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「ということは、この顔や身体ってアルドの理想ってことですか」
エメルは頬に手を添えたり、スカートの裾をつまみあげたり、わざとらしくしなを作ってみせた。
「何を言っている……一般に美しいとされる比率を参考にデザインしただけだ」
アルドは心底嫌そうに眉間に皴を寄せる。
「美しくする必要あります?」
「美しくないよりは美しい方がいいだろう」
「そりゃそういう単純な二元論だったらそうですけど。ヒューさんも言ってたけど、意外と面食いなんですね」
「妙な意趣返しはやめないか」
「これくらいいいじゃないですか。ずっと騙されてたんですから」
騙されてた、と言った瞬間、アルドの表情が固まるのが見えた。
どうやら良心の呵責はあったらしい。
「出会ってすぐに『君は私の人形だ』と言ったところで信じないだろう」
アルドは顔を逸らし、髪を掻きむしった。
「うん。頭がヤバい人なんだなって思います」
「そういうことだ」
「けど、私が怪我するまで黙ってることないじゃないですか」
「最適最善な告知時期などわかるものか。だが、話そうと思った日に限ってヒューのやつが来ていた」
(そういえば、小さい頃からの友達のわりにヒューさんのこと邪険にしてたな)
「喧嘩するほど仲が良い」といった類の二人特有のコミュニケーションなのかと思っていたが、実際にアルドは予定を狂わされて不機嫌だったようだ。
「じゃあ、ヒューさんは私のこと知らないんですか」
「ああ。君のことは『裏の森で拾った』としか伝えていない」
「よくそれで納得してもらえましたね……」
「事実しか言っていないからな」
「いやそういうことじゃなくて」
「当然違和感や不信感をいだいているだろうが、それを飲み込んで付き合ってくれるのがヒューだ。辺境にまでついて来るなんて、私には過ぎた友人だよ」
アルドの表情が目に見えて柔らかくなる。
はたから見ただけでは関係の本質は読み取れないようだ。
「聞きたいことはまだあるだろうが、この補給装置に浸かってもらってからでもいいだろうか」
アルドは液体が満ちた石箱に視線を落とす。
「補給装置?」
「これに着替えて、十数分ほど中で横になっていてくれ。経口摂取よりも全身からの経皮吸収の方が効率がいい。おおよそ三日に一度の補給で体調が安定するはずだ」
アルドが差し出したのは、隣の石箱で眠る魔術人形が着ているのと同じ貫頭衣だった。
エメルが服を受け取ると、アルドはその場にしゃがみ込み、石箱に指を滑らせ始めた。
指の動きに呼応して石箱に紋様のようなものが浮かび上がる。
(あんまり待たせないほうが良いよね)
アルドのいる場所の逆側にまわり込み、エメルは貫頭衣を被ってから手早く服を脱ぐ。
着替えるので出て行ってください、とアルドに言っても時間のロスになるだけだ。
エメルは石箱の縁に腰をかけ、そっと足先を液体に浸す。
冷たくも温かくもなく、ただ気持ち良く包まれている感覚だけがあった。
「アルド、私の体調不良の原因って」
服が浮かないように押さえながら、エメルは石箱の中に横になる。
顔が浸からない程度の深さで、寝湯に近い。
「燃費の悪さに起因する、ただの燃料不足だ」
アルドは事もなさげに答えた。
なんとなく予想はついていたが、こうもあっさり断言されるとやるせない気持ちになる。
「植物のように太陽光からエネルギーを作れる髪にしたり、食物の経口摂取で燃料をまかなえるようにしたのだが、どちらも効果が薄くてな」
アルドの指が、エメラルドの髪を優しく撫でた。
直後、アルドは目を見開き、不自然なくらい手を遠ざける。
「アルド?」
「理由もなく触れられたくはないだろう」
「婚約者の振りしてるのに、いまさらじゃないですか」
「今のは、振りとは無縁の接触だ」
「厳密に区別できます? それに、私は嫌なことはちゃんと嫌だって言えますよ」
エメルは手を伸ばした。
「これでも結構不安なんですよ。落ち着くように労わってください、婚約者様」
おどけた風を装い、指を動かしてアルドに握るよう催促する。
アルドは微かに口元を緩め、以前看病してくれた時と同じように両手でエメルの手を包んだ。
心地良い体温に、エメルは思わずため息が出る。
「……どうして、作ったんですか」
エメルは目蓋を閉じ、静かに尋ねた。
一瞬、アルドの手がびくりと動く。
「面白い話ではないが、君が聞きたいというのであれば――」
続きは、騒々しい落下音によって遮られた。
ガンッ、ドンドンッ、ガッ、ゴンッ――
音の発生源は階段の方だった。
段差や壁にぶつかりながら、何かが転がり落ちてくる。
「あれって」
上体を起こしたエメルが目にしたのは、上階にあった円盤型の掃除人形だった。
機体がひっくり返り、車輪がわびしく空回りしている。
「またか……」
話の腰をぽっきりと折られたアルドは、頭を抱えて大きくため息をついた。




