限定師弟
アレックスが呼び寄せた冒険者が島に到着した日の夕刻、マッチョ魔術師のグレンが森から戻ったばかりのコウメイたちにミノタウロス討伐の依頼を伝達した。
「出発は明日の三の鐘。夕刻には戻ってくる予定だが、念のために一晩の野営の準備はしておく事、だそうだ」
「あ、明日?!」
「急すぎますっ」
グレンは数日前に打診してあったのだから「急すぎる」わけではないと言い、ギルド側としてもこれ以上魔石の収集業務を停滞させるわけにはゆかないのだと説明した。
「アレックスが呼んだ助っ人が島にいられるのは明日と明後日の二日間だけなんだと。戦斧と戦友の連中が酒漬けで使い物にならなくなる前に、ミノタウロスを退治しちまわねぇとウチも困るんだ」
助っ人と言うからには凄腕の冒険者なのだろう、何人くらいが討伐に参加するのかと尋ねたコズエの問いに返ってきたのはまさかの。
「一人!?」
「たった?!」
「お前らが束になってもかなわねぇ様な凄腕だから心配するな。それと今回の依頼はお前らパーティーにじゃねぇ、アキラにだ。あとシュウとコウメイは素材用の魔石が欲しけりゃ荷物持ちしろってよ」
ギルドからの指名依頼はパーティー単位であるのが基本だ。だが今回は個人を指名してきた。それの意味するところはハッキリしている。
「明日の三の鐘前にギルドに来いよ」
グレンは玄関先で伝えるだけ伝えると、そのまま金華亭の方へと去っていった。サツキとコズエは困惑気味に、ヒロは悔しそうにグレンのいなくなった玄関扉を睨みつけていた。
「いくら凄腕と言っても一人なんですよね? お兄ちゃんたちを合わせても五人で討伐なんて危険じゃないの?」
「コウメイさんとシュウさんが強いのも、アキラさんの魔法が凄いのも知ってますけど、あのミノタウロス相手ですよ。また大ケガして帰ってくるなんてことになったら」
「無茶はしねぇよ。それに今回の主役は俺たちじゃねぇからな」
グレンの話を聞く限り、対ミノタウロス戦の主力はその助っ人だろう。
「コウメイさん、俺も行きます」
「ヒロ?」
「助っ人がどれくらい強いかは知りませんが、どう考えても五人は戦力不足です。俺は戦力にはなりませんか?」
ヒロは強張った表情で討伐に参加したいと言った。何か思い詰めているような様子が気になったが、コウメイはきっぱりと首を振った。
「ヒロの戦力があれば助かるのは間違いない、けど今回は駄目だ。アレックスが必要としてるのはアキだ。俺たちはオマケでしかねぇのに、これ以上依頼主の意向を無視して追加で押しかけるわけにはな」
「お兄ちゃんが必要って……それはエルフの魔力が、という事なの?」
心配げに見あげて尋ねる妹に、アキラはゆっくりと頷いた。
「アレックスが他には洩らさないと約束してくれた。その代りにミノタウロスの討伐を手伝えと。ああ見えて彼はレベルの高い魔術師だ、ミノタウロスを倒せる特殊な魔術があるのかもしれない。秘匿しなければならない魔術だから、最低限の人員なのだと思う」
だから今回は留守番をしていてくれと、アキラは渋面のヒロに頭を下げた。
「個人的にもヒロがサツキたちを守っていてくれれば安心できる」
「……わかりました」
島の治安は悪くはない。だが今は暇になった冒険者が昼間から酔いうろついている、そこに妹たちを残してゆくのは兄としては不安なのだと言うと、ヒロはようやく肩の力を抜いた。マッチョ魔術師に戦力外扱いされた事にショックを受けていたが、任せる、頼むと言われてやっと気持ちが晴れたようだった。
+++
三の鐘が鳴る前にギルドの前にそろった五人は結界を潜って森に入った。先頭はアレックスの呼んだという助っ人だ。百八十を越えるシュウやコウメイですら見あげるほど背の高い助っ人は、深くマントを被っていてその容貌はうかがえない。盛り上がった肩の大きさから、相当に鍛えているのだと想像できる。その後をアレックス、アキラ、シュウと続き、コウメイが殿だ。
