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第18話 ……まさかこんなことになるなんてな。

 話をまとめるとこうだ。

 ミーティングルームに集まった六人はレヴンレイギス国を主とする商会の代表者だということだ。彼らを七人商会と呼ぶらしい。なぜ七人かというと、なんとびっくりそこにシャルが入るからだそうだ。つまりシャルを合わせて七人。常に横をひっついてきたやつがそんな大きな役割を担っているなんて不思議な気分だ。それはまぁそれとして。シャル以外の六人はこう言っているのだ。グリンゴッツ商会に交易自由権を与えるのは反対だ、と。

 スプリントワークス、新緑の風、争いなき教団、カルミッチ=カルミッチ商会、エル・ディアブロ、そしてアイゼンフォート商会。オレたちはそれぞれの代表の視線を一手に受けながら話を進めた。

「シャル。ここからは頼む」

「了解しました」

 オレを含めた八人で卓を囲む。まず一番初めに口を開いたのはだんごっ鼻が特徴的なドワーフのおっさんだ。

「到底納得できねぇな、その話は」

 スプリントワークスのトニック・スプリントさんです、とシャルに耳打ちされる。それを合図にするかのように、次々に声が上がる。

「スプークスさんの言う通りや。抜け駆けはズルやな~」

「ケッ! 一体どんな手を使ったんだか」

 喋りが特徴的な猫目の女性、目がちかちかするほどの宝石を身に付けた喧嘩腰の男性である。

「新緑の風のソノラさん、それにカルミッチ=カルミッチのヴェスパーさん。ちなみに弟の方です」

「うわーすげぇどうでもいい」

 一昨日の晩御飯ぐらいどうでもいい。つまり思い出さなくていいってことだ。今後も。

「抜け駆けとか色々言われてるけど、くだらないこと言ってんじゃねぇよ。オレたちはちゃんとした手順で手に入れたの。ベルの褒賞って形でな」

「だから、そのお姫様自体を買ったんじゃないかって聞いているんだよ」

「そんなわけないだろ。これはベルの厚意だ」

「厚意ねぇ……下民風情がお姫様と係わりがあるなんて信じられない。だからぼくは疑っているんだよ。キミが卑怯な手を使ってお姫様を篭絡したんじゃないかってね。グリンゴッツ商会も下民出身で構成された田舎者集団だ。生きるためならどんな手も使う……違うかい?」

