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「……しかし、ちょうど良くはあるな」
アルドは掃除人形に駆け寄り、逆さまの機体を抱きあげた。
人形についた埃を払い、吸い込み口などをチェックしながらエメルの元に戻る。
「人型の魔術人形を作るに至った大元の理由はこいつだ」
コンコンとノックをするように掃除人形を叩いた。
「この子が……」
エメルは首をひねる。
円盤型の掃除人形と人型の魔術人形。
被造物であること以外に共通点を見つけられない。
アルドが掃除人形を床に降ろすと、何事もなかったかのように動き出した。
壁に沿って埃を吸い込みながら進んでいく。
「この塵芥収集機は、頑丈さと機構の単純さだけが取り柄だ。うまく誘導してやらないと、先ほどのように階段から何度でも落ちる。おまけに段差に弱く、ひっくり返ると自力で復帰できない」
言っていることは辛辣だが、アルドの口調や表情は心なしか楽しげに見える。
「そうやって問題点や脆弱性を洗い出し、後継機や別の機能を持ったものを作り出していくのにのめりこんだ。人と関わらず、日がな一日怪しげな機器をいじる姿は周囲からはさぞ奇異に見えただろうな」
アルドの瞳は掃除人形に向けられていたが、それよりももっとどこか遠くを見ているようだった。
「ひとつ課題を越えると、次にまた別の問題が生じる。そうやって改良――いや、身勝手な改造を続けていくうちに、だんだんと人の形へと近付いていった。最初の設計思想を忘れ、いつしか『いかに人に近付けるか』という探究に囚われた」
語りを聞きながら、エメルは自分の両手を見つめた。
怪我をするまでほとんど違和感を覚えなかったくらい人間と遜色ない。
身体のどこを探してみても継ぎ目もないし、関節も柔軟に動く。
(現代技術でもここまでのものは作れないよね。魔法ってすごいわ)
アルドと同等の能力・才能があったとしたら、自分も同じことをしていただろうとエメルは思う。
自分の力がどこまでできるか試したい、という欲求は理解できる。
「侯爵家に居たのではどうしても人目がある。社交界や結婚話に嫌気が差していた頃、兄から辺境伯就任の打診があった。ヴァイス領には人形制作に不可欠な魔素の森もある。私はヴァイス領の状況を聞きもせず話に飛びついた。おかげで、先に領の立て直しをする必要に迫られたわけだが」
様々な苦悩や苦難があったのだとわかるが、エメルは少しにやけてしまった。
それとなく口元を隠す。
好きなこと・興味のあることに対しては早口で饒舌という、オタク的性質を見せるアルドが微笑ましかった。
「それで実際に立て直せちゃうのも凄いですけど」
「ヴァイス領の抱える問題は明白だったからな。一時的に税を軽くし、労働力の確保ができれば勝手に持ち直す」
「普通はそういう判断を即座にできないものだと思いますよ」
「私にとっては時間と安寧の確保が最優先だったからな。領地経営には興味がない」
「ほんと、わかりやすいですね」
エメルは笑いを堪えられず肩を震わせた。
人形について語っていた時よりも、あきらかにアルドの言葉数が減っている。
「脱線したな、話を戻そう。辺境伯になってからしばらくはとても楽しかった。魔素の森におあつらえ向きな遺跡を見つけた時は研究を続けるべきという天啓だと思った。魔素のおかげで大半の人間はこの森に立ち入れないのも好都合だ。最初に工房として使いやすい環境を整えるために木を切り出し、石材を加工し――」
「ちょっと待って」
申し訳ないと思いつつエメルは遮った。
「なんだ」
アルドは気分を害されたと言わんばかりに眉間に皴を寄せる。
「上にあった机とか本棚とかその他もろもろ、全部自分で作ったんですか」
「当然だ。その場で自分で作った方が早い。業者との煩雑なやりとりも運び込む手間もない」
「合理主義を突き詰めるとDIYに行きつくんですね……」
「でぃーあいわい?」
「あ、や、なんでもないです。肉体労働とか苦手そうなのに、意外とアクティブなんだなと思って」
「研究者は身体が資本だ。単純な腕力と持久力ならヒューよりもある」
(……インテリゴリラ)
紛うことなき悪口がエメルの頭に浮かぶ。
抱きかかえられていて不安感を覚えたことはない。ある程度の腕力があるのは本当だろう。
さっきも不安定な体勢だったにもかかわらず簡単に運ばれた。
基本的にアルドはフロックコートを着ているので体型はわからないが、脱ぐと意外に筋肉質なのかもしれない。




