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神様が仕事を放棄して下界に降ります  作者: 三宮 琳
第一章〜ヒズミルの町の残念な人たち〜
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サキュバス少女を部屋に連れ込んでみる

ブックマークしてくれる方がいて、とっても嬉しいなぁ。

 冒険者ギルドを後にしたが、依頼を受けることを忘れていた俺は、格好がつかないので戻ることはせずにぶらぶらと店を見て回っていた。


「あー、その本とさらに右の本。あとそこの2冊もくれ。」


「毎度あり!」


 俺が買うのはだいたい本だ。人間界の知識はある程度持っていたつもりだが、長く城にこもりすぎて、細かい知識が抜けている。


 だからこうしてちょくちょく本を買い、知識の補完をしていくのだ。


 そんなこんなで今日の日中は終わってしまった。俺は夕飯に買った露店のサンドイッチを頬張りながら今日の宿について悩んでいた。


 俺は正直言って『サキュバスの宿』の高級ベッドを気に入ってしまった。もしかしたら神王城の自室並みにいい寝心地かもしれない。


 だが、前回と違い今回はあの宿がどういう場所か理解している。知らずに入るならともかく、二度目となると少し抵抗があるのだ。


「カイめ⋯⋯。余計な良い仕事をしやがって⋯⋯。」


 俺はこの葛藤の元凶である門兵の友人を思い浮かびながら軽い恨み言を吐いた。
















 結論から言おう。『サキュバスの宿』に俺はきた。


 だってサキュバス(の宿のベッド)じゃないと満足出来ないんだもの!


 こうなったらサキュバスの宿、開店以来初のただ泊まり続けるだけの客になってやる!


「こんばんは!」


 そう勇んで宿へ入っていくと


「⋯⋯。ああ、いらっしゃい。変なお客さん。今日も泊まるだけ?なら銀貨1枚ね。はい、これ鍵。」


 昨日とは打って変わってテンションの低いサキュバス少女のリリがいた。どこか元気の無い顔に、力無くしなだれるサキュバスの尻尾、いつもより艶のないピンク髪。明らかに今日の日中に何かあったようである。


「元気ないな、どうした?」


 そのまま鍵を受け取り部屋へ行くのも気分が悪いので、声をかける。


「あー、ちょっとね。」


 普段なら冗談でも言ってきそうな彼女が、言葉を濁して目を泳がせる。


 今朝も元気な彼女に見送られた身としては、ここまで落ち込んでいるのを見ると、ちょっと何とかしてやりたくなる。だから俺は


「今日一晩俺の相手をしてもらえるか?追加でいくらだ?」


「え?アタシ?銀貨5枚だけど⋯⋯。あーもしかしてお客さん、今日起きたこと知らないかんじ?なら悪いことは言わないからやめといた方が⋯⋯」


「いいからいいから行くぞ。」


 そう言って追加で銀貨5枚を払い、サキュバス少女の手を引き部屋まで連れていった。


「ちょ、お客さん強引!」


 部屋に入るとサキュバス少女⋯⋯リリをベッドへ座らせた。


「もー⋯⋯せっかく我慢してたのに。仕方ないにゃあ♡」


 何か言っているリリをいったん放っておいて、俺は部屋に備え付けられているキッチンへと向かった。


 何故に宿の部屋一つ一つにキッチンがあるかというと、料理を作ってくれる新婚の妻と⋯⋯というプレイを楽しむため、と説明書きに書いてあったので見なかったことにした。


 キッチンにて俺は1つスキルを解放することにした。神気を練り、欲しい能力を形作る。程なくしてスキル作りは成功した。


 今回作ったスキルは『食材創造』。


 文字通り食材を魔力を使って作り出すスキルだ。本当はこういう物価のインフレを引き起こしそうなスキルは持ちたくないんだが⋯⋯。今回は仕方ない。


 ちなみに『食材創造』で作り出せる食材は自分の食べたことのあるものだけである。図鑑で見たことがあるなどでは作り出せない。


 早速スキルで食材を作り出す。


 作ったものはリンゴ、バター、小麦粉、シナモン、砂糖などなど⋯⋯


 そう、アップルパイのレシピだ。ちなみに出した食材にはすべて頭に『神の』の文字がつく。


 本来ならリンゴを煮たりパイ生地を作ったりの手間があるんだろうけれども、そこは神の能力で食材から一気に完成品まですっ飛ばして作る。


 数秒でできた。そしてその数秒でスキルなんか使わずとも最初から神の力でアップルパイの完成品を出せばいいことに気づいた。だが取ってしまったものは仕方がない。反省しよう。


 ベッドで待たせていたリリにアップルパイを持っていく。


「え?お客さん、いつの間にそんなものを!?」


 「いいから食べてみろ。」


 そう言って何故か下着だけの姿になっていたリリの口に一口サイズに切り分けたアップルパイを入れてやる。


 「〜〜!!!」


 「どうだ?」


 「美味しいっ!今まで食べた中で1番!どんな人間よりも美味しいっ!」


 「そ、そいつは結構だ。」


 人間ってどんな味なんだよ⋯⋯。いや深くは考えまい。


 「それで・・・・・・元気はでたか?でたなら何があったのか聞かせて欲しいんだけどな。」


 「うん。でたよ⋯⋯。それは⋯⋯」


 そう言って少し悩むと彼女は意を決したように口を開いた。


 「貴族の⋯⋯ブヒータ=マルマールって知ってる?」


 「いや知らん。なんだその豚みたいな名前は。」


 「うん、その通り。醜い豚みたいな男だよ。」


 「そいつがどうかしたのか?」


 「そいつに買われることになっちゃったの。」


 「それまた何で?サキュバスは、なるとしても高級奴隷だろ?仕える相手を選ぶことができるはずだ。もしかしてそういうのが好みか?」


 「とんでもない!女の子を自分を満たす道具としか見てない最低野郎だよ?でもマルマール家はここら辺一帯を治めている貴族で⋯⋯前から買われるようしつこく迫ってきたんだけど、ずっと断っていたら、とうとうお店にまで圧力をかけ始めて⋯⋯。」


 「なるほど何となくわかった。」


 「お店の方もなるべく私に良くしてくれようとして、一番最初に私を買えるだけの金額を払った人に売るってことにしてくれたんだけど。私が売られるって決まったのは今日だし。そんなにまとまったお金をすぐに用意できるのはここら辺ではマルマール家くらいだし⋯⋯。」


 「そうか、ちなみにいくらなんだ?」


 「金貨5枚よ。もしかして、あてがあったりする?」


 「いやそんな大金は持ってないが。ブヒータとか言うやつが買いに来る日は?」


 「そうだよね。期待するだけ虚しいだけか⋯⋯。3日後の日付が変わる時間にだよ。」


 せめて道具みたいに扱われて壊されるような事が無ければ嬉しいな、と呟く彼女を見て俺はある決心をした。


 彼女を助けてあげようと思う。多少目立つような手段をとってでも。話を聞いた俺はもはや他人事だと彼女を切り捨てることはできない。


 また同情を引く演技を使って俺に買わせようとしているかを疑って、少し力を使って心を読んでみたが、彼女は純粋に落ち込んでいた。さらに泣きそうになるのを我慢し、無理をして俺にこの事を話してくれたのだ。ならば


 彼女は俺が神王(オレ)の名にかけて救って見せよう。


『神王』は『魔物助け』の決意をした。

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