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第23話 なんでその恰好なんですか? バカなんですか?

「わからないことがあったらなんでも聞くです」

 なだらかな胸を張って鼻息を鳴らすロリっ子シスター。先輩という立場に酔いしれているようだった。

 オレたちに与えられたのは、壁で仕切られた小さな箱部屋だった。お互いの顔を見ずに話しができるから、どんな懺悔でも打ち明けられるのだ。それに対してオレたちシスターが答えを与えればいい。それが懺悔室。やること自体はとても簡単そうだ。難しいものでなければ。

「とりあえず、まずは一人ずつやってみましょう!」

「ちょと待てパン子」

「シスター・ブレッド!!」

「こんな狭いところに二人きりか? オレ……うち、狭いところ苦手やねんけど」

「くちょうが変わりましたね……しんぱいしなくても、ざんげを聞くだけでいいのですよ。なにかアドバイスがあれば言ってもいいですし」

「つまりオ……うちの自由ってことでええんか?」

「そういうことです!」

「ほないこか~」

「タケルさん。そのキャラ止めた方がいいと思います」

 シャルからありがたい忠告を受けつつ懺悔室に入る。既に人の気配がした。

「では始めますか」

 こほん、と一つ咳払いをして話を始める。最初のセリフは共通。パン子から教えてもらったものだ。

「迷える子豚よ。本日はいかがいたしました?」

「子豚……?」

「間違えました。迷える豚よ。本日はいかがいたしました?」

「そこ!? 直すとこそこなの!?」

 出鼻をくじかれてしまった。前途多難である。

「改めまして……迷える子羊よ。本日はいかがいたしました?」

「実は……おれ、彼女がいる身でありながら他の女性と浮気をしてしまいました。そのことが彼女にバレて……これからどうすればいいでしょう?」

「死ねばいいんじゃないでしょうか?」

「極論過ぎない!?」

「ではもう少しソフトに……逝ってしまえばいいんじゃないでしょうか?」

「同じだから! 同じこと言ってるから!!」

「冗談です。やってしまったことは仕方ありません。誠心誠意、彼女に謝ればきっと彼女も許してくれるでしょう」

「ほ、本当か?」

「ええ。でもただ謝ればいいってわけではありません」

「じゃあどうすりゃいいんだ?」

「まずは髪を剃りましょう。丸坊主です。そして上半身裸、下に腰ミノを穿いて彼女の前で愛を叫ぶのです。さすれば彼女もわかってくれるでしょう」

「アホか! そんなことして許してくれるはずがねぇ!」

「私を信じなさい。信じる者は救われるのです。本にもそう書いてありました」

「ほ、本当なのか?」

「私はシスターですよ」

「そうか……よし、わかったよシスター!」

「神のご加護があらんことを」

 

「また一人、迷える子羊を救ってしまった……」

 充実感に満ちた気持ちで懺悔室を出る。別の懺悔室ではどうやらシャルが担当しているそうだ。少し、覗いてみようかな。

「……なるほど。わかりました。そんなあなたにオススメの商品があります。このアクセサリーを付けていると……」

 シスターはいつから商人にジョブチェンジしたのだろう。シャルは迷える子羊に対して商品を売りつけていた。悪徳業者みたいだ。やがてまんまと商品を買わされた信者が出ていき、少し遅れてシャルも出てきた。

「あ、タケルさん。お疲れさまです」

「おうお疲れ。商売ごくろーさん」

「なんのことでしょう?」

 こいつ、あくまでとぼける気か。

「まぁいい。で、次は何をすればいいんだっけ?」

「傷薬を作るための薬草取りですね。教団の主な流通品は薬ですので、これは大事な作業ですよ」

「はぁ、今度は草むしりか。一体いつになったらシスター・コレットに会えるんだろう」

「さぁどうでしょうね。でも、意外と早く会えるかもしれませんよ」


 まさか本当にその通りになるとは。薬草取りに来た丘の上に、シスター・コレットは人々に囲まれて立っていた。

「こんなこともあるもんだな。よし、早速交渉を」

「その恰好で行く気ですか? シスターは顔を知っていますからタケルさんのこと速攻バレますよ?」

「えっ」

「首とさよならです」

「……様子を見よう」

 どうやらシスターは人々に瓶詰の傷薬を渡しているようだった。

「商売かな?」

「だったらいいんですけどねぇ……」

 含みのある言い方だ。薬草を取るフリをしながら聞き耳を立ててみる。

「ありがとうございますシスター・コレット! これで私の怪我も治ります!」

「ふふふ。礼にはおよびませんよ」

「あの、それで、このお薬の代金なんですけど、私持ち合わせが……」

「ああ、いいんですよお金なんて。持って行ってください」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「お大事に」

