89話 港町ブルーエイス
二人を乗せたバイクは何度か休憩を挟みつつ走り続け、やがて走行するバイクの右側に広大な大海原が現れる。それを見たラグナは感動のあまり思わず声を上げてしまう。
「……すごい……これが海……」
「ラグナ君もしかして海見るの初めて?」
「はい。ネットとかテレビでは見ましたけど実物を見るのは初めてなんです。……あ、す、すみません……はしゃいでしまって……子供たちが『ラクロアの月』に誘拐されて実験材料にされているかもしれないのに……」
「まだそうと決まったわけじゃないんだからそんなに落ち込まないで。それにちょっとくらいならはしゃいでも平気だよ。ここには私しかいないんだから」
「でも……」
「君の気持ちはわかるけど、今からそんなに緊張してたら気疲れしちゃっていざという時に集中できないよ? 今は海でも眺めてリラックスしててよ。現地に着いたら嫌でも戦いに集中せざるを得ないんだから。ね?」
「……はい」
ブレイディアの言葉に従ったラグナは深呼吸しながら気分を落ち着けようとする。潮風から漂う独特な海の香りを感じながら目的地であるブルーエイスに思いを馳せる。その後舗装された道路を走っていると民家らしき建物がちらほらと見えてきた。標識を見るにどうやら町の入口に入ったようだ。アルフレッドが派遣した本部の騎士と思われる者たちが巡回している様子を見ながらそのままバイクは走り続け目的地であるブルーエイスの騎士団支部にたどり着く。バイクを騎士団専用の車庫に入れると二人は早速正面から支部の中に入ろうとしたが――。
「――なんだろう。すごい人だかり」
「なにかあったんでしょうか。……もしかして子供の誘拐と関係が……」
「……可能性は高いかもね」
ラグナとブレイディアは正面入り口に群がる人々と対応に追われる数人の騎士にこっそりと近づきその声に耳を傾ける。
「――いったいいつになったら私の子供は帰ってくるの!?」
「そうだ! アンタたち何やってるんだよ!」
「子供たちが消えてから何日経ってると思ってるのよ!? せめて経過報告だけでも教えてよ!」
「み、皆さんどうかお、落ち着いてください」
民衆に詰め寄られ気の弱そうな騎士がどもりながらも声を出すがさらなる怒号によってそれはかき消される。その様子にブレイディアとラグナは困ったように顔を見合わせた。
「……すごいことになってますね。このままだと暴動に発展しそうな気がします……」
「だね。にしても……あの親の数を見るに想像以上に子供が誘拐されてるみたい。とにかく支部長に直接話を聞こう。正面からは無理そうだから裏口にまわろうか」
群衆から離れた二人は裏口から騎士団支部の中に入った。その後、働いている騎士の少なさに違和感を覚えつつも中にいた騎士の案内で支部長のもとに向かい支部長室で話をすることになる。
ソファーに並んで座ったラグナとブレイディアは前方に座る支部長の言葉を待った。
「――ようこそいらっしゃいました。お二人の事は団長から直々に聞いております。初めまして、ブルーエイス騎士団支部を預かる支部長のライアン・ハートと申します。以後お見知りおきを」
顔色の悪い若干薄毛気味で中肉中背の中年男性――ライアンはハゲかかかった茶髪を撫でながら頭を下げ、二人もそれに倣って頭を下げる。簡単な自己紹介を終えた後、ブレイディアは早速本題に入った。
「――さっそくなんですけどお聞きしてもいいですか? 私たちは『ラクロアの月』のアジトの調査をするために来たわけなんですが……団長からこの町で子供たちが行方不明になっているという話を聞きました。この件が『ラクロアの月』と関係あるかはわかりませんが、過去の事例と照らし合わせてみると関係ないとも言い切れません。ですので詳しく教えていただけないでしょうか?」