「魔物が出てこねーのな?」
ミノタウロスによって魔物の分布が変わっているが、相当な距離を歩いているのに一匹の虫にも、一頭の魔獣にすら遭遇しない。いつもなら遠くに足音や羽根音といった気配があるのに、それすらも感じ取れないとシュウは不気味がった。
「そりゃエルズワースが威嚇しまくっとるからや」
アレックスの声にフードの頭がピクリと動いたが、足は止まらず森を進んでいく。
「あ、エルズワースいうんはあいつや。あいつああ見えてもものごっつ強いんねん。ザコをいちいち相手するん面倒やからて、威嚇しまくって弱い魔物は寄せ付けへんのや、楽でええやろ」
「……威嚇じゃなくて威圧だ。おい狼、おまえ威圧できねぇのか?」
振り返ったフードからゾクリとするような気迫をぶつけられたシュウは、無意識に息を呑んでいた。
「ちっ、しゃあねぇ、狼族には恩がある、俺が鍛え直してやらぁ」
「は? え?」
「ほなワシはアキラを鍛えたるわ。今みたいな魔力押しを続けとったら成人前に死にかねんで。ワシ同族が早死にするとこ見たないねん」
「ど、同族?」
混乱したシュウは「は?」と「え?」を繰り返しながら首を振り続け、アキラは不信のまなざしをアレックスの背に向け、会話の流れから察したコウメイは所詮は他人事だと面白そうに笑った。
「そうや、紹介しとらんかったわ」
アレックスは前を行くエルズワースのマントを断わりもなく引き剥がした。
「こいつエルズワースいうんや。デカイやろ、熊やねん」
鍛えた筋肉で太く逞しい首、力強い輪郭の精悍な顔立ち、瞳の色は青く優しげに見える。深い栗色の短い髪からは、同色の毛に覆われた先の丸い耳がのぞいていた。
「お前な……無断でバラしてんじゃねぇよ」
顔を歪めたエルズワースはマントを奪い返して被り、驚きに目を見開いているシュウをじろりと見下ろした。
「同族以外の獣人は初めてか?」
「え、ああ……初めてだ」
同族の獣人すら見たことがないとは流石に不自然すぎて言えなかった。
「狼獣人がシュウ、銀髪のがアキラ、隻眼がコウメイや」
「……人族とパーティー組むのは、弱みを握られているからか?」
熊獣人は露骨にアキラとコウメイを睨みつけた。真正面からそれと分かるように威圧された二人は、咄嗟に柄に手を置いたが、それ以上は動けない。剣を抜けば、次の瞬間に息の根を止められるだろう。
「こらエル坊、なんぼ人族に恨みあるから言うて、誰彼かまわず喧嘩売るんはやめえや」
パコーン、と間の抜けた音とともに熊獣人の圧倒的な殺意が遮られた。魔石のついた杖でエルズワースの背中をポコポコ叩くアレックスは、まるで子供を叱りつけるような口調だ。
「恨み向ける相手を間違えるなて教えたはずやのに、もう忘れたんか?」
「おい、ミノタウロスの射程内はすぐそこだぞ、さっさと戦略決めろ」
熊獣人は肩にぶつかる杖を払い落とし、誤魔化すように空を指差した。木々の隙間から見える空の端に、ミノタウロスらしき色彩がチラリと見えた。
「もうそんな所まできとったんか」
細目の間にシワが寄り、仕方ないなとピアスを外したアレックスは、アキラにも魔武具を外して魔力を最大限まで使う準備をしろと指示を出した。
「説明なしの実戦ですか」
「その方が緊張感あって覚える気になるやろ」
「シュウといったか、お前は俺について来い。熊獣人の戦い方を叩き込んでやる」
エルズワースはマントの下に隠してあった長剣を掴むとミノタウロスのいる方角に向けて歩き出した。アレックスは逆の方へとアキラを促す。
「ワシらはこっちや。ああ、コウメイはどっか安全なところで見学や。解体始まるまで生き延びるんやで」
戦力外通告をうけたコウメイは肩をすくめた。
