第21話 友の祈りと回帰の空
「……今日も何とか、一日終えられたな」
宮廷魔術師達の詰める塔の屋上で、ダリオは凝り固まった体を伸ばすように腕を上げた。
こつんと、手を下げた瞬間に樫の杖が石の床を打つ。
今日も頭の上に跳ね上がったままの寝ぐせを、中空を吹いてくる風が揺らした。
その風の向こうに目を移せば、千々に雲を散らした見事な夕焼けが、彼の目の前には広がっていた。
今日は一つ会議が長引いたために少し遅くなってしまったが、ここへ上って来る余裕があってよかった。
宮廷筆頭魔術師代理生活を始めて数日。
ダリオが夜遅くまで執務室に閉じ込められることがないように、どうやらレオナルドはあちこちに仕事を分散させてくれていたらしい。
実務経験の長い部下に視察等の城の外の仕事を割り振って、ダリオは宮廷内の仕事に専念できるよう調整してくれていたのだ。
大事な遠征の前に、何だか気を遣わせてしまったかも知れない。
普段のレオナルドは、本当に色んなことを考えながら筆頭魔術師を務めているのだろう。どこまでも細やかな配慮に頭が下がるばかりだ。
それに触れるたびに、改めて見えている世界の違いを思い知らされる。
夕暮れの橙の光が、淡く雲をたなびかせる天から、樫の杖を携える一魔術師を照らし出す。
王城の離れにあってその城郭より高く突き出たこの塔からは、もちろん王城内が見下ろせるが、その反対側からは城壁を越えてその先に広がる市街地が見渡せた。
ダリオはそっちの方を眺めるのが好きだった。それこそ日課にするくらいに。
見下ろせば城門から伸びる太い道を、今日の役目を終えた城勤めの人を乗せているのか、数台の馬車が街へと出ていく所だった。
その先に広がる家並みは屋根を夕陽の色に染め、世界有数の大都市の名に相応しく、どこまでもその連なりを保っていた。
この素晴らしい景色に気付く魔術師がもっといてもいいのに。
今日もこれを眺める者はこの塔の上にダリオ一人だけだ。
ここに上って一日を振り返るときほど、心休まる瞬間はないのに。
そうやって風に吹かれぼんやり杖をついて、ダリオは数時間前にレオナルドの代理として出席した会議のことを思い出す。
まさか自分がそんなものに顔を出すことになるとは、今日の今日まで夢にも思わなかったが、会議というのは未だ見つからない聖典・ギャラクシアについてのものだった。
今年が銀河の魔術師の誕生する年だということは宮廷中の誰もが知っている。しかし肝心の聖典が一向に見つからない。
探索を命じられた者達はまさに血眼で探しているらしいが、未だにそれらしいと思われる魔導書が見つかったという報告すらないのだ。
あまりに手がかりがないから、最後には歴史家達の「今年が千年目に当たる」という計算が間違っているのではないかとか、古文書の年号自体が間違っているのではないかとか、星読みが狂っているのではないかとか、そんなことで会議が紛糾してしまった。
後でレオナルドに報告せねばならないが、あまり有意義な会議ではなかった。結局あの押し付け合いの先に聖典は見つからないだろうし。
屋上を囲む石の壁に、ダリオはそっと体を預ける。
まったく手掛かりなしの聖典とは違って、聖典の持ち主となる銀河の魔術師にはレオナルドが選ばれるというのがすべての有識者の見解だ。
聖典は見つからないが、銀河の魔術師はすでにこの地上に存在しているのだ。
伝説が本当でも嘘でも、レオナルドの強さはまさに天啓の魔術師そのもの。彼以上の魔術師が、この先この世界に見つかるはずもないのだから……。
暮れていく空を雁の群れが行く。
ダリオはしばらくぼんやり市街の景色を眺めていた。
正直、聖典なんてどうでもいい。
……などと言ったら、他の宮廷魔術師から不興を買うだろうか。
