第22話 鳥の世界は厳しいでクルッポゥ。
軽快な馬の足音が響く車内。オレとシャルは向かい合っていた。
「んで、次はどこへ向かうんだ?」
「“争いなき教団”の本拠地、マスカミュラー教会ですね」
「あーあのシスターのとこか。なんでそこなんだ?」
「距離的にも近いですし、なにより説得の余地がありそうですからね。教団さんも絶対反対ってわけではなさそうでしたし」
「というか話がわかってない感じだったな。よし、んじゃちゃっちゃと終わらせますか」
「教会に着くまでまだ時間がありそうですね。ということでタケルさん。今回もベルベット様からお手紙をいただいております」
「お前、それどうやって受け取ってんの?」
「伝書鳥ですよ。その名もバドちゃん。ほら、バドちゃん。タケルさんにあいさつ」
「おう、よろしくな。あんちゃん」
突然現れた太眉のハトに人語で話しかけられた。
「……しゃべった」
「おかしなことを言うなあんちゃん。今時鳥が喋れないでどうする」
「いや、おかしなことを言ってるのはお前だ」
「ああん? 喧嘩売ってんのか? こちとらタカ中だぞ?」
「ハトなのかタカなのかはっきりしてくれ」
絡み方がまるっきり中学生だ。
「はいはいそこまで。はいバドちゃん。今日のお駄賃」
シャルが豆を放り投げると、タカ中出身のハトは嬉しそうに口でキャッチした。
「へへ、まいど。またのご利用お待ちしてるぜ」
そう言うと窓の外から飛び去っていった。馬車の上に糞を落として。
「あのクソ鳥……」
「まーまー。せっかくお手紙を頂いたんです。読みましょうよ」
「ベルからの手紙か……楽しみ半分、怖さ半分だな」
「成長してるといいですね~。では読みますよ」
『挑戦状。
拝啓、クッソソ・タケソさま。
雷鳴轟くパン屋に導かれ見事なお肉となります。
塩ですか? 胡椒ですか? いいえ。ひじきです。
ぴったりの椅子を用意しましょう。あなたの頭にぴったりの。
ドラゴンの飼い犬は猿です。エテウィッキーです。早い方の。
この間の芋は飛んでいきました。二つもです。すごいですね。
さて、来週の鼻毛さんは?
地面の間に挟まっています。
びすけっと』
「悪化してんじゃねぇかあああああああ!!」
「うんうん。ですが成長の跡も見られますね。このドラゴンの件とか」
「ポジティブ思考か! オレの名前が更にひどくなってるんだけど!? もはや原型留めてないんだけど!?」
「落ち着いてくださいクッソソさん」
「クッソソじゃねぇよ!!!」
「まぁ、要約すると陥没都市での活躍をお聞きしました。次も頑張ってくださいってことですね」
「……理解できるのか? これが?」
「なんとなく、です」
思わずすげぇ、と声に出てしまった。
「さて、お返事を返しておきますか。今回もクッソソさんが書きます?」
「クッソソ言うな。ああ、もちろんだ」
「タケルさんも大概ですからねぇ。ちゃんと書いてくださいよ?」
「わかってるって。任せろ」
数分後。
「できた。シャル、確認してくれ」
「はいはい。えーと……」
『委任状。
オレ、キノコ。
スグタベル。
ウケル』
「……よくもまぁこれでデカイ顔ができますね」
「なんでだ? 完璧だろ?」
「……ええ。完璧過ぎて涙が出ます」
「ふふーん。思い知ったか」
「……じゃ、これも出しますかね」
そう言うとシャルは指笛を鳴らす。すぐに一羽の鳥が飛んできた。
「お待たせいたしクルッポゥ! 早い安い美味いでおなじみのキジバト急便でクルッポゥ!」
なにが美味しいのかはこの際聞くまい。
「あれ、さっきの奴じゃない」
「ポゥ? ああ、バドのことでクルッポゥか。やつはさっき猟師に撃たれていたでクルッポゥ」
「えっ」
「鳥の世界は厳しいでクルッポゥ」
「世知辛いな……」
せめて美味しく頂かれていることを願う。
「これ、お願いしますね」