「なんだ。親切なやつじゃないか。タダで薬を上げるなんて」

「……」

 シャルはなぜか不満そうな顔だ。

「シャル?」

「確かに親切かもしれませんが……ああいうのはわたし、あまり好きじゃないです」

 改めてシスターの方に目を向けている。次も、その次も。シスターは求める人々に薬を渡していた。一銭も取らずに。

「おいおいおい、さすがにやり過ぎじゃないか……?」

「タケルさん。あのお薬の一つの値段って知ってますか?」

「大体500シリルぐらい?」

「1000シリルです。それをあのシスターは無償で配っているんです。まったく、理解に苦しみますよ」

「そんなに!? それだけ金に余裕があるってことなのか」

「ありませんよ。教会のボロっぷりを見たでしょ? 教団はその修繕費もままならないぐらいカツカツなんですよ。以前はそうでもなかったんですけどね」

「以前?」

「ここまで教団が落ち込んだのはあのシスター・コレットがリーダーに着いてからです。それまでは大陸でも随一の財力を持つ商会でしたが……今は見る影もありません。今でこそ七人商会に入ってはいますが、それもいつ追い出されるか……」

「やっぱり、シスターの行動が原因か?」

「商売はお金なんです。その善意は素直に尊敬しますが、身を滅ぼしては元も子もありません。需要に対して供給する。それに伴いお金をいただく。その当たり前のシステムを破壊しているのですよあのシスターは。ぶっちゃけ商人の風上にも置けません」

「シャルがそこまで怒るってのは珍しいな。他の商会のことなんだからほっとけばいいのに」

「バカですかあなたは。このまま今の状態が続いていけば市場の価格破壊が起こりますよ。アイゼンフォート商会の比じゃありません。やはり商品は適正に扱わないと。こっちにも影響があります」

「お前たちにとっても大切なことなんだな」

「商人同士はライバルですが、一蓮托生の関係でもあるのです。要はバランスが大事なんですよバランスが」

 シャルは決め顔でそう言った。大事なのはバランス、か。

「さて、その話は置いといて。これからどうしましょっか」

「それならオレに考えがある。まずはシャル。お前がシスターに近づきこう言うんだ。『グリンゴッツ商会の方がみえられています』と。そこにオレが登場して話をする。どうだ、簡単だろう?」

「そのままの恰好で?」

「んなわけあるか。ちゃんと脱ぐよ」

「そうですか。残念です」

「お前はオレの首と胴体が離れる姿を見たいのか?」

「中々できない体験だと思いますので」

「女神リブレよ、どうかこの者に天罰を」

「残念ながら、わたしの神は商売の神だけです」


 周りから人々がいなくなり、シスターが一人になった。そのタイミングで打ち合わせ通りシャルが近づく。

「お忙しいところすみません、シスター・コレット」

「あら、あなたは……どちらさまですか?」

「新人のシスター・シャルです。実は、あなたに来客がありまして。グリンゴッツ商会の者です」

「まぁ、グリンゴッツの。この間の話の続きでしょうか? いいでしょう、こちらに呼んでください」

「わかりました。グリンゴッツ商会さま、どうぞこちらへ」

 まさに打ち合わせ通りだ。シャルに呼ばれてオレが登場する。

「やぁ、お久しぶり」

 パンツ一丁で。

「きゃああああああああ!?」

「な、なんだ!? どうしたんだいきなり!?」

「け、汚らわしい! 変態! 変態です!!」

「なにィいいいいい!? 一体どこに変態がいるってんだぁあああああ!?」

「あなたですよ。パン一マン」

 シャルがゴミを見るような目で一言放つ。

「なんでその恰好なんですか? バカなんですか?」

「なんでって、打ち合わせ通り服を脱いだんだが?」

「脱いで終わりですかそうですか。あなたの頭に他の服を着るという発想はなかったんですか」

「そんな時間はもったいないね!」

「あなたは羞恥心というものをお母さんのお腹に置いてきたんでしょうか?」

 シャルは、はぁ、と深いため息をついた。このままだとまともに会話ができそうにないので、とりあえずシャルからマントを借りる。これで問題あるまい。

「失礼。驚かせてしまったなシスター・コレット。もう大丈夫だ」

「は、はぁ。すみません、こちらこそ。いきなりのことで取り乱してしまって……」

「はっはっは。シスターはお茶目だなぁ」

「え、えっと。今回伺ったのはやはりこの間の件で?」

「まぁ、そうなる。改めてお願いしよう。シスター・コレット。どうかオレたちに交易の自由権を――」

「いいですよ」

「……へ?」

「ですから、いいですよ。認めます」

「……そう?」

 あまりにもあっけない幕切れだ。突然のこと過ぎて現実味がない。

「い、いいのか? 本当に!?」

「ええ、もちろん。わたくしも家に持ち帰って考えてみたのです。いいじゃないですか、自由権。それにより多くの方々に商品が届けられるのならわたくしはむしろ大歓迎ですよ」

