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竜の花 鳳の翼  作者: 宮湖
花選びの章・閑話 花睡鵲啼

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花選びの章・閑話 花睡鵲啼1

不定期更新ではございますが、宜しければお付き合い下さい。

 花選びの章・閑話 花睡(はなまどろみ)鵲啼(かささぎなく)



 それは、只管の闇――だったように、思う。


 全身を苛む痛み、とは、何と生温い表現か。

 雷撃に貫かれたが如き一瞬、その刹那に肉が剝がれ、神経が――痛覚が、剝き出しになった。

 そこを、鼓動よりも間断無く襲い来る刺激――激痛を、何と言い表せば的確だろうか。

 一撃毎に心の臓が潰される衝撃。始めに肉が剝がされた時に、血等全て流れ落ちた筈なのに、無い筈の肉体を沸騰した血が――灼熱が駆け巡る。

 強酸の液体は水分を干乾びさせ、苦悶を訴え助けを求めようとしても、呼吸だけで咽喉が爛れた。

 耐え切れずに流れる涙の代わりに、眼球から絶叫が迸るかのよう。だが、自分の瞳は何も映さない――映せない捉えられない。


 目の前に、否、周囲に在るのは、無限に続く地獄の責め苦。


 叫べぬ己は無音の漆黒に絡め取られ、その一瞬一瞬が、平時ならば死に直結する重傷の重苦に突き落とされた。


 何故自分がこの様な惨苦を味わわなければならないのか。何故この闇に囚われているのか。何時からだ。


 刹那に浮かぶ疑問すら激痛に千々に裂け、発狂して心を彼岸に飛ばしたくとも、痛苦が赤子が泣くよりも容易く正気に引き戻し、その途端の地獄に息が止まる。

 その儘息絶えてしまえれば楽なのに、殺す勢いで全身を打擲する痛みと痺れが、却ってそれを赦さない。現実を知覚させようとする。


 現実――この闇が実在するなら。この痛みが夢でないなら。


 夢ならば何時か覚める。酒精が見せた幻の様に、必ず醒める。


 だが、この無限の痛みと深淵の如き闇が、現実なら。


 終わりは――何時、何処に。


――救いは。


 果てが知れぬ事に絶望し、だがそれに浸る事すら許さぬ痛苦。


 一生の闇でも良い。もし目が潰れた故の闇だとしても、この惨苦が終わるならそれでも良い。


 満足に出来ぬ呼吸が、更に痛覚を苛む。


 この重苦が終わるなら死んでも良いと本気で願い、終焉の兆しを求めて見えぬ世界で目を見開いた。


 更に深い混沌でも良い。堕ちて終わるならそれで良い、と、暗黒を求めて瞠目した世界。

 在るのは矢張り、唯只管の闇で、見えているのか否かすらも定かではない。


 痛い苦しい息が焼け怖い熱い酷い苦し終わり死んで――。


――ああ。


 上下の間隔すら奪われた、死が安寧に通じる極地。全てを手放し――痛みも生も諸共に、安らぎだけを求めて暗黒の深淵に身を委ねようとした時、瞑目も瞠目も、どちらでも同じ昏い世界で。


 玉響よりも永遠に近く、刹那よりも華やかに。


 それが免罪にはならぬ事を知る、苦渋に満ちた深い悔恨の謝意の帳の奥で、僅かに垂れた一滴(ひとしずく)


――唯、一閃。


 真珠色の光輝(奇跡)が、煌めいた。



  ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖



 花衛慈孝は困惑していた。


 それはもう、周章の極みと言ってもよい程困惑していた。


「あのっ……俺、いや、自分は、こんな、じゃなくて、この様な過分な待遇を受ける身では……っ」


 意識を失う直前の記憶は、確か、「ああ、俺、失敗(しくじ)ったかな」だったように思う。


 何も意図せず、何かを察した訳でも無く、上着を着ようとする竜花の為に、松明を持つ自分が腕を動かした。


 その次の瞬間には、右上膊部に激痛。


 痛みと、え、との驚愕に同時に襲われ、それから、強引に断ち切られる様な、引き千切られる様な、何十枚もの絵画が滅茶苦茶に重なり合った様な記憶――視界のどれかに、自分の上腕に生えた矢の矢羽が(よぎ)って、その向こうに、泣きそうな――これは自分の見間違いでは絶対無い、と思う――竜花の顔。


 だから、自分が竜花を庇って射られたのだ、と理解して――ぶつりと意識を切られた。


 否、庇う、等とは烏滸がましい言い様だ。


 だって、刺客にも殺意にも全く気付いておらず、飛来する矢を察しての咄嗟の行動でも、花衛としての当然の行動でも、使命感でもないのだから。

 一番近い喩えなら「主を手伝おうとした使用人が、不運にも巻き込まれた」だ。


 何か凄く苦しかったなぁ、等と思いつつ、目覚めて一番に竜花を目にした時は驚いたが、一晩中付いていてくれたのだと知って感動した。

 自分の様な兵卒の為に、と、一生この人の下で働きたいと思ったのは本心だ。


 ここが鵲家だと教えられた時は、更に仰天した。精々が軍医の幕か、兵舎の医務室だと思ったのに。

 だから、慈孝覚醒の報を受け現れ、甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてくれる女性が鵲姫だと知って飛び上がった。

「何処かで見たなぁ。軍医の看護人にいたかなぁ」等と呆けていたから尚更だ。

 見ているに決まっている。花衛の任務中に鵲姫に覚えがなければ、職務怠慢で軍罰ものだ。


 因みに、この時点で、慈孝は竹瑛宮での騒動を聞いていない。


 知った時「陛下を押し倒して胸倉掴んで締め上げたぁ⁉」と泡を吹いて気絶しかけた。

 こういう情報を教えるのは、当然総英――鸞将軍である。


 使われたのは鴆毒とか言う猛毒で、鵲家に依ると、致死量の数十倍にまで濃度が高められていたそうだ。それで助かった自分は運が良かったが、竜花に当たらなくて良かったと、素直にそう言ったら、鸞将軍は数拍固まった後「お前、本当に大将の部下に適してるよ」と言われた。


 そうかなぁ、と言うのが、慈孝の正直な心境だ。


 慈孝にしてみれば、竜花が自責の念に駆られぬようにと()()は言ったが、はっきり言って意図して庇った心算は無い。

 矢筋上に自分が手を出してしまっただけ、という、お粗末過ぎて恥しかない心境だ。

 しかし、竜花王妃待望派にしてみれば、慈孝の葛藤等どうでもよく、身を挺して将来の王妃を庇った事実だけがあり、誰が何と言おうとも救国の英雄に等しい人物なのだ。


 だから、今も、慈孝が非常に戸惑う――狼狽する事態となっていた。







 非常にお待たせを致した挙句、新章ではなく閑話。大変申し訳ございません。「花睡鵲啼」は花選びの章のスピンオフ等と大層なものではありませんが、花選びの章では書き切れなかった「あの時何があったのか」的な、比較的短めな話になっております。


 別作品の後書きでも触れたのですが、今回から登場人物の心理描写や背景に少し重点を置いている為、話の展開が今までより遅くなっております。……更に更新も遅い……只管申し訳ございません。


 花睡鵲啼を数話投稿した後、またお休みをいただき、本編新章開始の予定です。見捨てず気長にお付き合い下されば幸いです。


 尚、閑話に先立ちまして、花選びの章の登場人物纏めの方にも追記がございます。宜しければご覧ください。

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