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第24話 キスですか? キモチワルイのでどっちもお断りです。

「迷える子羊よ。あなたの罪を告白しなさい」

「神よ。おお、神よ。どうして私はイケメンかつ性格も良いのですか? そのせいで多くの女性を傷つけてしまいました。天は二物を与えるとはこのことなのですね」

「子羊よ。小汚い子羊よ。それは妄言です。あなたはブサイクです。ブサイクでゲス男です。ブサゲスと命名してもよいでしょう。天はあなたに二物を与えたのではありません。汚物を与えたのです。あなたという汚物を」

「おお、神よ。どうやら私に悪魔が囁いているようです。金に汚い悪魔です。すぐに討伐しましょう」

「誰が金に汚い悪魔ですか。ブサイク男爵」

「誰がブサイク男爵だ。この守銭奴ブス」

「いいでしょう。ならば戦争です」

聖戦(ジ・ハード)だ」

「いったい何をやってるのですかあなたたちは」

 ロリっ子シスターが呆れたように呟く。小さいくせに口は一丁前だ。運悪くオレが女装趣味の変態野郎だということがバレ、オレは今、大勢の前で縛られるというドM大喜びの状況にあった。あいにくオレはそういう趣味はないのでうれしくもなんともないが。もちろん女装趣味もない。

「まったく、罪は素直に認めるべきですよ」

「よし、シャル。お前は殴る」

 口元に手を当て、笑いをこらえるシャルに殺意が沸いた。咄嗟にオレを差し出したシャルは一人だけ安全圏にいた。ちなみに最後の懺悔の相手をしたのもシャルだ。

「まさかこのきょうだんにオトコがしのびこむなんて……フカクです。ミスター・ブレッド一生のフカクです」

「大丈夫。あなたの罪は許されますよ。神は見ています」

「はいとくしゃはダマってください」

 辛辣な一言だ。せっかくフォローしてやったというのに。

「さて……それではあなたのしょぶんについてですが」

「しょうがない……く! やれ! 一思いにやってくれ! オレは体を差し出すぞ。でも……やさしくし・て・ね」

「それいじょうしゃべったらキュっといきます。キュっと」

「首を!?」

 いわゆる絞首刑である。

「ほんらいならゆるされざることで、ショケイはまぬがれないのですが……しかしここは争いなききょうだん。ボウリョクはダメです。なので、ほかの方法を取ろうとおもいます」

「なんだ? 力仕事なら自信があるぞ」

「ダイジなところをちょんぱします」

「それ暴力だよぉ!!」

 男としての尊厳を奪う気だ。ある意味死より辛いかもしれない。

「いけませんわ、シスター・ブレッド」

「シスター・コレット!」

 突如現れたシスターに周りの視線が集まる。

「やってしまったことは仕方がありません。ですが許して差し上げましょう。それが我が教団の教えでもあります」

「し、しかし!」

「コルリ」

「う……はい、です……」

 しゅん、としょげ返り、パン子はしぶしぶオレの縄を解いた。どうやらコレットには逆らえないようだ。

「よろしい。それでこそ我が妹です」

「ひどいです。こんなときだけイモウト扱いして……」

「うふふ」

 和やかな雰囲気に包まれる。オレは危機一髪のところで助かったようだ。

「ふぅ……よし」

 手首をさすり、一つため息を吐く。そうだ、オレにはまだ残っている仕事があったんだ。

「ようシャル。右頬と左頬どっちがいい?」

「キスですか? キモチワルイのでどっちもお断りです」

「拳のキッスだよ!!」

「当ててごらんなさ~い。あははは~」

 ひらりひらりと身をかわすシャルを中々捉えきれない。なんだこいつ、超腹立つんですけど。

「シスター!」

 突然、教会の扉がバン、と開かれる。入って来たのは一人のシスターだ。

「どうしました? シスター・レヴィン」

「た、大変です! 町の者が一気に押し寄せて……きゃあ!」

 シスターを押しのけ、ドドドと足音を響かせながら大勢の人々が乗り込んできた。

「おいシスター! シスターからもらったこの薬! 患部に付けたら更に悪化したんだけど!?」

「こんな不良品押し付けるとかふざけてんのか!? あぁ!?」

「お、落ち着いてくださいみなさん。そんなはずはありません! きちんと配分を考えて作ったものですので……」

「じゃあどうしてこうなったんだ!? ホントは俺らに嫌がらせがしたかったんじゃねぇのか!?」

「神の使いが聞いて呆れるなぁ! おい!?」

 人々の怒りは一向に収まる気配がない。

「なんだ? どうしてこんなになってんだ?」

「ふむ。どうやら薬に何やらいたずらがされてたみたいですね。もちろん、シスターがやったわけではないんでしょうけど」

「じゃあ一体誰が?」

「ま、大体の予想はつきますけどね」

 思わせぶりなことを言うシャル。一方、シスター・コレットの方は人々の怒りにてんやわんやしている様子だった。

「い、怒りを鎮めてください! 薬に細工をしているなんてこと、絶対にありませんから! 神に誓って!」

「うるせぇ! んなもん信じられっか! 賠償しろ! 慰謝料払え! このインチキシスターが!」

「あう……」

「さっきから聞いてればさ。あんたら勝手なこと言い過ぎじゃない?」

「あ? なんだてめぇ」

「元はといえば、あんたらが強奪同然に取ってった物だろ? それを勝手に使って異常が出たからってシスターを一方的に責めるのは違うだろ。それに、シスターもそんなことやってないって言ってるしな」

「ふざけんな! こいつが作ったからこいつがやったにきまってるだろ! 他に誰がやったって言うんだ!」

「それはまぁ、あなたの町の他業種の方でしょうね」

「え……?」

「タダ同然で薬を配っているんです。その影響を一番受けるのは誰でしょう? そう、町のお薬屋さんです。きっと彼らが薬草畑に細工を施したのでしょう。毒でも蒔いたんじゃないですか?」

 思わずうわぁ……と声に出る。そこまでするか普通?

