焦燥
アキラがエルフ達の狩りを目撃しアレックスと密談をした翌朝から、虹魔石は全く採取されなくなった。どんな大物を屠っても得られるのはただの魔石だけだ。
「クズ魔石が二十六個に小魔石十八個、中魔石七個、大魔石四個、特大が一個ですね。合計で一万千百ダルです。詳細な買い取り価格は必要ですか?」
「お願いします」
本日のカウンター当番ディックから査定の明細を受け取ったコズエは、付き添っていたサツキとシュウに合流した。
「シュウさんの取り分の明細です」
「魔石だけでこの金額ってのはすげーんだけど、やっぱり三十万ダルは遠いな」
今日のシュウの取り分は三千七百ダル。島にきてからの配分は、収入の三分の一をシュウに、三分の一をパーティー会計に、残りを五人で均等と変更していた。そもそも生活費はパーティー会計から出るので個人収入は全て小遣いだ。シュウは自分が優遇された割合に申し訳なさそうだったが、あくまでも島で活動する間だけの配分割合だ、たまに金華亭から酒を買うくらいでほとんど現金を必要としない生活をしているコウメイたちに不満はなかった。
「三十万ダルまであと二十四万六千ダルか」
「これまでの虹魔石分を引いてもらってるんですから、あと十四万六千ダルですよシュウさん」
どちらにしてもゴールは遠い。
「虹魔石、とれなくなっちゃいましたね」
「二週間の間に一個もなしだもん」
「他のパーティーも同じみたいです。もう少し待つしかないですよね」
大樹の根元で野営をした翌日から、魔物から虹魔石がとれなくなった。ギルドの糸目の説明によれば、ナナクシャールの森には謎が多く、数ヶ月ごとに全く虹魔石が得られなくなる期間があるのだという。早ければ一ヶ月程度でクズ魔石が得られるようになり、三ヶ月もたてばこれまでのように中魔石サイズの物も見つけられるようになるだろうとのことだった。
「三ヵ月後って言ったら冬じゃねーか」
シュウは決して気が短いわけではない。だがナナクシャールの魔物に慣れ、虹魔石が集まり始め、これからスピードを上げるぞと意気込んでいたときに水を差されたわけで、ガッカリするのも仕方のないことだった。
「焦りは禁物ですよ」
「素材売却の手段もあるんですから、貯金のスピードも上がると思うので頑張りましょう」
コズエはシュウを促してギルドを出た。
+
島の大工であるリロイの家は、増築に増築を重ねた大きな家だった。最初に建てた居住部分と増築された工具や木材を置く倉庫兼作業場があり、副業で始めた皮加工用の作業場と倉庫がさらに増築されている。
アキラとヒロは森から持ち帰ったばかりの魔物の皮素材を、リロイが指定した作業台に置いた。かなりの大物があるためリロイの検分にも時間がかかった。
「ヘルハウンドの皮が二枚に、雷蜥蜴の皮が五枚、銀狼が八枚か。買取だとかなり安くなるぜ?」
「雷蜥蜴はロビンに頼まれてた奴だから下処理が終わったら回してもらえると助かる」
鍛冶職人によれば雷蜥蜴の皮素材は、防具の表面補強に向いているらしい。残念ながら衝撃を受けて発雷する効果は、死んだ雷蜥蜴では発生しないらしいが。
「銀狼の皮は一枚三十ダル、ヘルハウンドは一枚三百ダルだな。どうする?」
「買取は銀狼だけで。ヘルハウンドは一枚はなめして、一枚は毛皮用に処理を頼む」
魔物から得た皮素材は、リロイの工房に持ち込んで必要な処理を依頼する。手間賃はかかるが下処理さえ済ませておけば腐る事もないし、島を出て大陸で売れば結構な額になる。今すぐ現金化する必要がなければ、素材を溜めておくのも手堅い蓄財手段だろう。
「ヘルハウンドはでかいからな、下処理もなめしも一枚二百ダルでどうだ?」
