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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第5部 秘められた島/岐路

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虹魔石の行方


 コウメイの持っている魔物図鑑にはこの世界に現存する魔物が網羅されている。当然ミノタウロスに関する記載もあった。だがその内容はお粗末なもので、牛頭の巨人であり、限られた地で稀に出没する、という程度だった。他の魔物の項にあるような素材部位や魔石のある場所の説明は一切ない。


「解体といっても、魔石を探すだけだよな?」


 ミノタウロスの巨体は解体用ナイフではなく剣でザクザクと切り刻んでいく方式だった。魔石はだいたい脳か喉か心臓、仙骨あたりに存在する。ミノタウロスの魔石の位置が分からないので、とにかく解体してゆくしかないのだ。


「何言うてんのや、ミノタウロスの角で作った杖は魔術師垂涎の逸品なんやで」

「角は二本とも俺が貰うからな。そういう契約だろう」


 牛頭の頭部で巨大な角を長剣で掘っているエルズワースに、見ているだけのアレックスがねだった。


「一本くらい譲ってくれてもええやろ」

「欲しけりゃ俺から買い取れ」

「意地悪いこといわんとってやエル坊」

「エル坊っていうな! 契約は契約だ、ギルド職員なんだから守れよ!」


 喉を裂いて魔石を捜していたシュウが、戦闘前から気になっていた疑問を二人にぶつけた。


「あのー、エルズワースさんって三十代くらいですよね? なんかアレックスさんがすげー年下扱いするみたいな呼び方なんだけど。あ、エルフだから見た目よりすげー歳くってたりすんのか?」

「年寄り扱いせんとって。ワシはまだ二百四十三歳や、エルフ族ではピチピチの若者やで」

「……二百四十三歳」

「ピチピチ、ですか?」


 心臓付近を探し剣を突きたてていたアキラも薄笑いを浮かべていた。見た目は三十代半ばといった風貌だし、何事においてもダラダラとした様子はくたびれた中年男性にしか見えない。たとえエルフ族という補正がはいっても、アレックスにはキラキラしさや神秘さは感じられず、逆に老獪さが滲み出てピチピチからは遠ざかっている。


「二百超えたらヨボヨボのジジイだな」

「エル坊かて五十二歳のおっさんや!」


 熊族の最年長は三百二十三歳だそうだ。普通は三百歳まで生きれば大往生らしい。獣人族によって寿命は十年単位で差があるとエルズワースが言った。


「そんなことも知らないのか? シュウは何処の狼だ? いつ里を出たんだ?」

「あー、何処っていう、か」


 助けを求めるようにコウメイを見たが、険しい顔で何かを考え込んでいてシュウのヘルプに気付いていない。アキラは静かにシュウの耳元で「コウメイに説明させるな」と呟いた。コウメイは五人の中で唯一の人族だという理由でエルズワースから敵意を向けられている。そのコウメイがシュウの身の上を説明しても信用されないだろうし、下手をすれば斬りかかられかねない。


「えーと、里、の事は覚えてなくて、ずっと王都にいた、かな。コウメイたちと合流して、この島に来た」


 考えながらのしどろもどろな説明を聞いたエルズワースがくわっと目を見開き吼えた。


「お前も攫われたのかっ!!」

「さ、さらわれたぁ?」


 エルズワースの怒りのボルテージに合わせ、その顔を毛が覆い、鼻口が伸び、口角から鋭い牙が出た。CGを見ているような見事なメタモルフォーゼに、コウメイやアキラも見入っていた。


