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88話 バイク

 とある海の上に浮かぶ孤島にそびえ立つ古城――その玉座の間にてデップはゲルギウスに殴り飛ばされていた。


「このバカ野郎がッ!!! なんで早々に手の内を明かしやがるんだ!!! アレはラグナ・グランウッドを倒すための奥の手として取っておけっつったろ!!! それをブラッドレディスごときに使いやがって!!! そのうえ『血』の力まで使っておきながらなんて醜態さらしやがる!!!」


「うう……ごめんよぉあんちゃん……」


泣きながら謝るデップを冷たい目で見下ろしたゲルギウスはため息をつく。


(……ったく……しかもカーティス兄弟までとっ捕まるとはな……完全に想定外だぜ。だがまあいいか。仮に尋問されたとしても俺にとって重要な情報が引き出されそうになれば奴らの中に植え付けた『アレ』が作動する。情報が敵に渡ることはねえ。……しかし低級とはいえまさか『魔王種』を与えておきながらこんな結末になるなんてよ……おそらく『神月の光』を使ったんだろうが……チクショウ……フェイク程度にてこずったって話を聞いて『低級魔王種』だけでも余裕だと思ったんだがな……ラグナ・グランウッドの力は俺の想定以上のものだったってわけか……こんなことならカーティス兄弟に『血』や『神月の光』に関する情報、もしくは『上級魔王種』を与えておくべきだったな……完全に読み違えたぜ……しかも……デップにはああ言ったが……使いこなせていないとはいえ『血』の恩恵を受けたデップをあそこまで追い詰めたブラッドレディスの力も侮れねえ……)


 ため息をつきつつもゲルギウスは思考を止めなかった。


(……まだ部下達に埋め込んだ肉片が完全に育つまでは大規模な行動は避けたかったんだけどな……今んところ念話が出来て視覚なんかが共有出来るほど肉片が成長してるのはデップだけ……だが今後の事を考えれば『終焉の紋章』は出来れば押さえておきたい……それにもう奴らに情報は流しちまった。近いうちに奴らはブルーエイスを訪れるはず……もう止まらねえし、止める必要もねえか……デップを通してラグナ・グランウッドの性質変化や弱点はわかった。セカンドプランを使って今度こそ奴の左腕を手に入れてやる)


 深刻な顔をしていたゲルギウスだったが、すぐに笑みを浮かべる。


「……いいぜ、直接叩き潰してやるよ。俺自らなッ!」


 狂暴な笑みを浮かべゲルギウスは叫ぶ。


「――デップ! 今回のミスは特別に勘弁してやる! 次で挽回しやがれ!」


「う、うん! オイラ、頑張るよ!」


「よし。……ただし、次はねえからな?」 


「わ、わ、わかってるよ……」


「なら急いで部隊の再編成にあたれ! 部隊長が一気に三人も減っちまったんだからな!」


「りょ、了解ッ……!」


 震えながら玉座の間を出ていくデップを尻目にゲルギウスは敵を睨むように彼方を見据える。そして立ち上がるとおもむろに玉座の後ろにあった壁に右手で軽く触れた。すると壁が光を発しその手の指紋を読み取るかのように触れていた指を照らす。直後真横にあった壁が自動ドアのように開きその中に入ると、そこには広大な研究施設のような部屋に繋がっていた。


 薄暗い部屋の中には機械に繋がれ緑色の液体で満たされた無数の巨大な円筒型の容器があり、その中に明らかに自然に生まれたとは思えない形状の生物たちが入れられていた。それらに囲まれた部屋の中を歩き最も奥にあった巨大な容器のある場所にやってきたゲルギウスは緑色の液体で満たされたその中にある人間の赤子ほどの大きさの卵を見つめる。白い表面に黒い象形文字に似た文様のあるその卵は無数の黒いコードに繋がれており、まるで拘束されているかのようだった。


 シリンダーの真下にある機械のモニターに表示されたバイタルを確認しながらゲルギウスは思案し始める。


(ラグナ・グランウッドと戦うにあたってこいつを目覚めさせることも視野に入れるべきか……生み出された『魔王種』の中で最も危険とされた究極の生命体――『グラトニーワーム』――こいつの力を使えば……)


