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人形伯の愛し方~異世界転生したら罪人認定されました。赦免のためにコミュ障辺境伯と偽装婚約します~  作者: 甘酒ぬぬ
1章

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1-5 新しい名前

「女人の名前、か……」


 アルドは様々な角度からエツ子を眺める。

 見つめられているというよりも観察されている感が強い。


「祖先の名を引き継ぐか、髪や瞳の色から取るのが一般的だ」

「んー、グリーンとかエメラルドとかですか?」


 エツ子は自分の髪を指先に巻き付けた。つるつるのサラサラで触り心地がとても良い。


「ありきたりだな。この地方では古語を参考にすることも多いと聞く」


 アルドは部屋に備え付けの本棚から何冊か分厚い本を取り出した。ぱらぱらとページをめくる。


「緑であれば……『ヴィリデ』、『スマラ』、『ヴェルリナ』、『エメル』――」

「あ、最後のやつがいいです!」

「最後は――」


「『エメル』! 元の名前と同じ音から始まるので!」


 アルドが挙げてくれた中で、「エメル」という響きが一番耳に残った。


「『エメル』、か」


 アルドは手元の本を本棚に戻し、一音ずつ噛みしめる。


「……悪くない」


 目蓋を閉じ、わずかに口角を持ちあげた。

 ほんの数ミリの違いだが、無機質だった横顔に人間らしさが宿ったように見えた。


 エツ子――エメルもつられて微笑む。


 今までと違う世界に違う外見。

 まだ完全には受け入れられていないけれど、名前がついたことで足先が地面についた気がした。


(そういう風に笑ってた方がいいですよ、なんて言ったら怒られるかな)


 ぼんやりとアルドを見つめていると、

 突然、


 バンッ!!


 と鼓膜が痛むくらいの音を立て、部屋の扉が開け放たれた。


「アルベルト! とりあえず手当たり次第持って来たぞ!」


 不必要な大声を上げ、両手にトランクを持った男性がずかずかと部屋の中に入ってきた。

 少し遅れて、同じくトランクを持った長身の女性が肩身が狭そうに入ってくる。


 男性の方は金髪碧眼で、アイドルのような人目を惹く美青年だった。腰には剣を帯び、軽鎧の上から群青色のマントを羽織っている。


 その後ろに付き従う長身の女性も同じ軽鎧姿だった。オレンジ色の髪をポニーテールにした、化粧っ気はないが目鼻立ちのはっきりとした美人だ。


(あぁ、なんか見るからにファンタジーな人が増えた……)


 エメルは頭が重くなるのを感じた。


「もう少し声量を考えろ、ヒュー」


 アルドは男性の方を厳しくにらみつけた。


「考えた結果がこれだ。お前は集中すると人の話を聞かないからな」


 ヒューと呼ばれた金髪の男性は、にやっと不敵に笑ってみせる。


「しかし……まさか、本当にいたのか」


 トランクを適当な場所に置き、ヒューはエメルの方へと近付いた。

 膝を折り、エメルと目線を合わせる。

 戸惑うエメルを気遣ってか、にっこりと笑いかけた。


(ファンサとか上手そう。女の子を沼らせるタイプかな)


 失礼な感想を抱きつつ、エメルも微笑み返す。


「お前のことだから人形にカツラでも被せて『これが婚約者だ』と言い張るのかと思ってたが……意外と面食いだったんだな。いったいどこから連れて来たんだ」


 ヒューは目を細め、含みのある視線をアルドに向けた。


「裏の森だ」

「犬猫じゃあるまいし、そんなわけないだろ。俺に教えたくないのか」

「どうでもいい。早く用意をしてくれ」


 アルドは視線を切るように手を払う。


「っていうかお前なあ、女の子になんて服着せてるわけ? センスが悪いを通り越してもはや冒涜(ぼうとく)だろ」


 ヒューは眉毛を吊り上げ、アルドに人差し指を突きつけた。


(こっちの世界の感覚でも、やっぱこの服変なんだ)


 エメルは着ている服をつまみ上げる。

 布に首を通す穴を空けただけ、という非常に簡素な作りだ。

 てるてる坊主や、幼稚園児が着るスモックに近い。


「男女間のことに口出ししたくはないが、さすがにこの扱いはあんまりだろ。『人形伯』だとかって揶揄(やゆ)されるようなお前を好いてくれる聖女だぞ? 崇め奉ったっていいくらいだ!」


 ヒューの見当違いなお説教はまだ続いていた。

 一見アルドは大人しく耳を傾けているようだったが、組んだ腕の上で、指がせっかちにリズムを刻んでいる。


「あの、ヴァイス辺境伯、ヒュー団長。差し出がましいようで恐縮ですが、お時間の方があまりないのでは……」


 今までずっと控えていたポニーテールの女性が仲裁に入った。


「……ああ、そうだったな。頼む、ミラ」


 ヒューは優しげな笑顔を女性――ミラに向けた。

 ミラはほんのりと頬を染めてうなずく。


「アル、行くぞ。お前にはまだ話がある」


 ヒューは怒りで顔をゆがめ、アルドの腕を引っ張った。


「場所を変えずともいいだろう」

「これから女の子が着替えるってのに、なんでお前は居座る気なんだよ」

「居座りたいわけではない。移動が面倒だ」

「あ? 引きずってやるからじっとしてろ」


 宣言通り、ヒューはアルドを引きずって出て行ってしまった。

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