「落ち着けや」

「痛ぇ」


 ガン、と杖の角で後頭部を殴られた瞬間に、メタモルフォーゼが解けた。男ぶりのいい精悍な顔立ちの熊耳男が、痛む頭を押さえて呻く。


「獣人族って、マジ獣人になるんだな」

「俺もなんのかなー」

「狼頭の冒険者」

「あ、それ何かかっけー」


 メタモルフォーゼの衝撃で解体の手が止まっていた。


「驚かしてもうてすまんなぁ」


 獣化以外にも色々と気になる事はあったが非常に尋ね辛い。作り笑いで誤魔化して魔石探しに戻ったのだが、アレックスは暇なのか懐かしそうに昔語りをはじめた。


「エル坊が五歳くらいやったか、商談に出た親父さんに黙って後をつけて里を出よったんや。そん時に人族の奴隷商人に捕まってなぁ。びーびー泣いてたところにワシが行き当たって、しゃあないから保護して育てたんや。昔はちっこうて可愛いかったんやで。今じゃあんな可愛げないおっさんになってしもてなぁ」

「そこのクソエルフ! くだらねぇ暴露する暇あるなら解体手伝えっ」

「えー、ワシ肉体労働は向いてないんやで」

「角いるんじゃねぇのかよ!」


 エルズワースはアレックスの口止めの為に角一本を諦めたようだ。

 ミノタウロスの魔石は心臓部分にあった。その体躯にふさわしい巨大な魔石だった。


「これが虹魔石だったらなー」

「このサイズでもいい値段がつくと思うぜ」


 自分達の頭よりも二周りほど大きな魔石は、今回の討伐依頼の報酬になる。


「ギルドの取り分はなくていいのか?」

「島の管理業務の一環や。持ち出しなしで問題が解決したんやから損はしてへんねんで」


 個人的にもミノタウロスの素材を手に入れたので文句はないらしい。

 残されたミノタウロスの死骸はそのまま放置された。魔物たちが一晩できれいに片付けてくれるだろうとの事だ。


「久々に仕事して腹減ったわ。コウメイ、なんぞ美味いもん作ってくれへんか」


 依頼も終え報酬も回収した。このまま真っ直ぐ町に戻るつもりだった一同は、反対多数ながらも老獪な二百四十三歳に逆らいきることはできなかった。

 コウメイは大樹に向う途中で魔猪を狩り、臭み取りをしっかりと効かせて串焼きに仕立てあげた。白芋を小さく薄く切り火の通りを良くし、アキラの採取した野草とあわせて手早く作ったスープに、ハギ粉を練った団子を落としてパンの代わりにする。


「コウメイの飯は美味いわー」

「確かに、人族にしては、食える」

「そりゃどうも」


 巨大な二本の角で囲った中での野営飯だった。空の端が朱色に染まりかけ、森からは魔物の活発な気配が伝わってくる。熊獣人は仏頂面ながらも驚くほどの食欲を見せ、コウメイは自分の食事を後回しにして次々と串焼きを作り続けなければならなかった。

