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神様が仕事を放棄して下界に降ります  作者: 三宮 琳
第一章〜ヒズミルの町の残念な人たち〜
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貴族なんて怖くない!

 時間はもうすぐ24時、そろそろ件のブヒータとかいう貴族が来る頃だ。何とか目立たないように事を収めたいけど、無理だろうなぁ。


 しばらくすると宿の前にひときわ豪華な馬車が止まり、中から丸々と太った裕福そうな男が降りてきた。


 それを店主とリリ、それに俺が迎えにいく。ブヒータは俺には目もくれずに店主のお姉さんに詰め寄った。


 「ぶふふっ、店主よ約束の日だ。早くリリを寄越せ。あぁどうやっていたぶってやろうか。」


 「今晩は。マルマール様、その事なのですが、リリはもう売れてしまいまして。」


 「何だとっ?金貨5枚だぞ?このブヒータ様でさえ一度家に金を取りにいったのに、平民なんぞが急に買えるわけないだろう!」


 「他の貴族様かも知れませんよ?」


 「それは無い!他の貴族連中共には手を出さないよう根回ししたからな!店主よ、余計な言い回しはいらん!誰が買ったか話せ!」


 ブヒータは真っ赤になって汗をかきながら怒鳴り散らす。店主さんがこちらに話してもいいかの確認の視線を送ったので俺は頷いてやった、。


 「リリを買ったのはこちらにいる⋯⋯そういえば坊やの名前は聞いてなかったわ?」


 「シオンです。」


 「こちらにいるシオンさんですわ。日付が変わる前にリリを買われて行かれました。」


 そこで初めてブヒータの視線がこちらへ向く。うわ、そんなに睨むなよ。


 「平民。どうやって金を稼いだか知らないがそこのリリはこのブヒータ=マルマール様が目をつけていた奴隷だ。それを知って手を出したのならば相応の覚悟は出来ているのだろうな!」


 「はあ⋯⋯、そんな覚悟は無いんですが?具体的にはどうなるんですか?」


 するとブヒータはニヤリと笑う。


 「ぶふふっ、そうだなぁこのブヒータ様に逆らった平民共は皆なぜか夜道で賊に襲われたみたいだなぁ。お前はどうなる事やら。」


 「それは怖いですね。ご忠告どうも。」


 「だが寛大なブヒータ様はその奴隷を譲るだけでお前を守ってやれるかも知れんぞ?」


 こいつ白々しい⋯⋯。そんなもん答えは決まっている。


 「残念ですがその取引は辞退させて頂きます。俺はリリを手放す気はさらさら無いんで。」


 「ぶぶぶぶっっ!!生意気なぁー、クソっ!平民、お前シオンとか言ったな?覚えたぞ!このブヒータ様に楯突いて無事でいられると思うな!」


 そう言ってブヒータはドカドカと足音を鳴らし馬車へ戻っていった。何やら報復するような事を言っていたが、まあ大丈夫だろ。


 「お客さん⋯⋯その、良かったの?」


 ここまで口を開いてなかったリリがやっと俺に声をかける。


 「ああ、もちろん。そういえばお前にも名乗ってなかったな。冒険者シオン、Eランクの駆け出しだ。よろしく。」


 「えっとサキュバスのリリです!シオン様?ご主人様?旦那様?」


 「好きなように呼んでくれ。」


 「じゃあ念願のアタシの主だし、ご主人様で!」


 「それでいきなり話の腰を折るようで悪いんだが、俺はリリをサキュバスの奴隷本来としての扱いをするつもりは無いんだ。」


 「それって坊やは手を出すつもりは無いってことかしら?」


 店主のお姉さんサキュバスが口を尋ねてくる。


 「ああそうだな。だがそれはサキュバスにとっては嫌なことかもしれない。だから俺はリリを自由にしてやってもいいと思っている。リリはどうしたい?」


 「なんで手を出しくれないのー?って気持ちもあるけど、アタシはご主人様について行きたいかなっ!」


 リリは元気よく答えた。本人も良いなら問題ないだろう。


 「わかった。じゃあリリ、明日から俺についてきてくれ。じゃあ今日は遅いしもう俺は寝る、それで店主さん相談なんだが⋯⋯。」


 俺はリリを買うために全財産を使いすっからかんだという財布事情を話した。


 「もちろん無料で泊まっていって構わないわ。この娘の恩人だもの。」


 店主さんは快く承認してくれた。


 「リリ、良いこと?坊やはあんな事言っていたけれど必ず仕留めて見せるのよ。大丈夫アナタは可愛いわ。坊やも年頃なんだから必ず機会はあるはずよ。」


 「はい!リエラさん。頑張りますので期待していてくださいね!」


 何やら宿屋の2人がコソコソと話をしていた。まあ全部聞こえているんだが!なんかちょっと怪しいと思ったから神の力で聞き耳立ててみて正解だったよ!


 ちなみに俺はリリに興味がないわけではない。むしろ手を出したいくらいだが!ここで邪魔なのが神王の立場。おいそれと妾や愛人を作るわけにはいかないし、そもそも人間界の人たちを神達に巻き込んではいけない。


 なんという生殺し!いやまあやろうと思えば何事にも動じない心を持つことも出来るが、ここは人間界。俺の身体は俺が望まない限り基本的に多くの人々と同じような性能に作り替えている。


 だから一日で眠いし腹も減るんだ。


 それと関係ないんだがサキュバスのお姉さんはリエラさんって言うのか、覚えておこう。


 坊やって言われるのも新鮮で楽しかったしな。楽しかっただけだ!決してそう呼ばれるのがストライクだった訳では。


 その後俺は3度目となる最高級ベッドとの邂逅の後、心地よい眠りへとついた。


『神王』は『豚貴族』を追い払った。
















 その頃人間界、ある教会の一室にて


 「⋯⋯と、言うわけなの。」


 「神王様の城からの逃亡ですか。⋯⋯お姉様に迷惑をかけるなんて神王様は何様のつもりですか!許せません!」


 「いえ私たちの王様なんだけれど⋯⋯。」


 「それでも私はお姉様の方が大切なのです!例え神王様と言えどお姉様に仇なすのなら⋯⋯」


 「そんなに大切に思ってもらえて嬉しいわ。でもね、これは覚えておいて。どんな事があれども私たちが従うべきはあの方だけよ。」


 「それはそうですが⋯⋯。」


 「わかっているなら結構よ。さて話がそれてしまったわね。それで捜索に協力して貰えるかしら?白女神(・・・)ちゃん。」


 「はい!必ず豊穣神(・・・)お姉様の役に立って見せます!」


 「ええ頼もしいわ。天界のルールで神王様のお姿を許可なく貴女に教えることが出来なくて申し訳ないわ⋯⋯それじゃあまたお茶しに来るわね。」


 そう言って部屋から豊穣神の姿が消えた。


 「捜索か⋯⋯とは言っても私は神王様の姿を知らないし、それに神王様って何がすごくて王様って言われてるのかしら?私は神王様が働いているところを見たことが無いわ。」


 一人になった空間で呟く白女神。


 「どうせお飾りの王で、威張り散らしているのでしょう。今回の逃亡だってきっとただのわがままですわ。」


 彼女は比較的新しい神なので、外へ出て働いている神王を見たことがなかった。神王はここ数千年はずっと城でデスクワークをしていたのだ。


 「神王を捕まえたらお姉様に迷惑をかけたことを説教してやりましょう。」


 ついに様付けまでなくなってしまった。彼女のこの決定が後に彼女にとっての惨劇を引き起こすとは知らずに⋯⋯。



生殺シオンくん

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