「……わかりました。団長から事のあらましを聞いていると思うのですが……実は二週間ほど前から子供が何者かに連れ去られているのです。それも貴族や資産家では無くごくごく普通の一般家庭の子供だけを連れ去るようでして……。それと……犯人の正体は未だ不明なのですが、犯人と目される人物は不気味なピエロのマスクを被った肥満体系の人物のようです」
「二週間ほど前か……連れ去られた子供の人数は?」
「昨日までで……五十三人です……」
「……五十三……ずいぶん多いんですね。それに昨日までってことは今も失踪は継続中ということですか?」
「……ええ。その通りです。子供を家から出さないようにと通達はしているのですが……夜、皆が寝静まった後、家に忍び込み子供を連れ去るようでして……そのうえ毎日というわけでもないので対応がなかなかどうして難しく……」
ブレイディアは眉間にシワを寄せながら一瞬考えた後つぶやく。
「……失礼を重々承知でお聞きしたいんですが、子供が連れ去らわれ始めた時から警備の方は強化なさっていたんでしょうか?」
「え、ええ、もちろんです! ただ……」
言いよどむライアンに対してブレイディアは己の推測をぶつける。
「――もしやこの騎士団支部にいる騎士が少ない事と関係してるんでしょうか?」
「ッ……!」
顔を引きつらせるライアンを見てラグナもまたある結論に至る。
「……ブレイディアさん、それって……」
「……うん。……これは私の推測なのですが、警備にあたっていた騎士がそのピエロに返り討ちにあった――ということなのでしょうか?」
その言葉を聞いたライアンは表情を曇らせうつむく。
「……おっしゃるとおりです。お恥ずかしながら警備にあたっていた軍用警備ロボや騎士たちは皆ピエロによって返り討ちに遭いました。警備ロボは完全に破壊され、騎士たちはかろうじて命は取りとめましたが現在病院に入院中です。それからどうにか手がかりを掴もうとロボットのカメラのメモリーデータ復元し、その映像データから犯人の特徴や向かった方角をなんとか知ることが出来ました。そしてそれを元に町中や外に設置されていた監視カメラ、追尾用のドローンなどを駆使しピエロの向かったと思われる場所は特定出来たのですが……」
「その時にはすでに動かせる騎士の数は少なく町の防衛に充てる分の騎士しか残っていなかった、ということですね」
「……はい」
ブレイディアはため息をついた後、鋭い目でライアンを見つめながらつぶやく。
「ではそのピエロの向かったと思われる場所を後ほど教えていただけますか?」
「後程……ですか?」
「ええ。ピエロがまた町にやってくる可能性があるので夜更けまでは我々もこの町の警備に加わります。実行犯を捕えた方が救出も容易になると思いますので。ただもし今夜何もなければ明朝、夜が明ける前に子供たちの救出に向かいます。ですので打ち合わせも夜更けに。それとピエロの潜伏している場所への案内を一人付けてほしいのですが」
「わ、わかりました……その時はその場所の案内を支部の騎士にさせます……」
「よろしくお願いします」
「はい……」
ライアンの消え入りそうな声を聞いた後、二人は支部を後にし町の警備に加わる。その後、夜更けまで警備し何事もなかったためライアン、その他の騎士たちと打ち合わせをした後作戦を開始することになる。打ち合わせ後、ラグナとブレイディアは騎士団支部の駐車場で案内役を待つことになった。しばらく無言だったものの、ラグナが不意に呟く。
「……どうしてもっと早く本部に増援要請しなかったんでしょうか。二週間もあったんだから救援の要請をする機会はあったはずなのに……今回のことが発覚したのってアルフレッド様がブルーエイスに連絡したからですよね……」
「たぶん自己保身の為だろうね。騎士団支部の騎士が正体不明の敵にやられて全滅寸前なんて言い出せなかったんだと思うよ。あの支部長やらその他の役職の騎士やらの初期対応のミスが確実に糾弾されるだろうからさ。だから内々で決着をつけたかったけど結局ピエロに良いようにやられて子供も連れ去らわれ続けてる。そんな時に団長から連絡が来てとうとう隠し通せなくなった、ってところかな。仮に今回の件が無事解決したとしてもあの支部長の進退は確実に問われるだろうね。まったく……くだらない自己保身の犠牲になった子供たちが浮かばれないよ」
