消えた五階 第2章:1. 深夜の売店での「取引」
点名教室を飛び出した瞬間、闕恆遠は廊下全体が悲鳴を上げているのを感じた。
それは人間の声ではなく、歪みゆく空間の中で老朽化した建築の鉄筋とコンクリートが激しく擦れ合う、耳障りな金切り声だった。
天井の石膏ボードが雨粒のように降り注ぎ、床に落ちた破片はどれも重さを持たないかのように、地面に触れた瞬間にすべて消えない黒い霧へと変わっていった。
「振り返るな!地下室へ走れ!」
闕恆遠は声を張り上げた。背後から「命のロープ」を通じて激しく引っ張られる感覚がダイレクトに伝わってくる。
最前線で導く悦清禾の眼鏡は片方へ大きく歪んでいたが、それでも前方の薄暗い階段の入り口を鋭く睨みつけていた。
伊凝雪は彼の腕にしがみつき、爪が肉に食い込むほどの強さで掴んでいた。彼女の泣き声は突風にかき消され、ただ荒い息遣いだけが残っている。
千慕羽はまるで魂の抜けた人形のようになり、半ば強制されるように引っ張られながら走っていた。その瞳は、彼が握りしめる折れた万年筆の半分に釘付けになっていた。
一番後ろを走る玥映嵐の足取りが、明らかに大きくよろめいた。
先ほど欧陽凝のむくんだ手に強く掴まれたせいで、その白い足首には五本の青紫色の指跡がくっきりと残り、そこから腐臭を放つ黒い液体がかすかに滲み出していた。
五人はボロボロになりながらグラウンドへと通じる防火扉を押し開けたが、その扉の向こうに広がっていたのは見慣れた夜空ではなく、暗い地底へとまっすぐ続く不気味な階段だった。
「急いで!」
「あいつ、すぐ後ろまで来てるわ!」
闕恆遠が叫び声を上げた。殿を務める玥映嵐が敷居を跨いだその瞬間、背後で「ドカン!」と激しい爆発音が響き渡った。
范姜峻教官の錆びた鉄棒が容赦なく振り下ろされ、分厚い防火扉を真っ二しに叩き砕いた。飛び散った鉄粉と火花が、玥映嵐の頭のすぐ後ろで激しく散った。
その破滅的な一撃が扉の枠組みを粉々に砕き、発生した衝撃波によって、ただでさえ体勢を崩していた五人はそのまま一塊になり、下の死に絶えた空間へと転がり落ちていった。
そこは購買部だった。
空気中には、賞味期限切れのパンの酸っぱい臭いと、長年澱んだカビの臭いが立ち込めていた。
カウンターの上で、薄暗い蛍光灯が力なく明滅し、棚に並ぶ懐かしくもどこか異様なスナック菓子をぼんやりと照らし出していた。
大イカの干物のパッケージはまるで火に炙られたかのように色褪せ、ラーメンスナックの袋はまるで中に生き物がうごめいているかのようにパンパンに膨らんでいた。
「ハァッ……ハァッ……」
「ハァッ……」
闕恆遠は冷たい人造石の床に激しく叩きつけられ、荒い息を吐き出しながら、右手では折れた万年筆の半分をガシッと握りしめたままだった。
転落の衝撃と「命のロープ」の制約により、五人はもつれ合うように床に倒れ込んでいた。
闕恆遠の胸が悦清禾の背中にぴったりと押し付けられ、彼女の背骨のラインと、戦の太鼓のように激しく鳴り響く心臓の鼓動がダイレクトに伝わってきた。
一方、伊凝雪は彼の脇にすっぽりと体を丸め、その足が彼の腰に絡みつき、極度の恐怖から全身を激しく震わせながら、あふれ出た涙で恆遠のシャツの肩口をぐっしょりと濡らしていた。
極限の恐怖が去ったあとの生々しい生理反応として、五人の荒い呼吸、高ぶった体温、混ざり合う汗が、この狭い空間で息苦しいほどのねっとりとした熱気を生み出し、一気に噴き出していた。
「映嵐……」
「映嵐、大丈夫?」
千慕羽が積み重なった体勢の中から上半身を起こし、割れそうな声で呼びかけた。
最後尾にいた玥映嵐は、賞味期限切れの飲料が並ぶ冷ケースの脇に全体重を預けるようにしてぐったりと凭れていた。