 一瞬その考えが思い浮かぶも即座に否定される。


(いや……駄目だ……まだ調整もほとんど終えてねえうえに制御できるかもわかってねえんだ……こんな危険な生物を世に解き放つなんざ自殺行為……仮にラグナ・グランウッドに勝てたとしてもその後この化け物が世界を滅ぼしかねない……こいつは本当の意味で奥の手……そうだ……使うには早すぎる……ラグナ・グランウッドはまだあの左手の力を完全に使いこなせちゃいない……そうとも……『神月の光』の件も含めて付け入る隙はある。それに俺にはまだ最後の切り札がある……チッ……少しばかり弱気になり過ぎてたな……直属の部下を四人もやられて自分でも無意識に動揺しちまってたようだ)


 ゲルギウスは己の弱さに対して舌打ちすると気持ちを落ち着ける。


(――来やがれラグナ・グランウッド。てめえの持つ『終焉の紋章』は俺が奪い取ってやる。そうすりゃ終焉の神を操る資格も俺のものだ)


 まだ見ぬ獲物を見据えるその瞳は瑠璃色に光り輝いていた。



 

 カーティス兄弟を捕えた翌朝――早朝、騎士団本部に設けられた研究室にブレイディアはやってきていた。眠い目をこすりながら不機嫌そうに見据える相手は研究室に呼び出した張本人。


「……それで、こんな朝っぱらからなんの用なのハロルド」


「突然呼び出してすまないネ。君に渡したいものがあったからこうして呼び出させてもらったんダ」


「もしかして機能をさらに強化してくれるって言って預かった私とラグナ君の『月錬機』? 射程距離が伸びるうえに確か分離したそれぞれの刃にカメラが付いて柄の部分のモニターで確認できるようになったんだよね。ラグナ君のやつは斬撃の威力と射程距離が強化されるとか。もう出来たの?」


「あア。だがそれとは別に君にもう一つ渡したいものがあル。ついてきてくレ」


 ハロルド――正確に言うならばハロルドの操るアンドロイドが歩き出したためブレイディアもそれに続くが――。


「……にしてもわざわざこんな早朝からご苦労なことで」


 後ろから離れてついてくる黒スーツを着たサングラスの男二人を一瞥し呟くとハロルドはそれに対して振り返らずに答える。


「当分の間――いやおそらく一生監視されるだろウ。鬱陶しいかもしれないが、こういう状態にも慣れてくれると助かル」


「……まあ仕方ないか……ところで渡したい物ってなに?」


「――これダ」


 ハロルドは目的地である研究室の奥へたどり着くカバーのかけられていた謎の大きな物体に手を伸ばす。そして勢いよくカバーを外し中の乗り物らしき珍妙な物体を見せた。


「これって……え、なにこれ……」


「バイクだヨ」


「……いやバイクじゃないでしょこれ……」


「バイクだヨ」


「いや絶対バイクじゃ――」


「バイクだヨ」


「…………」


 絶対に譲らないハロルドに根負けしたブレイディアはバイクらしきものにあらためて目を向ける。


「……そ、そうなんだ……バイクなんだ……でもバイクにしてはずいぶん大きいね。大きさ的にワゴン車以上中型車未満くらい……かな。しかも……なんていうか……斬新なデザイン」


 バイクにあるまじき大きさや美しい真紅の光沢に真っ先に目を奪われるもその形状も奇妙としか言いようがなかった。前方部分は真紅の剣もしくは槍のような鋭角なデザイン、一方で後方部分はまるでライフルの弾を思わせる独特な形状。鋭く長い特徴的なそのフォルムの物体は、言われればなんとなく、かろうじてバイクのようにも見えたがまるで違う乗り物のようにも映った。前輪と後輪部分に隣り合うように二つずつ取り付けられたタイヤと搭乗者がある程度見えるくらいに覆われた上下左右の殻のような装甲を見て眼を瞬かせるブレイディアに対してハロルドは説明を始める。


「君がブルトンに行った際に敵との戦闘で愛機を粉々にふっ飛ばしたと小耳にはさんだものでネ」


「……嫌なこと思い出させないでよ……はぁ……」


 長年連れ添った相棒が吹っ飛ばされる光景を思い出し気が滅入るも、励ますようにハロルドが言葉をかける。


「まあそう落ち込むナ。ラフェール鉱山へ送り出す時は『メイガス』の修復などの仕事が重なったため完成が遅れたが、ようやく出来上がったんダ。君にとって思い入れのあるバイクの代わりにはならないかもしれないがぜひ使ってやってくレ。私が一から設計し作り上げタ。性能は保証すル」


