すまんクランネ
俺に残された時間は今日の深夜11時59分まで。秘策としていた高難易度討伐ももう残っていない。
前に売った服のようなものが残っていれば少しは必要金額の足しになるのだが⋯⋯。
収納スキルの中身を確認したところ数々の本、数着の着替え、そして、あのパンツを確認できた。
まず本だが、中古では大した金額にならない。すべてを売ってもせいぜい銀貨2~3枚程度だ。大銀貨8枚にはだいぶん足りない。
次に着替え、これも着用済みのものなので売ってもすずめの涙である。
最後にクランネのパンツ、これも着用済みなので⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯むしろ売れそうなんだが。
普通のクランネのパンツより高くなりそうな感じまである。さらに売るあてもある。あの親衛隊まがいの狂信者達だ。大銀貨8枚も即決で払うんじゃないか?
だが魔物助けのためとはいえ、女の子のパンツを売っていいものか⋯⋯。
流石に可哀想すぎるか?でも⋯⋯。
俺は、自分の神生でもトップレベルで悩んだ。結果!
神王を裏切ったという不敬の名目で売ることにした。
ほ⋯⋯ほら、神に仕える仕事のくせに神王を裏切るなんて問題じゃないか?
いや言い訳はよそう。今度もし会ったら少し優しくしてやろうじゃないか。
こうして俺は親衛隊たちのいる広場へ向かうことになった。
ごめんよ。
「クランネちゃんとは何だ!」
「「「女神だ!!!」」」
「我らは何だ!」
「「「その騎士だ!!!」」」
「クランネちゃんに仇なす輩には!」
「「「死を!!!」」」
いやーやってるやってる。やっぱり近づきたくないなあ。でも我慢しなければ。
「あのーすんません。」
「おお!貴方は先日の青年。もしや親衛隊に入られるのですかな?」
前に親衛隊へと勧誘してきたおっさんが俺に気づく。
「いえ、その皆さんにお話があって。」
すると親衛隊全員の興味がこちらへ向く。
覚悟を決めろ!俺は神王だ。この程度の事、難なくやってみせる!そう心で唱え、すーっと深く深呼吸をした。
「お前らっっっ!!!これが何かわかるか!!!」
そう高らかに叫びパンツを天に掲げる。
すると親衛隊の中の1人が
「あっ!あれは、三日前にクランネちゃんが履いていたパンツだっ!」
と叫んだ。こいつら怖い!何でその日のパンツなんか知ってんの!?
「そ、そうだ!お前らこれが欲しくないかっ?」
途端、親衛隊たちのざわめきが爆発的に増加した。
「何だって!?」
「欲しいに決まっているだろう!!」
「な、お前の望みは何なんだ?世界を揺るがす力か?不老不死の肉体か?」
どうやら交渉は上手く行きそうだな。あと最後の人、神でもないのにそんなもん与えれるのか!?ちなみにどっちも持ってるからいらない。
「そうだな。俺が望むのは⋯⋯。」
ゴクリっと親衛隊たちが唾を飲み、静かに聞く姿勢をとる。
「大銀貨8枚だっ!」
「⋯⋯⋯⋯。」
何やら絶句しているようだ。まさか高かったとか?いやでも不老不死とかより安いはずだと思うんだが。
「安い、安すぎる!!!」
「サイコーだよあんた!!!」
「あなた様は神かっ!」
ええ、神です。それにしてもやはり即決とは⋯⋯。上手く行き過ぎて恐ろしいくらいだな。
すぐに隊員達全員で金を集め、大銀貨8枚が用意された。
「あなたを名誉隊員に任命します。もはやここまで我らが親衛隊に尽くして頂けるとは⋯⋯!」
「あ、ああ。じゃあこれ例の品な。」
そう言って隊長のおっさんにパンツを渡し大銀貨の入った袋を受け取る。
「おお⋯⋯。おお⋯⋯これが聖布⋯⋯。」
何やらトリップしているようだったので俺は足早にその場を離れた。
あれ?何気に親衛隊に無理やり入れられなかった?それに拒否し損ねた気が⋯⋯。
さらに面倒事を抱え込むシオンであった。
さて、サキュバスの宿についたな。
途中、何度かピンチに陥ることもあったが何とか必要金額を手に入れることが出来た。
めちゃめちゃ後ろめたい金だがなっ!