彼女の吊り上がった美しい瞳には頑なな苦痛の色が宿り、転落の衝撃で彼女の制服は乱れていた。
黄ばんだ光に照らされ、闕恆遠はその足元をはっきりと目撃した。
そこには、欧陽凝のむくんだ手に強く掴まれたせいで、白い肌に五本の青紫色の手形がくっきりと刻まれていた。
その周りの皮膚は病的なまでの死灰色の変色を起こし、そこから薄っすらとホルマリンと腐肉が混じった悪臭が漂い始めている。
傷口の侵食は恐ろしいほどのスピードで悪化していた。
「わたしは……」
「平気よ。」
玥映嵐は下唇をきつく噛み締め、そのグロテスクな傷痕を隠そうと、震える手でスカートの裾を必死に引っ張った。
だが、激痛と凍てつくような寒さで彼女の手は小刻みに震えており、普段のプライド高く気高い美少女としての面影は消え失せ、今や最も無防備で脆い姿をみんなの前にさらけ出していた。
「動くな!」
闕恆遠は胸が締め付けられるような焦燥感に駆られ、上に重なっていた伊凝雪と悦清禾の体をそっと押しのけると、はいずるように玥映嵐のそばへと駆け寄った。
「動かないで、」
「ちょっと見せて。」
闕恆遠の声は低く優しかったが、そこには一切の拒絶を許さない強い意志が宿っていた。
彼の温もりを帯びた手のひらが、普段は孤高の孔雀のように気高い玥映嵐の、冷え切った細い足首をそっと持ち上げた。
彼が、こんなにも間近で彼女の体に触れるのはこれが初めてだった。
彼女の肌は驚くほど滑らかだったが、あの五本の黒青い指痕の周囲だけは病的なまでの死灰色の皮膚に変色しており、そこからはわずかに血が滲み出していた。
「痛かったら声を出しなさい、」
「我慢しなくていいから。」
闕恆遠が指の腹で傷口の周りをそっと押さえると、
玥映嵐の体がビクッと激しく震えた。
彼女の整った美しい瞳には一瞬で涙の膜が張り、それまで冷ケースの縁を掴んでいた手が、思わずたまらず闕恆遠の肩を強く掴んだ。
制服の布地越しに伝わってくる彼の体温は、この静まり返った死の世界のような購買部の中で、あまりにも生々しく、鮮烈だった。
「この傷じゃ……」
悦清禾は反対側にしゃがみ込み、沈んだ声で言った。
「適切な処置をしなければ、この足が使い物にならなくなるだけじゃない。私たち全員の足手まといになって、ここから逃げ切れなくなるわ。」
悦清禾は傾いた眼鏡を押し上げながら、もう片側にしゃがみ込んで険しい表情を浮かべた。
カサ、カサ、カサ……
棚の奥から、ビニール袋が擦れ合うような粘り気のある音が響いてきた。
全員がこわばった動きでそちらへ首を向けた。
賞味期限切れのパンが並ぶ棚の陰に、ここにいるはずのない一人の男子生徒がうずくまっていた。
彼の体は小さく縮こまり、両目はまるで何者かにえぐり取られたかのようにただ真っ黒な穴だけが残され、その空洞が闕恆遠の手にある万年筆のキャップをじっと見つめていた。
その手には、すでにパンパンに膨れ上がり、錆びついた麦茶の缶が握られていた。
彼の口元は耳の付け根まで引き裂かれたような不気味な笑みを張り付けたまま、何の抑揚もない声でぶつぶつと言葉を紡ぎ続けていた。
「忘れたんだ……」
「本当に、すっかり忘れてしまった……」
「あいつが誰だったかなんて、もう思い出せない……」
「あいつも僕のことを忘れちまったんだ……」
「取り替えたのさ……」
「あいつは、他の奴とすげ替えたんだ……」
まるで魂の抜け落ちたその肉の殻が、五人の精神をすり減らすような重圧を叩きつけていた。
伊凝雪は恐怖のあまり短い悲鳴を上げ、その場にうずくまって闕恆遠の脇腹へ必死に顔をうずめた。
その大きな瞳には、逃れられない絶望の色が濃く満ちていた。
「いらっしゃいませ、崇德高校深夜購買部へようこそ。」
