↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形伯の愛し方~異世界転生したら罪人認定されました。赦免のためにコミュ障辺境伯と偽装婚約します~  作者: 甘酒ぬぬ
5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/55

5-8 責任と期待

「なんか、色々ありましたね……」


 何から触れていいのかわからず、エメルは曖昧な感想を口にした。


 しかし、目だけは勝手にアルドの唇を見つめてしまう。

 ヒューが去り際にあんなことを言わなければ、きっとここまで意識しなかった。


「ああ」


 アルドは短く応え、軽鎧を脱ぎ捨てた。

 突然の行動と、鎧が床に落ちる重い音にエメルはぎょっとする。


「体力はあるつもりだったが、着慣れていないと疲れるな」


 アルドは首を横に倒したり、肩を揉んだりして身体をほぐしている。

 単に重いから脱いだだけとわかり、エメルはほっと胸を撫で下ろした。


(変に気にし過ぎてる私。もっと普通に、普段通りに――)


 エメルは意識的に呼吸をし、心を落ち着かせようと試みる。


「ひとまず、外に出ないか? ここは空気が良くない」


 アルドは顔の前で手を払った。


「ここってどこなんですか?」

「老朽化が原因で使われなくなった製糸小屋だ。一時的に身を隠すにはうってつけの場所だな」


(ケーキ屋さんの近くに桑畑があったな。あのあたりなのかも)


 エメルはテラス席で見た光景を思い出した。

 あの時はこんなことになるなど予想もしなかった。


「歩けるか」


 アルドは当たり前のように手を差し伸べる。

 出会った当初は握手すら抵抗があったのが嘘のようだ。


「歩けますけど、手は繋ぎたいです」


 手を引っ込められる前に、エメルは素早くアルドの手を握った。

 もっと可愛げのある言い方ができたかもしれない――と軽く後悔しつつ、離れないように指を絡めた。

 アルドの手はいつも通りに温かく、触れているだけで安心する。


「直接接触で魔力の受け渡しができるって言ってましたけど、これもいくらか補給になるんですか?」


 エメルは握った手を持ち上げた。


「気休め程度には、な。抵抗がなければ、血液を飲むのがもっとも効率的だ」

「蚊じゃないんだから、抵抗しかないです!」


 小屋から出ると、西の空がうっすらと赤くなり始めていた。


「眼鏡なくても見えてるんですか」


 エメルは空いている方の手を、アルドの眼前で揺らした。


 夕焼けが夜空に変わるのはあっという間だ。

 視力が悪いと夜道を歩くのは難儀だろう。


「問題ない。伊達だからな。度は入っていない」


 アルドはしれっとうそぶいた。


「えぇ? 本当は視力良いってことですか」

「人並み程度には見える」

「それじゃあなんで眼鏡を?」

「……人と直接目を合わせたくなかった」


 一瞬言葉に詰まった後、アルドはエメルの目を見つめた。


 別人――とまではいかないが、髪を下ろし、眼鏡を外しているアルドは印象が違う。

 特に、眼鏡のレンズを通さないで見る瞳は水を湛(たた)えたように綺麗だった。

 うっかりするとつい見入ってしまう。


「……言ってることとやってること違いません?」


 見つめられている恥ずかしさと、見惚れてしまう恥ずかしさが合わさり、エメルは不機嫌気味に顔を逸らした。


「君は例外だ」


 アルドの目元がやわらいだ。口角も少しだけ上がっている。


(なんかこう、核心をつく言葉を器用に避けてる気がするんだけど、私の思い込み? はっきりさせた方がいい? それとも私から先に言うべき?)


 エメルは何も言えず、代わりに握った手に力を込めた。

 アルドは繋いだ手を不思議そうに見遣り、ゆっくりとまばたきをする。


「何故、君だけが他と違うのだろう」


 本当に心当たりがなさそうに呟き、アルドは空いている手を自分の顎に添えた。

 頭の中であれこれこねくり回しているのか、眉間に皴が寄ったり、低く唸(うな)ったりと忙しない。


「別に今ここで結論を急がなくても……」


 そこまで悩ませるようなことをしてしまったのかと、エメルは少し申し訳なくなった。


「ダメだ。私は責任を果たさなければならない」

「はぁ、責任、ですか」

「君が言ったろう。責任を取れ、と。私は責任がなんなのか確認すらせずに事に及んでしまった。その前も、偽りでこそないが見苦しい言い訳を――」


 言いかけて、アルドは足を止めた。

 かと思えば、エメルが小走りにならないとついていけない速度で歩き始める。


「ちょっと、アルド?」

「いつ何がきっかけでこのような感情が発露し、論理性を欠いた行動を多発するようになったのか時系列をまとめたい」

「はぁ?」


 エメルにはさっぱり理解できないが、アルド本人としては至極真面目に言っているようだった。


「内省もいいんですけど、先に私と向き合ってください」


 放っておくとまた何日も部屋に引きこもられてしまいそうで、エメルはアルドの手を引っ張った。


 アルドの歩くスピードが落ちる。


「感情が安定していない今、君と直接向き合うと、さらに責任を重くするようなことをやりかねない」


 アルドはしきりに自分の目元に触れた。眼鏡がないと精神的に落ち着かないのかもしれない。


(それって、つまり――)


 推測が結論に至るよりも先に、エメルの顔がかっと熱くなった。アルドが何をするのか想像してしまったことも、それを期待している自分がいることも恥ずかしい。


 アルドの方を横目で窺うと、小難しい顔で何かぶつぶつと呟いている。


(偽装じゃなくなるって、期待してもいいのかな……)


 エメルは小さく吐息を漏らした。

 先ほどから、アルドの面倒くささがこれでもかというくらい発揮されている。嫌いじゃないけれど、いまは少し安心させてほしい。


 夕焼けだった空が夜の色に染まりかけた頃、ようやく屋敷の門が見えた。


 長い間留守にしていたわけでもないのにひどく懐かしい。


 エメルの足取りが軽くなった直後、


「――婚約を破棄しよう」


 ずっと考え込んでいたアルドの口から出てきたのは、信じがたい宣告だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。