それでいい、とアキラは銀狼の売却代金と相殺してもらうように頼み、伝票を切ってもらった。完成品の引渡しは十日後だ。
「島の外での買い取り価格を知ってると、ちょっともったいないような気がしますね」
「五分の一だからな」
だが島のギルドが買取をしておらず、売却先がリロイしかないのだから仕方がないだろう。
「階段下の収納はもう空きスペースがありませんけど」
「玄関は狭いし、リビングの隅の方に場所を作るか」
しばらくの間は虹魔石が得られなくなると知ると、コウメイとアキラは即座に狩りの方針転換を決めた。魔石狙いではなく高額売却が期待できる素材採取に重点を置いたのだ。既にヘルハウンドの皮素材は二十枚を越え、大蜘蛛の糸袋も三十近く溜まっている。
「島を出るときの荷物がすごいことになりそうです」
「船だから問題ないだろう?」
「下船してから町までの運搬ですよ。ヘルハウンドの皮素材は一枚千五百ダルくらいで売れるんです、小さなギルドだと一度に全部を買い取りはできないと思います」
これからもヘルハウンドの皮素材の在庫は増えていくだろう、それを一度に売却しようと思えばそれなりに大きな街まで行かなくてはならないとヒロが指摘した。
「それにいっぺんに処分すると相場が変わっちゃうんじゃないですか?」
「値崩れするな……」
「影響が出ない範囲で何回かに分けて売却するか、町を変えて売りさばくかですね」
「まるで行商だな」
「商人ギルドの登録が必要になりそうですね」
島を出る目処などたっていないのだがついつい先のことを考えてしまう二人だった。
+
夕食のメニューは魔猪肉のハンバーグと野草のサラダ、イクル貝のスープに芋入りのパンだ。ハギ粉でパンを焼くとどうしても硬くパサつきが出てしまうのだが、蒸して崩した丸芋を混ぜて焼くと、しっとりとした食感に仕上がり時間が経っても硬くなりにくいことを発見した。酵母の状態に左右されにくく仕上がりのムラも少ないため、最近では丸芋パンばかり焼いている。
「ヒロ、スープは鍋ごと持っていってくれ」
「お兄ちゃん、パン籠をお願い」
「スープボウルとカトラリーをセットしときますね」
「サラダはハンバーグに添える形でいいですか?」
「まずは二枚焼きあがったぞ」
「うおー、美味そう」
ハンバーグとサラダを盛りつけた皿をシュウがよだれを飲み込みながら運んでゆく。六人分の皿が並んでやっと食事が始まった。
「「「「「「いただきますっ」」」」」」
食事をしながらの会話のほとんどは、その日の狩りの反省や気づきの再確認だ。
「シュウさんの瞬発力がすごいのは分かってますけど、ヘルハウンドの下に滑り込むのは危険すぎると思います」
「丁度いい隙間があいてたからさー」
「ヘルハウンドが発火してる時のどこが丁度いいんですか?」
「アキラが火を消すのが分かってたし、ギリギリいける隙間だったし」
実際にシュウがヘルハウンドの足下にもぐりこむ直前に毛皮から発せられる炎は消えていた。腹に剣を刺しそのまま喉へと向けて切り裂くシュウの攻撃が致命傷になったのだが。
「血みどろになったのは失敗だったな。サツキちゃんに戦闘以外で無駄な魔力を使わせたんだぜ」
「あー、それは反省してる、ごめん」
噴出したヘルハウンドの血を頭から浴びてしまったシュウのために、その場で大量の水を出し洗い流さなければならなかった。
「魔力で思い出したけど、ヒロ、なんか面白い事してなかった?」
「面白いというか、実験です」
オークとの戦闘で、ヒロは体術と魔法を組み合わせて戦っていた。
「俺の魔力は風属性ですが、思うように風刃が作れないし、酸素を抜くのも巧くできなくて」
現在のヒロの魔法は、常温ドライヤーと掃除機補助程度にしか活用できていなかった。