「レヴンレイギスのベルベット姫でクルッポゥね。承ったでクルッポゥ!!」
「途中で撃たれるなよ」
「心配ないでクルッポゥ! これでも体はばっちり鍛えてるでクルッポゥ!」
「だからより一層美味しそうに見えるんじゃ……」
「タケルさん。それ以上はいけません」
「心配しなくてもちゃんと送り主のところまで届けるでクルッポゥ! 万が一のことがあっても、手紙だけは他のハトに運ばせるでクルッポゥ! だから僕を信じるでクルッポゥ!」
「すごいプロ根性だな……ああ、わかったよ。じゃ、お願いな」
「合点招致でクルッポゥ!」
「そうだ。最後に、お前の名前を教えてくれないか? 知っておきたいんだ、素晴らしい仕事人の名前ってのを」
「ふ……僕の名前はトビでクルッポゥ」
「ハト……じゃないんだな!」
「出身はツル中でクルッポゥ」
「ハト……じゃないんだな!」
「ではさらばなのでクルッポゥ!」
ツル中出身のトビは飛んで行った。手紙を携えて。その数秒後。乾いた銃声が青い空に響いた。オレはすぐに窓から顔を出す。一羽の鳥が墜ち、別の鳥がその手紙をキャッチして飛び去って行くところだった。
「ト……トビー!!」
オレは忘れないよ。バドのことも、トビのことも。
「せめて……せめて塩で……」
「焼き鳥の話ですか」
そうこうしているうちに馬車は止まった。
女神リブレを崇めるリブズ教の総本山、マスカミュラー教会。その教会は小高い丘の上に立っていた。遠くで見るとそうでもないが、近くで見ると相当デカイことがわかった。
「ほえー。こんなデカイ教会があるんだ」
「争いなき教団の本拠地ですからね。それだけ信者も多いってことです」
「よし、早速中へ入ろうじゃないか。そしてシスターを説得するんだ」
「いえ、無理です」
「え?」
「だから無理です。中へ入ることが出来ても、その最高責任者であるシスター・コレットに会うことなんて不可能です。だってわたしたち部外者ですから」
「で、でもオレらがグリンゴッツ商会だって言えば……」
「シスターも忙しい身ですからね。この間はたまたま時間が空いてたんでしょう。普段は一般人が簡単に会うことなんてできませんよ」
「そんな! じゃあどうやって認めさせればいいんだよ! 八方ふさがりじゃないか……」
「そんなことはありません。一つ、方法があります」
「方法?」
「部外者じゃなければいいんです。ってことで入信しましょう」
「へ?」
「これからわたしたちはリブズ教徒です」
シャルと二人、教会の中へと足を踏み入れる。そこにはすでに大勢の人が集まっていた。
「おいシャル」
「なんでしょう?」
「なんでこの恰好なんだ?」
オレとシャル、二人とも修道服姿だ。しかも女性用の。
「参拝客よりシスターとして潜入した方がシスター・コレットに会いやすいですからねぇ。我ながらグッドアイディアだと思います」
「ああ……グッドアイディア過ぎて涙が出るよ。しかし、しかしだシャル。せめて男性用の服は無かったのか? これじゃオレはただの女装癖のある変態だ」
「いいじゃないですか。タケルさんの価値が上がって」
「オレの本質は変態じゃない……!」
「こらそこー! おしゃべりは禁止ですよー!!」
気の強いロリっ子の声に止められた。たくさんのシスターが集まっている前で、やけに小さなシスターは無い胸をふん、と張った。
「あなたたちはシスターのたまごです。まだまだおチビちゃんです。はしゃぎたい気持ちもわかりますが、シスターとしてのほこりをちゃんと持ってください! そうじゃないとシスター道はきびしいのですよ!」
「なんだシスター道って」
「はいそこ! またおしゃべり! つぎやったらげんこつですよー!」
やつは地獄耳のようだ。
「でも安心してください。これからの数日間、しっかりとべんきょうすれば、あなたたちもりっぱなシスターになれるのです。このわたくし、シスター・ブレッドのようにね!」