子供達、というワードを聞きラグナの表情はさらに曇る。
「今から行う作戦……大丈夫でしょうか……明らかに準備不足というか……打ち合わせの時間も通常よりかなり短かかったですし……」
「そうだね。本当ならもっと時間をかけて作戦練って色々準備したいけど……いかんせん子供たちがさらわれてから時間が経ちすぎてるんだよ。二週間も前からさらわれてるってことを鑑みるともう正直悠長な事は言ってられない。出来るだけ多くの子供を救出するってことを視野に入れるなら多少無茶でも急がないと」
「……話を聞く限り身代金目的の誘拐の類ではなさそうですもんね……」
「うん……身代金目的なら貴族や資産家の子供あたりを狙うだろうしね」
「今回さらわれたのはほぼ全員が一般家庭の子供達……しかも人数的にも多すぎますし……やっぱり……『ラクロアの月』の人体実験のために……」
「……可能性としては否定しきれないね。だからもしそうなら実験施設に連れて行かれる前に急がないと。……ただどうしてこんな目立つやり方をしたのかは疑問だけど。こんなやり方じゃこうやって増援を呼ばれてしまう危険もあるのに」
「そうですよね……実際潜伏場所も特定されてしまってますし……これじゃあ助けに来いって言ってるようなものですもんね……」
「……誘拐犯には何か別の思惑があるのかもね。……まあ私たちのやることに変わりはないから。今は子供たちの救出を最優先に考えよう」
「ええ。無事だといいんですが……」
ブレイディアの言葉を聞き横で複雑そうな表情をしていたラグナだったが、支部の騎士と思われる人物が駆け寄ってきたためすぐに表情をあらためる。三十代半ばほどのその騎士はくすんだ金色の短髪に手を当てながら百六十センチほどの細身の体を曲げて平身低頭し二人に謝り始める。
「お、遅れてしまい申し訳ありませんでしたッ……! は、初めまして、こ、今回案内役に指名されました、く、クローム・ロクミッツと申しますッ……!」
よく見ると朝に民衆の対応をしていた人物であった。夜更けになっても抗議集会は続いたようだがつい先ほど解散したらしい。気の滅入った顔を見るにどうやら怒り狂う民衆への対応をしていて遅れたようだ。そのことを理解していたラグナは気の毒そうな顔で手を差し出す。
「初めまして。ラグナ・グランウッドです。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします。お、お会いできて光栄です。あ、あの『英雄騎士』の称号を持つ方とこうして握手できるなんて感激だなぁ」
「いえ……自分はそんな大した人間では……」
「そ、そんなことないです! お噂はかねがね!」
ラグナと握手を交わした後、クロームはブレイディアに手を差し出す。
「あ、貴方の活躍もよく聞いておりました副団長殿! よ、よろしくお願いします!」
しかしブレイディアは握手はせずスンスンと鼻で何かの匂いを嗅いだ後、顔をしかめクロームの方を無言で見る。
「…………」
「……あ、あの……」
怪訝そうな顔の上官を見て焦るクロームだったが、ブレイディアは何も言わず時間だけが過ぎる。数十秒後、見かねたラグナが助け舟を出した。
「……ブレイディアさん、どうかしたんですか?」
「……ちょっとね。……クロームさん、聞きたいんですけどここ最近任務で戦ったりしました?」
「……へ? ……い、いえ……さ、最近はずっと町で警備の任務をしていましたが、う、運がいいのか悪いのか例のピエロと遭遇はせず戦いは行っていませんが……」
「……そっか」
ブレイディアは首をかしげながらも気持ちを切り替えたのかクロームの手を握る。
「握手、遅くなってごめんなさい。よろしくお願いします」