「オークくらいの巨体だと柔道の投げ技もなかなか難しいんですが、こう……風を叩きつける感じに使うと、払い技で転倒させやすくなるし、投げ技にも勢いがつくなぁって」
「へぇ、身体強化みたいなのか?」
「身体が強くなったわけじゃなくて、技のタイミングに風魔法で補助に入ってもらう感じなんです。ゴブリンとかオークだと最初から筋力で負けてるので、引きつける時にちょっと力貸してもらう感じですね」
ヒロは自分の魔法にはアキラのような派手さはないが、自分の戦い方にはこれくらいが丁度いいと思っていた。
「アキラの虹探知には何か引っかからなかったか? 精度は上がってんだよな?」
「島の最南端にある、という程度にしか分からない……ガイドはしないからな。あそこは俺たちの実力じゃ無理だ」
「虹魔石がとれなくなって二週間だぜ。アレックスの説明だとあと三ヶ月は今の状態が続くっていうじゃねーか。そんなに待てねーよ」
今すぐにでも島の最南端にある蠱毒の中心地へ向かいかねない、好物のハンバーグを渋面で咀嚼するシュウの様子はそんなふうに見えた。
「いつまでも手伝ってもらうわけにもゆかねーだろ」
「焦るな、俺たちは急いでねぇんだ」
「そうですよ。私たちは目的があって旅していたわけじゃないので、時間制限はありませんし」
「島の生活を楽しんでますから、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」
そうは言うけれど、虹魔石を必要としているのはコウメイたちではない。なのに命がけで魔物と戦い、得た報酬割合はシュウに有利に配分し、しかも期限を区切らず付き合うとあっさり言われては、自分勝手さに居た堪れなくなる。
「デザート大丈夫ですか?」
まだ皿に料理が残っていたが、サツキは話題を変えるためにフライング気味にデザートを配った。
「わぁ、これシャーベット?」
「この前採取してきた果実汁とお酒をちょっぴり使ってます」
小鉢サイズの椀に盛り付けられたピンク色のシャーベットには、ユーク草の新芽がミントのごとく添えられている。
「夏のデザートはこういうのがいいよな」
「すこし大人っぽい感じだ」
「……酒って、どれくらい使ってる?」
最近のサツキは甘ったるいだけのデザートではなく、少し大人っぽく背伸びしたものに挑戦している。蒸留酒は風味付けには丁度よいので、色々と実験的に使うようになったのだが、いつもは飛びつくように食べてくれるシュウが躊躇う様子に、何か失敗しただろうかと不安そうに兄を見た。
「シュウの限界酒量はカップにこれだけの蒸留酒だ」
そう言って人差し指と親指で一センチほどの量を示され、サツキは安堵して微笑んで応えた。
「それなら大丈夫です。風味付け程度に使ったものなので、六人分でスプーンに一杯しか使ってません」
「それならイケそうだ。せっかくのハンバーグがもったいねーもんな」
既にメインの食事を終えていたシュウは、安心してシャーベットを口に運び、その甘酸っぱさを楽しんだ。溶ける前にと慌てて食事を終わらせたコズエとヒロも蒸留酒の風味を感じながら冷菓を味わった。
「時々飲み会してるようなので皆さんお酒は強いんだと思ってました。実は明日ブランデーケーキを作るつもりだったんですけど……」
一昨日からドライフルーツと木の実を蒸留酒に漬け込んであり、休養日の明日はそれを使ってドライフルーツ入りのブランデーケーキを焼く予定だった。生地には漬け込んだ酒を混ぜ込み、焼きあがったあとも蒸留酒を使ったシロップを塗って一週間ほど寝かせれば、しっとりとおいしく仕上がるのだが。