「見学だってさ」
「流れ弾に当たるなよ」
「そっちこそ、糸目野郎に使い潰されんなよ」
「俺、狼獣人なんだけどなー」
熊の戦い方を習って身につくのだろうかと目を細めるシュウの肩を励ますように叩き、コウメイは自分の予備の錬金薬を二人に譲り渡した。
「同じ獣人だ、得るものはあるだろうから頑張ってこいよ」
コウメイから見てシュウは右手に、アキラは左手へと進んでいった。二人の姿が見えなくなると、隙間の空に見えるミノタウロスの角を睨んで奥歯を食いしばった。
隻眼だからか、それ以前の戦力不足なのか、どちらにしても「お前では役に立たない」と評価される悔しさを初めて実感していた。
「ヒロに酷ぇこと言っちまったな」
コウメイはミノタウロス目指して歩き始めた。足手まといと分かっていて戦うつもりはない。ただその戦闘を見たかった。獣人本来の戦い方を学ぶシュウを、エルフの本領を発揮するアキラの魔法戦を。それらを脳裏に焼き付け、自分ならどう戦うか、どうやれば戦えるのかを考える為に、コウメイは戦闘域寸前のギリギリにまで近づいたのだった。
+++
ミノタウロスが徘徊した場所は木々がなぎ倒されていた。鬱蒼とした森のあちこちにできた広場の一つで、エルフ二人は牛頭と向かい合っていた。
「大物を叩くときに足止めするんは正解や」
アレックスの掲げた杖から放たれた魔術陣は、どしどしと大地を揺らす勢いで近づいてくる巨体の足に刻み込まれた。
「穴掘ってもええし、ワシみたいに縫い付ける術でもええ、足止めに成功したら次は攻撃を封じなあかん」
懐から取り出した紙束の一枚をアキラに渡し、それをなぞって描くようにと言った。
「急がんと咆哮がきよるで。ああ、血は使うんやない、魔力で描くんや」
「魔力で……っ」
アレックスの持っていた紙は特殊なのか、どれだけなぞっても魔力を乗せることができない。
「もっと濃い魔力で一気に描かんと術式が完成前に消滅するで」
「くっ」
「ほれもっと早よう、あ、牛頭がでっかく息吸うた」
咆哮が来る。
アキラは思い切った量の魔力を乗せ素早く魔術陣を写し取り、ミノタウロスに目がけ放った。
魔術陣は牛頭が「咆哮」を放つ前に広がり頭部に巻きついた。まるで投網が絡まっているように見える。
「締め付けるんや。牛の口を開けさせたらあかんで」
「……はい」
「魔力は均一に、均等に流すんや。薄いとこは脆うなる」
咆哮を封じられたミノタウロスは苦しげにもがく。魔力を緩めれば拘束がとけてしまう、アキラは離れた位置にある魔術陣に一定量の魔力を送り続けた。
「的は固定されてんだ、狙い外すなよ」
エルズワースはシュウに解体用ナイフを持たせてミノタウロスへとけしかけた。
「こんなナイフでミノタウロスの皮膚を切れるわけねーよっ」
「獣人族ならできる」
「なにそれ、根性論?!」
「覇気を乗せて斬ることもできんのか?」
何度切りつけても硬いミノタウロスの皮膚に傷を入れることができないシュウを叱り飛ばし、熊獣人は自分の解体用ナイフをおもむろに突き刺した。ほとんど力の入っていないように見える一撃でミノタウロスの足にぱっくりと大きな切れ目が入り、勢いよく血が噴き出した。
「すげー怪力」
「力任せだから斬れんのだ、狼には内から湧き上がる熱はないのか?」
「熱……?」
エルズワースによれば獣人族は誰もが「熱」と呼ぶ力の源を持っていて、それを爪や牙や肉体に満たす事で戦うのだという。幼少時に熱で身体を満たして戦う事を覚え、成人してからその熱を武器に託す方法を学ぶのだという。
「んなこと言われても、熱、熱、熱ぅ?」
一年前まではただの人間だったのだ、獣人なら感じ取れて当然といわれても困る。シュウはエルズワース言う「内から湧き上がる熱」とやらを探そうと自分の身体に意識を集めた。そのためシュウの外敵に対する警戒が薄れたのを見計らい、熊獣人が黒髪のエルフを振り返った。