 スープをすするアキラを見たアレックスは顔をしかめた。


「魔石にひび入っとるやないか」


 魔力が溢れて止まらなくなった事をアキラが説明すると、アレックスは短く唸って首を振った。


「急激に魔力量を増やしすぎたせいやろなぁ。慣れてへんから圧縮も難しいし、魔武具で押さえ込むのが一番安全やけど、その状態やとそれほどもたへんで」

「作り直しですか?」

「魔石の交換で大丈夫や、それくらいならワシでもできる。けど今のアキラに見合う魔石を使うときたいわなぁ」

「ミノタウロスの魔石はどうだ?」


 今すぐ交換するなら丁度いいのではないかと思ったがアレックスは短く首を振って。


「含有魔力が足らん。今のアキラやったら虹魔石やないと押さえ込めへんで」

「……虹」

「感じ取れとるやろ、クズレベルやけどいくつか近場に居る。今から狩ってきたらええわ」

「虹魔石を身につけていたら常に痛みを感じることになりますよね?」


 魔石の採取の間だから我慢できているのだ、このピリピリを四六時中感じ続けるなんて被虐性癖のないアキラは絶対にお断りである。


「ソレは未加工の魔石やから感じるもんや。魔武具に加工すれば痛みやら痒みやらは抑えられるから安心せぇ」


 どうにもアレックスの「安心しろ」は信用できない。串焼きにかぶりつくエルズワースに視線で真偽を尋ねると、彼は魔猪肉を咀嚼してからゆっくりと頷いた。


「虹魔石に関しては嘘はついてねぇよ」

「エル坊、その言い方やと他は嘘ついとるみたいに聞こえるやろ」


 旧知二人のケンカは放置してコウメイは「行くか」と剣に手をかけた。


「虹魔石で大丈夫そうだし、夜の狩りも経験しときたい。虹魔石は二つ必要だよな?」

「余ったら俺に譲ってくれ。ここんとこ稼ぎがほとんどなかったからなー」

「雷蜥蜴の沼地あたりにいくつか反応がある」


 早速にと立ち上がった三人をエルズワースが引きとめた。


「シュウは俺を手伝え。そろそろ牛頭の死骸に魔物どもが群がってきている頃だ。獣人の戦い方の練習に丁度いいだろう」

「え、練習? 俺だけ?」

「はぐれ狼は獣人の戦い方を知らねば生きていけんぞ」


 熊獣人は強引にシュウを引っ張っていった。コウメイとアキラは雷蜥蜴の沼地へ向う。アレックスは火の番のために待機しろとエルズワースが言い含めた。


「あいつが来ると茶々が入って鬱陶しいんだ」


 声が届かないくらいに離れたところで熊獣人が嫌そうにそう呟いたのが印象的だったと、シュウは後に友人二人に語った。


   +++


 久しぶりにまともな狩りに来れたのだ、虹魔石だけを狩るのではもったいないと二人は遭遇した魔物を片っ端から屠っていった。アキラが燃えない火の玉で周囲を照らしたおかげで、コウメイも存分に剣を振るうことができた。雷蜥蜴以外には、ゴブリンにワーム、双頭蛇といった魔物を往復で屠り、鐘一つほどで野営地へ戻ってきた。


「シュウはまだ戻ってねぇのか」

「エル坊が張り切って鍛えとるんやろうなぁ」


 火のそばに座っていたアレックスはアキラに向かって手を出した。


「虹魔石と魔武具かしてみ」


 採取してきた虹魔石二つと外したピアスをアレックスに渡す。魔武具を外した途端に魔力が溢れ出たが、ミノタウロス戦の直後ほどの勢いはなく、じわりと滲む程度だった。細い目をさらに細めてアキラの様子を見ていたアレックスは、これなら大丈夫そうだと口元を緩めた。


「心配しとったほど噴き出してへんようやし、これくらいやったら問題なさそうや。けど、割り込み転移ん時みたいな無茶はあかんで。今の魔力量に耐えられる(身体)に成長するまでは、これ以上増やさんようにな」

「その器の成長と言うのは、どういう意味ですか?」

「……どうやらアキラも普通のエルフやなさそうやな。何処の森を出てきたんや?」


 訝しげに顔を向けられ、アキラは目を伏せた。


「まあ、ええわ。ワシかて色々言えへん事あるんやし、突っ込まんとくわ。ただなぁ、エルフとして最低限知っとかんといかん事も知らんようやし、無知な同胞をほっとくのも寝覚め悪いから教えとくわ。器は器や。魔力が増えるんに合わせて器も大きくなるもんやけど、アキラの場合は先に魔力が増えすぎたんや。器の成長が追いつかんで溢れとるんが今の状態や。このまま無茶し続けたら身体が魔力を抑えきれんなる」

「抑えきれないと、どうなる?」


 アキラではなくコウメイが身を乗り出して尋ねた。


「どうなるやろなぁ。今回は色が抜けて数日寝込んだくらいで済んだけど、もっと深刻な事になるかもしれへん。なんせアキラみたいな無茶やらかしたエルフは今まで誰もおらんのや」


 言外に「死」を仄めかされた二人は、言葉もなく固まった。


「まあ、今のところはコレで押さえつけとったら心配ないわ」


 アレックスは針のような道具を手に虹魔石の加工を始めた。クズサイズの小さな虹魔石を半分に割り、滴の形に彫り整える。ピアスから紫魔石を取り外して虹魔石の上に重ね、針で描いた魔術陣で包み込んだ。