「へえ……ハロルドが一から設計したんだ。ってことはただのバイクじゃないわけだ。いったいどんなモンスターマシンなの?」


「そうだナ……この場で全てを語るのは難しいが簡潔に説明するならバ……おそらくこの世界で最も速く、最も頑丈で、そして――最も危険な機体ダ」


 ハロルドの説明を聞いたブレイディアは口元を緩ませる。興味津々といった顔だ。


「世界で最も危険か……そそられるキャッチフレーズだね」


「最後の単語にそそられる辺り実に君らしイ。この機体には特別な機能がいくつかついていてネ。かなりのじゃじゃ馬ダ。自分で作っておいてなんだが普通のバイク乗りなら金を積まれても乗らないような機体だヨ」


「そうなんだ、なおさら気に入っちゃったよ。ありがたく使わせてもらうね」


「ああ、常人には無理でも君ならきっと乗りこなせるだろウ。これからの戦いでもきっと役に立つはずダ。各種機能については機体のモニターを操作して確認してくレ。それとブルーエイスに行くときはラグナと一緒にこれに乗って行くといイ。十人乗りまでは可能ダ。そしてこれが鍵になル」


 金色に輝く十字に天使の羽が生えたような形状で手のひらサイズのバイクの鍵を受け取ったブレイディアは再びハロルドに向き直る。


「バイクのことは助かったよ。本当にありがとう」


「気にしないでくレ。……敵が『神月の光』などという力を使うことが分かった以上、本当ならば完成した『ルナシステム』でも君に渡してやりたいところなのだガ……」


「ああ、あのブレスレッド型のデバイスね。でも作りたくないんでしょ? 気持ち的には理解できるし、いいよ無理に作らなくても」


「いや、まあ作りたくないという気持ちも大きいのだガ……それ以上にアレは使用者を危険にさらす可能性があるんダ。自暴自棄になっていたは私は安全性を度外視してアレを完成させタ。ゆえに使い続けば細胞に異常をきたし最悪の場合肉体がドロドロに溶けて死にかねないんダ」


「マジですか……よくそんなの使う気になったね……」


「もともと復讐を終えれば後はどうでもいいと思っていたからネ。……それ二……どれだけ研究を重ねても『黒い月光』を完全に御することは科学の力を以てしても不可能だったんダ。科学者の私がこんなことを言うのはおかしいかもしれないが……アレは……選ばれしもののみが扱える力なのだろウ。そしてそれ以外の者が手を出してはいけない力だったのかもしれなイ……」


 ハロルドは遠い眼をしてため息をつき、ブレイディアは納得したように頷く。


「……そうかもしれないね。……それで、そろそろ本題に入らない?」


 ブレイディアの見透かすような目を見たハロルドは恐れ入ったとでも言うようにため息をつく。


「……やれやレ……お見通しというわけカ……」


「当たり前だよ。バイクや『月錬機』渡したいだけならこんな早朝に呼び出さないでしょ。……もしかしてラグナ君のことについて?」


「……そうダ。あの子に聞かれたくなかったからこうして朝早く呼び出させてもらっタ。……単刀直入に聞くが、ブレイディア――君はラグナが新しく覚えた例の術――〈ゼル・シャウパ〉のことをどう思ウ?」


「…………」


 その問いかけに対してブレイディアは思わず黙り込んでしまう。脳裏をよぎるのはその術がもたらした絶大な破壊。黙り込む女騎士の代わりにハロルドは続きを喋り始める。


「……術の威力を確かめるために君と私、そして監視役を交えて行った実験……その結末は我々が予想しえないほどの破壊をもたらしタ……あれは人智を超えタ……その術の名の通りまさに神の力と呼んでも差し支えないほどに凄まじいものだっただろウ……?」


「……そうだね。あれは……そんじょそこらの兵器じゃ太刀打ちできないほどに……いや、比較することすらおこがましいほどに凄かった。貴方がさっき言った普通の人が手を出してはいけない力っていうのを実感できるほどにね」