しかし千年に一度救国の魔術師を選ぶ聖典なんて、今でもただの伝説なのではないかと思えるのだ。
銀河の魔術師になると噂されるレオナルド本人でさえ、聖典に特に強い執着があるようには見えなかった。
聖典などなくても彼は世界一を謳われる魔術師なのだから、それもそうかも知れないが……。
そして。聖典について気掛かりはもう一つ。
戦好きで知られた先代とは違い、現国王陛下は無闇な侵略戦争を禁じているが、イクリプスをはじめとする諸侯は絶えず軍拡を唱え、海洋進出を押し進めている。
そんな中で、巨大な力となる聖典を手にしたこの国は何をするだろうか。考えるだけで憂鬱になる。
ふうっと吐いた息を風がさらっていく。
見下ろしても見上げても、広くても狭くても、壁の中にいるのは変わらない。
無力に泣き濡れた子どもの頃と同じく、ダリオは今も塞がれた世界の住人だ。
だが今は、あの頃からは想像もできないくらい、色んなことを考える。
あの頃は日が暮れかかると、その日も庭で夜を過ごす自分に泣いた。
杖を握る冷たい手に爪を食い込ませ、自分の無力を責めた。
今はもう、それだけで過ぎていく日々ではないのだ。
聖典のこと、明日の執務のこと、執務室で飼っている雛達のエサのこと……。
自分の一日を埋めることが、こんなふうに重大で複雑になるとは、あの頃考えもしなかった。
茜色に染まる雲が流れ。
遥かな故郷の位置する西の方から流れてくるその雲は、風に乗ってさらに世界へと流れる。
ふと、今手にしている樫の杖を己の目線まで掲げてみる。
この胸に何故か最近絶えず浮かんでは消えるのは、聖典の行方なんかではなく、ある一本の杖の所在だ。
この杖の先代が自分のもとから旅立って二十年。
当時泣きながら手にしていたポプラの杖は、結局『彼女』に貸したままになってしまった。
古木から削り出された白いポプラの杖は、窮地に立ったアンヘル家の魔術師達を何度も守ってきたのだと口酸っぱく言われて育ったが、泣き濡れる少年にとってはただ体を支えるための棒きれに過ぎなかった。
だからあの杖は持つべき人のところへ行ったのだと、今でも沸き上がる罪悪感とともに信じている。
……彼女があの杖を手にしてから起こしてくれた奇跡を、この胸は確かに留めているから。
杖を持つ魔術師と魔導書を持つ魔術師が戦った場合、後者の方が確実に有利……。
子どもでも知っている、魔術での戦闘における基本の心得だ。
……しかしそれを覆す姿を、彼女はあのときダリオに見せてくれた。
あの日、壁の向こうの友が代わってくれた、領主の館での御前試合。
ポプラの杖を携えた彼女は、魔導書を持った魔術師軍家の子息達を、まるで寄せ付けなかった。どころか――。
……暮れていく空に思うことは一つ。
あのポプラの杖は、今もどこかでその人を助けてくれているだろうか。
「難を越えよ白き杖。この祈りが届くのなら、荒波を越えるその人に、どうか力を貸してくれ」
夕暮れの港に帰る船が、橙色を映す波の上で次々帆をたたんでいく。
岸につないだ船の上で縄をなう漁師達を横目に、マイテとその婚約者は波の穏やかな海を眺めていた。
ソルをさらった人買いを追いかけ、悪魔の城に挑むという旧友を街から送り出してしばらく。
娼館にいるのも手持ち無沙汰で、マイテはこんな所まで出てきてしまっていた。
商隊の馬車を使い、人さらいを追って遠く南の村まで発ったという友は、すでに悪魔の城まで踏み込んでいるだろう。
しかしこの身にはこれ以上できることもない。
今はただ、傾く陽を浴びながら心静かに祈るだけだ。
船着き場の近くに置いてある樽の上に座り、マイテは軽く指を組む。
港に帰る船を眺めながら、今しがた魔女を送り届ける任から帰りついたマイテの婚約者が口を開いた。
