攻略共闘募集のお知らせ
ナナクシャール島のギルドには依頼掲示板は存在しない。だがこの日は飾り気のない壁に直接貼り付けられた板紙が、魔石の精算手続きにやってきた冒険者たちの注目を集めていた。
魔法使いギルドの承認を得た依頼内容は次のとおりだ。
依頼内容/共闘戦へのパーティー募集。青い疾風の求める巨大虹魔石取得のための戦闘メンバーに加わり、戦闘協力を願う。移動、野営の資材食料は自己負担。
応募締切/次の「風の日」、作戦開始は「月の日」より。
期間/月の日より一週間
報酬/巨大虹魔石以外の、戦闘により魔物から得た魔石を均等に分配。
依頼主/青い疾風
「メンバー募集、ですか?」
「虹魔石のために島の最南端を目指したいが、少人数パーティーでは難しい。だが他のパーティーと共闘できれば到達の可能性が高くなるって事だろう」
「人数だけ集めりゃいいってもんでもねーと思うけどなー」
狩りから戻ったコウメイたちも魔石の売却に訪れたギルドでその依頼に目を通していた。
「まあ、欲しいのは目的地にたどり着くための戦力だろうな」
「レイド戦の先陣役が欲しいのか」
疾風の求める巨大虹魔石がどの程度の大きさなのかは分からないが、それほどの魔石を有する魔物はそうとうに強いだろう。それをレイドボスとするなら、疾風たちはザコモンスターを討伐しながらボスと戦える状態で目的地にたどり着かなくてはならない。
「面白そうですよね」
「コズエちゃん、興味あるのか?」
「複数パーティーの戦闘ってどういうものかなって興味はありますけど、流石に参加はナシです。ゲームなら参加してみたい気がしますけど」
「だな。けどこーいうの島じゃかなり珍しいよな?」
島で活動する冒険者たちはそれぞれの目的のために虹魔石を求めている。他のパーティーに協力している余裕はない者たちばかりだ。
「名無しの三人さん、計算できたで~」
アレックスから受け取った明細は三千九百ダル。魔石だけで一日に得られる報酬としては良い方だろう。
「魔猪の皮が三枚にビッグベアの皮が二枚、下処理代がいくらかかるかなぁ」
今日の狩りで持ち帰った皮素材はアキラたちがリロイのところに持ち込んでいる。島に居る間は丸々収入にならないのがネックだ。
「値切り交渉はアキに任せとけば心配ねぇよ。あいつ清廉そうに見えて損得に敏感だから絶対に損になる取引はしねぇぜ」
「信頼してるんですね」
「あんまり嬉しくねー信頼だよな、それ」
さて家に帰るかと出口に向いて一歩を踏み出したところで、一人の冒険者が扉を塞ぐように立っていた。
「ええと、確か疾風の」
「イアンだ。名無しのリーダーは誰だ?」
私です、と答えようとしたコズエの腕を引いてコウメイが前に出た。
「俺たちに何か?」
「あんた達、張り出した詳細を見ていたようだが、参加してくれるのか?」
青い疾風のリーダーは二十代後半の深い栗色の髪の大剣使いだ。コウメイの長剣よりも太い得物を背負い、鍛えられた身体を威圧感たっぷりに反らしての勧誘だった。
「悪いが、珍しかったんで見ていただけなんだ」
「少しでも興味を持ったんなら、あんた達にはぜひとも参加して欲しいんだが」
「俺たちじゃ力不足だ、遠慮するよ」
「島にいるパーティーの中でトップの収集力を力不足とは謙遜も過ぎるな」
「見てのとおりウチには女の子たちがいるんだ、一週間もの合同野営は無理だ」
コウメイの背後にいるコズエを見たイアンは顔をしかめた。あきらかに戦力としてカウントできない女冒険者を優先するコウメイらに、イアンは軟弱な腑抜けた連中だという評価を下した。
「男四人だけでも力を貸してもらえたら助かるんだが」
「俺らは六人で一組だ」
「じゃあ報酬に上乗せがあればどうだ?」
「あのさ、やる気のない俺らに声かけるよりも、あっちで気合入ってる連中をスカウトした方がいいんじゃねぇか?」
張り出しの周囲に集まった冒険者の中には、最近島にやってきたパーティーもいる。彼らはイアンに声をかけたそうにチラチラとこちらの様子をうかがっている。島の中では疾風が最も古参で実績を出している、そんな実力パーティーの出した募集にぜひとも参加したいという者は多そうだ。