「混ぜ込んで焼くならアルコールも飛ぶだろうし、念のためシュウの分だけ仕上げ塗りをしないでおけば大丈夫だと思うぜ」
料理長がそういうならとサツキは安心してケーキを焼く事にした。
「何本焼く予定?」
「ロビンさんに作ってもらった焼き型が四つあるので」
「じゃあそのうちの一本はたっぷり塗ったやつにしてくれるかな」
簡単な事だとコウメイからのリクエストに頷いた。四本のうち一本はプレーンにして、二本をアルコール控えめに、最後の一本は少し多めに蒸留酒を使って大人の味に仕上げてみよう。脳内レシピに追加を書き加えていたサツキに、耳を疑う追加注文が入った。
「いや、漬け込んでもいいかも」
「つ、漬け込む?」
「そう。ケーキに蒸留酒をたっぷり吸わせるんだ。酒が足りないなら俺が買い足すから」
コウメイ基準の「たっぷり」だと一切れで酔っ払いそうなケーキが出来上がるのだが。
「……コウメイさんが丸々一本食べるんですか?」
「いや、俺とアキで食うよ」
びっくりして兄を振り返ると、アキラは平然とシャーベットを口に運んでいた。シュウとヒロは「うわぁ」とうめいて視線を逸らせていたし、コズエは口を閉じるのを忘れてコウメイとアキラを凝視している。ドライフルーツを漬け込む手伝いをしたコズエは、使用した蒸留酒がそうとうに強いものだと知っている。匂いをかいだだけで酔いそうになるくらいで、サツキと二人して「塗るのは控えめにしようね」と話していたのだ。
「アレに漬け込むの……」
そのケーキ、火がつくのではないだろうか。
「あの……皆さんのお酒の強さって、どれくらいなんですか?」
お酒を使ったレシピを増やしていきたいサツキは、今後のためにもと恐る恐るに各自の酒量を尋ねた。
「そうだな、ストレートで二杯が限界のヒロを基準にしたら、シュウは二十分の一で、アキは十倍くらいかな」
「……コウメイさんは?」
「今のところアキよりは強いぜ」
自信満々の酒豪発言に腰が引けてしまったのは仕方がないだろう。日本基準で未成年のはずがこれでいいのかとサツキは引きつった笑みで何とか答えた。
「た、たっぷり染み込むように頑張ってみますね」
+++
金華亭で「サツキが購入した酒」と指定して大小の二瓶分を購入してきたコウメイは、使い切っていいからねと小さい方をサツキに渡した。コウメイの手に残った大きな瓶に目をやったサツキは、一晩で飲みきるんですね、と呆れたように呟いていた。
「シュウ、バケツ取ってこいよ」
手早く作った肴とともに大瓶を部屋に持ち込んだコウメイは、ベッドに寝転がっていたシュウを促した。
「アキも後で来るからな」
「……酒を片手にお説教かよ」
「違うって」
不貞腐れながらも手の届く位置にゲロ用桶を用意したシュウは、コウメイから薄すぎる水割りを受け取った。コウメイとアキラはストレート一択だ。
「「「乾杯」」」
コウメイが用意した肴は、フライドポテトもどきと干し肉、根菜の酢漬けだ。シュウは水割りには口をつけず、フライドポテトもどきをポリポリと無言で食っている。見るからに不機嫌な様子のシュウを見て、アキラは二杯目に口をつけながら尋ねた。
「何を拗ねてるんだ?」
「俺らが説教しにきたって誤解してんだよ」
「説教じゃなくて提案なんだが。三十万ダルまで残り十四万六千ダルだったな?」
シュウが頷くのを確認してアキラは言った。
「コウメイが金を貸す。十五万ダルはあるからすぐにでも魔武具の発注すればいい」
「ち、ちょっと待てよ!」
「無謀に森に突っ込んで深手を負うよりはマシだぜ?」
「俺はダチから借金はしねーよ」
友人とは金の貸し借りをしない、それがシュウの譲れないポリシーだ。