「ソルとこの港で会ったのも、まだ二月前か。……おやっさんに申し訳ないよ。あの子を頼むって言われたのに」
「船長、ずいぶんここに顔を出さないわね。また長い旅に出たのかしら」
「世界を股にかける船乗りだからな。……帰ってきたら、ソルのことを教えてやらないと」
元船乗りであるマイテの婚約者は、異大陸から帰ってきたばかりの大きな帆船の船長からソルを預かった。
最終的に、忙しく地方を行ったり来たりする彼に代わってマイテがソルを世話することになったが、思えばそれもたった数ヶ月のことだった。
しかしソルという少女の残した爪痕は、今後この二人から生涯消え去ることはないだろう。
離れてみて改めて思うが、本当に不思議な少女だった。
……そしてまさかその少女が繋いだ縁で、再びあのピエドラと会うことになろうとは。
遠く海上から岸辺へと視線を戻せば、縄をなう漁師の船に、その女将と思われる女が近付いて繕い終わった網を差し出すのが見えた。
夫婦で漁業を営む者の、和やかな日常の姿だ。
ふと、マイテは自分のとなりに立つ、もうすぐ伴侶となる男の姿を眺める。
荒波の立っていたこの人生に、こんな日が訪れるとは、正直想像もできなかった。
故郷も係累も失い、矢の雨を浴び、夜の闇の中に身を潜めるように生きて。……その先に凪の海が待っていることは、ただ闇を惑う生活の淡い希望でしかなかったのに。
しかし波が穏やかなほど思う。
人々に平凡に訪れる平穏の外で、あの魔女は一体今どうしているのか。
「あの姉さんのことを考えてるのかい?」
「え?」
海を眺めたままだったくせに、こちらの顔色に気付いたのか、となりに立つ彼は言う。
「妬けるねえ」
「何言ってるのよ」
「だってずっと心配してるだろ? 俺が長い船旅に出るときだってそんな顔はしてなかった」
思わず言葉を探すマイテに、「心配いらないさ」と、彼は海を眺めたまま呟いた。そして樽に座るマイテの肩に寄り添う。
「あの姉さんには、魔術の星の力がついてる。そんな気がするんだ」
婚約者の言葉に、マイテは思わず目を見開いていた。
「自分と無縁の子どものために悪魔城に乗り込もうって人だ。それだけで魔術の星に愛されてるさ」
……魔術の星。
普段は肉眼ですら見えないが、窮地には雲さえ破って現れ、道に迷う魔術師を救うという伝説の天体だ。
魔術師のことを何も知らない、学ぶこともできない幼い自分でも、ピエドラという少女が確かにその光に触れていることには気付いていた。
あれから二十年だ。
時は流れ、彼女は衰え、変わってしまったと思っていたが……。
そんな状態でソルを追って悪魔の城に乗り込むと言った旧友は、良くも悪くもあの日のピエドラのままだった。
だから今はこう思うのだ。
雲をも破る魔術の星の光が、今は彼女に届かなくても、それなら自分が代わりにその無事を願えばいい。
軽く組んだ指を、そっと海の方に掲げながら、一心に願えばいい。
それに今、ピエドラを思いながらこの胸に浮かぶのは胸騒ぎや不安なんかではなく……。
祈りの手を掲げたまま、マイテは婚約者に向けて呟く。
「私も、もう心配なんかしてないわ」
「え? そうなの?」
「ええ。……私は船乗りじゃないけど、嵐の前触れはよく分かるのよ」
――夜空から、ヒュンと風を切る音が聞こえた。
最初の一矢が、次々飛んでくる後続の矢の先陣を切るように、幼いピエドラとマイテのそばの木に突き立った。
それに続いて、二人の頭の上を雨のように矢が降り注ぐ。
しかし二人はその場から逃げられなかった。
自警団の松明から移った火が森中に広がり、二人を取り囲んでいたのだ。
そして放たれたありったけの矢にも森の火が移って、一本一本が真っ赤に燃え上がる。