「そうだろウ。アレを使えばどんな敵だろうと一撃で葬り去ることも可能だろうネ。……そのことを前提として聞いてほしイ。ブレイディア――ラグナにあの術を使わせないでくレ。特に人前でハ。理由はわかるネ?」


「……貴方が言おうとしていることはわかるし理解も出来るよ。けどそれはラグナ君自身も理解しているはず」


「ああ、だがもしもの時はきっとあの子は力を使ウ。そしてその結果あの子は自らを危険にさらした挙句悲しむことになるだろウ。私はそれを望まなイ」


「……私もそんなことは望んでないよ」


「そうカ。それを聞いて安心したヨ。ではあらためてお願いだブレイディア。あの子にあの危険な力を使わせないでくレ。……頼ム」


 頭を下げて懇願するハロルドを見てブレイディアは重々しく頷く。


「……わかった。でも……絶対に使わせないっていう約束は出来ない。それでもいい?」


「無論ダ。『ラクロアの月』が活発に動いている今、思いもよらない事態に発展する可能性があル。そんな時、ラグナの力が必要になるかもしれなイ。……私の願いは自分勝手なものと重々承知しているヨ。だから出来うる限りで構わなイ。君が動いてラグナがあの力を使わずに済むのなら頼みたいんダ」


「……了解。出来うる限りラグナ君にアレを使わせないようにする」


「感謝すル。それともう一つだけ頼みたイ」


「何?」


 ハロルドは一呼吸置いてブレイディアに告げる。


「――あの子を一人にしないであげてくレ。……正直ラグナの力は私の想像の遙か上を行きはじめていル。今なお成長を続けるあの力――『黒い月光』を目の当たりにして全てを受け入れられる者はおそらく少数だろウ。だからせめて君だけはあの子のそばにいてあげてほしいんダ。……本当ならば私が常にそばにいてあげたいが、私はこのとおり囚われの身。それは叶わなイ。それゆえ君にその役目をお願いしたイ。ラグナは君の事をとても信頼しているようだからネ。……お願いできるだろうカ?」

 

 その言葉を聞いたブレイディアは眼を瞬かせた後、笑う。


「……なんだ、そんなことか。そんなの頼まれなくてもやるつもりだよ。なんたって騎士団にラグナ君を勧誘したのは私だしね。あと私個人としてもラグナ君のことが大好きだからさ」


「……本当にありがとウ」


「当たり前のことに感謝なんてしなくていいよ。前金も貰っちゃったしね。それにこのバイクだってラグナ君の能力について行けるようにって用意してくれたんでしょ?」


「……そこまで見透かされてしまっているのカ……どうやら君の方が一枚も二枚も上手のようダ」


「いやいや、違うよ。気づいてないのかもしれないけど貴方ってラグナ君のことになると動きがすごい露骨になるんだよ。だからわかりやすいってだけ」


 ブレイディアはバイクを指差した後、苦笑した。ハロルドもそれにつられて笑いだす。その後秘密の相談会はお開きとなり、バイクに続き機能面で強化された『月錬機』の受け渡しが終わると二人はそれぞれの仕事を行うべく別れた。



