熱帯林の環境
「暗い、、、暗視魔法がかかっているのにこの暗さかよ」
「堕天使、ちゃんと魔法をかけたのか?」
「当たり前でしょ!外に居た時に確認したじゃん!」
スティアは確かに暗視魔法を全員にかけていた。しかし、その暗視魔法では補いきれないほど、エントモス熱帯林の中は暗かった。また、森の中は木の根や植物のツルが入り乱れており、ちゃんと目の前を見ていないと、すぐに足を取られてしまうだろう。
「一応少しは前が見えるから、この状態で進んでいくしかないな」
「そうだね、みんな、足元には気をつけてね!」
ラオト達は障害物を避けながら、そして、必要な時は剣などでツタを切り裂きながら、どんどん前へと進んでいった。そして、ラオト達が森に入ってからしばらく経った頃、ラオトとスティアが最も恐れていたあの音が聞こえ始めた。
「カサカサカサ」
「ひぃ!」
ラオト達は足を止め、その音の主を静かに待った。スティアは目を瞑り、手で耳を抑え、完全に外からの情報を遮断していた。ラオトも目を瞑ろうか悩んでいると、横の木々の間から巨大なムカデのような生物が、ラオト達の前を通過していった。
「うわっ」
ラオトはその生き物に衝撃を隠せなかった。元いた世界では見たことのないほどの大きさ、そして異形の見た目、あんな生き物が沢山いる場所に来てしまった事に、ラオトは絶望したのだった。
巨大生物が通過してからしばらくすると「カサカサ」という慣れることのない不快な音は聞こえなくなった。
「、、、もう良いか?」
「うん、大丈夫なはず」
「はずって、、、怖い事言うなよ」
「分かんないよ?アイツが音を立てずに戻って来るかも、、、」
「ヒィィィ!!」
ウィンディの冷やかしが一番響いたのは、目の前で話しているラオトではなく、横にいたスティアだった。
「堕天使がここまで大胆に弱点を晒すとは、、、どうやら、余程虫が苦手らしいな」
「あれ?このシチュエーション、どこかで見覚えが」
誰が冷やかしの言葉を言って、それに誰かが過剰に反応するという光景は、ラオト達には見覚えがあった。
「あっ!そういえば!獣人の国のすぐ近くにいた時、スティアとアレスが怖い話を言い合ってたせいで、ウィンディが気絶した事があったな!」
「あぁ、そんな事もあったな」
「、、、おっと?」
ウィンディは今の状況を見て、何か悪い事を思いついたのか、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。
「フッフッフッ、これはチャンス!」
エントモス熱帯林
エントモス熱帯林はプリズン山脈の北東に位置する大森林で、この世界に存在する原生林の中ではグリーフ大森林に次ぐ2番目の大きさを誇る。
生態系が非常に豊かなのが特徴で、グリーフ大森林の2倍の種類、この世界の約三分の一の種類の生き物や植物が生息している。そんな多種多様な生物が一つの森に密集しているという事は、それだけ生存競争も過酷なものとなっており、他の生物に淘汰されないように、生き物達は巨大化し、植物達は棘や毒を持つようになっていった。流石の魔王軍も、この危険なエントモス熱帯林を完全に支配する事はできなかったようで、この森の魔王軍の支配地は、ブラキナの城の周囲のほんの一部だけとなっている。しかし、この過酷な環境は城と魔法陣を守るにはうってつけの立地となっているため、魔王軍はこの場所から城を移す気はない。




