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第36話 どんなことも小さな一歩からですよ。

「すごいです、タケルさん! 20件です!」

 ほくほく顔のシャルが手帳片手にぴょんぴょんとはねる。優勝効果?の威力は凄まじく、先の村で20件も契約が成立したのだ。そのほとんどはあの植毛技術に費やすらしい。どんだけ毛髪に飢えてんだあの村は。ともかく、こちらとしては契約が取れてよかった。

「20件で……額は50万か。まだまだだな」

「どんなことも小さな一歩からですよ。ここから更に大型の契約を結んでいきましょう!」

 と、意気込んだのはいいものの、結局これ以上村で契約を取れることはなかった。ということで、場所を変更することに。とくに場所も考えてなかったので、とりあえず村で一泊してからパルが言っていた近くの街へ向かうことに。

 そこはレンガ造りの家が立ち並ぶ中々大きな街だった。

「へぇ、こんなところにも大きな街があったんだな」

「世界は広いですからね~ま、ここが国境付近の街ということもあるんじゃないですか? 幸いなことに、わたしたちの情報も出回ってはいなさそうですし」

 街中に張られているポスターに、オレたちらしき似顔絵はない。どれも悪どい顔した連中ばかりだ。

「……ん?」

 その中に一つ、見覚えのある顔があった。ブタである。罪状、住居侵入、局部露出、その他。

「……なにやってんだあいつ」

 あわよくば、二度と会うことがないように。知り合いだと思われるのも嫌だ。記憶の中のブタを忘却の彼方に吹き飛ばし、人々が集まりそうな広場へと向かう。その道中、突如街中に怒声が響く。路地裏から出てきた男がオレの目の前で派手に躓き、後ろから追いかけてきたガタイの良い衛兵に取り押さえられた。

「この……おとなしくしろ!」

「放せ……放せぇええええええええ!!」

 抵抗する男の懐から虹色の瓶が転げ落ちる。咄嗟に手を伸ばして拾おうとすると、取り押さえられている男から激しく睨まれた。

「おう……」

 思わずひるんでしまうオレ。まぁ、人の物取ったら泥棒だよな。やがて男は、後から来た他の衛兵たちに抱えられ、その場から連行されていった。とんだドタバタ劇である。

「はぁーびっくりしましたねタケルさん。てっきりわたしたちの正体がバレたのかと」

「精霊の加護がある限りそりゃないだろうよ。それよりも、なんて物騒な街なんだここは。治安は最悪だな」

「まぁ、そういうところもあるでしょうね。ですが商売は人を選びません。こんなところでもコツコツやっていくことが重要ですよ」

「さいですか」

 シャルのありがたいお言葉を聞き、肩の力を落とす。なんとなくだけど、こんなに大きな街だけどダメな気がする。そんなことはありませんよ、とシャルは言うかもだけど。なめるな。こういう時のオレの勘は良く当たるのだ。


「……ほらな」

 これで30件連続の門前払いである。これだけ多くの人がいて、契約が一件も取れないとはどういうことだろうか。先のハゲ村ではあんなに上手くいったのに。

「んんー……財布の紐が堅い人たちばかりですね。わたし得意の営業スマイルでも靡かないなんて……」

「そういやさ。お前は他の人から見てどう見えてるんだろうな。お前も精霊の加護でちょっとは変わっているはずだろう?」

「さあ? ドリアードさんにも聞いてませんですから。そんな外見のことなんてどうでもいいんじゃないですか?」

「オレのことはあれだけ言ってたのにな」

「ん、なんですと?」

「なんでもねーよ。次行くぞ次。早くしないと日が暮れちまう」

「そうですね。今日中に一件は欲しいところですね~」


 一件ぐらい、と思っていたオレが甘かった。その後も連戦連敗。オレは疲労困憊。まったく契約のとれる気配すらしなかった。

「……ダメだこりゃ」

「あはは、今日はツいてなかったですね。また明日がんばりましょ」

 シャルが苦笑いを浮かべる。シャルも今日の手ごたえのなさを実感してのセリフかもしれない。今夜の宿を探してくる、とシャルが言うので、オレは少し街中をぶらつくことに。パルの話だと、彼女もこの街に来ているらしいが、これだけ広いと探すのも一苦労だ。昨日の今日で会うのもなんか悪いしな。改めて今日の反省をしてみる。昨日の村ではあれだけ契約が取れたのに、今日はゼロ件。一体何が違ったというんだ。

 その答えはいわずもがなである。マコさんの存在だ。授賞式でのマコさんの紹介あってこその契約数だったのだ。ブローカーのすばらしさを身をもって知ることになった。やはりオレたちの力だけで契約を取るのは難しい。オレはおもむろに懐から名刺を取り出す。そして、シャルから預かったケータイのボタンを押した。


「タケルさ~ん、お待たせです!」

 シャルが駆け寄ってくる。オレは慌ててケータイを後ろに。

「あれ? どなたかに電話ですか?」

「あ、ああ。まぁな。ちょっと知り合いに電話を、な。他愛もない世間話だよ」

「ふーん、そうですか。ま、話は終わったようですし、宿へ向かいましょう。そこそこ良い宿屋ですが、わたしの交渉術で安く泊まれるようになりましたので!」

「さすがだよ」

 こういう時は頼りになるシャルである。そうしてオレたちは宿へ向かうことに。


 その夜。

「う~ん……もう稼げないよ……」

 変な寝言を言うシャルを部屋に置き、オレは宿を飛び出す。目的地はひと気のない路地裏だ。そこで一人の人物が待っていた。

「やぁ、久しぶりだねタケルくん」

 そこにいたのは、レヴンレイギス前国王、ラムジン・レヴンレイギスだった。


【今回の収支】


 ・収入(契約金の一割)   +50,000シリル

 ・宿代             -100シリル

 ――――――――――――――――――

 合計            +49,900シリル


 目標マデあと        3,897,990シリル

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