「だが今のままだと焦りで失敗しかねない。深追いしすぎてオーガに囲まれ致命傷を負う、ヘルハウンドの炎に焼かれて焼死、大蛇に絞めつけられて丸呑み、いくらでも想像できる」
淡々とした声でアキラに指摘されて目を逸らしたシュウは、フライドポテトを数本まとめて口に入れた。
「なぁ、何でそんなに焦ってんだよシュウ」
二人の視線から逃れるように水割りを口に運ぼうとしたシュウのカップは、口をつける前にコウメイに取り上げられた。シュウは酒が入ったあとの記憶は飛んでしまう。コウメイは素面で話をしておきたかった。
「シュウは何を焦ってんだ?」
「……アキラみてーな魔武具が欲しいのは俺のわがままだし。コウメイたちをつき合わせてるのも悪いと思ってるし、俺だけ有利な報酬割合なのもズルイだろ」
「コズエちゃんもサツキちゃんも島の生活を楽しんでるって言ってただろ。分配の割合だって俺たちが納得してるんだから問題ねぇだろ」
「……」
「シュウが話してくれなきゃ何もできねぇだろ」
頑なに口を閉ざすシュウに何を言えばいいのか、どうすればその焦りの原因を解決できるのか。コウメイの思考にアキラが割って入った。
「ポテトがない。お代わりを頼む」
食べ続ける事で会話を避け間合いを持たせようとしていたシュウによって、皿に山盛りだったフライドポテトもどきは一欠片も残っていなかった。
「白芋の酢漬け食えよ。干し肉もあるだろ」
「ポテトがいい。俺はひと口も食ってない」
「後でいいだろ」
「今すぐ食いたい」
カマドに火を入れ脂を温めて芋を揚げて。アキラのリクエストに応じて戻ってくるまでにそれなりの時間がかかる。
「コウメイ」
「……すぐに戻ってくるから、シュウにはまだ飲ませるなよ」
コウメイに空の皿を持たせ部屋から追い出したアキラは、扉が閉まった音を聞いてすぐにシュウに向き直った。真っ直ぐに向けられる目から逃れたシュウの視線が膝の上に置いた手に落ちた。
「コウメイと競っても虚しいだけだぞ」
「……なんだよ」
「国立医大にストレートで合格できるくらい頭が良くて、子供の頃からたしなんだ剣道は上位の段持ち、顔もいいし社交性があって人当たりもいい、美味い料理は作るし、どこの街でも複数の女性に本気で惚れられてトラブルにもならずにやり過ごす」
「ムカつく奴だよなー?」
まるで物語の主人公じゃないか、と茶化すシュウの表情はわずかに歪んでいた。
「困ってる友人に手を貸すことを躊躇わないし、何万ダルもの金を無利子無担保で貸そうと考えるくらいに人が善く、本気で心配している」
「……」
「それが空まわってることも、こっちのプライドを逆なでしている事に気づいていない。鈍感さはマイナスをつけるとしても、コウメイと競うのは虚しくなるだけだ」
アキラの声が刺々しいのに驚いたシュウは、思わず顔をあげていた。目を伏せ、カップに口をつけるアキラは、笑っているように見える。シュウはその表情から何かを読み取れはしないかと、注意深く視線を向けた。
「焦る気持ちは分かるが、コウメイに対抗するつもりで虹魔石を集めるのなら、頼らず一人でやるほうが精神的に楽だぞ」
だがそれでは目的を達成できないと知っている。この島でのソロの狩りは自殺行為だ、コウメイたちの協力がなければ、三十万ダルも虹魔石百個もどちらにも到達できない。
「そんなにまでして幻影の魔武具が欲しいのか?」
「欲しい、と思ってたんだけどね……いや、欲しいけど、手段にしちまったかもなーって気がしてきた。ケモ耳は嫌じゃねーんだ。嫌なのは周囲の目だ……うん、やっぱり欲しいな」
ぐるぐると考えているよりも、声に出してみた方が分かりやすいようだとシュウは苦く笑った。
