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世界で一番相性の悪い人  作者: 史音
24/26

君と出会ってから① 本当の初めて  

男性視点のお話です。

二人の初めてから本編の7〜12話くらいの話になります。

運命を変える出会いが存在するとすれば、彼女との出会いはまさに運命を変える出会いだったと思っている。


その子と僕が初めて会ったのは、小学校4年生の春だった。

それが、僕らの始まりだった。


小学校3年生の時、ピアノを始めた。

僕の従兄弟がとてもピアノが上手で、それに感動した母に半ば無理やりスクールに入れられた。もちろんやる気なんてなくて、ただピアノ教室に通うだけの日々だった。


だけど、それは突然終わりを告げた。

終わりにしたのは彼女だった。



小学校4年生の春、従兄弟の出るピアノコンクールを見に行った。僕がいつまでもちゃんと練習しないことを心配した母に、ピアノの上手な従兄弟の演奏を聞かせて少しでも刺激になればと連れてこられた。5つ年上の従兄弟は中学生の部だから、まだまだ時間はあるのに、小学校低学年の部から見る事になった。

おそらく僕のやる気を出させようとした母の作戦だと思うけれど。


休憩時間に、僕はホールの前のソファに座っていた。母は従兄弟や叔母と話し込んでいて、やる事もないから僕はぼんやり周りを見ていた。

そうしたら、目の前に一人の女の子がやって来た。

観客席のドアを開けて勢いよく出てきて、後ろにいるお母さんだろうか、を振り返った。


その瞬間、僕の目の前でその子の後ろでポニーテールと、髪に結んだ薄いピンク色のリボンが揺れた。


髪と一緒にリボンが揺れてふわりと広がる様子が、窓の外で風に舞う桜の花びらみたいだと思った。

だから僕はその子に目を奪われてしまった。

リボンの明るい色が、楽しそうに笑っているその子によく似合っていた。


「すぐ出番だよ」

そう言って、すぐに母親と一緒にその場から、会場の奥を目指して走って行った。

リボンと同じ色のスカートが今度はふわりと広がった。

僕は黙って、目で彼女を追ってしまった。



「あの子、楓の同級生だよ」

気がついたら隣に従兄弟がいて、僕の視線を追っていた。そして僕の方を見て笑った。

「すごい上手だから、楓も聞いたらびっくりするよ」


そのすぐ後に観客席で、それは本当だったと知った。

彼女の演奏はとても上手だった。ピアノってこんなに綺麗なんだと驚いた。


僕はその時、思ったんだ。

彼女みたいにピアノが弾けるようになりたいって。


手で握りしめていたプログラムを見る。

ふじさわ みなみ

そのコンクールで優勝した彼女の名前を、僕は忘れない様に心に刻んだ。

表彰式の色とりどりのドレスの中に混じった、桜の花びらみたいな色のドレスを着た彼女の姿とともに。




だけど、それからずっと僕と彼女はすれ違いばかりだった。


だから彼女は知らないんだ。


彼女のピアノを聴いてから僕が頑張って練習して、ようやく1年後に彼女と同じコンクールに出られる様になった事。

その時に初めて話をして、ものすごく緊張したこと。

彼女が僕を友達だって言ってくれて嬉しかったこと。

だから一生懸命、彼女に届くように今までで一番の演奏をしたこと。


でも、それが最悪の結果になってしまった。


彼女は逃げるように僕の前からいなくなってしまった。

約束していた写真も撮れないまま。



それから、彼女の姿をコンクールで見ることはなくなった。





それから随分の年月が経った。


中学校の塾の模試で彼女を見かけた。

彼女を見て、声をかけたくて、でも出来なくて。

もしかしたら気付いてくれるかもって期待している間に、彼女はあっさりと僕の側を通って行った。


それにショックを受けたせいか、その模試は集中できなかった。

確かありえないような計算ミスをした記憶がある。


同じ高校に行けるかもしれない。

そんな淡い期待を抱いていたから、高校で彼女がいないことがわかって、僕はそれなりに、しっかり落ち込んだんだ。


同じ学校に行ったら、彼女としたいことがたくさんあったのに。

彼女とやりたい事をあげたらきりが無いけど、その全部が叶えられなくてもいい。

ただ会って話せるだけでも良かった。



そうしたら、君のピアノが好きだって伝えられたのに。



彼女のことは名前以外知らなくて、共通の友人もいなくて、僕との繋がりなんて何もなかった。

だから、会うことも難しい。

彼女とはもう会えないと諦めていた時に、本当に偶然彼女と会うことができた。


彼女とまた会える。

それを知った時のことは忘れられない。



僕は大学を卒業して3月から事務所に通い始めた。少しでも早く仕事に慣れる為に、見習いを始めたのだ。

そして3月のある日、何の気なしに涼子さんの机の横を通った時に、一通の履歴書が置いてあるのを見つけた。


そしてそれが彼女の物だって気づいた時、本当に心臓が止まるかと思うほどびっくりした。


立ち止まって、それを凝視した。

彼女の名前を忘れるはずない。貼られた写真には昔の面影が残っていた。

間違いないと確信して、気になってつい2枚目をめくってしまって、趣味読書とあるのを見て衝撃を受けた。


趣味ピアノじゃないの?って。

あんなに素敵に弾けるのに、どうしてって思った。


思わずじっと見入っていたら

「あ?それ?4月から来る新しい事務の子」

涼子さんが声をかけて来た。涼子さんは僕の肩を叩いた。

「楓くんの同級生だよ。仲良くしてね」

だけどそれをずっと見ている僕に、涼子さんは笑顔になった。

「あれ、知り合い?」

「え、あ、いや……」

その反応を見て涼子さんが、嬉しそうに笑う。


「あれ、もしかしてこの間言っていたずっと好きな子?」

僕は途端にものすごい恥ずかしくなった。


3月の仕事始めの日に、社長夫妻の家で食事をご馳走になった。お酒好きだという社長夫婦の家にはたくさんのおつまみとそれ以上にたくさんのお酒があった。妊娠中で飲めない涼子さんの代わりに、僕が社長の相手をしてたくさん飲むハメになってしまった。

そして酔っ払った僕は涼子さんの質問攻めにあい、面白くもない恋愛話を全て暴かれてしまった。


その面白くもない恋愛話に出てくる、数回会っただけの女の子が涼子さんの心に残ってしまったらしい。忘れて欲しいのに、涼子さんはその話だけは忘れてくれなかった。

もう、本当に思い出すだけで最悪だ。


「いや、別に……」

「そうかあ。じゃあ同期二人で仲良くしてね」

僕の言葉なんか聞きもしないで、涼子さんの中では話はまとまってしまった。



だけど彼女と同じ職場で働けるのが嬉しかったのは事実だ。

だから密かに4月になったら会えるのを楽しみにしていたのに。


あろうことか初めまして、と言われてしまった。


初めまして、って。

あなたとは会ったことがありませんって言われたってことだ。


僕の驚きはさすがに顔にも出ていたと思う。

あれは本当にショックだった。


同時に仕方ないと思った。

きっと彼女にはたくさん友達がいて、おそらく恋人もいて、楽しい学生生活を送っていたんだろうなって。

だから、僕のことなんて忘れてしまったんだろうと思った。



友達でも恋人でもない僕のことなんて。






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