↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/45

第42話 王都だけを守る方法

『リディア、王冠中枢塔で旧規程が作動しました』


 声は通信器越しだったが、フェリクス様の姿は同じ指令所の別卓に見えていた。彼が切り替えた緊急回線から、王冠中枢塔の制御室に鳴る警告音が流れ込んでくる。


「王都の管理は、信頼できる研究員へ任せたはずでは?」


『操作したのはヴァルター局長です。指揮権は停止されていますが、旧設備を安全に保守できる者が他におらず、監督官二名を付けた暫定技術責任者として留任していました』


 大魔潮が十二時間早まり、中枢塔の亀裂が危険閾値を越えた。その瞬間、旧緊急規程は、登録技術者一名の確認で一極放出へ移れる状態になった。ヴァルターは監督官が制止する前に、確認印を押したのだ。


『――フェリクス殿下。王都には数十万がいる』


 王都から届くヴァルターの声は、勝ち誇ってはいなかった。


『現行設備で王都を救う方法は、ローヴェルへ圧を逃がすことだけです。私は旧規程どおりの職責を果たした』


『その規程を残した責任まで、また辺境へ押しつけるのですか』


『では、両方を救う物理的な解を示してください。理想では塔の亀裂は塞がらない』


 彼の論理は冷酷だが、陰謀ではない。古い設備と古い規程が許す、唯一の答えを選んだつもりなのだ。


 フェリクス様は、王家の紋章が刻まれた監査鍵を遠隔制御盤へ差し込んだ。


『国王陛下より委任された臨時監査権と緊急停止権を行使します。一極放出を停止。最大六時間、ローヴェル系統の放出弁を凍結します』


 重い作動音の後、警告音が止まった。


 監査鍵の脇で、六時間の計時が始まった。安全実証の時に委任された権限は、ここまでだ。止めた後の運用を、一人で決められるわけではない。


『さらに監査権に基づき、王冠中枢塔の亀裂、全弁の温度、過去三十六年の運用記録をローヴェル指令所へ開示します。現場の計算から、一項目も隠させません』


 私たちの観測盤へ、王都側の数値が一斉に流れ込んだ。


 王家に都合の悪い過去の放出量も、亀裂を過小報告した点検表も伏せられていない。開示先にはローヴェル指令所だけでなく、王宮の監査室と両都市の記録官が指定された。あとから数字を消して、誰か一人の判断に作り替えることはできない。


『六時間後、別解がなければ旧規程は再び作動可能になります』


 ヴァルターの声に続き、王都の監督官が彼を制御盤から退かせたという報告が入る。だが、人を退けても亀裂は消えない。


「六時間ですね」


 私は全塔の温度と、三十日間の段階試験で得た冷却曲線を手帳へ写した。


「その間に調べます。殿下はデータの共有と、代替運用を承認してもらう王宮回線の確保をお願いします」


 指令所にいる者を卓へ呼び、別の持ち場にいるバルド隊長たちには通信で加わってもらった。前線の指揮は止められない。


 私は王都の中枢塔が限界に達したこと、一極放出は六時間だけ止まっていることを隠さず伝えた。


「今の四基へ一度に流せば、ローヴェルも王都も壊れます」


「そんな量、受け止められるわけが……」


「受け止めきれないなら、受け流します」


 私は四基の配置図へ、時間軸を書き足した。


「セシリアは第三塔の最大安全出力を。ティナは第二塔の冷却実績を一覧にして。職人班は弁の開閉に必要な秒数、バルド隊長は各塔へ人を運ぶ最短経路を出してください」


 答えを一人で思いつく必要はない。必要な数字を持つ人へ、必要な問いを渡せばいい。


 数分後、別々だった記録が一枚の机へ集まり始めた。


 これまで人にも部隊にも塔にも教えてきた。限界の前で止め、次へ渡し、休ませる。


「四基の運用表を、王都側の放出周期まで含めて組み直します」


 王都だけでも、ローヴェルだけでもない。


 両方を生かす答えがあるのか。まず、その記録を一枚ずつ開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。