無数の火矢が夜空から降り注ぐ様は、まるでこの世の終わりのようだった。
そして。
「……――!」
幼いピエドラが呟いたのは、たった一言。
その一言とともに、火矢の群れが軌道を失って宙を舞った。
まるで急に巻き起こった竜巻にさらわれるみたいに。
そして。夜の森にざわめきが訪れた。
矢は高く高く舞い上がって、さらに天へと吹き上げられていく。
だがそれはただの前触れだった。
雲さえ巻き込んで大気が動き出すのを、あのとき、幼いピエドラは驚きとともにその肌で感じていたのだ。
ゴオゴオと風を切る音が、落ちていく耳に今を甦らせる。
絶えず地面へと引き付けられながら、ピエドラは瞬間的な回顧の中にあった。
……そうだ。マイテを魔女狩りから助けようとしたあのとき。
マイテの魔力をたどって彼女のもとへたどり着いたピエドラは、自警団に追われる友と一緒に暗い森を走っていた。
マイテは彼女の両親の宿に置いてあった、例の旅人が忘れていった杖を持って逃げていた。それを借りて、ピエドラは何とか途中まで道を開いていたが……。
追撃の手を緩めぬ自警団に追われ、二人の少女は徐々に森の奥深くへと踏み込んでいた。
そのうち夜明けも近付いて、魔女狩りも打ち切りになるかと思った矢先。
マイテを取り逃しそうになった自警団は、幼い少女に向けてやけっぱちの一斉掃射を仕掛けたのだ。
森を焦がす炎が移った矢が、大量にマイテとピエドラに降り注いだ。
しかしそれが二人の眼前に迫ったとき、風が吹いて……。
そうだ。ものすごい風が吹いて。
そして森から矢束と炎を空に持ち去っていった。
それが自分の杖から巻き起こったものかどうか、今でも分からないくらいの突風が森を揺らしたのだ。
木々を焼いていた火は風にまかれて空へ舞い上がり、火事そのものを吹き飛ばすように烈風が吹き抜けた。
いや、風というより、あれは……。
そこまで思い出して、ピエドラははっと己の周りの景色に目覚めた。
機械人形に乗った小男との戦いに敗れて、今まさにその身は悪魔の城の城郭を真っ逆さまに落ちていく途上にあった。
そうだ。落ちているのだ。
それでも視界にかかる青白い老人の姿に、そして先程の記憶に、何故かここに至って心静かでいられる。
覚悟が決まったとか、そんな静けさではなく、ただ目の前だけが開けて見える。
今はただ……。
『恐れることはない。それは確かにまだ、お主の中にある』
まるでピエドラが今思い起こした記憶が見えていたかのように、老人は言った。
『お前さんは再び窮地を越えられる。信じるのじゃ』
「……!」
落ちていく指先に、確かに巡り始めた。
それが何かを、今はピエドラは知りようもないが。
『杖を握れ。自分の中に絶え間なく流れるものに集中し、深く呼吸するのじゃ。その呼吸とともに……』
老人が言い終えるかのところで、ピエドラはポプラの杖を目の前まで引き寄せ、両手で包むように握り直す。
青い蝶の舞うあの森で『返ってきた』魔術の息吹きが、すでにその手の周りに集まり始めていた。
やはり今はこれ以外の魔術は使えない。
それでも、今はこれ以上の選択はないだろう。
――強い風は炎に負けない。逆にそれを吹き消す。
今は風を。その極みを。
それは確かに、あの日の自分の中にあった。
「――嵐よ!」
杖を握り、半ば叫ぶように呼ぶ。
瞬間、地面に叩きつけられそうだった体を、何かが空中へと押し上げた。
地面を滑るように大気が集まって、ピエドラの体を吹き上げたのだ。
そして。
絶壁の古城を、その一つの棟をまるごと包むような気流が立ち上った。
風と風が石の壁を通してつながり、まさに地面から沸き起こってそのまま壁を侵食するように、巨大な竜巻が城を破壊する。