「やはりあんた達は駄目か」
ダメ元で声をかけていたのだろう、イアンはあまり落胆しているようには見えなかった。親指で顎の無精ひげを掻きながらシュウを探るように見ている。
「一つだけ教えてくれ。虹魔石を嗅ぎ分けてるのはあんたか?」
獣人たちの臭覚が虹魔石を探す秘訣だとグラントは信じ込んでいるようだった。人族のパーティーに一人だけ獣人が居て、しかも虹魔石をコンスタントに収集できているとなればそういう誤解も生まれるのだろう。虹魔石を探り当てるのはアキラなのだが、それを正直に教えてやる必要はない。
「それが出来てりゃ、俺はとっくの昔に必要な虹魔石を集め終わって島を出てってるぜ。疾風さんたちは春先に島にいたっていう獣人族のパーティーを直接知ってるんだろ?」
「彼らは数日で虹魔石を集めて島を去っていったが、嗅ぎ分けていたんじゃなかったのか……?」
「俺には嗅ぎ分けることは出来ねーよ。他に探し出す方法とかあるんじゃねーの?」
シュウは自身が虹魔石百個の負債を抱えている事を隠していない。獣人がその嗅覚で虹魔石を探り当てているとしたら、一月もかからずに島から去っているはずだ。シュウの表情から真偽を読み取ろうとしたグラントは、己の推測が間違っていたと悔しそうに視線を外した。
「邪魔をして悪かったな」
筋肉隆々の肩を落としたイアンはコウメイたちに道を譲って掲示に集まる冒険者たちの方へ行ってしまった。
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本日の夕食は魔猪肉の冷しゃぶに、ハルク貝のスープ。デザートのコレ豆茶ゼリーを食べながらの話題は、ナナクシャール島初の共闘募集だった。
「その条件で参加するメリットはないな」
「物資が自己負担ってのがセコイよな」
詳細を聞いてあっさりと切り捨てたアキラにコウメイも苦笑いで頷いていた。この世界での集団討伐がどういうものなのか理解しているとは言いがたいが、二人が参加したゴブリンのスタンピード戦では、討伐報酬の他に、食事と寝床と最低限の治療薬が支給されていた。
「まあ、組織が人を集める場合と、個のパーティーが集めるのとでは違うかもしれねぇけどな」
「報酬を提示しての募集ならある程度の資金は必要だろう」
「もしも引き受けるとしたら、最低でもどれくらいの報酬が望ましいと思いますか?」
二人のやり取りを聞いていたヒロが素直に疑問をぶつけた。今までどこの冒険者ギルドでも同業者から出された依頼を請けた経験のないヒロは、純粋に依頼の相場に興味があった。
「疾風の出したあの依頼なら、使用した治療薬と回復薬を全部補償する、あたりだな」
「野営の物資は自己負担でいいんですか?」
「一般的な野営用の保存食なんか支給されても嬉しくねぇよ」
水にふやかさないと食べられない硬パンと顎が疲れるだけの干し肉を食べ続けるくらいなら、自分たちでウサギかモグラでも狩って料理した方がよっぽど美味いものが食べられると言い切ったコウメイだ。
「なあ、疾風は一週間で目的を達するつもりらしいけど、そんなに都合よく巨大虹魔石なんて手に入ると思うか?」
「焦っているんだろうな。疾風はタイムリミットを抱えているということだし」
「タイムリミットですか?」
「詳しいことは聞いてないが、八月の終わりまでしか島には滞在できないらしい」
一週間は六日、一ヶ月は五週間。手製のカレンダーで残り日数を数えたコズエは心配そうに呟いた。
「八月末って、あと二週間くらいしかありませんよ。かなり無理してそうですよね」
ここ一ヶ月ほどはアキラの探知でも虹魔石を探し当てるのに苦労している。最近は反応を見つける回数も増えてきたが、得られるのはクズサイズがせいぜいだった。
「一番強い奴を倒せばいいってもんじゃねぇんだ、手当たり次第の消耗戦は無策すぎだと思うが、参加するパーティーがあるのかね」
現在島にいるパーティーは、疾風と戦斧と戦友、至高は先日島を去り入れ替わりに「武き魂」と「悠久の輪」という二組のパーティーが入島し、コウメイたち「名無し」を合わせて六パーティーが活動している。
「戦友は参加しないだろう」
「あそこは慎重派ですからね」