「アレックス、やってくれ!」
エルズワースの声に応え杖を一振りした途端、ミノタウロスの足を縫いとめていた魔術陣が消えた。
自由になった足は鬱憤を晴らすかのように辺りを蹴り散らかした。
「うおぉっ!」
ミノタウロスの踵に頭を割られそうになったシュウは、寸前で地面を転がって逃れた。
「くそっ、やりやがったなっ!」
味方のはずの魔術師が標的の拘束を解くというまさかの驚き、完全に油断していた自分自身への叱咤、踏み潰そうとしたミノタウロスへの怒り、それら全てが一瞬で湧き上がり爆発した。
武器を抜き持ち替える余裕はない。解体用ナイフをくるりと逆手に持ち直し、ミノタウロスの腱に突き入れた。深々と刺さった刀身が不思議と軽く感じ、そのまま腱を斬り、飛び離れた。
「やればできるじゃねぇか」
「あん?」
「そのナイフで牛頭の腱を斬っただろう」
怒りに任せての反撃だったが、それまでは掠り傷すら与えられなかったのに、何故かナイフが深々と刺さり太い腱を切ることができていた。
「その感覚を自在に使えるようになれば一人前だ」
「あー、そう、やっぱ火事場の馬鹿力ってやつなのか……」
熊獣人の言う「熱」が何となく理解できたシュウは、複雑な笑みを浮かべ片手剣を抜いた。獣人族は魔力を持たない代わりに、激しく強い感情を力に変える。怒りや驚きや闘争心だったり欲望や執着もだ、自分の中に湧き上がる強くて大きな感情を闘志に変換し、実際の力として使うことができるのが獣人族、ということらしい。
「分かりやすいのは、やっぱ怒りだよなー」
最近感じたもっとも大きな感情は、友人の右目を奪ったミノタウロスに対する怒りだ。血みどろで倒れているコウメイを思い出すだけで、怒りと不甲斐なさが湧き上がる。
「これを、剣に乗せる……乗せる。うまくいかねーなっ」
片手剣はかすかにミノタウロスの皮膚に傷をつけたが、先ほどのような深手を負わせせれる力は出なかった。
「そろそろこっちも仕上げさせてもらうで~」
杖を構えたアレックスが獣人二人に邪魔だと告げると同時に、炎の矢を放った。
「アキラは一度に複数の矢を維持するんは苦手や言うとったな。自分の魔力だけで維持しようとしたら垂れ流しやから疲れて集中でけんからやろ」
アキラが二十ほどの風刃を保ち構えている横で、アレックスはかざした杖の前に同じ数の炎の矢を保つ魔術陣を描いていた。
「ワシらエルフが魔力を余らせとるからと言うて、無駄遣いする必要はあらへん。人族は少ない魔力を効率よく使うことに関しては他にない技術をもっとる、利用するもんは利用せえへんとな」
その代表格が杖と魔術陣だ。魔術師の杖には少ない魔力を倍増させる術式と魔石がはめ込まれているし、様々な魔術ごとに生み出された魔術陣には制御や効果を高める術式が描かれている。
「ワシの当てたところに重ねてみぃ」
アレックスは待機していた炎の矢を、杖のひとふりでミノタウロスへと放った。喉、両肩に両肘、膝と腹に二十本の炎の矢が突き刺さる。
「的は大きいんや、全部当てるんや」
「全部は流石に」
「やれ言うとんや」
細目で凄まれたアキラは、待機させていた風刃をミノタウロスに向け放った。アレックスの説明通り、杖や魔術陣の補助なしに二十もの風刃をコントロールするのは困難だ。いつもより数倍の威力を維持しつつ、風刃の操作に神経を研ぎ澄ませるが、全てを命中させることはできなかった。
「左肩と両膝は外れや。喉はまあギリギリか」
炎と風と属性は異なるが、同じ規模・同じ数の矢を作った二人の間には、杖の有無の分だけ差があった。
炎の矢の刺さった部位を風刃が切り裂き、ミノタウロスの両肘から下が斬りおとされた。右肩は骨が露わになり、喉からは大量の鮮血が噴き出していた。