「へぇ、魔石の加工ってこんなふうにするのか」

「今回はギルド長の作った魔術陣を強化するだけやから、新しい触媒に古いんをそのまま載せるだけで、大した手間やないで」


 針の先でトンと叩くと、紫魔石が虹魔石に吸い込まれて消えた。


「……虹魔石からの痛みがなくなった」

「ん、完成やな」


 ピアスに加工された虹魔石を渡されたアキラは、恐る恐るに身につけてみた。魔力を抑え込む力はすんなりと受け入れられ危うさは感じられないし、心配していた痛みもなかった。


「見た目もちゃんと人間だぜ。髪の色はかわらねぇけど」

「この余った虹魔石はどないする? ギルド買い取りでええか?」

「それならこっちの魔石も査定してくれよ」


 コウメイがベルトにつけたエプロンバッグから二十個近い魔石を取り出した。雷蜥蜴の虹魔石も一つ混じっている。


「小さいクズ石が多いけど、魔力含有量は中々のもんばかりやな。虹以外はまとめて二千ダルにちょお足りんくらいやな」

「参考までに聞くけど、ミノタウロスの魔石っていくらになるんだ?」

「せやな、あの大きさやと一万から一万三千てとこや。三人で分けるんやったら現金化してからの方がええで。アレを割ったら価値が下がる」


 魔石を均等に割るのは難しいし、大きさが三分の一になれば値段も三分の一と言うわけにはゆかないそうだ。


「コウメイの義眼素材にするんやったら割らなあかんけど、どないする?」

「それはシュウと話してみねぇとわからねぇな」


 シュウが現金を優先するのか、魔武具の各素材として使うつもりなのかは聞いていない。

 すっかり空は暗くなり、星と月が煌々と存在感を増してきた頃、疲れきった様子でシュウが戻ってきた。


「死ぬかと思った……」


 火の前に崩れ落ちるように座り込んだシュウの手足や顔は魔物の血で随分と汚れていた。引率していたエルズワースの方はほとんど返り血を浴びていない。コウメイが作り出した水で汚れを落としたシュウは、大量の魔石をアレックスに渡した。


「これ、取り分は三分の二がエルズワースさんで」

「死肉に集まったにしては少ないなぁ」


 数えてみればおよそ三十の魔石があった。たった二人で三十もの魔物を相手に戦うというのは普通に考えれば絶望的な状況だろう。その戦いをほぼ無傷で終わらせてきたのだ、熊獣人がとにかく強いということだけはハッキリ分かった。

 やっと息が整ったシュウにコレ豆茶を差し出し、コウメイは素材魔石についてアレックスに尋ねた。自分もシュウも素材としてどんな魔石が適しているのかさっぱり分からないからだ。


「せやなぁ、シュウに人族の影を被せる魔武具やから、それほど大きゅうのうても大丈夫やで。ヘルハウンドの魔石くらいの大きさで、もうちょっと含有量が多いくらいが丁度や。コウメイはなぁ、義眼に求める質でピンキリやろな」

