↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形伯の愛し方~異世界転生したら罪人認定されました。赦免のためにコミュ障辺境伯と偽装婚約します~  作者: 甘酒ぬぬ
4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/55

4-4

「ということは、この顔や身体ってアルドの理想ってことですか」


 エメルは頬に手を添えたり、スカートの裾をつまみあげたり、わざとらしくしなを作ってみせた。


「何を言っている……一般に美しいとされる比率を参考にデザインしただけだ」


 アルドは心底嫌そうに眉間に皴を寄せる。


「美しくする必要あります?」

「美しくないよりは美しい方がいいだろう」

「そりゃそういう単純な二元論だったらそうですけど。ヒューさんも言ってたけど、意外と面食いなんですね」

「妙な意趣返しはやめないか」

「これくらいいいじゃないですか。ずっと騙されてたんですから」


 騙されてた、と言った瞬間、アルドの表情が固まるのが見えた。

 どうやら良心の呵責(かしゃく)はあったらしい。


「出会ってすぐに『君は私の人形だ』と言ったところで信じないだろう」


 アルドは顔を逸らし、髪を掻きむしった。


「うん。頭がヤバい人なんだなって思います」

「そういうことだ」

「けど、私が怪我するまで黙ってることないじゃないですか」

「最適最善な告知時期などわかるものか。だが、話そうと思った日に限ってヒューのやつが来ていた」


(そういえば、小さい頃からの友達のわりにヒューさんのこと邪険にしてたな)


「喧嘩するほど仲が良い」といった類の二人特有のコミュニケーションなのかと思っていたが、実際にアルドは予定を狂わされて不機嫌だったようだ。

「じゃあ、ヒューさんは私のこと知らないんですか」

「ああ。君のことは『裏の森で拾った』としか伝えていない」

「よくそれで納得してもらえましたね……」

「事実しか言っていないからな」

「いやそういうことじゃなくて」


「当然違和感や不信感をいだいているだろうが、それを飲み込んで付き合ってくれるのがヒューだ。辺境にまでついて来るなんて、私には過ぎた友人だよ」


 アルドの表情が目に見えて柔らかくなる。

 はたから見ただけでは関係の本質は読み取れないようだ。


「聞きたいことはまだあるだろうが、この補給装置に浸かってもらってからでもいいだろうか」


 アルドは液体が満ちた石箱に視線を落とす。


「補給装置?」

「これに着替えて、十数分ほど中で横になっていてくれ。経口摂取よりも全身からの経皮吸収の方が効率がいい。おおよそ三日に一度の補給で体調が安定するはずだ」


 アルドが差し出したのは、隣の石箱で眠る魔術人形が着ているのと同じ貫頭衣だった。


 エメルが服を受け取ると、アルドはその場にしゃがみ込み、石箱に指を滑らせ始めた。

 指の動きに呼応して石箱に紋様のようなものが浮かび上がる。


(あんまり待たせないほうが良いよね)


 アルドのいる場所の逆側にまわり込み、エメルは貫頭衣を被ってから手早く服を脱ぐ。

 着替えるので出て行ってください、とアルドに言っても時間のロスになるだけだ。


 エメルは石箱の縁に腰をかけ、そっと足先を液体に浸す。

 冷たくも温かくもなく、ただ気持ち良く包まれている感覚だけがあった。


「アルド、私の体調不良の原因って」


 服が浮かないように押さえながら、エメルは石箱の中に横になる。

 顔が浸からない程度の深さで、寝湯に近い。


「燃費の悪さに起因する、ただの燃料不足だ」


 アルドは事もなさげに答えた。

 なんとなく予想はついていたが、こうもあっさり断言されるとやるせない気持ちになる。


「植物のように太陽光からエネルギーを作れる髪にしたり、食物の経口摂取で燃料をまかなえるようにしたのだが、どちらも効果が薄くてな」


 アルドの指が、エメラルドの髪を優しく撫でた。

 直後、アルドは目を見開き、不自然なくらい手を遠ざける。


「アルド?」

「理由もなく触れられたくはないだろう」

「婚約者の振りしてるのに、いまさらじゃないですか」

「今のは、振りとは無縁の接触だ」

「厳密に区別できます? それに、私は嫌なことはちゃんと嫌だって言えますよ」


 エメルは手を伸ばした。


「これでも結構不安なんですよ。落ち着くように労わってください、婚約者様」


 おどけた風を装い、指を動かしてアルドに握るよう催促する。


 アルドは微かに口元を緩め、以前看病してくれた時と同じように両手でエメルの手を包んだ。

 心地良い体温に、エメルは思わずため息が出る。


「……どうして、作ったんですか」


 エメルは目蓋を閉じ、静かに尋ねた。


 一瞬、アルドの手がびくりと動く。


「面白い話ではないが、君が聞きたいというのであれば――」


 続きは、騒々しい落下音によって遮られた。


 ガンッ、ドンドンッ、ガッ、ゴンッ――


 音の発生源は階段の方だった。

 段差や壁にぶつかりながら、何かが転がり落ちてくる。


「あれって」


 上体を起こしたエメルが目にしたのは、上階にあった円盤型の掃除人形だった。

 機体がひっくり返り、車輪がわびしく空回りしている。


「またか……」

 

話の腰をぽっきりと折られたアルドは、頭を抱えて大きくため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。