2-5 居室用塵芥収集機
「――あのー、昨日も言ってた『人形』ってなんですか?」
二人の応酬がひと段落着いたところで、エメルは手を挙げた。
「直接見た方が早い」
言うが早いか、アルドは席を立ってしまった。
数分もしないうちに、何かを抱えて戻ってくる。
円盤というにはやや高さのある、ひと抱えほどの木製の塊だった。
アルドがそれを床に置くと、自動的に動き出した。
壁に沿ってのろのろと進んでいく。
「居室用塵芥収集機だ。他にも廊下用と水場用もある」
「掃除人形でいいだろ」
「……好きに呼んでくれて構わないが、これは居室用塵芥収集機だ」
「はいはい」
ついに面倒になったのか、ヒューは背もたれに身体を預けて紅茶を啜った。
「これも魔術で動かしてるんですか?」
エメルは居室用なんとか――もとい掃除人形に近寄る。
「大雑把に言えばそうだ。定期的に燃料を補給してやれば、理論上は壊れない限り半永久的に動く」
「へー、便利ですねー」
(まんまロボット掃除機みたい)
上部に付いたスイッチが目と口のように見えて愛嬌がある。
触れるとつるりとしており、木材の温かみを感じた。
「気味が悪くはないのか?」
アルドは顎に手を当て、眉をひそめる。
「なんでですか」
「今までに好評を得たことはない」
「掃除しなくていいなんて楽じゃないですか」
「みな、自動で働くものに対して不快感をいだく」
「他人だって、みんな自動で好き勝手動いてるじゃないですか」
「……君にとっては人間も居室用塵芥収集機も同じだということか?」
「まったく同じじゃないですけど『仕組みがわからないのに動いている』っていう意味なら似たようなものかと」
(あー……今のはちょっとパスみがある発言だったかも。機械を見慣れてる、くらいにしとけば良かった)
何やら考え込んでしまったアルドを見て、エメルは口元に手を当てる。
「なるほど……その視点はなかったな」
エメルが思っていたよりも早く、アルドは顔を上げた。
「非常に雑な分類の仕方だが、考え方の一つとして参考になる」
「……褒めてます? 貶してます?」
「評価に値する」
「なんで勝手に第三の選択肢で答えるんですか……」
エメルは頭を抱えてため息をついてみせた。
もっと堅苦しくて付き合いづらい人物だと思っていたが、変なところが柔軟で、どんな返しをしてくるか予想がつかない。
「案外気が合うんじゃないか?」
ヒューはくくっと含み笑いをし、パンプディングをつまんで口の中に放り込んだ。
「騎士団長ともあろう者が窃盗とは情けない。恥を知れ」
アルドはヒューをきつくにらみつけ、深皿を腕で囲う。
「そんなに気に入ったなら、またいつでも作りますよ。混ぜて焼くだけだし」
「これを容易に作れると言うのか……?」
「大げさ過ぎません? 時間をかければ、もうちょっと凝った物だって作れますよ」
「君は料理人か何かか」
「日常的に料理する人なら、これくらい誰でもできますって」
「ふむ。君さえ良ければ、今後は調理も頼みたい。料理人として給金は別途支払う」
「……まぁ、もらえる物はもらいますけど」
どんな環境であっても、当然お金はあった方が良い。
いつ偽装契約が打ち切りになるかもしれないのだから。
「金の話よりさあ、取りあえずエメル嬢に服でも買ってやれよ。ネグリジェで屋敷の中をふらついてたぞ」
ヒューに指摘され、エメルは部屋に着替えがなかったことを思い出す。
「女物の服を揃える趣味はないからな」
「趣味うんぬんじゃなくて、これからしばらく暮らすなら絶対に必要だろ。出かける用の服はミラに持って来させるから、二人で行ってこい」
しっしと追い払うようにヒューは手を振った。
「何故だ」
「辺境伯の屋敷に変な女が居座ってるって町で噂になってる。あの使者殿が余計な置き土産をしていきやがった。二人で仲良ーくデートでもしてりゃあ、民も察するだろ」
(ああこれ、アルドに対する嫌がらせだ。絶対ちゃんとしたデートとかできそうにないもん)
この上なく楽しそうに笑うヒューの顔を見て、エメルは本当の意図を理解する。
「ふむ。耕耘散水機の調整の時期だしな。ついでに服屋に寄るのもいいだろう」
「デートがメインで農耕人形はおまけだからな」
ヒューはアルドの鼻先に指を突きつけ、きつく釘を刺す。
「事後承諾になったが、二時間後に出かける。問題ないか? 諾否に関わらず、薬を渡しておく。それだけは後で必ず飲んでおいてくれ」
アルドはポケットから取り出した懐中時計で時刻を確認しながら尋ねた。
「はい。楽しみです」
(海外観光っぽくってちょっとわくわくする!)
ヒューのアシストに感謝しつつ、エメルは笑顔で大きくうなずく。
「……薬だけは忘れるな」
アルドは眼鏡を押さえ、見落としてしまいそうなほどわずかに口角を上げた。