 ニコッと笑顔を見せてくる長身の男。うさんくさいことこの上ない。

「エル・ディアブロのスコッチさんです」

「オレ、あいつ嫌い」

「声が大きいですよ。本人が聞いたら傷つくじゃないですか。ま、わたしも同じ気持ちですけど」

「やっぱりな。それになんかあいつブサイクだよな? 二割増しでブサイクだよな?」

「わたしがあの方だったら自ら命を絶ってると思います。もしくは鏡を見てショック死か」

「あるある」

「聞こえてるからね? ぼくの心は現在進行形で傷ついているからね?」

 無視して話を進める。

「とにかく、あんたらがあーだこーだいう権利はないの。用があるなら紙に書いてそれでケツを拭いて血を吹いてください」

「舐めてんのかてめぇ」

「あんたってなんか泥みたいな味しそうだよな」

「んだとぉ!?」

「ああ! 喧嘩はダメです!」

 オレとヴェスパーの間に修道服姿のシスターが割り込んできた。

「神は見ています。善い行いも、悪い行いも。ですから拳をほどきましょう。そしてその手で握手をするのです。さぁ、仲直りの証なのです!」

「シスターって頭もシスターなの?」

「タケルさん。それはちょっとひどいです」

「どういう意味でしょうか?」

 悪口の意味で言ったんだけど。どうやらシスターには伝わらなかったようだ。それならばここははっきり伝えてあげるべきだろう。

「シスターってなんか化粧の載りが悪そうだよね」

「……」

 シスターの笑顔にビシッと青筋が立つ。よかった。悪口だって気づいてもらえたようだ。

「全方位に喧嘩を売るつもりですかあなたは」

「そんなつもりはないんだけどなぁ」

 ふと、思い出したかのように顔見知りに話しかける。

「あ、レズのおばさん。あんたもいたんだ」

「コアントロだよ。失礼な坊や」

「おばさんでいいよもう。あんたも反対なのか?」

「どっちかと言うとね。いくらシャルドネでも簡単に受け入れるわけにはいかないものだ」

「レズなだけじゃなくて意固地なんだなおばさん」

「その、おばさんって言うのやめてくれないか? 地味に傷つく」

「ごめんなおばさん」

「キミは人の話を聞かないのか」

 シャルの方に向き直る。これ以上話しても不毛だと思ったからだ。

「ダメだシャル。こいつらに何を言っても無駄だ。さっさとベルに自由権をもらいにいこうぜ」

「いいや、それはできない」

 コアントロに止められる。

「ここにいるキミたち以外の6つの商会すべてが反対しているのだ。これは七人商会の総意だ。それを無視するということはどういうことか、シャルドネならわかるよね?」

「ええまぁ。ひじょーにメンドくさいことになりますね」

「ま、そういうことだ。分かったならさっさと席に戻り給え少年」

「マジなのか?」

 シャルに尋ねる。シャルは笑顔で答える。

「大マジです。下手したらグリンゴッツ商会が消滅しかねないです」

「そうか……すまないなシャル。オレのために犠牲になってくれるなんて」

「いつ誰がそう言いました? あなたの耳は腐ってやがるんですか?」

 割と強めに言われた。うん、まぁダメだとは思った。

「じゃあどうすればいいんだってばよ」

「なに、簡単な話だ」

 今まで沈黙を守っていた王がようやく口を開いた。

「6つの商会すべてを納得させればいい。それなら交易自由権も問題なく発行できる」

「6つの商会すべて? ははは、限りなく不可能に近いですね」

「だが、やらねば渡せぬぞ?」

「……ですよねー」

 がっくりと肩を落とすシャル。簡単に手に入ると思っていたのだ。まさかここで妨害工作があるなんて思いもよらなかったのだろう。オレもだ。

「よし、話はわかった。ちょうど全員ここにいるわけだし、早速行動を開始しよう。みんな、オラに力を貸してくれ!」

「嫌だ」

「うるせ」

「反対や」

「答えられん」

「どういう意味ですか?」

「おととい来やがれ」

 良い返事はもらえなかった。

「ダメだったわ。シャル」

「はい。期待はしてませんでした」

 ダメだ。味方がいない。

「ふん、これで分かったろ? 今回の件は白紙だ。当然、俺も納得しねぇからな。話は終わりだ」

 ヴェスパーが席を立つ。宝石をじゃらじゃらさせて。しまった。このままでは帰ってしまう。せめてここでヤツを引き留める気の利いた言葉を言わなければ。

「ちょっと待った!」

「……ああ? まだなんか用か?」

「ヴェスパー。あんたこういう言葉を知っているか?」

「あん?」

 そう、気の利いた言葉を――

「豚に真珠ってさ☆」

「…………」

 歩く速度を速めて出てってしまった。最後にぽつり。いつかコロス、という物騒なセリフを残して。

「あーあー、カルカルさん帰っちゃいましたなぁ。んじゃ、仕事が残ってるしウチもここで失礼させてもらうで。もし要件があるならウチの商会に顔出しな。話だけなら聞いたるで~」

 続いて新緑の風のソノラが退出する。

「ではわたくしもこれで失礼します」

「……おれもだ」

「商売の話なら大歓迎だよ。だがそれ意外はナシだ」

 更にシスター、トニック、スコッチの三人が退出する。

「ちょ、ちょっと待てよ。まだ話は終わってない!」

 しかし誰もオレの言葉に足を止める者はいなかった。

「諦めなよシャルドネ。キミの思惑は外れたわけだ」

 コアントロも席を立つ。そのままコツコツと足音を立て、シャルの耳元に顔を寄せる。

「気をつけないとね。話はどこでだれが聞いてるか分からない」

「っ! まさかあなた……!」

「じゃあねシャルドネ。愛してるよ」

 最期にクサいセリフを吐いてコアントロは出て行ってしまった。

「中々苦労しそうだね。だが頑張ってくれたまえ。私はキミたちなら出来ると信じているからね」

 ぽん、とオレの肩を叩き王様も退出した。静かになった室内でオレたちは同時にため息をつく。

「……まさかこんなことになるなんてな」

「……まったくですよ。本当なら自由権を手に入れてウェーイしているところなのに」

「これからどうする?」

「王様もおっしゃってました。あの方たち全員を納得させるしかないですね」

「うまくいくのか?」

「やってみないとなんとも。ですが可能性は限りなくゼロに近いです」

「でもやるしかないんだよな?」

「もちろん。自由権のためにも!」

「オレが元の世界に帰るため、な」

 こうしてオレたちの無謀ともいえる挑戦が始まった。

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