最上(ピン)だと何になる?」

「そりゃ虹魔石やな。最低でも拳くらいの物は欲しいで」


 虹魔石か、と三人は顔を見合わせた。そのサイズの魔石に思い当たるものがある。


「八岐大蛇から採れたのがソレくらいの大きさだったな?」

「あれはシュウの製作費用に使うんだからダメだろ」

「けどよ、アレと同じのをもう一回見つけられると思うか?」

「感じ取れる範囲には無いぞ」


 アキラは大きくても小魔石くらいのものならいくつか反応があると断言したが、そのサイズではとても義眼には足りない大きさだ。


「義眼の素材をケチって不自由な思いするくれーなら、最初から最高品質を追求した方がいいに決まってるだろ」


 金は時間をかければ貯められるが、高品質の素材には二度とめぐり合えないかもしれないのだ。友人の欠損を補うのためなのだ、喜んで提供するとシュウは胸を張った。


「気が引けるのなら、買い取ればいいんじゃないか?」


 躊躇うコウメイに、タダで譲り受けるのが引っかかるなら金を払えばいいとアキラが提案した。


「あの魔石は九万ダルに換算されていたから、それ以上の代金を払えば堂々と受け取れるだろう?」

「そりゃ払える金があれば、な」


 コウメイの個人財産では上乗せして払うどころか、値切らなければならない。


「金は俺が貸そう」

「アキが?」

「俺は八万ある、コウメイの全財産を合わせたらいくらだ?」

「六万だ。あわせれば十四万になるが……いいのか?」

「やるんじゃない、貸すんだ。きっちり借用書は書いてもらうぞ」


 コウメイは借金を踏み倒すような人間ではないが、友人間だからこそきっちりと書類に残しておくべきだとのアキラの主張はもっともだ。コウメイも納得して借用書を取り交わすことを決めた。この十四万ダルで虹魔石を買い取ると言うと、今度はシュウが慌てた。


「いやいや、それって俺が貰いすぎになるだろっ」

「簡単に手に入らない貴重なものだぞ、それくらい払わないとコウメイの気がすまないんだから、シュウは堂々とぼったくっておけ」

「アキラが文無しになるじゃねーか」

「コウメイは踏み倒すヤツじゃないし、利息も取るつもりだから最終的に損はしない」

「……利息、どれくらいだ?」


 どれだけの暴利を請求されるのだろうかと戦々恐々としていたコウメイだが、後に日本時代の普通預金以下の低金利と聞いて、アキラの分かりにくい思いやりにシュウと共にニヤけたのだった。


   +


 夜の狩りの方が獲物の質が高い。そう主張するエルズワースに引きずられ、コウメイたち三人は短い休憩を挟みながらも夜通し魔物を狩り続けた。


「ワシ、最低でも鐘四つ分は寝んと身体がおかしゅうなるねん。火の番しとくから皆で稼いできたらええわ。あ、休憩に戻ってきてもワシ起こさんといて。起こしたら査定額下げたるからな」


 シュウを鍛える気満々な熊獣人は、ゴブリンの群れにシュウを放り込み、ついでにとばかりに死肉をあさるワームの中へアキラを突き飛ばし、コウメイを交尾中の大蛇の中へと蹴り入れた。


「死にたくなければ、生き抜け」

「一人? コレ一人で?」

「…………」

「ひでぇ」


 ゴブリンが終われば大蜘蛛、ワームをしのげば次はオーク、交尾を邪魔されて逆上した大蛇三匹を死に物狂いで屠った直後に巨大蝙蝠の群れ、と熊獣人式トレーニングは朝まで続いた。


   +++


 早朝。

 ミノタウロスの角を背負った熊獣人を先頭に、五人は町に戻ってきた。

「困ったことがあればヘル・ヘルタント国のゼシル村を訪ねて来い」

 熊族の村だが狼族への伝手くらいはある、とシュウに村の場所を教えたエルズワースは、アレックスを急かして転移陣を使い島を離れた。


「おかえりなさいっ」

「ケガしてませんか?」

「顔色悪いですよ、解毒薬は必要ですか?」


 睡眠不足と連戦の疲労で顔色も目つきも悪くなって戻ってきた三人は、向かえ入れたコズエたちに辛うじて笑みを作って返したあたりで力尽きた。


「ただいま……」

「何とか無傷だ」

「毒じゃないから、大丈夫だ」


 三人は玄関で崩れるように腰を下ろした。


「お兄ちゃんっ!」

「大丈夫だサツキ」

「ごめん、昼まで休ませてもらうわ」

「あー、頭いてー」


 普段なら洗い場へと直行するのに汚れも落とさずに寝室への階段をのぼっていった。フラフラする身体を手すりで支え、重い足取りの三人を見送ったコズエたちは、顔を見合わせてとりあえずの安堵の息を吐いたのだった。



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