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第20話 こうしてオレは採掘工になった。

 事故現場へとやってくる。壁に穴の空いた採掘場の一つで、落盤事故により数名の怪我人が出たということだ。幸い死者は出なかったらしい。そこで見覚えのある人物と出会った。

「パル!」

「あんたら……」

「大丈夫か? 怪我はないか?」

「あたいは大丈夫。でも何人か被害にあった。これで何度目だか……」

「どうやら落盤事故はしょっちゅうみたいですね。原因はなんなんですか?」

「それは――」

 ぐぉおおお、と地面から突き上げるような轟音が鳴り響く。あまりの大きさに大地が震えるほどだ。咄嗟に耳を塞ぐが、それでも間に合わない。やがて轟音は鳴り止む。

「っ!? んだよこれ!?」

「事故の原因さ。この轟音によって岩層にヒビが入り、やがて崩落が起こる。最近になって特に頻発してきたんだ」

「まるで何かの鳴き声みたいですね」

「まさにその通りだよ。ここから二つ先の山に住むドラゴンのものだ。いつ鳴くかわかったもんじゃないから対策のしようがないのが現実さ」

「そんな迷惑なやつぶっ倒しちまえばいいのに」

「それができたら苦労はしないさ。これまでも何人か討伐に出かけた。だけど誰一人として帰ってきた者はいない。それほど強大なんだ、ドラゴンは」

「見たこともない者なのに、恐れているんですか?」

「居るのは事実なんだ。しかもあの鳴き声はドラゴンで間違いない。泣き寝入りするしかないんだ、あたいたちは。あるいは……」

 話の途中だが、トニックが採掘場の奥から帰って来た。ひどく疲れている様子だ。パルが駆け寄る。

「親父! 中の連中は?」

「ああ。怪我人が数名だ。あとは問題ない。いや、あるか。採掘場がまた一つ潰れちまった。また新しく探さないとな」

「そんなこともういいって。言いたくないけど……これ以上やってもまた同じことの繰り返しだよ。それならいっそスパッとヤメて」

「んなことできるか! ワシらにはコレしかねぇんだ。今更止められるか!」

「でもよ」

「うるせぇ! ガキが意見すんな!」

「っ~! このクソ親父! ハゲ!」

「んな!?」

「ハゲ!!」

 ハゲと二回言い、パルは大変ご立腹の様子でこちらに戻って来た。

「もういいよあんなジジイ。いこ、二人とも」

「パル! てめぇ親に向かって――」

「ハゲ!!!」

 三度目のハゲを言い、パルはオレたちの手を掴んでその場を離れた。


 やってきたのはパルの家、つまりトニックの家だ。また戻って来た形になる。

「まったく。あのジジイってば。いつもあたいをコドモ扱いして……ハゲのくせに」

「パルはハゲに何か恨みでもあるのか?」

 と、言いたいほどハゲを連呼している。リアルハゲの人が聞いたら悲しみそう。

「別にそんなんじゃないけどさ。あたいの話も聞いてほしいっての」

「一人の親ですからねぇ。愛娘のことが心配なんでしょう」

「さぁどうだか。拾い子にそんな愛情を注げるものなのかな?」

「おっと、ここは深く立ち入ってはマズいところか?」

「別に。あたいと親父は本当の親子じゃないってことだけだよ。ホントそれだけ」

「色々な家庭の事情があるんですねぇ。ところでパルさん」

「なんだい?」

「トニックさんの説得は無事失敗に終わったわけなんですが……娘のあなたから何か手伝っていただけることはありませんか?」

「シャル、お前……」

「無理無理。親父ってば一度断ったら中々意見を覆さないから。潔く諦めた方がいいかも」

「んー、じゃあそうしますか」

「どうしたんだよシャル。お金に汚い汚金女史のお前が簡単に諦めるなんて。らしくねぇぞ」

「顔面崩落さんは黙っててください。では別の話題を。わたしたちどうしてもお金がいるんです。何か良い稼ぎ方は知りませんか?」

「金が欲しいの? それなら鉱石を掘ればいい。クズ鉄や石は大した値段にはならないけど金や竜石なら高い値段で取引される。それこそ大きい物なら一つ100万とか」

「100万!?」

「非常にありがたい話ですけど、残念ながらわたしたちに肉体労働は」

「シャル」

「はい?」

「オレ、ドワーフになるために生まれてきたと思うんだ」

「……ああそうですか」

