花選びの章・閑話 花睡鵲啼2
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花選びの章・閑話 花睡鵲啼2
これも療養中に見舞いに来た鸞将軍から聞いた話だが、自分は二日二晩意識不明の儘生死の境を彷徨い、三日目には周囲は覚悟を求められたそうだ。
遠く鵷州の親には到底間に合わぬと竜花が判断したと聞くから、相当だ。
だが、翌朝には奇跡を回復を遂げたとか。そう言われても、意識の無かった自分には実感も無い。
目覚めて直ぐは流石に、ぼぅ、として、全身怠かった。何の気無く枕の上で頭を傾けたら、いきなり竜花様のご尊顔が在って仰天して覚醒した。
竜花が、別室に控えていた鵲家の者に慈孝覚醒を知らせると、その後は大勢が入れ代わり立ち代わりだった。
自分を診察するのが鵲主だと聞いて身が竦み、後退りするのを助手に押さえられた。
その後女性の看護人に身体を拭いてもらってさっぱりしたが、次に着替えを手伝ってもらう時に漸く自己紹介され、恐れ多くも花姫の一人鵲姫玲舜様だと知って、もう、如何したらいいか分からなくなってしまった。
だって、看護人だと思っていたから、高熱に魘された(らしい)後の汗臭い身体も、あちこち傷だらけでも晒せたが、貴族のお姫様に下着の替えまで手配された上に着替えを手伝ってもらうなんて、極普通の一般家庭で育った平民の自分には、それ以上粗相が有ってはならぬと怖くて無礼討ちにされる事態になりそうだから近寄ってほしくないのが実情だ本心だ。
最初は意識が無かったから! 仕方ない不可抗力だ。自分にはどう仕様も無い。
今はもう回復したから自分で出来ますお手を煩わせるなんて滅相も無い申し訳無い!
と、目が覚めて事態を把握した時から訴えているのに、誰も聞いてくれない。
「あのっ……俺、いや、自分は、こんな、じゃなくて、この様な過分な待遇を受ける身では……っ」
流石に清拭は助手らしき女性になったが、相変わらず玲舜は着替えを手伝おうとする。
「何を仰いますか。腕の包帯が取れるまで無理は禁物と、父から申し付けられております。動かし辛ろうございましょう。怪我人の世話等慣れておりますので、お気遣いには及びませんわ」
と、押し切られた。微妙に話が嚙み合っていない気がする。
鸞将軍は分かってて知らんぷりしていると思う。あのにやにや笑いからして間違いない。
こうなればさっさと鵲家からとんずら……お暇するしかない。
身体が鈍るから床を払いたいと願うと、
「まぁ。身体が資本の軍人が鈍っては大変ですわ。療養に是非当家の庭を散策なさいませ。わたくしが案内いたします」
「いえ、ですから、そこまでお手を煩わせるわけには……」
「当家の庭は野趣溢れ草ばかりと言われておりますが、薬草にも花は咲くのですよ」
矢張り、玲舜は話を聞いていないと思う。
その玲舜の案内で庭を散歩する羽目になった慈孝、病人怪我人としては先導してもらう側なのは理解しているが、家主側と言えど、貴族の姫の手を引かぬのは如何なものか。
――いやでも、平民が御手を取るのも無礼で不敬? 取って何処に案内するんだよ道分からないのに。でもこの儘お世話になるのも思い上がりって後から絶対言われるよな。あのいけ好かない馬鹿貴族の阿保息子とかに。
「広いばかりで荒れている、花の種類が整っていない、舗装されておらず歩き辛い、等と評される方もいらっしゃいますが、花苑で愛でる為に咲かせる花と当家の庭は、抑々の趣旨が異なりますの。共に植える事で薬効に差が出る等、薬草には不思議な事もございますので、そちらを優先しております。水捌け等も考慮いたしますと、舗装出来ぬ部分も多うございまして、歩き難い事は確かでございましたが、今となれば重畳と申せましょうね。こうして回復の一助となるのですから」
ネチネチ言うのは大体他家の姫だろう。鶤姫とか。
「普段は庭の手入れ時の小休止に涼む程度の利用ですが、各所に四阿等もございます。身体がお辛ければ、遠慮なく仰ってくださいませ。日陰で休みながら参りましょう」
本調子ではない慈孝の歩調に合わせ、だが決して平坦な道だけではなく、適度な負荷を求められる行程で、玲舜は巧みに慈孝を先導する。
この配慮に気付かぬ程魯鈍な慈孝ではないが、御厚意に一層恐縮するばかりだ。これは早く本復するのが一番の恩返しと心に決める。
そして、玲舜の気遣いに、目を細める者が一人。
慈孝の純朴な様子に目を細める者も――一人。
慈孝負傷から六日、「花選び」からは十一日目の午後の事である。
その一人とは、慈孝に言われて大人しく宮に籠り、膨大な仕事を捌く裏で、「外出禁止は法に非ず」とこっそり出歩いている竜花であった。
と、言っても、主眼は慈孝の見舞いであり、流石に呑気にほっつき歩いたりはしていない。
仕事もきちんとどころか必要以上の量を熟し、誰に文句を言われる筋合いも無い、と言うのが竜花の言い分だ。
「総英を見よ。仕事の合間に女官と適度に息抜きをしている輩に、私の行動を掣肘する権等無いわ」
で、ある。
総英が知ったら「違う。そうじゃないでしょう⁈」と絶叫したであろう。
周囲の――特に総英の――油断を誘う為に、大量の仕事を一気に処理する演出までしていると知ったら、顔から地面にのめり込んだかも知れぬ。
これも竜花に言わせれば「この程度腹芸にもならん」となるのだ。
因みに、後日、これが真実である事を、周囲は心から思い知らされる事になるのだが、それはまた別の話である。
兎も角、そうして生んだ貴重な時間、慈孝の容体が気懸りである事は勿論ながら、それだけで鷹隼宮に帰るのは、竜花にとっては転んで只で起きるに等しい。
時間が惜しい素振りなど毫末も見せず、微笑ましい二人を見遣っていたもう一人に、端麗な瞳を投げ掛けた。
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全く別の世界観ですが、お時間がございましたら、
星を摑む花
天に刃向かう月
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