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「まったく、君と話していると話が逸れてばかりだ」
言葉とは裏腹に、アルドの口元には笑みが浮かんでいた。
「あまりこういう不確かな言葉を使いたくはないが、君がその身体に転生したのは奇跡のようなものだろう。空だった器に君が入ることによって、人として生まれ直した――私はそう解釈している」
アルドは柔らかく微笑み、しっとりと濡れたエメルの髪をほぐすように撫でおろした。
「あ……」
エメルは思わず声を漏らす。
声というよりもほとんど吐息に近かった。
今のようにはっきりと笑うアルドを見るのは初めてだった。
目が離せない。
けれど、惚けている自分の顔も見られたくない。
エメルはとっさに顔を両手で隠してうつむいた。
不自然なのはわかっている。けれど他にどうしていいか何も浮かばない。
「どうかしたのか?」
「えーっと、あの、あー……そうだ! 私、全身濡れてるのに思いっきりしがみついてごめんなさい!」
動揺から声が無闇に大きくなってしまう。
「いまさらだ。迷惑なら即座に押しのけている」
仕立て屋で、アルドがしなだれかかってくるリーゼッテを押しのけていたのを思い出した。リーゼッテには申し訳ないがエメルは少しだけ嬉しくなる。
「それに上には数日分の着替えの用意がある。ここで寝泊まりすることも多かったからな。多少濡れたくらい問題はない。それよりも――」
アルドはエメルの肩に手をかけた。
力がかかり、エメルの身体が緩やかに倒れ込む。
「ぅえっ!?」
「しっかりと浸かっていろ。座ったままでは吸収効率が悪い」
アルドは嫌味のない力で押さえつけ、恋人や夫婦でしかあり得ない距離でエメルを見つめる。
「っ! そこまでしてもらわなくても大丈夫です! ちゃんとおとなしく寝ます!」
エメルは顔を背け、唇を噛みしめた。
「……わかればいい。着替えてくる」
アルドの手が離れる。
触れられていた部分の温度が急に下がったような気がし、エメルは肩を抱いた。
(アルドはどう思ってるんだろう、私のこと。人形が人になったから興味があるだけ? 燃料が完全に切れると取り返しがつかないから、丁寧に扱ってくれてるの?)
一つ解決すると、次から次へと気になることが湧き出てきた。
まだ起こってもいないことを想像して不安になる。
些細なことで嬉しくなったり気分が落ち込んだり。
自分の感情のはずなのに手に負えない。
正解を選べない。
ずっと、今までうまくやれていたのに。