「あー……そうなの?」

「はい。ではこの指輪をお持ちください。これが友好の証となりましょう」

 差し出した手のひらに銀の指輪を落とされる。

「あ、ありがとう、ございます」

 オレはそのままくるっとシャルの方を振り返る。そして小さく耳打ちした。

「やったぞシャル! まさかこんなに簡単に行くなんて! これで解決だな!」

「いいえ、まだです」

「え?」

 あっけにとられていると、シャルは頭のベールを脱いでシスターと向き合った。

「あら、その顔。どこかで見たことあると思ったら……シャルドネさんじゃないですか」

「シスター・コレット。だましてごめんなさい。ですが、どうしてもあなたと話がしたかったのです」

「なんですか? わたくしに出来ることならなんでもしますよ」

「ならば今すぐ人々にタダで薬を与えるのはやめてください」

「はい?」

「薬を渡す際にはちゃんと代金をいただいてください。適正な価格で。それだけがわたしが言いたかったことです」

「えっと……なんでですか?」

「え?」

「いいじゃないですか。困っている人がいるなら救いの手を差し伸べる。シスターに相応しい行動です。お金なんてものに囚われていては救える人も救えません。善意でやってることを咎められる筋合いはないと思うのですが」

「それが間違いだと言っているんです。このままだとあなたは……」

「わたくしはどうなっても構いません。人々を救えればそれで。それとも、あなたはわたくしに人を救うなと言っているのですか?」

「違います! わたしは――」

「あー! サボってちゃダメなのですよー!」

 元気の良いロリっ子の声が聞こえてきた。

「なにやってるんですかあなたたちは! おしごとの途中なのですよ! ちゃんとやってください! ……はっ! シスター・コレット! あなたもいたんですか! あの、しごとをしろというのは決してあなたに言ったわけではなくてですね……あぅ」

「いいんですよシスター・ブレッド。それより、お客様がお帰りです。お見送りしてください」

「へ? おきゃくさまってこの二人が? シスターじゃないんですか?」

「ええ。お客様です。頼みましたよ」

「わ、わっかりましたー! さ、二人とも来るのですよ!」

 パン子に背中を押されるオレとシャル。シャルはシスターに何か言いたげだったが、タイミングを逃したようで、苦い顔になった。

「大丈夫か、シャル?」

「ええ……人の善意は必ずしも良い方向に作用するとは限らないんですよ……」

 シャルはぽつりと呟いた。


「まったく、シスターにへんそうして入りこむなんて。さすがのシスター・ブレッドもびっくりなのですよ! しかしシスター・シャル。あなたのあいかたであるシスター・タケールはどこへ行ったのですか? どこにも見当たらな――」

 はたと気づいたように立ち止まるパン子。そしてオレの顔をまじまじと眺めてきた。

「ん……ん~?」

 パン子から目を反らす。やばい。服を脱いでいたから誤魔化せると思ってたけど。これはやばい。そしてパン子はうむむ、と考え、やがてびっくりしたようにはっとした。

「ま……ままままさか!」

 震える手でオレを指差す。

「あ、あなた……シスター・タケール!?」

「いや、人違いかと」

「男だったのですぅううううううう!?」

 大変なことになった。

「お……男がシスターのすがたを……こ、これはじゅうだいなイハンなのです! 首ちょんぱなのですー!!」

「よし、逃げるぞシャル」

「合点です」

 パン子を振り払い、一斉に駆け出す。しかし……すでにパン子の声は他のシスターに届いていた。出口を塞ぐ無数のシスターたち。オレたちに逃げ場はなかった。

「ちょ、ちょーっとこれはマズいぞ……どうしますか、シャルドネさ――」

「ああ! 助かった! わたし、この変態に脅されていたのです! ですがこれで助かりましたー!!」

「シャルドネさぁん!?!?」

「ぐぬぬ……じょせいをひとじちに取るなんて! キチクです! キチクのしょぎょうなのです! 首ちょんぱのケイなのですー!!」

「おいいいいいいい!!」

 父さん、母さん。

 どうやら私はここまでのようです。

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