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世界で一番相性の悪い人  作者: 史音
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自分の居場所

「うちの同期に一人すっごいカッコいい人がいて、実は私、結構その人と仲が良くて」

「へえ」

「私、その人とよく話すんだけど」

「え、その人、気があるんじゃない?」

「そんなことないよ。たまたまだって。会う時によく話すだけ」

「そうかなあ、絶対気があるんだよね、そう思わない?美波」

急に話を振られて、私はあわてる。同じテーブルの子たちはみんな私を見ていた。

「そう、だね。そんな気がする」

急いで適当にした返事は、幸い会話の流れを切るものではなかったみたいだ。みんなが会話に戻る。

「でさ、うちの会社の同期で今度飲み買いするんだけど、良かったらみんな来る?」

「それって合コン?」

「かもね」


今日は大学の同期と食事に来た。日曜日の昼に集まってカフェでランチする。

話の中心にいるのは一人の子で、さっき会社の飲み会に誘ってきた人だ。


私たちが集まるといつも彼女が中心だった。可愛い人だけど、自己主張が強くて、自分が中心でいたいと思っている。

私は彼女と特別に仲がいいわけでもない。今日集まった他の人と私が仲が良かったから、ついでに呼ばれただけだ。

彼女のことはどちらかというと癖が強くて、苦手だ。


今日も彼女は今も同じ会社のイケメンの話を延々としている。

この話を真剣に聞いているのは何人いるのだろう。


私はテーブルの端の窓際の席にいたからかもしれない。つい、気がそれてしまった。


窓の外はいいお天気で、洗濯日和だなと思った。

同時に今日も野上楓は仕事かなと思って、今日はちゃんと食べているか心配になってしまう。


私が今日、用事があることは言ってある。だから事務所に行かないことはわかっているはずだ。

だから、きっと、ちゃんと食べているだろう。

でも……。そう思って心配になる。


そんな風に気が逸れているのが、伝わったのだと思う。

私は彼女のターゲットにされてしまった。


「ねえ、藤沢さんは?仕事どうなの?」

「え?」

私は慌てて顔を戻す。テーブルのみんなが私を見ていて、真ん中の彼女が私をじっと見ていた。

「藤沢さんってどこ勤めているだっけ?」

「あ、私は小さなデザイン会社だから。みんな知らないと思う」

こういう時に絡まれるのって困る。だから私は当たり障りのない返事をした。

だけど、それが彼女の気に障ったようだった。

「へえ、どこの?なんて名前なの?」

知らないだろうと思って会社の名前を出したのに、運悪く同じテーブルにいた子が、うちの会社のことを知っていた。

「あ、そこ結構有名なところだよね。社長がすごい人なんだよね」

「ゴメン、私はよくわからなくて」

ごまかすように笑ったけれど、彼女は眉を寄せた。

「へえ、すごいじゃない。藤沢さんがそんなところに行くと思わなかった」

「いや、私は事務職だから別に」

彼女はテーブルの上のグラスを取ると、中に入っていたワインを飲み干した。

「どんなところなの?詳しく教えてよ」

「でも本当に小さなところで。私はただの雑用担当だから」

仕方なく事務所の名前を言う。どうせ誰も知らないだろうと思った。


だけど

「ねえ。藤沢さんの会社ってここ?」

彼女の席が近くの子がスマホで検索したのか、ホームページの画像をみんなに見せる。


ええ?と私は焦った。

だけどみんながそれを覗き込んで歓声をあげる。


咄嗟にまずい、と思った。

本田さんが作ったホームページはとてもいい出来で、おしゃれな事務所って感じになっている。

社長や本田さんもイケメンに見えるし、私たちの昼食の何気ない場面や、私の作った食事が本物5割増しに良く見えている。


案の定、それを見たみんなは大盛り上がりになった。

「え、すごい。素敵じゃない」

「うわあ。なんかいいなあ、楽しそうで」


実際は楽しそう、だけではないけど、言っても意味がないと思う。

「いや、実際はそんなことはないの」

「ええ、藤沢さんもめちゃ可愛く写真撮れてるじゃん」

それは本田さんの編集だって、そういいたいけど、言っても逆効果になりそうで怖い。


そしてやっぱり、彼女に思い切りにらまれてしまった。

