11話
当日、ソフィーは屋敷の前でヴィクトリア達と並んで兄の到着を待った。
敷地内に入って来た馬車がソフィー達の少し手前で止まった。
兄は何と言うだろうか。
ソフィーは両手を握りしめて、ヴィクトリアの背後から王室の紋章が装飾された馬車に目を向けた。
馬車からエリックが降りてきた。
いつもは表情の乏しい兄が慈愛に満ちたまなざしでソフィーを見つめている。思わず兄に駆け寄りそうになったが、王子の手前ぐっと足に力を入れて堪えた。
エリックがどこかぎこちない足取りで近づき、真正面に立った。
「ソフィー」
「お兄様……」
ソフィーは唇を噛んで、目をぎゅっと閉じた。
「ご、ごめんなさい」
「いいんだ。無事だと信じてた」
エリックはそっとソフィーの頭をなでると、視線をあげて長いため息をついた。
歩み寄ったジェイムズ王子にソフィーはお辞儀をした。王子はダークブロンドの背の高い男性だった。
王子と目が合った。
心臓が、異常なリズムを打った。
「こんにちは」
王子は低く抑えた口調で他人行儀なあいさつをした。
口は笑っていても、目は笑っていない。ソフィーは後ずさりをして顔をぱっとそらした。
そんなわけないわ。
拳を唇にあてて、恐る恐るダニエルと話している王子に視線を向けた。やっぱりそうだった。
足の力が抜けて、ソフィーはヴィクトリアにすがりついた。
事態がうまく呑み込めなかった。
ダニエルと談笑するジェイムズ王子は、間違いなく、ライアンだと名乗ったあの男だった。
ダイニングルームで晩餐会が開かれた。
ソフィーの両隣はヴィクトリアとピーターだった。
ヴィクトリアは向かいの王子に新しく造った病院の話をしている。
ピーターはこちらを向いて領地フォーダムの歴史を10世紀前から遡って熱弁していた。ソフィーはピーターの話にせわしなく相づちを打ち続けた。ピーターと忙しく話し続けていたおかげか、王子とは話さずに済んでいた。
斜めに座る王子は否応なくソフィーの視界に入った。燭台の灯りに金褐色の髪がキラキラと輝いている。口まわりや顎にはそれより濃い色の無精髭が生えていた。
やっとロージーの金髪が腑に落ちた。
最初から騙すつもりだったのだ。
ソフィーの瞼がピクピクと痙攣した。
「───よねソフィー?」
「え?」
ヴィクトリアからの問いかけに、ギクリと顔を向けた。
「あなたの絵を病院に飾った話よ。すごく評判が良かったわよね?」
ソフィーはたじろぎながら曖昧にうなずいた。
ジェイムズ王子はグラスを掲げると、目を合わせて軽く会釈をした。
王子は何をしに来たのだろう。また遊ぼうとでもいうのだろうか。それとも私のことを覚えてさえいないのかもしれない。
ソフィーは胸がずたずたに引き裂かれたように感じた。
自分だけが本気だったことに、改めて打ちのめされていた。