「戦斧さんの一人が怪我で休養してて、復帰は来週だと言ってました。復帰早々にイキナリ大物は狙わないと思うので、多分断わったんじゃないかな」
だからパーティーリーダー自らコウメイに声をかけたのだろう。入島して一週間程度の二組に比べれば、コウメイたちの方が戦力として頼りになる。
「新しい人たちは大丈夫でしょうか?」
「ビミョー」
島で虹魔石が取れなくなってもうすぐ一ヶ月が経つ。新しく島に来た冒険者たちは一度も虹持ち魔物を狩った経験はない。彼らが参加を申し出ても疾風側から断るのではないだろうか。
「新人使い潰すのかねぇ」
「島では新人でも冒険者としては俺たちよりキャリアあるんだ、なんとか乗り切るだろうぜ」
それぐらいでなければこの島での活動許可が下りるわけがない。そう言ったコウメイに納得すると、六人の話題は翌日からの打ち合わせに移っていた。
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島に物資が届く星の日。コウメイたちは荷降ろしを手伝い、コズエとサツキは引渡し作業の手伝いに忙しく働いていた。
「疾風さんの注文物資、多いですね」
「そら明日っから森に入りっぱなしになるんやし、安全のためには色々装備も必要やしな」
コズエは注文票と品物を確認し、疾風のリーダーに物資を引き渡した。隣ではアレックスがピンポン玉ほどの大きさの石を数えて袋詰めしている。大きめの袋と小さめの袋の二つを、疾風の魔術師に渡した。
「アレックスさん、さっきの緑色の丸いものはなんなんですか?」
「あれは疾風の奴らの注文した魔道具や。魔避け玉いうて、あれ燃やしてる間は魔物が近寄ってこんねん」
「そんな凄い物があるんですか?」
魔避け玉の燃焼時間はだいたい鐘二つ分。燃えている間は魔物が嫌う臭いが出るため、弱い魔物は近寄ってこないという。野営で使えば魔物に襲われる確率がぐんと下がる優れものだ。
「虫系の魔物はほとんど避けられるけど、獣系には効き目半減ちゅう感じやな。ゴブリンやオークにはほとんど効かんからそんなに高いものやないで」
虫にだけ完璧に効果があるとか、蚊取り線香のようだとコズエとサツキは顔を見合わせてクスリと笑った。
「虫と獣だけでも押さえてくれるなら、だいぶ楽になるよね」
「ええ、夜番の負担は減りそうです」
野営時に焚き火に一個放り込んでおけば、魔物に襲われる心配をせずに身体を休めることが出来る。夜番は交代だが、コズエやサツキには負担の少ない時間帯が割り振られることが多く、申し訳ないなぁといつも思っていたのだ。こういった便利アイテムで兄たちの負担が軽減できるなら、とたサツキも興味を持ったようだった。
「欲しいんやったら注文するか?」
「おいくらですか?」
「四個で四千ダルや」
一個当たり千ダル、治療薬の二倍のお値段である。人型の魔物には効果がないのに結構なお値段だ。どうする、と二人は相談をはじめた。買えない額ではないが、共有の財布から買うなら勝手に決められる額ではない。
「どれくらい効果があるのか試してみたいよね」
「思い切って購入したあとで、期待したほどでなかったら残りが無駄になるし」
「アレックスさん、それ一個から注文できますか?」
「でけんことはないけど、割高になるで?」
バラ売りは一個千二百ダル。
「それくらいなら」
「お小遣いで買ってみようか」
コズエとサツキの個人の財布から半分ずつ出し合って試しに一個を買うことにした。
「おおきに~」
商談成立してご機嫌のアレックスから注文票を受け取る頃には、物資の引渡しは全て終わっていた。金華亭への荷物はこれから皆で運んでゆき、いつものように昼食をご馳走になる予定だ。
「コズエちゃんとサツキちゃんはその野菜と卵を頼むな。シュウとヒロは酒樽の台車だ。アキは芋袋、俺はハギ粉」
大量の物資はコウメイがそれぞれに割り振っていた。タラは検品を終えて先に金華亭に戻っている。ギルドを出たところでアレックスに呼び止められた。いつもの糸目が心配そうにアキラを見ている。
「ギルド長からアキラに伝言や、あんた王都のギルドに探されてるみたいやで」




