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「そんなこと言われたら、真に受けますよ」
エメルはわざと不機嫌そうに眉をひそめた。
「これ以上偽りを重ねることはないと言ったはずだ」
アルドの返しに、エメルの顔と情緒がさらに歪む。
(この人なんなのもう! 論点ずれてるし!)
「あのー……私がなんなのかっていう話をしていたんじゃなかったでしたっけ」
エメルは控えめに手を挙げた。
「そうだな。こうやって話していると、より混迷が深まってくる。振る舞いや見かけは人間そのものだが、生命維持に関しては魔術人形のルールに囚われている――」
アルドは顎に手を当て、考えを整理するように目蓋を閉じた。
たった十数秒の沈黙だったが、エメルは耐え切れずに口を開いてしまう。
「――私って、アルドにとっては道具なんですか」
望んでいる答えは一つしかないのに尋ねてしまった。
アルドの目が開く。
「創造主を変態呼ばわりする道具がどこにいる」
「……それしっかり根に持ってたんですね」
「君は君だろう。道具でもなければ人形でもない。もはや私の手から離れた存在だ。人と呼べるかはわからないが、私の中の定義では人となんら変わらない」
アルドは事もなげに言ったが、エメルにとって抱えていた不安を吹き飛ばすのに充分過ぎた。
エメルは顔を押し付けるようにしてアルドの胸板に抱きついた。
くしゃくしゃになった顔を見られたくなかった。
「エメル?」
ためらいがちに、アルドの手が背中に置かれたのがわかった。
濡れた貫頭衣越しに体温が伝わってくる。
「……ずっと、道具だと、人形だと思われてたらどうしようって、思ってました」
呼吸が整うまで待ったのに、エメルの口から出たのはぐずついた涙声だった。
恥ずかしさで顔を上げられない。
「おかしなことを気にする。私がどう思おうと君には関係がないだろう」
アルドは小さく吹き出し、エメルの背中をゆっくりとさすった。
「自分が人ではないと言われる方がショックではないのか」
「そりゃあ、多少はショックでしたけど……」
エメルは言葉を濁す。
ショックの度合いで言えば、いつの間にかに自分が死んで(?)、異世界転生してしまっていたことの方が大きかった。
いまだに自分がいつどこでどのように死んだか思い出せない。
もっとも、思い出したところで何かが変わるわけでもないが。
「私の世界だと異世界転生すると人間以外になっちゃうのって結構メジャーなんですよ。モンスターとか無機物とか」
「異世界、転生? さっきから君は何を言っているんだ」
「ああ、すみません。異世界転生っていうのは、何かのきっかけで別の世界で別の存在に生まれ変わるって現象です」
元の世界ではあまりにありふれていたため、一般用語ではないことを失念していた。
と言ってもあくまでフィクション上のことで、まさか自分の身に降りかかるとは思いもしなかったが。
「……仔細は把握できていないが、話の流れから察するにその異世界転生とやらをしたのが君だとでも言うのか」
「ええ、まぁ、多分、はい」
「ふむ……一度中身を調べた方がいいかもしれないな」
アルドはとんとんとエメルの頭をつついた。
「なんでですか! いいですよ別に信じてくれなくても!」
エメルはむっとしてアルドをにらみつける。
「ようやく顔を上げたか」
アルドは嬉しそうに目を細めた。
はめられた、とエメルは思ったが、すぐにそんなことはどうでもよくなった。
「これは私の憶測だが、憑依や降霊、あるいは自己暗示といった精神感応系の魔術に近い気がする。あいにく専門外のため、感想以上のことは言えないのだが」
自分のつたない説明から、アルドがここまで真面目に考えてくれていたことが嬉しい。
「憑依ってことは、もしかしたら私はこっちのイケメンに乗り移ってた可能性もあったんですかね。危うく『異世界転生したら何故か神ビジュのイケメンになりました』になるところでした」
エメルは照れ隠しに隣の石箱の方に顔を向けた。
実際男性だった場合、どうやってアルドが引きとめていたのかちょっと気になる。
「君はおかしなことを考えるな」
アルドは呆れ気味に息を吐いた。
「もしも男性体だったなら、あそこで行き倒れていた段階で終わりだ。必要に迫られたとしても、さすがに男に口移しなどしたくない」
「くちうつし……」
記憶の底に押し込めていた映像がエメルの頭の中で鮮明によみがえる。
エメルはほとんど反射的に両手で唇を押さえた。
色気も情緒もない行為だったけれど、感触だけはしっかり覚えている。




