第40話 倒れた精鋭、つないだ訓練班
戦闘開始から四時間。
北門の通信機へ、東側から悲鳴が飛び込んだ。
『王都本隊、多数が行動不能! 東側が抜かれます!』
東側にいたのは、大魔潮直前に後詰めとして到着した王都本隊だ。第三塔でセシリアと低出力訓練をした魔術師たちは、中央制御班に残っている。後詰めは短い講習しか受けておらず、指揮官が増え続ける魔獣に焦って交代命令を破棄したという。
出発前、私は通信で最大出力の停止を命じた。返ってきたのは、もう詠唱へ入っているという報告だった。権限があっても、離れた現場の一秒前までは巻き戻せない。
私は北門をバルド隊長へ任せ、遊撃班と東へ走った。
黒焦げの魔獣が積み上がる一方で、魔術師たちは膝をつき、何人も嘔吐していた。魔力枯渇ではない。濃すぎる外気を取り込み続けた魔圧酔いだ。
「ポーションを飲んでも、練れない……」
「最大火力の連発を止めなかったのですか」
指揮官は答えられなかった。
大火力は確かに群れを削った。だが交代を崩した代償として、部隊単位で次の一発を失った。
私は、こちらへ向かっているティナへ通信を入れた。
「倒れた人を魔力枯渇として扱わないで。ポーションを追加すれば悪化する。遮断布を掛け、呼吸が戻った者から後送して」
「はい!」
倒れた精鋭を責めても線は戻らない。私は救護通路を一本空け、その外側へ訓練班を配置した。
新たな魔獣が、空いた線へ殺到する。
「お姉様、ここは私たちが!」
セシリアとティナ、休養を終えたローヴェル訓練班が駆け込んだ。
「第三陣形! 倒すことより、線を閉じて!」
水弾が足を取り、《灯火》が視界を奪い、小さな障壁が爪を逸らす。学院で低容量として足切りされた者たちが、互いの退路を空けたまま波を止めた。
一人の火球は小さい。それでも水で止まった一頭へ三方向から重なれば倒せる。前列が二発撃つ間に後列が休み、班長の短い合図で入れ替わる。第四塔の連動試験で私が手を出さずに回した判断が、そのまま戦場へ持ち込まれていた。
「セシリア、後方を七割で!」
「はい!」
セシリアの炎が細い直線となり、味方の隙間を抜けて後列だけを焼く。撃ち終えると、彼女は自分からティナの後ろへ下がった。王都の本隊は地面に伏したまま、その交代を見ていた。
中央制御班から来た訓練済みの王都魔術師も一人、低い出力で目眩ましへ加わった。出身ではなく、規律を身につけたかどうかが差を作っている。
防衛線の後方で、子供の泣き声がした。
逃げ遅れた親子の前に魔獣が一頭。立ち塞がったロベルト様は、雷撃を練っている。威力は十分だが、間に合わない。
「大技を捨てて! 薄い障壁で時間だけ稼いでください!」
彼は一瞬、杖先の雷を見た。それから魔力を散らし、両手を広げた。
薄い障壁へ爪が食い込み、亀裂が走る。十秒、二十秒。親子が第二線へ入るまで、彼は膝を折らなかった。
爪の重さが腕へ伝わり、ロベルト様の肩が大きく沈んだ。それでも大障壁へ膨らませず、親子一組を覆う幅だけに留めている。
「下がって!」
ロベルト様が転がるように退き、訓練班の水弾が魔獣の足を止めた。バルド隊から回った槍兵がとどめを刺す。
「……私の負けだ」
地面に座り込んだ彼は、逃げ切った親子を見ていた。
「すまなかった」
長い釈明はなかった。
「二十秒、よく保ちました。次は指示どおり休んでください」
私もそれ以上は言わず、東側の配置表を書き直した。
王都本隊を救護と後送へ回し、中央で訓練済みの魔術師を一組だけ交代要員として借りる。低魔力が高魔力へ勝ったのではない。休む規律を守った者が立ち、破った者が倒れたのだ。
過去との決算は、勝ち誇る言葉ではなく、守られた親子の背中で十分だった。
後送される王都指揮官には、回復後に第三塔組と同じ基礎訓練を受けるよう命じた。罰ではない。次の波で、同じ人数を倒さないためだった。




