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「何か言いたいことでもあるのか」
不名誉なあだ名をつけられたのを悟ったのか、アルドが胡乱げな視線を向けてくる。
「遮っちゃってすみません、続けてください」
エメルは顔の前で両手を振って愛想笑いをした。
アルドは仕切り直すように咳払いをし、言を継ぐ。
「工房の成り立ちについてはいいか。とにかく、私はここで数えきれないほどの失敗を繰り返した。彼らからすれば、屍を積み重ねたようなものだろう。その結果、最終調整まで進んだのはたった二体。あとは起動させるだけというところまで漕ぎつけた」
アルドの剣呑な物言いに、エメルは唇を引き結んだ。
語り始めの楽しそうな雰囲気は、今のアルドに微塵も残っていない。
「だが、大量の端材や使わなくなった部品を片付けている時、はたと我に返った」
アルドは移動し、石箱の縁に両手をついた。エメルが入っている方ではなく、隣の男性体が眠っている方だ。
「目的や用途のない道具を作ってどうするのか、と」
アルドはエメルによく似た男性体を見下ろし、ゆっくりと目蓋を閉ざした。
「道具……」
ずきっとエメルの胸が痛んだ。
何故人形の身体が痛みを感じるのかわからない。
五感や鼓動があって、激しく動けば息が上がるし、顔も赤くなる。
エメルとしてはなんら人間と変わらないのに、アルドが作ったのは「道具」だ。
(――アルドにとって、私は最初から人間じゃなかった)
エメルの中で、答えがはっきりと形を持ってしまった。
「自立稼働の魔術人形と言っても自我があるわけではない。塵芥収集機のように特定状況下においての判断ができるだけだ」
エメルの胸中など知る由もないアルドは喋り続ける。
(もういい……)
声にならない声でエメルは呟く。
これ以上は聞きたくなかった。
知りたいと願ったのに、結局のところ自分が望まないことは受け入れられない。
「だから、最初に君を見た時は心底驚いた。私の作った人形が工房から抜け出している。ひとりでに動いている、と」
アルドは顔を上げ、エメルを見つめる。
道具に向ける目にしては感情がこもっている気がして、エメルは耳を塞ぐことも顔を逸らすこともしなかった。
「だが接すれば接するほど、本当に人形なのか疑わしくなった」
アルドは言いながら、男性体とエメルを見比べるように視線を動かす。
「まず見た目が違う。身体に継ぎ目がない。次に思考。感情があって非合理的な振る舞いをする。おまけに過去の記憶らしきものまで保持している」
「私の素性とか過去とかをほとんど気にしてなかったのは、人形だって知ってたからなんですね」
「いや。元々他人の情報にはあまり興味がない」
「あ、はい」
線引きがはっきりし過ぎているアルドに、エメルは苦笑を禁じ得ない。
「もう気付いているかもしれないが、偽装婚約は君を繋ぎ止めておくための方便だ。我ながら杜撰な提案だったと思う。使者にも見合いにも辟易していたのは事実だが」
アルドは髪を掻き上げ、深く息を吐いた。
「君は、本当にいったいなんなんだ?」
「えっと、それを聞きたいのはこっちなんですけど……」
エメルはこめかみを押さえ、眉間に皺を寄せる。
アルドとしては、「自分の作った魔術人形が勝手に工房から抜け出しており、しかも人間のような振舞いをしている。
状況も原因もよくわからないから、とりあえず手元に置いておこう」という感じなのだろう。
少なくとも「ただの道具」として見られているわけではなさそうで、ほっとはした。
「ふむ。もっともな意見だ。ちょうどここに比較対象もあることだし、できるなら隅から隅まで調べたいところだが――」
「ちょっ、えっち! 変態! ゴリラ!」
エメルは隠すように自分の身体に腕をまわした。
やっぱりただの道具や研究対象として見られているのかもしれない、と先ほどの結論がぐらつく。
「意味のわからない単語もあるが、誹りを受けるのは不本意だ」
アルドは眼鏡を押さえ、ため息をついた。
「しかし、配慮に欠ける発言だったのも確かだ。すまない。身体構造よりも、問題にすべきは精神の方だな」
アルドは気を取り直し、膝を折ってエメルと視線を合わせた。
まさしく観察されているようで、エメルはやきもきする。
「精神的負荷を感じている顔をしているな」
「そりゃそうですよ。実験みたいなことをされてるわけでしょ?」
「いや。ここで眠る姿を見ていた時よりも美しいなと思って」
「…………は?」
アルドの言葉を理解するまでに数秒かかり、顔に感情が現れるまで、さらに数秒かかってしまった。
(なんでいきなりこんな時に!? お世辞――は言えるような人じゃないし。意図が全然わかんないんだけど!)
エメルは困惑と嬉しさで奇妙に歪む頬に両手を押し付ける。
「常に同じ整った表情でいるよりも、絶えず変化しているものの方が私には好ましいようだ」
基本的には論理的で合理主義のはずなのに、アルドは時折なんのてらいもなく思ったことをそのまま口に出す。
誰からも嫌われないように振舞ってきた自分とは正反対だ。
さっきから――いや、もうずっと前から、アルドの言動に振りまわされている。
この世界に来てから、「エメル」になってから、何かがおかしい。