冷え切った女性の声が、カウンターの向こうから唐突に投げかけられた。
そこに立っていたのは、購買部のおばさんだった。
彼女は色褪せ、黒い汚れの染み付いた濃紺のエプロンをまとい、手にしたボロボロの雑巾で埃まみれのガラスケースを執拗に拭き続けていた。
その動きは機械のように正確で、見ていて気がおかしくなりそうなほどハイペースだった。
カウンターの上には、ぽつんと一つの空きガラス瓶が置かれており、その中では発光するデジタルの粒子が微かにまたたいていた。
購買部のおばさんはゆっくりと顔を上げた。
細くつり上がった目には光が一切宿っておらず、口元には事務的で、しかし体温を一切感じさせない貼りついたような笑みが浮かべられていた。
「この足を治してやる抗生物質なら、あたしのところにあるよ。」
彼女はカウンターを拭く手を止めず、その視線だけは玥映嵐の足元にかがみ込む闕恆遠を正確にとらえていた。
「この階から抜け出すための地図もある。」
「でもね、ここではお金は取らないの。」
「その代わりにもらうものはね、」
「お前たちの頭の中にある、たった一つの思い出さ。」
「思い出……?」
伊凝雪は闕恆遠の背中に身を隠しながら、か細い声でつぶやいた。
「そうだよ。」
「あたしが欲しいのは、お前たちと『あいつ』にまつわる記憶さ。」
購買部のおばさんは、ねっとりとした指先で闕恆遠を指し示した。
「深ければ深いほど、苦しければ苦しいほど、手放したくなくて仕方のない思い出ほど、」
「ここではいい値がつくのさ。」
購買部のおばさんはカウンターの下からもう一つの空のガラス瓶を取り出し、テーブルの上にドンと重く置いた。
その鈍い音とともに、瓶の中で光るデジタルの粒子は五人の感情を察知したかのように、激しく波打ち始めた。
「誰から交換するかい?」
「お前たちがこの男に抱いている愛着と引き換えに、この娘の命を救うのかい?」
「それとも、全員分の生きる道を買うかい?」
購買部のおばさんはカウンターを拭いていた手をようやく止め、両手をカウンターにつけると、ふっと体を前のめりに乗り出し、灰色の瞳でカウンターの前に集まった四人の少女をじっと射貫いた。
空気が凍りついたように静まり返った。
悦清禾は眼鏡の位置を直し、玥映嵐の傷ついた足と購買部のおばさんの無表情な顔との間を鋭い視線で行ったり来たりさせた。
千慕羽はうつむいたまま、指先を強く絡ませて震えていた。
伊凝雪は恆遠の服の裾をしっかりと握りしめたまま、びくびくとして目を逸らしていた。
それはあまりにも残酷な二者択一だった。
カビの匂いが立ち込めるこの深夜の購買部で、五人を結ぶ絆は今、初めて本当の亀裂が入り、試練にさらされようとしていた。
悪化の一途をたどる玥映嵐の傷と購買部のおばさんの冷酷な脅しを目の当たりにし、伊凝雪がまず最初に決断を下した。
彼女はわなわなと震えながら闕恆遠の服の裾からそっと手を離し、血の気の引いた青白い顔に、決死の覚悟をにじませた。
「凝雪!」
「やめろ!」
闕恆遠は彼女を止めようと手を伸ばしたが、命のロープに腕を強く引っ張られて激痛が走った。
「恆遠、」
「映嵐の足を治さなきゃ、」
「私たち全員がここで死んでしまうわ……」
伊凝雪の頬を伝って涙がぽろりこぼれ落ちた。彼女は恆遠を見つめ、その瞳には儚くも引き裂かれそうな愛情の光が宿っていた。それは二人の幼い日の、誰にも言えない秘密の記憶だった。
「子供のころに飲んだ、あの麦茶のこと……」
「あなたが私のためにわざわざ買ってくれたこと、ずっと忘れないから……」
伊凝雪はぎゅっと目を閉じ、震える右手を掲げ、指示された場所へと押し当てた。
ピキッ――バチバチッ!