「パン子か。よし覚えたぞ」
「イースト菌はついてないのです!」
やっぱり聞こえていたようだ。
「それではこれからおべんきょう会……の前に、一人ひとりにここでのひつじゅひんをわたすのです。一列にならんで、前から取りにきてください!」
「だってよ。並ぶぞシャル」
「了解です。あ、でもその前に。タケルさん、絶対に男だとバレちゃダメですからね?」
「オレが社会的に死ぬからな」
「肉体的にも死にます。シスターという職業は男子禁制ですから。バレたら首が飛んじゃいますよ?」
「どうしてそれを先に言わなかった……!」
「えへへ。失敬失敬」
「コノヤロウ……!」
わざとらしくペロっと舌を出すシャルに殺意が沸いた。だがこうなった以上、演じるしかない。明日を迎えるためにも。
列に並んでいると、ようやくオレの番が回ってきた。
「おや、あなたですか。おなまえはなんて言うのです?」
「マスター・ターケルでござる」
「……マスター?」
「いえ、シスターです。間違いました」
危ない危ない。危うく光のサーベルを振り回すところだった。
「シスター・ターケルですか……あなた、なんか声が太くないですか?」
「か、風邪なんです。ノドがイガイガで……」
「心なしか、体もがっちりしているようにみえるのです」
「ウチの家系は風邪を引くとハスキーボイスのゴリラになる呪いがかけられているんです。お気になさらずに」
「そ、それは大変ですね! すぐにちりょうをすることをおすすめします!」
「大丈夫ですよ。まだ全身の毛が生えていないので初期段階です」
「段階が進むとどうなるのです!?」
「完っっっっ全なゴリラになります」
「バナナが主食なのですか!?」
「ウ○コを投げます」
「ひぇー!!」
リアクションが面白くてつい図に乗ってしまった。ここでやめておこう。
「ま、まぁどちらにせよ早くなおすことをおすすめします。ではこれを。ここでのひつじゅひんです」
「どうも。えーと……」
ブラジャー。パンティー。キャミソール。
「なんだこの凶悪なスリートップは……!」
「おきがえは大事ですからね。下着はこちらでてはいしますので、足りなくなったらえんりょなく言ってください!」
「これを……オレにつけろと……!?」
「え? つけないのですか?」
「つけるかぁ! こんなもん――」
「と、ということはノーパン派だったのですかぁ!?」
「えっ」
「そ、そうとはしらずに失礼しました! でもスースーするとおもうので、気がむいたらつけてみてもいいんじゃないかな!?」
「ち、違う! ノーパンとかじゃなくて――」
「ノーパンのクワガたん」
後ろでシャルがボソっと呟く。
「だから違うんだあああああ!!」
オレの声は教会中に響いた。
「さて、ではさっそくですが、新人さんのあなたたちにお仕事をやってもらいます。さきほど割り振られた仕事をやってもらうのです」
ブラとか渡される時に一緒に言われた仕事だ。幸いにも、オレとシャルは同じ仕事だった。
「懺悔室……って、何をやればいいんだ?」
「呼んで字のごとくですよ。教会を訪れる信者たちの懺悔を聞いて、助言をしてあげるんです。難しくはないですよ」
「でも経験がないからな……まぁやってみるけど」
「あ、ちなみにこの勉強会中はそれぞれに点数がつけられるそうです。もしも点数が低ければ教会から追放されることもあるそうなので、頑張ってくださいね」
「だからお前はなぜそんな大事なことを先に言わないんだ!」
「そんなの、面白いからに決まってるじゃないですか」
「よし、お前を殴る」
「暴力はダメですよ。ここは“争いなき教団”なんですから」
「くっ……!」
「タケルさん、ファイトです~」
「……ああ! わかったよ! やってやんよ!」
不安は尽きないが。こうしてオレのシスター生活が始まった。