「だったら割り切れ。引け目感じて焦るんじゃなくて、利用してやるってくらいの心構えでいてくれ。その方が精神的にも楽だし、皆も安全だ。それが出来ないなら、一人でやれ。今のままじゃ俺たちが大怪我する」
卑屈かもしれないが、今はアキラの言葉の方が身に染みてくる。
「……うん、アキラも色々捩じれてて複雑っぽいよな」
「コウメイにムカつくのは日常茶飯事だからな」
「仲いいじゃねーか」
「ムカつくが、それが嫌う理由にはならないだろ」
「そりゃそーだけど」
アキラはシュウの皮肉げな言葉を鼻で笑って返した。
「アイツの最大の弱みを知ってると、ライバル心を持つのも馬鹿らしくなるぞ」
「え、なにそれ」
努力を知る秀才で運動万能で顔と性格が良くて女の子にモテまくってるコウメイの弱み。
「知りたいか?」
「当たり前だろ」
絶対に口外するなよ、と念押ししてアキラは秘密を暴露した。
「コウメイは性癖が最悪で残念なんだ」
「は?」
何言ってんだ? 酔っ払ってるのか? いや、蒸留酒のストレート三杯程度でアキラは酔わない。本気で言っているようだ。
シュウは焦った。
それは暴露してもいいものなのか、と。
その最悪に残念な性癖とはいったいどんなものなのか、ドSかドMか嗜虐か加虐か異常フェチか……色々と妄想を膨らませるが、どっちの方向に残念なのか想像できない。
「コウメイはあの性癖だけで他の美点が台無しになるからな」
「何でアキラが知ってんだよ」
「転移してからずっと一緒に行動してるんだ、嫌でも気づく」
シュウは詳細を聞くことを拒否した。これは聞かないほうがいい。好奇心が膨らんで、凄く聞きたいけれど、聞かないほうがいい、絶対に。
「俺は知りたくなかったなー」
「コウメイに競争意識を持つのが馬鹿らしくなるから聞いておいたほうがいいぞ」
「いやいや、聞きたくねーって。言うな、聞かせるな!」
フライドポテトのお代わりが戻ってこないので、シュウは大根に似た野菜の酢漬けを口に放り込んだ。ついでにアキラの口にも突っ込んでやろうとしたら、笑いを堪える様子が楽しそうだった。
「……アキラ、からかったな」
「気分転換になっただろ?」
「悪趣味だっ」
アキラの口に無理矢理酢漬けを突っ込んでおいた。食ってる間は喋らないだろうから。
「飲んでねぇだろうな?」
挙動不審な二人の様子に、揚げたてのフライドポテトと共に戻ってきたコウメイに疑いの目で見られたが、シュウは素面だ、一滴の酒も飲んでいない。アキラは既に四杯目だったが、素面と変わりない。
「ぶり返すけどなシュウ」
「もう分かったから、俺が悪かったから」
「はぁ?」
コウメイの最悪で残念な性癖話の真偽はわからないが、アキラのおかげで色々と区切りはつけられた。それを当人に伝えるのだけは流石に遠慮したいシュウだ。
「焦ってたのは色々気まずかったからだけど、それは解決したから。割り切った、納得した、うん。だからこの話はもう終わりだ」
「おい」
コウメイが止めるのも聞かず、シュウは水割りを一気に飲み干した。空になったカップに蒸留酒を注ぎいれ、水を足せとアキラに突きつける。アキラが水魔法で冷たい水を注いでやると、それも一気飲みし、そのままぶっ倒れた。
「シュウになんか言ったのか?」
「素面で話すのが恥ずかしい話を、少し」
「あいつ素面だっただろ?」
「だから羞恥に負けて逃避した。もう大丈夫だと思うぞ」
「意味わからねぇよ」
困惑するコウメイを横目に、アキラは揚げたてのフライドポテトに手を伸ばすのだった。
※貸すつもりの十五万ダルは、コウメイ六万ダル+アキラ九万ダルです。
なにか、ちょっと迷走してますね。
第5部の区切りをつけたら、大幅改稿するかもしれません。




