表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の兄に転生した俺の妹救済計画〜妹を悪役令嬢にするシナリオを論理と拳でぶっ潰す!〜  作者: 浅沼まど
第9章:断罪イベント? その前に兄(おれ)が来た

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/36

第33話『まず俺を倒してから』

「茶番は、終わりだ」


 俺は、人垣を両手で押し割った。

 騒めきが波のように引いていく。卒業生たちが、貴族たちが、呆気(あっけ)にとられた顔で道をあける。

 何百という視線が一斉に俺へ向いた。エレナへ注がれていた、その悪意の視線が。

 今だけは俺へ逸れた。


 それでいい。

 お前らの相手は、十六の女の子じゃない。ここからは――〝(オレ)〟だ。


 俺は、まっすぐに壇上へ向かって歩いた。

 一歩踏み出すごとに、靴音が静まり返った広間に響く。


「アルヴァレス卿……?」


 ユリウスが眉をひそめる。

 俺は壇の縁に足をかけ、ひと息に上がった。エレナのすぐ隣に立つ。

 (けが)れの(もや)が彼女の足元でわだかまっている。俺は、その前に半歩身体をねじ込んだ。


「妹を悪役にして、世界を守るつもりなら――」


 俺は、壇上の連中をぐるりと見回した。

 ユリウス、その傍らのカイル、そして――セリオ。


「まず、俺を倒してからにしろ!」


 会場がどよめいた。

 ユリウスの顔が不快げに歪む。


「乱心したか、アルヴァレス卿! これは、王国の正式な――」


「正式な、なんだって?」俺は遮った。「あんた、さっきから立派な言葉ばかり並べてるな。王国のため。正義。婚約者としての責務。――なあ、ユリウス。一つ、聞かせてくれ。あんた――その婚約者を、一度でも、まともに見たことがあるのか?」


「……なんだと?」


「茶会でエレナが疑われた時……あんたは駆け寄りもしなかった。(かば)いもしなかった。ただ、遠くから難しい顔で眺めてた。婚約者が群衆に追い詰められてるのに、だ。アンタが見てたのは、エレナじゃない。『毒を盛ったかもしれない令嬢』っていう都合のいい絵だけだ」


 ユリウスの口が開いて、何も出てこなかった。

 いつもの端正な弁舌が出てこない。図星を突かれた人間の顔だった。


「……私は」ようやく絞り出したヤツの声はかすれていた。「私は……王国のために正しい判断を……婚約者としての責務を……」


「責務、責務って、さっきからそれしか言わないな」俺は畳みかけた。「責務ってのは、相手を見もせずに切り捨てる免罪符(めんざいふ)か? あんたは、エレナが何年、何を犠牲にして、あんたの隣に立とうとしたか、考えたこともないんだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()。見たくないものから目を逸らすための言い訳だ」


「黙れ……っ!」


 ユリウスの端正な仮面が初めてヒビ割れた。

 声が上ずっている。きっと自分でも薄々気付いていたんだろう。

 エレナを見ていなかったことに。だが、認めたくなかった。

 だから、「正義」や「責務」という立派な言葉の後ろに隠れていた。

 その隠れ場所を引きずり出されて――この男は、初めて自分の浅さと向き合わされていた。

 すぐには変われない。今夜、改心して頭を下げるなんてこともない。

 だが――その揺らいだ目だけは、もう元には戻らないだろう。

 俺はユリウスから視線を外した。今は、コイツに構ってる場合じゃない。


「黙れ」


 割って入ったのはカイルだった。

 騎士の正装の下で肩をいからせている。


「殿下に無礼だぞ。それに、お前の妹は卑怯にも聖女様を毒で害そうとした。弱い者を害そうとする奴を俺は許さない!」


「弱い者、ねえ……」


 俺は、一歩、カイルへ踏み出した。


「カイル・ヴァルガ。アンタ、騎士なんだろ? 「弱い者を守るのが信条だ」とよく言ってる。――じゃあ、聞くぞ。今、この壇上で、一番弱い立場に立たされてるのは誰だ?」

「それは――」

「証人が片端から寝返り、持ち物が勝手に湧き、記憶まで書き換えられる。その上、何百人に囲まれるも、たった一人で立ってる十六の女の子――エレナだ」

「そ、それは……」

「アンタのやってることは、弱い者を守る騎士の仕事か? それとも――」

「黙れと言っている!」


 カイルが腰の剣を抜いた。


 来る、と思った瞬間には、もう踏み込んでいた。


 俺は身体に力を巡らせる。骨が、筋肉が、内側から(きし)んで張りつめる。

 カイルの剣が銀の弧を描いて振り下ろされた。

 速い。さすが、攻略対象の騎士だ。伊達ではない。

 だが――遅い。

 俺は、半歩横へずれた。剣風が頬をかすめたが、そのままカイルの手首を左手で掴んだ。

 握り潰す気で締め上げる。


「ぐうっ!」


 剣が手からこぼれ落ちる。カシャンと床で跳ねた。

 俺はカイルの胸ぐらを掴んで、グッと引き寄せた。鼻先が触れるほどの距離で。


「決めつけて剣を抜く。状況証拠を鵜呑みにして人を裁く。それをお前は〝正義〟だと思ってる。――教えてやるよ、それが、最も質の悪い弱い者イジメだ」


 カイルの目が揺れた。

 怒りでも、戦意でもない。初めて突きつけられた別の角度の問い。

 それに戸惑っている目だった。

 「守る」、「卑怯」、「弱い者いじめ」――自分の正義の物差しが急に当てにならなくなった。そんな頼りない顔だった。

 俺は手を放した。カイルがよろめいて後ずさる。

 すぐには剣を拾わなかった。拾えなかった。


 よし。論破した。ねじ伏せた。

 壇上の三人のうち二人を黙らせた。

 会場の貴族たちの騒めきにも戸惑いの色が混じり始めている。

 さっきまでの一方的な断罪の空気がほんの少し緩んだ。


 ――なのに。


 俺はふと足元を見た。

 床の文様は相変わらず煌々(こうこう)と輝き続けていた。

 俺がユリウスを言い負かしても。カイルを組み伏せても。

 儀式の光は一ミリも揺らがない。それどころか、輝きは刻一刻と強くなっていく。

 嫌な予感が背筋を這い上がった。


 おかしい。


 攻略対象を論破してねじ伏せれば、断罪イベントは崩れる。

 今まではそうだった。それが、この物語での勝ちパターンだった。


 なのに。

 この儀式は俺が暴れても、まるで痛がらない。


 まさか、こいつは――言い負かして、殴り倒して、どうにかなる相手じゃないのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