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偽物の恋人──あなたのいたアトリエ  作者: あおき華


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4話

 ダンスの間、男はずっとソフィーの顔から目を離さなかった。


「そんなに見られていては落ち着きませんわ」

 ぎこちないステップでつまずいてしまった。


「貴方は私と目が合うのを避けているようだ」

 まさに図星だった。


 ソフィーは彼を見上げた。鮮やかなブルーの瞳が愉しげに細くなった。ソフィーの顔が真っ赤になった。


「何かお話してくださらないの?」

 気まずくてごまかした。


「言いたいことはあります」

「何でしょう?」

「もう二度とこのドレスを着てはいけない」


 ソフィーは小さく声を出して笑った。

「ええ、そのつもりです!」


「貴方も何か話してください」

 促されて、ソフィーはしばらく考えた。


「スミスさんは、権力者のお知り合いもいるそうです。あの様な態度で大丈夫だったのですか?」


 男が首を傾けた。

「レディ、私はそんなに頼りなく見えますか?」

 冗談めかして彼は言った。


「私は貴方のこと、何も知りませんもの」

 ソフィーは足元に視線を落とした。


 ソフィーの背に触れる男の手がこわばった。


「失礼しました。⋯⋯私はライアン・カッセルといいます。ノース伯爵家の次男です」

「ハワード男爵の娘のソフィーです」


 聞いたことのない名前だった。爵位のある家は何百もあるので、別に不思議でもない。


 ライアンはどこで私を知ったのだろう。とりたてて目立つ存在でもないのに。



 ライアンはとてもダンスの上手な人だった。ソフィーは彼の洗練されたリードに身を任せて、夢見心地で踊った。


 何曲も共に踊った。


 気づくと最後の演奏が終わっていた。ぴったり寄り添っているのはもうソフィー達だけだった。


 周りからの好奇の目に、ソフィーは慌ててライアンから離れた。




 舞踏会の帰り、ライアンはソフィーを馬車までエスコートした。きっとスミスを警戒してだろう。

 

 ソフィーは馬車を目の前にして、歩調を緩めた。まだ離れたくなかった。これで最後なのだろうか。


 立ち止まったライアンがソフィーの頬にためらいながらそっと触れた。


 ソフィーは目を見開いた。

「私達、まだ初対面ですわ」

 か細い声しか出てこない。ライアンは短く笑った。



 ライアンは視線を僅かにさまよわせた後、すらりとした体をまっすぐに伸ばした。


「ソフィー、また会ってくれますか?」


 ソフィーは無意識に頷いていた。

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