「すごいね。いいところに就職したんだね」

「あ、いや、これは……」

だけど彼女はため息をついた。

「藤沢さんは今が充実してるんだね」

「いや、そういうわけでは」

私なんて、そう言おうとしたら、その前に彼女の声が被さってきた。

「そりゃあ、こんなに素敵な所で働いてたら、楽しくて昔の付き合いとかどうでもいいよね。私たちの職場の話なんて興味ないって感じ?」


それは、かなり冷たい言葉だったと思う。だから私は出すべき言葉を失ってしまった。

周りのみんなも流石に引いている。

「就活もなかなか決まらなくて困ってるって言ってたのに、いつの間にかこんないい職場に入って楽しくしてるんだね」

彼女は大きくため息をついた。

私が黙っていると、仲のいい子が取りなすように口を開いた。

「でも就活大変だったのは美波も同じだったよね。大変だったし、焦ったよね」

「……うん」

躊躇いながら返事すると、また彼女の声がする。

「でもよくこんな良いデザイン事務所とかよく入れたよね」

私は少し声を落とした。

「たまたま知っている人がいて、紹介してくれて」


それは事実だから言ったけれど、やっぱり彼女の気に入らない、最悪の答えだったようだ。

「ええ?なにそれ。ちょっとズルくない?」

彼女は私の言葉にあからさまに反応した。

「藤沢さんってデザインとかなんにも知らないよね。それでもこんないいところに就職して楽しく仕事できるなんて。コネっていいね」


そのあまりの言いっぷりに、みんながシンとしてしまった。


確かにコネ、なんてはっきりいうのはどうかと思う。

私は心の中でため息をついた。

正直すぐにでもここからいなくなりたいけど、それも難しい。


険悪になった気配を察して、みんながシンとする。

それを気にした他の子が、声を出した。

「あ、そうだ。合コンに誘ってもらうお礼に、うちの会社の同期とも飲み会しよう」

それに彼女ははっきりと笑顔になった。

「あ、いいね。やろうよ」

それで話題が変わると、それからすぐに会も終わった。


店を出ると、私の仲のいい子が気を遣って、少し二人で話そうと誘ってくれたけど、私は断った。

「なんか、あの子色々話してたけど、実際は仕事がうまくいかなくて悩んでるんだって」

その言葉に私は驚いた。

「そうなの?」

友達は苦笑いした。

「だから今日は彼女を励ますために集まった感じなの。流石にあれはやりすぎだけどね」

「うん」

「美波は気にすることないよ」

そう言って彼女は私を気遣う様に見て、それから手を振って別れた。

一人の帰り道、私はすごく悲しくてやりきれなかった。


私には何もないし、確かにコネであの事務所に拾ってもらった様なものだ。

だけどあんなに悪意ある攻め方をされると、流石につらい。

もし、自分も同じように仕事で悩んでいても、あそこまで言うのはおかしい。


ぼんやりとしていた私は、つい事務所に向かう方向の電車に乗ってしまいそうになって慌てて足を止める。


事務所に行ったら、野上楓がいる気がした。

なんとなく、無性に会いたかった。


だけど彼に会ったら、私はきっと今のぐちゃぐちゃな気持を全部、彼にぶつけてしまう気がした。

それがどんなものでも、きっと野上楓は私の気が済むまで話を聞いてくれる気がする。


それだけで気持ちが落ち着きそうな気がした。


なのに私はそれがすこし怖かった。

整理されていない気持ちをぶつけるなんて、かなり仲が良くないとできないと思う。

そんなふうに甘えたら、これからも私は彼に果てしなく甘えてしまう気がする。


だから頭を左右に振って、その考えを振り払う。


早く明日になればいいなと思った。

明日になって仕事をしたら、あの事務所の人たちに囲まれていたら、私は自分を取り戻せるような気がした。


うまく言えない。

あそこはもう、私にとって大切な自分の居場所になっていたのだ。


私はため息をついて歩き出した。

明日の昼ごはんは、めっちゃ豪華にしよう。

早くも明日の昼ごはんに気持ちを向かわせながら、私は家に向かった。

そうしていたら、気持ちのバランスが取れるような気がしたから。



だけど、この事は私の心に小さなトゲを刺した。

そして、ほんのすぐ後に、また苦い思いをさせられてしまうのだ。



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