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『ドレスは淑女の戦闘服です!』
堂々とした足取りで応接室に踏み入ってきたリーゼッテの姿を見た瞬間、エメルの脳裏にミラの言葉がこだました。
今回のドレスも胸元が大きくあいたデザインで、スタイルを良く見せるためにウエスト部分が極端に絞られている。
袖や裾には宝石が縫い付けられており、リーゼッテの動きに合わせて虹色にきらめく。
(うわぁ、『ひと財産背負ってます』って感じ。TPO的には完全にアウトだけど)
社交界など華やかで目立つ必要のある場所ならともかく、見舞いや謝罪に適した服装ではない。
ヒューも「名目」と言っていたし、リーゼッテには謝る気など毛頭ないのだろう。
(もっと派手なのにしとけば良かったかな。でも見舞われる側が華美な格好してたら変だし)
エメルはちらりと自分の服を見遣った。
以前ミラに見繕ってもらったうちの一着だ。
ミントグリーンを基調とした明るく柔らかな印象のワンピースで、草花を模した刺繍がアクセントになっている。
今日は肌寒いので、その上に光沢のあるヴァイス絹のショールを羽織っていた。
可愛らしいが戦闘力はない。
「ご機嫌よう、アル、エメルさん」
リーゼッテは蠱惑的に微笑み、スカートの裾を軽く持ち上げて挨拶をした。
名前を呼ばれこそしたが、その視線はアルドだけに向けられている。
「お元気そうで何よりだわ。傷もまったく見当たらないし。――もしかして、アルの気を引くためにあんなお芝居をしたのかしら」
リーゼッテは目を細め、扇を広げて口元を隠した。
(いやー、ザ・悪役令嬢って感じ。社会に出たら嫌でも人って丸くなるけど、この性格が矯正されてないってことは周りに注意したり叱る人がいなかったんだろうな)
謝罪する気がまったくないリーゼッテがいっそ清々しく、エメルはビジネスライクな笑顔を維持しやすかった。
「まぁまぁまぁリーゼッテ嬢。怪我がないならそれに越したことはないでしょう」
リーゼッテ側の護衛として同行しているヒューが取りなす。
リーゼッテが市中をまわる際は、自身が連れてきた従者ではなく、辺境騎士団の者をつけさせているらしかった。
今日はヒューとミラの二人がリーゼッテの後ろについている。
なんとなく味方を奪われたようでいい気はしない。
「確かこのお屋敷には使用人がいないのだったわね。ミラ、喉が渇いたから何か持ってきて」
リーゼッテは室内を見回し、つまらなそうにため息をつく。
「は、はい。あの、エメル様、キッチンをお借りしても……」
ミラはひどく怯えた様子で申し出る。
「ごめんなさい、気が回らなくて。私がやります」
「来客への給仕は君の仕事ではない」
エメルが踵を返す前に、アルドに腕をつかんで引きとめられた。
「私が飲みたいのでお茶を淹れるだけですよ」
エメルはやんわりとアルドの腕を外し、キッチンへと向かった。
なんとも言えない顔をしたミラも後をついて来る。
「ミラさんも待っててくれて大丈夫ですよ」
「いえ、エメル様ひとりにお任せしてしまうわけには。言いつけられたのは私ですし」
いつもの快活な雰囲気とは違い、ミラの笑顔には隠しきれない翳りがあった。
ミラとはそれ以上これといった会話もなく、紅茶と焼菓子を用意する。
エメルが応接室に戻ると、アルドとリーゼッテはテーブルをはさんで向かいのソファにそれぞれ座り、ヒューがリーゼッテ側の後ろに立っていた。
にこにこと上機嫌なリーゼッテとは対照的に、アルドは腕組みをして口をきつく引き結んでいる。
ヒューは微笑を浮かべてはいるものの、しきりに胃のあたりをさすっていた。
三人の空気のちぐはぐさに、見ているこちらの方が居たたまれない。
「お待たせしました」
エメルは努めて明るく声をかけ、お茶を配る。
「――ごめんなさい。今日は紅茶の気分ではないの。そうね……できればコーヒーをいただきたいわ」
リーゼッテがテーブルの上のカップを押しのけたのは、エメルがアルドの隣に座ってひと息つこうとした瞬間だった。
(だったら最初から言えよ!)
エメルの口から危うくガラの悪い言葉が飛び出そうになる。
(でもきっと、仮に最初からコーヒーを用意してたとしても、『本当は紅茶が良かった』って言うんだろうな)
リーゼッテほど露骨ではなかったが、他人の行動に干渉して優位に立とうとする人は「エツ子」だった時にも周囲に何人かいた。
まともに取り合うと馬鹿を見るか、最悪の場合、舐められて支配される。