 そしてその翌日ラグナとブレイディアは団長室に呼び出されアルフレッドの前に立っていた。


「――これからお前たちにはブルーエイスに向かってもらうわけだが、その前に聞いてもらいたいことがある。実は妙なことがブルーエイスで起きているらしい」


「妙なことですか……?」


「いったいどんなことが起きてるの?」


「ここ数日の間に子供の失踪が多発しているらしい。なんでもピエロのマスクを被った人物が子供を連れだしているという話だ」


「子供の失踪……それって『ラクロアの月』と何か関連性があるの?」


「まだわからないが、可能性は十分考えられるだろう。……ラグナがレインという男から聞いた話では敵は人体実験もしているらしいからな」


 それを聞いたラグナは顔面蒼白になる。


「まさか……子供を実験に……」


「あくまで可能性の話だ。今の段階では決めつけることは出来ない。そのピエロが『ラクロアの月』と関係しているかどうかも現時点では不明だからな」


「……でも過去に『ラクロアの月』が子供をさらって監禁していたっていう事例があったよね。捕まえた奴を尋問したらどこかの施設に運び込む予定だって言ってたし」


「ああ。だからこそお前たちに調べてきてほしい。子供たちの行方を追えば探している敵のアジトも掴めるかもしれない。とにかく現地に向かってくれ。話の詳細はそこで聞けるだろう。すでに本部から騎士を派遣しブルーエイスの防衛に充てている。お前たちも後に続いてくれ。私はこれからアジトが見つかった際に送り込む騎士の選別を始める。それと作戦を始めるにあたって色々と各種方面に根回ししておかねばならない。ゆえにしばらく連絡がつかないかもしれないが、留守電に定時報告は入れておいてくれ。必ず確認する。緊急の場合は本部にいる騎士に直接連絡を頼む――以上だ。……おそらくこれは大規模な掃討作戦になるだろう。心してかかってくれ」


 アルフレッドの言葉に頷いた二人は団長室を後にした。


 


 その後アルフレッドの言葉を聞き終えたブレイディアはラグナと共に家に戻り身支度を整えるとブルーエイスに向けて出発しようとしたが――。


「え、列車で行かないんですか?」


「うん。これに乗っていこうと思ってさ。ラグナ君も一緒にどうかな。一台しかないから二人乗りになっちゃうけど」


 ブレイディアは家のガレージに止めてあった真紅のバイクもどきをラグナに見せ、それを見た少年は困ったように首を傾げる。


「えっと……すみません……これって……なんて乗り物なんですか……?」


「一応バイク……らしいよ」


「そ、そうなんですか……これは……新しく買ったんですか?」


「違うよ。ハロルドが設計して作ってくれたんだ。ほら、私のバイクがブルトンに行った時に壊れちゃったってちょっと前に話したでしょ?」


「ああ、そういえば……。なるほど、それじゃあその話を聞いた先生がブレイディアさんの為に作ってくれたんですね」


「えーっと、まあそんなところかな……」


 ブレイディアは若干苦笑いしながらお茶を濁す。


(……本当はラグナ君の為みたいなものだけど……言わない方がいいよねこれは……この子に真意を気づかれないようにバイク渡してきたんだし……)


 ハロルドの親心を理解していたブレイディアはあえて言葉に出さず誤魔化すと話題を切り替える。


「そ、それでどうかな? 実は昨日受け取ったんだけど仕事が溜まってたからちゃんと触れ無くて今日初めて乗るんだよね。一応基本操作の確認はちょっとだけしたんだけど出来るだけ早く慣れておきたくてさ、だから試運転も兼ねてブルーエイスまで乗ってかない?」


「あ、はい。そういうことなら喜んで。先生の作った物なら安心して乗れます」


「世界一危険らしいけどね」


「え……」


「あ、ううんなんでもない。さ、乗って乗って」


「は、はい。それじゃあ……」


 一瞬訝し気な表情になるもすぐにそれをあらためたラグナはガレージに置いてあったヘルメットを被ると超大型バイクもどきの後ろに乗る。席は十分に空いており五人以上は容易にまたがることが出来そうだった。それを見届けたブレイディアもヘルメットを被りバイクの前方――操縦席に乗るとエンジンをかけた。すると暗くなっていたモニターが明るくなり画面が表示される。タッチパネルを操作するとバイクの内部にセンタースタンドが仕舞い込まれ内蔵されたコンピューターによって自動で姿勢が保たれる。その後ガレージのスイッチを入れることで扉を開け、バイクを外に出した後再びガレージを閉める。


「じゃあラグナ君。発進させるよ。しっかり掴まっててね」


「了解です」


 席の左右に取り付けられたレバーを握ったらしいラグナの声を聞いたブレイディアはバイクを発進させる。機体を走らせながらブレイディアはバイクのモニターの端に表示された『特殊機能』という項目に目を付けた。


(……流石に普通に運転する分には問題なさそう……まあラグナ君との二人乗りを勧めるあたり問題ないとは思ってたけど……今のところは形が変でかなりデカい高性能のバイクって感じか……たぶんこの『特殊機能』っていうのがハロルドの言ってたこのバイクもどきの危険な部分なんだろうな……このバイクがこんな変な形してるのにもきっとこの『特殊機能』が関係しているはず……はてさていったいどんな機能なのか……ラグナ君についていけるようにってことはそうとうヤバイ機能のはず……注意しないとだね)


 気を引き締めたブレイディアはラグナを乗せ目的地に向かってバイクを走らせ続けた。

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