「しかしこれはシスター、あなたが今までしてきたことのツケです。あなたは親切心でやってたんでしょうけど、結果として他の恨みを買ってしまった。そのことをあなたはもっと早くに気付くべきだったのです」

「そんな、わたくしは……」

「これからも今の商売を続けているともっとひどくなりますよ。私がやれるのはこうやって忠告をすることだけです」

「…………」

「と、とにかく、他の奴がやったって証拠もねぇんだ! ここはシスターに謝罪と賠償を――」

「だ・か・ら、タダでもらったやつで調子こいてんじゃないっての。そもそもシスターがやったって証拠もあんのか。えぇ?」

「そ、それは……」

「無いならこの話はおしまいだ。どうしても傷が気になるってんなら良い商人を紹介してやる。薬もきっと持ってるだろう。ただ、ちょっと金に汚いがな」

「あはは、誰のことでしょう」

 そこで笑っているあなたのことですよシャルドネさん。

「くっ……わかった。もういいよ。俺らにも問題がなかったわけではないしな……」

「あら聞き分けいいじゃない」

「……ふん! シスターにはこれまで色々してもらったからな。こんなことで終わりになるってのも嫌なんだよ。俺もちょっと頭冷やすわ」

「それ以上冷やしたら風邪ひきますよ?」

「うるせぇ! ハゲてるだけだ!」

 ハゲたおっさん集団は悪態をついて協会からぞろぞろと出て行った。それを確認してシャルがくるっと振り返る。

「さーてシスター。これからあなたがすべきことはなんでしょう?」

「……これまでの行動を反省し、訂正することです。これからは商売の仕方も考えていきましょう」

「あは、さすがシスター。物分かりがいい」

「コルリ、みなさん。少し大変ですが、手伝っていただけますね?」

「は、はい! もちろんです!」

「問題解決みたいだな」

「痛い目に遭ってようやくわかったんですね。ま、これでわたしがここに来た目的も達成できたので良しとしましょう」

「薬の市場も獲得するため、ってとこか」

「商売は常に先のことを考えて、ですよ」

「さすがだよお前は」

「お二人とも、ちょっとよろしいですか?」

「ん、なんだシスター」

「これを……」

「指輪?」

 シスターから手渡されたのは質素な指輪だった。

「ま、まさかプロポーズ!?」

「そんなわけありません! 聖職者は純潔を守るのが務めですので! ……これはわたくしたちの親交の証です。受け取ってください」

「マジか! さんきゅーシスター!」

「あなたたちにわたくしの未熟さを気付かされました。感謝の言葉しかありません。ありがとう」

 そう言って笑うシスターの笑顔はとても晴れやかなものだった。


「お前、いつまでその服着てんの?」

 馬車の車内。オレは未だにシスター服のままのシャルに疑問を呈する。

「いいじゃないですか、気に入ってるんですから。それともなんですか? タケルさんはわたしに服を脱げと言ってるんですか? このへんたい♪」

「ぶち殺しますよ、シスター」

「この背徳者め♪」

 馬車は軽快な足音を鳴らしながら教会を離れていく。小さいパン子が更に小さくなっていく。なぜか大号泣のパン子であった。

「んで、シャルさんよ。次の目的地はどこだ?」

「えーと、アイゼンフォート商会さんですね」

「……え?」

「ですから、アイゼンフォート商会さんですよ」

「もうラスボスいっちゃうの!? 適度にステップアップしてからじゃないの!?」

「そのつもりでしたが、先ほど連絡がありまして。残り四つ中二つの商会から了承を得たと」

「そんな報告が!? てかそもそも誰が行ってたの!?」

「ああ、ブタールさんですよ」

「……あのブタが?」

「あのブタが、です」

「あいつが協力だと? なんかの冗談だろ?」

「残念ですが本当です。ま、リルリラさんも手伝ってくれたみたいですけど。あの二人、交渉事だけは上手いんですよね」

「んな馬鹿な……いくら払ったんだ?」

「報酬はわずかですよ。リルリラさんはこれまでの償いってことで、ブタールさんは好きなコのためなら努力を惜しまないとかキモチワルイこと言って協力してくれたんですよ」

「マジか……まぁそれだけ労力を省けたのならよしとするか」

「そういうことです。てなわけでカルカルさんと新緑さんはクリアです。ディアブロさんは向こうがやってくれるということですので、わたしたちは残りのアイゼンフォートさんをやっちゃいましょう」

「……だが一番やっかいな相手だよな?」

「一筋縄ではいかないでしょうねー。なので頼りにしてますよ、タケルさん」

「へーへー。せいぜい頑張るよ」

 なおも馬車は軽快な足音を響かせて先へ進む。目的地はアイゼンフォート商会だ。

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