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人形伯の愛し方~異世界転生したら罪人認定されました。赦免のためにコミュ障辺境伯と偽装婚約します~  作者: 甘酒ぬぬ
4章

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4-8

「まったく、君と話していると話が逸れてばかりだ」


 言葉とは裏腹に、アルドの口元には笑みが浮かんでいた。


「あまりこういう不確かな言葉を使いたくはないが、君がその身体に転生したのは奇跡のようなものだろう。空だった器に君が入ることによって、人として生まれ直した――私はそう解釈している」


 アルドは柔らかく微笑み、しっとりと濡れたエメルの髪をほぐすように撫でおろした。


「あ……」


 エメルは思わず声を漏らす。

 声というよりもほとんど吐息に近かった。


 今のようにはっきりと笑うアルドを見るのは初めてだった。


 目が離せない。

 けれど、惚けている自分の顔も見られたくない。


 エメルはとっさに顔を両手で隠してうつむいた。

 不自然なのはわかっている。けれど他にどうしていいか何も浮かばない。


「どうかしたのか?」

「えーっと、あの、あー……そうだ! 私、全身濡れてるのに思いっきりしがみついてごめんなさい!」


 動揺から声が無闇に大きくなってしまう。


「いまさらだ。迷惑なら即座に押しのけている」


 仕立て屋で、アルドがしなだれかかってくるリーゼッテを押しのけていたのを思い出した。リーゼッテには申し訳ないがエメルは少しだけ嬉しくなる。


「それに上には数日分の着替えの用意がある。ここで寝泊まりすることも多かったからな。多少濡れたくらい問題はない。それよりも――」


 アルドはエメルの肩に手をかけた。

 力がかかり、エメルの身体が緩やかに倒れ込む。


「ぅえっ!?」

「しっかりと浸かっていろ。座ったままでは吸収効率が悪い」


 アルドは嫌味のない力で押さえつけ、恋人や夫婦でしかあり得ない距離でエメルを見つめる。


「っ! そこまでしてもらわなくても大丈夫です! ちゃんとおとなしく寝ます!」


 エメルは顔を背け、唇を噛みしめた。


「……わかればいい。着替えてくる」


 アルドの手が離れる。


 触れられていた部分の温度が急に下がったような気がし、エメルは肩を抱いた。


(アルドはどう思ってるんだろう、私のこと。人形が人になったから興味があるだけ? 燃料が完全に切れると取り返しがつかないから、丁寧に扱ってくれてるの?)


 一つ解決すると、次から次へと気になることが湧き出てきた。

 まだ起こってもいないことを想像して不安になる。


 些細なことで嬉しくなったり気分が落ち込んだり。

 自分の感情のはずなのに手に負えない。

 正解を選べない。


 ずっと、今までうまくやれていたのに。

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