雨のように降り注ぐ血を避けて獣人二人がアレックスたちの元へと退避してきた。
「とどめの一発はこれ使うたらええわ。ちょびっとだけ魔力流して構造を把握したら使えるやろ」
そう言って自分の杖をアキラに渡し一歩さがった。
受け取った杖を何度か握り直し、意を決して眼前にかざした。
「氷の矢」
魔術陣の発動と同時に、巨大な氷柱がミノタウロスの腹を貫いた。
腹の真ん中に大穴の開いたミノタウロスはもがき苦しむ暇もなく絶命し、周囲の木々を下敷きに倒れ動かなくなった。
「……すげぇ」
「ふむ、まずまずだな」
シュウは感嘆をこぼして固まり、エルズワースはアレックスの魔術と比較した感想を述べた。
アキラは自分の放った魔法の威力に呆然としていた。いつもの感覚で魔法を繰り出したのだが、杖を介しただけでこれまでに放ったことのないほどに巨大な氷柱になってしまった。しかも威力に比べて消耗感もなければ疲労もほとんど感じないのだ。
「どや、杖のあるとないとで違うやろ?」
「安定感が違いますね。補正効果も大きくて」
「やろ? 効率よく魔力を使えるし、いざと言うときのために魔石部分に魔力も溜めておける杖や、安うしとくで一本どうや?」
冒険者ギルドや武器屋では買えない魔術師ギルド専売商品。どさくさまぎれの強引な営業を受け、アキラは早々に杖をアレックスに押し返していた。
「……それにしても」
横たわるミノタウロスの死体を眺めてアキラは溜め息をついた。
「どうした?」
それまで見学していたコウメイが戦闘終了を確認して側にやってきた。アキラの隣に立ち視線の先を追って、なるほどと複雑な笑みを浮かべる。
「こんなに簡単に倒せるのなら、あの時の苦労はなんだったのか、ってか?」
「そうだ。あの時に今くらいの魔法が使えていたら、と悔しくなる」
アキラは自分の手の平をじっと見つめた。先ほどまでの戦闘で随分魔力を使ったように思うのに、ほんの少し意識を向けるだけで溢れるほどの魔力が集まってきて、とどめきれずこぼれ落ちている。コウメイにも見えているのだろう、ぽたりぽたりと落ちる滴に思わずと言ったふうに手を伸ばしていた。
「ったく、増えすぎだ」
「それって、魔力が、か?」
「ああ……」
幻影のピアスを外して魔法を使ったのは前回のミノタウロス戦以来だが、あの時に搾り出した全魔力をはるかに上回る魔力が全身に満ちており、消費する端から回復していく。意識して押さえ込まないと開けっ放しの蛇口のように駄々洩れだ。
「魔力は使えば使うだけ増えることは知っていたが、まさかこれほどとは」
前回のミノタウロス戦でこれだけの魔力があればコウメイの右目を失うことはなかったかもしれない。だがアレを経験しなければミノタウロスを一撃でしとめられるほどの魔力は得られなかった。
ぶるり、と身体が震えた。
「アキ?」
「……止まらない」
「お、おいっ」
アキラは拳を握り締めることで溢れる魔力を止めようとしていたが、硬くとじた指の間から魔力が流れ出ている。
「ピアスは? あれって魔力に制限かける効果あったよな?」
コウメイに指摘され、アキラは上着のポケットから取り出した魔武具を震える手で耳につけた。
ピシリ、とピアスの魔石が軋んだ。
割れる?
「……大丈夫そうだぜ」
青ざめたアキラは、コウメイの安堵の息を聞き、自分も深く息をついた。両手から溢れていた魔力はもう見えない。膨張を続けていた内の魔力も静かに凪いでいた。
「おいっ、解体はじめるぞ、手伝え」
ミノタウロスの死骸に登ったエルズワースが二人を呼んでいた。シュウも心配そうにこちらを覗っている。
「いけるか?」
「ああ、これは後でアレックスに聞くしかない」
とにかく依頼を終わらせ町に戻ってからだと、アキラは気持ちを切り替えた。