「え、ええ。よ、よろしくお願いします……」
握手の後、二人の間で若干気まずい空気が流れるもそれを壊すようにラグナが声をあげる。
「えっと……ところでそのピエロが向かったと思われる場所ってどこなんですか……? 打ち合わせで東の廃村ってことまでは聞いてたんですけど……」
「そ、それは……ざ、ザックウォンパーという村になります……」
その名を聞いたブレイディアは驚いた顔をすると小さく呟く。
「……ザックウォンパー……」
「……? ブレイディアさんも知ってる場所なんですか?」
「……うん。昔ある事件があって廃村になった場所だよ」
「……事件……? どんな事件なんですか?」
「殺人、いや……殺戮って言った方がいいかもね」
「さ、殺戮……」
「詳しく話すと長くなるから後で教えてあげるね。とにかく今は急いでそこに向かおう。子供たちを助けないと」
「確かに、そうですね。すみません。急ぎましょう。クロームさん、運転よろしくお願いします」
「わ、わかりました。と、途中までの運転でよろしいのですよね?」
おっかなびっくりという風に聞いてくるクロームに対してブレイディアは同意するように頷いた。
「はい。あとザックウォンパーを含むこの辺りの地図や件のピエロの画像データ、さらわれた子供の写真などのデータを転送していただけますか? 案内役の貴方から送られると聞いていたのですが……」
「は、はい。ま、マップのデータと写真、ピエロの画像データ、す、すぐにお、お二人に転送します」
二人のデバイスにザックウォンパーのマップと子供の写真と名前のリスト、ピエロの画像データが送られそれを確認するとブレイディアはクロームに礼を言う。
「ありがとうございます。装備は自分で持ってきているので大丈夫です。このまま向かいましょう」
「わ、わかりました。ち、ちなみにあ、あの機体は……も、持っていくのでしょうか?」
クロームが指差した場所には真紅のバイクモドキがとまっていたが、ブレイディアは苦笑いしながら首を横に振る。
「いえ……アレは目立つので置いて行きます。……では行きましょう」
「りょ、了解です」
ブレイディアはデバイスを操作しそれぞれ本部の騎士と支部長に連絡を入れると三人は車に向かう。
ブレイディアはラグナたちと共に軍用車専用の車庫にやって来た。
そして一般の車にもっとも近いものに乗り込むと運転席に座ったクロームはエンジンをかけるが、直後後部座席にいる二人の方に心配そうな顔を向ける。
「あ、あのザックウォンパーに向かうのは副団長殿とラグナさんだけでよろしいんでしょうか? ほ、本部の騎士の方々は同行させないのでしょうか……?」
これに対しブレイディアは眼を瞬かせた少し驚いた後に答える。
「作戦についての詳細は支部長や他の騎士に伝えておいたのですが……もしかしてお聞きになっていないのでしょうか?」
「す、すみません……わ、私は案内と情報提供、それと副団長殿たちの指示に従っていればいいと支部長に言われまして……さ、作戦についてはあまり……」
(……いくら案内だけとはいえそういうことは事前に伝えるか、それが無理なら打ち合わせにこの人も呼ぶべきだと思うんだけど……まあ今あの支部長にそんな余裕はないか……打ち合わせの時も青い顔で自分の首が飛ぶかどうか執拗に私たちに聞いて来てたし……これじゃまともな指揮なんて無理か……本部の騎士にこの町の警備の総指揮を任せてきて正解だったな)
ライアンへの評価をさらに下げたブレイディアは気の毒そうな顔でクロームを見た後口を開く。
「そうだったのですね。では簡単に説明します。騎士団本部の騎士を子供を救出した時の移送役兼護衛役と救護役として二十人程度は用意します。しかし敵に見つかる危険性もあるので先行する我々からある程度離れた場所で移送用の軍用車と共に待機してもらうことになっています。それと、移送部隊とは別に別動隊として十数人ほど本部の騎士には別の案内を付けて我々とは離れて動いてもらいます。つまり救出の実行部隊は我々とその別動隊のみですね」
