消えた五階 番外 01:ビート板、雨上がり、鎖骨の黒子
小学六年生の、ある日の午後。この日の台中は、空がいつでも水を滴らせそうなどんよりとした曇り空に覆われていた。
水泳の授業が終わったあと、クラスメイトたちは次々と教室へ戻って荷物の整理を始めているというのに、闕恆遠、悦清禾、伊凝雪、千慕羽、そして玥映嵐の五人だけは体育の教師に呼び止められ、最後の一籠となるビート板の片付けを任されていた。
周囲の空気には濃厚なプールの漂白剤の匂いが立ち込め、雨が降る前の蒸し暑く湿った土の香りと混ざり合っていた。
「早く片付けちゃお、」
「もうすぐ大雨が降り出しそうだよ。」
千慕羽はぴょんぴょん跳ねながら最後の数枚のビート板を器材の籠に投げ入れ、その場で当時流行っていたドラマの主題歌を口ずさんでいた。
彼らが力を合わせて重い器材の籠を体育倉庫へと運ぼうとしたまさにその時、空が一気に荒れ狂い、激しい夕立が突然激しく降り注いできた。
大粒の雨が更衣室の採光ドームを打ち叩き、耳をつんざくような「パタッ、パタッ」という激しい音を響かせる。
「わあ、すごい雨……!」
伊凝雪が思わず小さな悲鳴を上げ、五人は慌てて体育倉庫の外にある雨宿り用の回廊へと身を寄せた。
闕恆遠はさきほどまで一番外側で重い荷物を支えていたため、片方の肩から背中にかけてすっかり雨に濡れており、真っ白な制服シャツが肌にすっきりと張り付いて、蒸し暑さと不快感をもたらしていた。
彼はわずらわしさに任せてシャツの襟元のボタンを二つほど乱暴に引きちぎるように外し、息を抜こうと両手で膝をつきながら荒い息を吐き出していた。
「恆遠、」
「あんた、肩がびしょ濡れじゃない。」
悦清禾は鼻筋にかかった小さな眼鏡の位置を直すと、自分のカバンから清潔なタオルを取り出して差し出した。
「ありがと。」
闕恆遠はタオルを受け取り、顔や首筋の雨水を乱暴に拭き取った。
彼がかがみ込み、足元に散らばったビート板を片付けようと手を伸ばしたとき、重力でシャツの襟元が自然と大きく開いた。
彼のすぐ隣に立っていた伊凝雪はふと視線を落とし、その場で動きを止めた。
闕恆遠の右側の鎖骨のすぐ下、そこに小さな、ぽちっとした黒い丸い点があったからだ。
「ねえ、恆遠、」
「そこ……」
「ゴマでもついてるの?」
伊凝雪は目を丸くし、無邪気にその場所を指差した。
「それとも、さっき片付けをしたときに泥が跳ねたのかな?」
「え?どこが?」
闕恆遠はきょとんとした顔のまま、手の甲で鎖骨のあたりを適当にゴシゴシと擦った。
「取れてないよ、まだそこにあるもん!」
伊凝雪は彼がうまく取れていないのを見て、焦ったように自ら右手を伸ばした。
まだ乾ききっていない微かな冷たい水気を帯びた細い指先が、直接闕恆遠の鎖骨の皮膚にそっと押し当てられた。
彼女の指先はとても柔らかく、その指の腹が温かい皮膚の上をちょこちょこと二、三回つんつんをつついて、その「ゴマ粒」をなんとか取ろうとした。
「っ……凝雪、」
「それ、取れないから。ていうか、くすぐったいって。」
闕恆遠は彼女の指先からまっすぐ背骨へと伝わるような電気の走りを感じ、思わず伊凝雪の手首をギュッと掴んだ。
暗く沈んだ雨の日の回廊で、二人の視線がふと絡み合った。
「あれ……取れないや……」
伊凝雪は驚いたように手を引っ込め、それが皮膚の奥から自然に生えているものだとようやく気づいた。
「これ、ほくろなの?」
「恆遠、」
「こんなところにほくろがあったんだ。」
「私にも見せて!」
千慕羽と玥映嵐もすっと顔を寄せ、四人の少女が闕恆遠の襟元を取り囲んで物珍しそうに覗き込んだ。
悦清禾は冷静にそれを見つめながら、ぽつりと告げた。
「これは私たち五人だけの秘密だからね、」
「教室に戻っても、他のクラスの奴らには絶対に話しちゃダメよ。」
「わかったよ、内緒にするって。」
闕恆遠は少し顔を赤らめ、慌ててシャツのボタンを留め直した。
雨は次第に小降りになり、五人は雨脚が弱まった隙にカバンを背負い、校門の向かい側にある文房具店へと一斉に走り出した。
それは以前から約束していたことだった。小学校を卒業する前に、五人でお揃いの記念品を買おうと決めていたのだ。
文房具店の店主は、びしょ濡れになってやってきた五人のガキ大将たちを見て苦笑いすると、カウンターのいちばん奥にある回転式の陳列棚を指さした。
「万年筆が欲しいの、」
「一人一本ずつで、色はみんな違うやつがいい!」
千慕羽は目を輝かせながら色を選び始めた。
最終的に、全員が同じ型の、色違いのパイロット製万年筆を手に入れた。
闕恆遠は自分の手にある漆黒の万年筆を見つめ、それから傍らで笑い合う、幼馴染の四人の少女たちに視線を走らせた。
未来でこの万年筆が真っ二つに折れることなど、彼には知る由もなかった。そして、この胸元のほくろが、のちに偽物と本物の魂を見分ける唯一の証拠になることさえも。
ただ、あの夏の日の午後に感じた、伊凝雪の指先の柔らかな感触だけは、窓の外の激しい夕立よりもずっと鮮明に、彼の胸の奥に刻み込まれていたのだった。




