2-4 にぎやかな朝食
「――君たちの言う『ちょっと』というのは、具体的に人を何分待たせること指すんだ?」
痺れを切らしたアルドが険のある声を投げてきた。
「あんの野郎……!」
「すみません! お茶の用意ができたのでもうすぐです、すぐ!」
三人分の紅茶を用意し、エメルとヒューは慌ただしく席に着いた。
アルドとヒューはこれといって何も言わずに食べ始める。
エメルはこっそりと両手を合わせ、小さく「いただきます」と呟いてから手をつけた。
メインはヒューの作ったサンドイッチだ。
スパイスの効いたハムとチーズ、スライスオニオンがはさんである。
雑穀パンのほのかな酸味と、甘辛いハニーマスタードソースが具材とよく合う。
付け合わせに添えられたマッシュポテトはクリーミーで舌触りがとても良い。
一品料理として出しても充分なレベルだ。
「……こちらは、君が作ったのか?」
アルドの目線が、湯気の上がる深皿へと向けられる。
「はい。パンプディングです。甘いものが好きだと聞いたので、食後のデザートにと」
最初はフレンチトーストにしようと思ったが、固めのパンなら最低でも数時間は卵液に浸しておきたい。
それよりも、もっと手軽にできるパンプディングを選んだ。
「……よそってもらえるか」
アルドの言葉に、エメルは心の中でガッツポーズを作る。
とりあえず第一関門は突破した。
あとはアルドの口に合うかどうかだ。
「はい、もちろん」
エメルは笑顔でパンプディングを取り分ける。
アルドは取り皿を受け取ると、フォークを卵液を吸ったパンに突き刺した。
目の高さまで持ちあげ、まじまじと見つめる。
(心臓に悪いから早く食べてほしいんだけど)
エメルは紅茶を飲む振りをしてアルドの様子を窺う。
身体がそわそわして落ち着かない。
簡単な物とはいえ、他人に手料理を振舞うのはどれくらいぶりだろう。
アルドはいつもの無表情のままパンを口に運び、一定の速度で咀嚼する。「食べる」というよりも「摂取する」という表現の方が適切に思えた。
飲み込んだ後も、アルドの表情は変わらない。
(何それどっち!?)
エメルの心中など知りもせず、アルドは先ほどとまったく同じ動作でパンプディングを食べ続ける。
(そろそろなんか言って……!)
食べることだけに使われている唇を、エメルは固唾を飲んで見守った。
「……皿ごとくれ」
アルドはパンプディングをすべて平らげると、深皿を指さした。
「ちょっと待て! 俺の分も残せよ!」
エメルが反応するよりも先に、ヒューが怒鳴る。
「ヒュー、君は甘いものが苦手だろう」
「苦手でも口に合うかもしれないだろ!」
「あくまで可能性の話だ。確実性に欠ける」
「そんなまわりくどい言い方しないで『美味しかったからもっと食べたいです』って素直に言えよ」
「だからさっきも言ったろう。皿ごとくれ、と」
面倒になったのか、アルドは自分で深皿を引き寄せた。
淡々とした様子でパンプディングを食べ進めていく。
お世辞にも美味しそうな顔には見えない。
(わかりづらいよこの人ー)
と思いつつ、エメルは口元が緩んでしまう。
サンドイッチも紅茶も、さっきより美味しく感じる。
「偽装のわりには仲睦まじいじゃないか」
ヒューが何か言いたげに目を細めた。
「俺のむさ苦しいモーニングコールもお役御免かな」
「最初から頼んでいないが」
「お前が人形いじりにしか興味ないから俺が善意で来てやってんだろうが! 睡眠不足と栄養失調で倒れたのはどこのどいつだ」
「私だ。だが同じ轍は踏まない。人形の改良と並行して、十秒で摂取できる完全栄養食の開発も進めている」
「今日にいたるまで、まともに食えた試作品があったか?」
「ない。どれも生ゴミ以下だ」
「普通に飯を食え」