 こうしてオレは採掘工になった。


「採掘はピッケルがあれば誰にでも出来るよ。場所も提供してあげるし。あとの詳しい話はココの現場監督のボザに聞いて」

 そうやってパルに紹介されたのはバイキングメットを被ったクマみたいなおっさんだ。

「よろしくな」

「ああ、一攫千金させてもらうぜ」

 ボザと固い握手を交わす。

「あのー、この採掘場は崩落とかは大丈夫なんでしょうか?」

「少なくとも今日は大丈夫さ。もう鳴いたからね。それに、もしもの時はボザがなんとかしてくれるし。ね?」

「おう、まかせろ」

 随分頼もしいおっさんである。

「ちなみにホモだから」

「おう、まかせろ」

 ナニをまかせればいいんでしょう。不安が一気に押し寄せてくる。

「じゃ、あとは頑張ってね。夕方ぐらいにまた迎えに来てあげるから。どうせ泊まるとこなんてないんでしょ?」

「すみません。お世話になります」

「いいっていいって。じゃね~」

 そう言ってパルは去って行った。

「さぁ、掘ろうかタケルきゅん」

「石だよな? 石のことだよな?」

「大丈夫。おいらに任せておけばいい」

「だから石のことなんだよな!?」

「あはは。タケルさん頑張ってくださ~い」

「おいいいいいい!!」

 一切助ける気のないシャル。このままではオレの貞操が危ないってことでシャルも一緒に参加させることにした。

「わたし、肉体労働は苦手なんですけど」

「大丈夫。コツさえ掴めば女性でも簡単だ。最初はとにかくピッケルを振り下ろすことだけに集中すればいい」

「こう、ですか?」

 こつん、と石壁にピッケルが当たる。

「そうそう。上手いじゃないか」

「えへ、わたしって才能あります?」

「あるある。おいらが教える必要もないな」

「そうですか? いやぁ、参ったなぁ」

「はっはっは」

 明らかに下手くそなシャルに対してあの反応。もしかしてボザは褒めて伸ばすタイプなのかもしれない。よし、そうと決まれば次はオレの番だ。

「よっと……どうだ、ボザ?」

「全っっっっっっ然ダメ」

「え」

 幻聴かと思った。

「腰が入ってないし、持ち方もなってない。基本が出来てないんだよ基本が。そんなんじゃいつまで経っても上手くはなれないぜ?」

「おい。なんでオレの時だけ厳しく――」

「だから、おいらがしっかり講義してあげよう。手取り足取り、ね」

「っ!?」

「さ! 腰をしっかりつけて! おいらの手を握って! さぁさぁさぁ!」

「おぃいいいいいい!! こっちくんなぁああああ!!」

 後ろから迫ってくるホモドワーフから逃げるのに精いっぱいだった。


「ふぅ、どうにか形になってきたな」

「わたしもなんとか」

「うむ、良い感じだ。じゃあ次は力を込める練習をしようか?」

「力を込めるって、ふんぎぃいいいって感じ?」

「いやいや。もっと簡単な方法がある。嫌いなものの名前を叫びながらピッケルを振るんだ。そうすれば力が入る。なんでもいいぞ。食べ物とか、虫とか」

「なるほどですね。じゃあやってみましょう」

「ああ」

「タケルさん」

 こつん、とピッケルが振り下ろされた。

「……おいシャル。どうしてそこでオレの名前が出るんだ?」

「え? 嫌いな虫でしょ? 言われた通りにやっただけですよ」

「オレは虫じゃないっ!!」

 それ以前にオレの名前を出してくるとはどういう領分なのだろうか。図らずも泣きそうになる。

「すみません、冗談です。今度はしっかりやります」

「ったく、頼むぞ? んじゃオレもしっかり構えて……」

 ピッケルを振り下ろす。

「ピーマン!」

 ガッ。

「タケルさん」

 コツン。

「エリンギ!」

 ガッ。

「タケルさん」

 コツン。

「ムカデ!」

 ガッ。

「タケルさん」

 コツン。

「シャルゥウウウウウウウウウ!?」

「はい。なんでしょう?」

「だからどうしてそこでオレの名前が出るのかなぁあああああ!?」

「え? 嫌いな虫でしょ?」

「だからオレは虫じゃなぁああああああああい!!」

 オレの声は採掘中に響き渡った。


 それからしばらく採掘を続ける。しかし、一向に成果が出ない。いつの間にか夕方になっていた。そろそろパルが迎えに来るだろうか? そう思っていると、ボザが近づいてきた。