青白く不気味な稲妻が、伊凝雪の指先とガラス瓶の間で激しく炸裂した。
伊凝雪は絞り出すような苦悶の悲鳴を上げ、その全身が電撃に打たれたように激しく痙攣した。
薄暗い光に照らされながら、一同は恐怖に満ちた目を見開き、無数の金と黒のデジタルな粒子が伊凝雪の眉間から抜け出し、ガラス瓶の中へと吸い込まれていくのをただ見つめていた。
最後の一粒の粒子が彼女の肉体から離れた瞬間、伊凝雪はその場にガクリと崩れ落ちた。
まるで全身の骨が溶けてしまったかのように、彼女は闕恆遠の足元に力なくぐったりと横たわった。
「凝雪!」
「凝雪、大丈夫か?」
闕恆遠は気が気でない様子で彼女を抱き起こそうとした。
伊凝雪はゆっくりと顔を上げた。
彼女の大きな瞳が目の前の闕恆遠をとらえた。それまで恐怖と強い執着に満ちていたはずのその眼差しは、この瞬間、底知れずよそよそしく、冷淡で他人行儀なものへと変貌していた。
「恆遠くん……」
伊凝雪は差し出された手をそっと押し退けると、自分の力で床を突っ張って立ち上がり、まるで一度も親しく話したことのない相手に向けるような、凍りつくほど冷たい声を響かせた。
「ありがとう……」
「支えてくれて。」
「なんだか、足が少ししびれちゃって。」
彼女は顔を背け、カウンターの向こうに立つ購買部のおばさんを見据えると、かつての温もりを微塵も感じさせない丁寧すぎる口調で告げた。
「おばさん、」
「対価は支払いました。」
「約束の消炎薬をいただけますか?」
カウンターの傍らにうずくまっていた紀子昂が、突然ケラケラと異様な笑い声を立て始めた。その空洞の眼窩が闕恆遠をじっと見据え、うわごとのようにつぶやいた。
「忘れちまったんだ……」
「ハハハハ……」
「あいつはお前が誰かなんて、すっかり忘れちまったよ……」
「お前も、そのうち自分が誰だかわからなくなるのさ……」
「ハハハハ……」
「よくやったねぇ、」
「この思い出はなかなか濃厚で深い代物だ。」
「これだけあれば、品物を二つに増やしてやってもいいさ。」
購買部のおばさんは伊凝雪の記憶が詰まったその瓶を冷徹な手つきで拭き上げると、カウンターの下から消毒液のボトルと一包みの軟膏を取り出し、同時に「消えた五階の構造図」と書かれた黄ばんだ地図を悦清禾の足元へと放り投げた。
闕恆遠はその中心にぽつんと立ち尽くしていた。
頭上の明かりが彼の影を細長く歪ませて引き延ばしていく。
彼は手に握りしめた折れた万年筆のキャップを爪が食い込むほど強く握り締めながら、伊凝雪のその美しくも自分を他人として見る冷たい顔を見つめていた。
この気味の悪い場所で、彼はかつてないほどの激しい恐怖に襲われていた――姿かたちはここに残っているというのに、その魂はもう彼のことを一切思い出してはくれないという事実を突きつけられて。




