ができると、そこに目に見えない程の速さで緑髪の少女が立ち塞がった。その少女は純白の鎧を着用し、手に持つ剣をドロトに向けていた。その姿はさながら、歴戦の戦いを経験してきた勇敢な勇者のようだった。そんな少女に見惚れていると、その少女が剣を構えたまま、少年に対し話しかけてきた。
「君が持っている物、本当に塩なんだよね?」
「は、はい、そうですけど」
「凄く申し訳ないんだけど、少し借りてもいい?」
「え?は、はい、どうぞ?」
「良いの!?ありがとう!」
その少女の申し訳なさそうな声に、一瞬返答に戸惑ったものの、塩なんてまた買えば良いと思った少年は、少女に塩を投げ渡した。
「ありがとう!それじゃあ、ありがたく使うね!」
「やめろぉぉぉ!!」
ドロトの静止を無視し、少女は瓶から塩を掬うと、そのまま勢いよく空に撒き散らした。その瞬間、またもや突風が吹き荒れ、空に舞った塩がドロトの全身目掛け飛んでいった。塩がドロトの体に付着すると、ドロトは苦しみだし、体を振るって急いで塩を落とそうとしていた。
「ぐあああぁ!!痛いぃぃぃ!!ひどいぃぃぃ!!」
ドロトが悶絶していると、少女がトドメをさそうと剣を構えた。
「もうあなたは戦えないでしょ、いま撤退するなら許してあげる」
「くそぉぉぉ、この短気がぁぁぁ!!」
ドロトは塩を落としながら、渋々この場を後にした。少女はドロトが去っていくのを見届けると、急いで少年の元へと駆け寄った。
「君!大丈夫だった!?」
「は、はい、一応」
「そっか、良かったぁ、、、あ、君の塩、ちょっと多く使っちゃったかも、ごめんね」
「全然大丈夫です、また買い直せば良いんで」
「また買う!?君ってもしかして、大金持ち?」
「?」
どこに大金持ち要素があったのか分からなかったが、人の価値観なんてそれぞれだと思い、とくにそれには触れなかった。少年はそんな事よりも先に、少女に聞きたいことがあった。
「あの、、、ここってどこですか?」
「ここ?ここはグリーフ大森林だよ」
聞いた事の無い地名に頭を悩ませていると、今度は少女の方から質問をしてきた。
「そうだ、君、ここら辺で赤い髪の女の子見なかった?」
「見てないな」
「そっか、、、どこにいったんだろ、そういえば君、よくそんなに多くの塩を持っていたね、おかげでアイツを撃退する事ができたよ!」
「え?なんでそんな塩が貴重みたいな言い方をしてるんだ?塩なんて、どこでも買えるだろ」
その返答に少女は驚き、塩の希少さを少年に教え始めた。
「塩はめちゃくちゃ希少だよ!海岸沿い、それにある程度発展した街じゃないと取れないからね、それに、取れたとしてもほんの数つまみしか取れない」
その説明の内容に、少年は聞き覚えがあった。その状況は、まるで昔の時代の状況のようだった。
「あ、そうだ、自己紹介がまだだったよね、私の名前はウィンディ、風属性使いの騎士だよ」
「俺の名前はラオト、、、今風属性って言った?」
ラオトはごく普通の自己紹介に紛れたおかしな点に気づき、その事をウィンディに指摘した。
「言ったけど、どうしたの?」
「風属性って何!?」
「え、そのままだけど、風を操る魔法の種類だけど」
「魔法!?」
風属性やら魔法やら、今までファンタジーの世界でしか聞いた事の無いような単語が続々とウィンディから話され、ラオトはとても混乱した。
「そうだ、ラオトの使用属性は何?」
「え?使用属性?」
「そうそう、ラオトのは何?」
「、、、分からない」
そう言うと、またウィンディは驚いた顔をした
「えぇ本当に?、子供の頃にみんな調べるはずだけど、そういえばラオトってどこから来たの?こんな森の中に、装備も着ないで一人きりなんて」
ラオトはドロトの言っていた事、そしてウィンディの会話の内容から、もしかしたら、ここは異世界では無いか?との結論に至った。
「(魔法に属性に魔王軍、ここって、本当に異世界なのか?、、、はっ、何言ってるんだ俺は、異世界は空想の話であって、魔法なんてありえないだろ、、、でも、ドロトみたいなナメクジが喋っていたり、ウィンディの思い通りに風が吹いたり、、、本当に、本当に異世界なのか?もし本当に異世界なら、俺が別の世界から来たって言った方が良いのか?いや、大体こういうのって、言ったら悪者から狙われるオチだよな、それに、言ったところで変人扱いされるだけな気もするし、うーん、どうしよう)」
自分の事をどう言うか迷っていたラオトだったが、結局、自分の知っている事を全て素直に話す事にした。もしかしたら、真剣な目線で嘘偽りなく素直に話せば、ラオトが嘘を言っていないと分かってくれるかもしれない、という希望も合わせて。
「実は俺、この世界とは別の異世界から来たんだ、なんでこの世界に来たのかはわからない、けどさっきのドロトの話によると、魔王が何か知っているかもしれないんだ、だから魔王の所に行こうと思う」
「、、、」
しばしの沈黙の後、ウィンディはラオトの目をしっかりと見つめ、ラオトに言葉を返した。
「そうなんだ、わかったよ」
ウィンディはにっこりと優しく微笑んだ。
「し、信じてくれるの?」
「うん」
「でも、なんで」
「実はね、私、君と会話している時に。嘘を見破れる魔法を使っていたんだけど、君は一回も嘘をつかなかったからね、異世界とかはあまり分からないけど、私は君を信じるよ」
ラオトは思わず涙が出そうになったが、情けない姿をウィンディに見せまいと必死に堪えた。何も分からない異世界、そんな中こんなにも怪しい自分を信じてくれた彼女に、ラオトは感謝、そして安堵の気持ちでいっぱいになった。
「まぁ、とにかく、私はラオトを信じるよ、それよりも、見た感じラオトには武器もないし、使用属性もわからない、こんな状態じゃ魔獣に襲われた時に危ないからね、一旦近くの街に行こう、そこならラオトが使える属性を調べられるし、武器や防具なんかも売っているから、そこで一旦装備を整えよっか」
「、、、」
「ラオト?」
「ああ!」
こうして、緑生い茂る森林の中を、緑髪の少女と塩を片手に握りしめた少年が歩いていった
ウィンディ
好きな物、そよ風 甘いスイーツ
嫌いな物、辛い物、暗い所 怖いもの 魔王軍
職業、騎士
使用属性、風
美しい緑色の髪をした風属性使いの騎士。風属性を使い、素早い動きで敵を翻弄し、目にも止まらぬ速さで敵を斬る事が出来る。また移動速度を上げる以外にも、風を使った多種多様な芸当を使う事が出来る。
他の騎士と比べて非常に若いにも関わらず、その腕前は歴戦の猛者にも引けを取らないほどに卓越したものとなっている。また、ラオトと出会う前は「メレア」という少女と共に、とある目的のために世界中を旅しており、その道中、悪しき魔王軍を次々と倒していき、その実力が世間に知れ渡った結果、「風神騎士のウィンディ」というあだ名がつけられた。