竜巻は屋根の折れた尖塔を、そこで燃え盛っていた鉄の巨人ごと包み、古城の壁をただの石の塊に戻しながら空中を舞い踊らせた。
風に破れた壁の中から、回廊に置かれた彫像やら額縁やらが風に乗って空高く舞い上がる。
館の扉という扉が開いて、中で燃え上っていた炎を瞬く間に吹き消していった。
「な、何だ? 何が起きてる?」
機械人形に乗ったまま竜巻に巻き込まれた小男が、パニックになったのか滅茶苦茶にその手足を動かす。
そして。
「うわあああ!!」
機械人形が竜巻の中で逆さになる。
真下を向いた操縦席から、小男は一気に宙に投げ出された。
聖典が彼の腕から抜け、中身をバタバタ開きながら空高く舞い上がっていく。
ピエドラもまた、風に乗って雲に届くかというところまで一気に吹き飛ばされていた。
もう何を考える余裕もない。頬をかすめるように瓦礫やら美術品やらが容赦なく飛んできて、空中で自分とまぜこぜになる。
「やりすぎた……」
天へ向けて呟く声が、風の音にかき消されていく。
嵐がおさまったのは、すべての炎が城から消え去るころだった。
猛烈に吹き上げていた風は次第に止み、バラバラになった石の塊が地上に降り注ぐ。
竜巻が発生した場所からえぐれるように、城郭は崩れ、ほとんど瓦礫と化したその上に、今や鉄屑となった機械人形の残骸がどさりと突き刺さった。
しばらく手足をもがかせながら宙に留まっていた小男の方は、何とか壊れず残されていた屋根の上に落下する。
彼はしばらくその傾斜を転がり、屋根のふちを越えて下に落ちそうになる所で、幸いにも着用していた長いローブが突き出た出窓に引っ掛かって一命を取り留めた。
そのまま、先程まで魔女を追い詰めていた炎の魔術師は、体だけで屋根のふちから宙に投げ出される。自分の足下に抜ける光景に、彼はそのまま青くなりながら息を飲んだ。
残る風に乗ってふらふらと空中遊泳していたピエドラも、何とか彼の近くに着地する。
杖を突きながら立ち上がって見上げれば、天からヒラヒラと何かが降りてくるところだった。
「ギャラクシア……。ほんとに手のかかる聖典ね」
どっしりと空から降りてきた古の魔導書を、魔女は何とか両手で受け止める。
気付けばすぐそばに、着物の袖を組んでこちらを見る聖典の番人の老人の姿があった。
『切り抜けたな、ピエドラ』
その言葉に、魔女は何か答えようとして。
そしてすぐそばで足を宙にバタバタさせながら、何事か喚いている小男の姿に気付いた。
「どうしよう、あれ……」
困惑するピエドラに、老人が顎で彼方の方を指した。
『心配せずとも、向こうから狩人が来るようじゃ。彼らが何とかしてくれるじゃろう』
「狩人?」
見れば中庭を挟んだ向こうの棟の方から、城にいた人さらいの手下達とは違う雰囲気の、まるで兵士のようにきびきび走る男達の集団がこちらの方へやって来るところだった。
彼らの後ろからは、人さらいに捕まっていた女達だろうか……疲れきった様子の娘達が重たい扉をくぐって次々と夕陽の下へ出てくる。
向こうの棟で何があったのかは知らないが、どうやら何者かが人買いの被害者達を解放したらしい。
ピエドラと同じときに、水路を爆発させてこの城に侵入をはかった者の仲間だろうか。
『悪魔城の終わりじゃな。文字通りというか見た通り』
「これ……あたしどっかから城の改修費用とか請求されたりしない? ……大丈夫よね?」
とんでもない大風を呼び起こした明るい色の杖を片手に、ピエドラはこちらへ駆けてくる人々を眺める。
大半が瓦礫と化した城郭の上。
ポプラの杖を携え反対の手に聖典を抱えた魔女は、少しだけ……ほんの少しだけ微笑みながら、夕陽に照らされる辺りの景色を見渡していた。