「わ、我々というと……わ、私もですかッ……!?」
「ああ、すみません。言葉足らずでした。我々と言っても実際に侵入するのは私とラグナ君、そして別動隊だけです。別動隊の案内係や貴方には出来るだけ人目に付かないルートで村の近くまで送っていただければと考えています。地図で場所自体はわかるのですが、ルート選択となるとやはり土地勘のある人に任せた方が確実だと思うので」
「な、なるほど……で、ですが……こ、こんなことを言って失礼かもしれないのですが……ほ、本当にお二人と十数人の騎士だけで大丈夫なのでしょうか? わ、私は遭遇していないのですが……て、敵は一人にもかかわらずかなりの手練れという話ですし……」
「そうですね。ですが敵の数も正確にわかっていない今の状態で大勢でいくと敵に気づかれて子供を人質に取られる可能性もありますから少数精鋭が望ましいかと。それにピエロの襲撃だけでなく『ラクロアの月』のアジトがこのブルーエイス付近にある可能性が高いのでこの町に不測の事態が起こりうる可能性も高いと思われます。ですので騎士団支部の騎士がブルーエイスにほぼいない現状ではこの町の防衛に本部の騎士の大半を使いたいと考えています。それと移送役と救護役の騎士は別動隊に何かあった時に動いてもらう予備部隊の役割もあるので、もしもの時は彼らにも動いてもらえますから。それに今回作戦に参加する者の中には特殊部隊出身の者もいるうえ皆実力も高いです。ですから安心してください」
「そ、そうですか。そ、それなら安心ですね。よ、余計なことを言ってしまい申し訳ありません」
「いいえ。そんなことはないですよ。この町の駐屯騎士をほぼすべて倒したという敵の力量を考えれば味方の数の心配をなさるのも当然の事だと思います。基本的に戦いは数で決まりますからね。でも今回は大丈夫だと思います」
「そ、そうですね。う、噂に名高いお、お二人がいますしね。……あ、それと最後にお耳に入れたい情報があるのですが……」
「? どんな情報ですか?」
「こ、今回の誘拐騒動とか、関係があるのかはわ、わかりませんが……し、支部長からの指示なのでお伝えします。じ、実は子供とは別に二人ほど男性が行方不明になっておりまして……ひ、一人はドンムル・アルモンドという男で……も、もう一人はラッセル・ハッシュという男です」
「二人ともピエロに連れ去られたのですか……?」
「い、いえ……そ、そういう目撃情報はないのですが……ふ、二人とも子供たちが連れ去られ始めた時から行方不明になっておりまして……も、もしかしたら関係してるかも、という程度の話です。そ、それに情報によると二人は事件が起こる前からよく家を空け音信不通になると知り合いの間では有名らしく……こ、今回もそうではないかと……」
「そうですか……わかりました。一応二人のことも捜索対象に加えておきましょう。目的地に着いてからでいいのでデータを送っていただけますか?」
「りょ、了解です。ほ、本部の方々のお手を煩わせるのは大変恐縮なのですが……何卒宜しくお願い致します」
クロームの懇願を聞きこちらこそよろしくお願いしますと声をそろえて答えた二人はこれから始まるであろう戦闘に備え気を引き締める。その後、ラグナはデバイスで警備ロボに撮影されたピエロの画像を開き凝視した。ツギハギの白いマスクの上に付けられたボサボサの赤い髪、中央に乗った赤く丸い鼻、目元の黒いクマ、剥き出しの歯茎が特徴的な不気味極まりない笑顔、血のりのようにべったりと塗られた口紅、丸く膨れた腹を包む赤を基調とした道化衣装――見るもの全てに恐怖を与えるように計算されて作られたとしか思えない醜悪なそのデザインは人を笑わせる道化とは対照的なものであった。
これから対峙するであろう敵を脳裏に焼き付けたラグナはさらわれた子供たちのリストの再確認をブレイディアと共に始めた。