「どうだ? 何か見つかったか?」

「いいや。出るのはクズ鉄ばっかだ。難しいんだな採掘って」

「だろ? でもそれが楽しいのさ。それに、クズ鉄だって立派な資金源だ。捨てずに集めておけよ?」

「ああ。そうする。……で」

「ん?」

「いつまで肩に手をやってるつもりだ? さっさと離れろホモ野郎」

「そんな恥ずかしがることないじゃないか」

「……ピーマン!」

 オレの渾身の一振りはひらりとかわされた。デカイ図体して機敏な奴だ。

「タケルさん! タケルさん!」

「……シャル! お前もいい加減オレの名前で掘るのはやめてくれないか?!」

「違いますよー! 呼んでいるんですー!」

 少し離れたところで手招きするシャル。行ってみることに。

「どした?」

「ほらこれ。掘ってたら出てきたんです」

 その手に握られていたもの。それは黄金色に輝く石だった。

「っ!? これは……!」

「金、ですね。早速ボザさんに連絡を……」

「待った。いや、これは内緒にしとこう。そうしよう」

「あはは。セコイですねタケルさん」

 ドワーフに見せればきっと取り分をよこせとか言ってくるに違いない。ここは素直に懐に入れておくのがよろしかろう。

「よし、もっと掘るんだ。まだまだ出てくるかもしれない」

「タケルさんも手伝ってくださいよ。女の子一人じゃムリです」

「わかってるよ。いまピッケルを取ってく――」

 がくん、と地面が浮いた。続けてきたのは激しい振動だ。

「っ! こ、これは!?」

 間違いない。昼に経験したドラゴンの鳴き声だ。だがどうして? 今日はもう起きなかったんじゃないのか。

「お前たち!」

 ボザが走ってくる。

「ボザ!」

 その手を掴もうと腕を伸ばす。しかし、その手は空を切った。瞬間、視界が一段落ちる。足元が崩れたと気づいたのはその後だった。

「うわぁああああああ!!」

「きゃあああああああ!!」

 オレはシャルと一緒に落下する。

「シャルドネ!! タケルー!!!」

 ボザの声は遠くなり、やがて消えた。


「……んん」

 意識がぼやけている。どうやら寝てしまったようだ。ゆっくりと目を開けると、徐々に景色がはっきりしてきた。

「っ……!」

 そこにあった光景に目を奪われる。辺り一面に広がる金、金、金。金の鉱石がそこら中に広がっているのだ。

「タケルさん……?」

 すぐ近くで倒れていたらしい、シャルが目を覚ます。シャルは寝ぼけ眼でこっちを向いた。

「起きたか。どうやらオレたち落下しちまったみたいだ。でもなぜか助かったらしい」

「あ~それはこの『代わるん人形みがわりクン』があったからですよ~。これ高かったんですからねぇ。タケルさんにはこれの代金をお支払いしてもらわないと~」

「それ、これなら足りるか?」

「え……」

 指示した方向を見て絶句するシャル。寝ぼけ眼もぱぁっと明るくなった。

「な、なんですかこれは!? ま、まさかここは天国ですか? 黄金郷なんですか!? わたしたちは死んじゃったんですかー!?」

「ていっ」

「痛いじゃないですか」

「だったら生きてるってことだ」

「あ、なるほど」

 ぽん、と手を叩く。そしてアゴに手を当ててうーん、と考え始めた。ようやくいつものシャルという感じだ。

「まさか地下にこんな大金塊があったとは……しかもあれ、見てください」

 そう言って指示した先には透明に輝く鉱石があった。

「あれ、竜石ですよ。本来ドラゴンがいるところでしかできない鉱石です。そんなものがなぜここにあるんでしょう?」

「さ、さぁ? ここに昔ドラゴンが住んでいたとか?」

「っ!」

「……なんだよ?」

「それ、百点満点の回答です。タケルさんにしては上出来です」

「褒めてんのかそれ?」

「もちろんですよ。だってこれで、問題は解決したようなものですし」

「どういうことだ?」

「後で説明しますよ。それより早くここを出ましょう。またいつ崩落するとも分からないですし」

「でも手段がない」

「すぐに助けが来ますよ。ほら」

 天井に空いた穴からおーい、というボザの声が聞こえてきた。


「二人とも! 大丈夫か!?」

 ボザが駆け寄ってくる。

「ええ、なんとか。それに意外なものも見つけましたし」

 金塊を見上げ、呆けるボザ。一緒に来た他のドワーフも同様だった。

「ほぇー……こんな地下にこんなものがあったなんて。きっと親方が喜ぶぞ」

「そういえば、トニックさんは来てないんですか?」

 あのおっさんなら真っ先に来そうだが。

「親方は……今はいない。パルと喧嘩したらしくてな。パルがどこかへ消えちまった。それでいま捜しているところだ。お前らの無事がわかったらすぐに飛び出して行ったよ」

「いなくなった? パルはどこに?」

「わからん。だがなんとなく察しはついている」

「でしょうね。パルさんはトニックさんに採掘をやめてほしがってました。しかしトニックさんはそれを拒んだ。と、なると次にパルさんがとる行動は」

「崩壊の原因を……止めにいく?」

「きっとそうでしょう」

「ってことは一人でドラゴンの住処に? あまりに無謀だ!」

「ええ。すぐに連れ戻さなくては。こんな争い、無駄なんですから」

 パルは単身ドラゴンの住む山へ。そんな少女を連れ戻すためにオレたちは行動することにした。

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