ただ、これであのサキュバス少女⋯⋯リリを救ってやれる。やっぱり知り合った人が辛い目に会うのをただ見過ごすのは気分が悪い。
いや、クランネの件はね?後で挽回できる類の不幸だから。
クランネに対する罪悪感に苛まれながらも俺は宿へと入っていった。
「あ、また来たね、お客さーん!リリ今日で最後だからー抱いてくれちゃったり?」
「しないが、ちょっと店主に用があってな。お前も付いてきてくれ。」
比較的元気に挨拶をしてきたリリだがやはりどこか空元気なように見える。
そのままリリの案内でサキュバスの宿の店主の部屋に通された。
余談だけど『サキュバスの宿の店主の部屋』って響きだけでもかなり卑猥じゃない?そんなことない?
「ふふ⋯⋯こんにちは可愛い冒険者さん。」
店主の部屋に居たのは黒髪で目元の泣きボクロがとても色っぽいお姉さんサキュバス。
スタイルは言わずもがな。すっごい。
一応16で成人なはずだけど18でも可愛い冒険者さんか⋯⋯。その中身はとんだ化物寿命だけど!
「それで、何か用があるってこの娘に聞いたのだけれど。」
「ああ、リリを買い取りたいんだが。」
そういうと驚いたように目を丸くし次に哀しそうに、諭すように首を振った。
「その娘はね、貴族様に目をつけられていて今晩には買われる予定なのよ。貴族様よりも早くお金を用意できれば良いのだけれど⋯⋯一括で金貨5枚。見たところ坊やは貴族様のお子様でも名のある冒険者でもないでしょう?厳しいわね。」
坊やですか、そうですか。
「これで良いのか?」
そう言って俺は袋をお姉さんサキュバスに渡す。
お姉さんサキュバスは袋の中を確認して、さらに驚いた顔をした。
「これ⋯⋯金貨。」
「金貨4枚と大銀貨10枚で、ちょうど金貨5枚分だな。確認してくれ。」
「ええ⋯⋯確かにあるわ。それじゃあ⋯⋯。」
と、そこまでほうけたように事の成り行きを見ていたリリが口を開いた。
「えっ?どういうこと?アタシお客さんの物になるの?ブヒータの所に行かなくていいの?」
「ええ⋯⋯そうよ、良かった⋯ほんとに良かったわ。」
そう言ってふっと糸が切れたように崩れ落ちそうになるお姉さんサキュバス。
おっと、支えますぜお姉さん。
「あらごめんなさい。安心したら気が緩んでしまって。でも本当に嬉しいわ。あの豚貴族に何度も脅されて⋯⋯ついには無理やり売らされることになってしまって気が気でなかったの。」
「俺が悪い奴だって可能性もあるぞ?」
「ふふ大丈夫よ。坊やの事はリリから聞いていたもの。サキュバスである自分を道具や性の捌け口として見ずに1人の女の子として優しくしてくれる変な人だって。1度も手を出していないんでしょう?ヘタレな童貞かと思ったけど、今日見たら評価を改めなければいけないわね。」
「そいつは結構。」
そう言ってリリを見ると
「えへへー、お客さんがご主人様かぁー。」
と嬉しそうにしていた。奴隷扱いする気はないのだが、幸せそうならいいか。
しかし1つ問題残っている。今日の日付が変わると共にここに来るというブヒータだ。貴族に敵視されたら目立つよなぁ⋯⋯。
そんなことを考えながら来るべきブヒータとの争いに向けて策を練ることにした。
『神王』は『奴隷サキュバス』を手に入れた。
クランネちゃん可哀想に。




