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放課後の禁区(N1-1)  作者: 闕恆遠


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消えた五階 第1章:3. 本物のほくろの証明

闇はまるでねっとりとした液体のように、蛍光灯がすべて爆発した瞬間、教室の隅々まで素早く満たしていった。


空気中に漂っていたわずかなホルマリンの臭いがこの時異常なまでに濃くなり、肌にまとわりついて、自分たちがまるで標本瓶の中に漬けられているような錯覚を抱かせた。


闕恆遠は右手からヒリヒリとするほどの強い握りを感じた。


それは悦清禾の手だった。


彼女の手のひらは氷のように冷たかったが、伝わってくる力加減は、彼女が今極限の緊張状態にあることを物語っていた。


「動かないで……」


「みんな、絶対に動かないで……」


「絶対にてを放さないで。」


悦清禾の声は暗闇の中で低く押し殺されており、彼女特有の冷静さは、このときぞっとするような威厳を帯びていた。


廊下の冷ややかな白いセンサーライトが、教室の扉にある曇りガラスを通して、細長く青白い光を投げかけている。


その光と影の境界の向こう側に、もう一人の「闕恆遠」が立っていた。


その影はゆっくりと手を持ち上げた。


指の間には、全体が漆黒でありながら、ペン先だけが妖しく青い光を放つ万年筆が挟まれていた。


そのペン先の輝きは、深海で獲物を誘い出すチョウチンアンコウの灯りのように、魂を揺さぶるような魔性を帯びていた。


その万年筆は、この五人にとってあまりにも馴染み深いものだった。


それは小学校の卒業時、五人が学校の向かいにある文房具店で半時間もかけて選び抜いた「時空の記念品」だったからだ。


「……あれは、」


「私の選んだ色だわ。」


千慕羽の声はふわりと軽くなり、まるで催眠術にでもかけられたかのようにうつろになっていた。


彼女は今まで恆遠の腰に回していた手をそっと緩め、足元で小さく衣擦れの音を立てながら、扉の外にいるその影に向かって歩み出そうとした。


「あれは小学校を卒業するとき……」


「恆遠がわざわざ私に選んでくれた色なの、」


「言ってくれたんだから……」


「この万年筆で私に手紙を書くって……」


「千慕羽!」


「あんた頭がおかしくなったのか!」


「こっちに戻ってこい!」


闕恆遠は荒々しく声を張り上げ、彼女を引き留めようと手を伸ばしたが、袖が伊凝雪と結ばれていたせいで強く引っ張られ、隣の伊凝雪から短い悲鳴が漏れた。


「行かせないわよ!」


悦清禾はもう片方の手を伸ばし、千慕羽の肩を力任せに掴むと、三人の中央へと荒々しく引き戻した。


悦清禾は顔を向け、わずかな光の中で眼鏡のレンズが冷たく鋭い白い光を反射させた。


彼女は目の前にいる本物の闕恆遠をじっと見据え、極限まで押し殺した声で言い放った。


「形見なんて盗まれるし、」


「声だって真似されるわ。」


「この気味の悪い場所では、記憶すらねじ曲げられかねない。」


「私たちがこの五階で生き残るためには、」


「肉体に刻まれた、決して奪うことのできない証拠だけが頼りよ。」


悦清禾は深く息を吸い込み、冷徹で決断力に満ちた口調で告げた。


「恆遠、」


「ごめんなさい、」


「今は男女の区別なんて言ってる場合じゃないわ。」


「凝雪、」


「あんたが確かめて。」


「彼の鎖骨の下にあるあの黒子に触れて、本物かどうか確認するのよ。」


「何時間も前に、あの雨の中で私たちが一緒に見た、あの黒子をね。」


伊凝雪は体をすくませたまま、闕恆遠の左側にしがみついていた。


彼女はその小さな顔を上げ、大きな瞳には恐怖と戸惑いがあふれ、か細く震える声は今にも壊れそうだった。


「私……私が?」


「どうやって確かめればいいの?」


「だって、こんなに暗くて……」


「何も見えないよ……」


「あなたの指で触れて確かめるの。」


「あなた、触ったことがあるでしょ?」


「その感触を覚えているはずよ。」


悦清禾の命令は、まるで絶対に逆らえない契約のようだった。


伊凝雪は震える右手を持ち上げた。


その指先は細く、微かな冷たさを帯びていた。


彼女の指先が闕恆遠の制服のシャツの二番目のボタンに触れた瞬間、闕恆遠は二人の呼吸が同時に一瞬止まったのを感じた。


プチッ――


一番上のボタンが外された。


闕恆遠は襟元から流れ込んでくる冷たい風を感じ、それに続いて伊凝雪の激しく震える指先がシャツの裾へと滑り込んできた。


その感触は暗闇の中で何倍にも増幅され、伊凝雪の指先が彼の皮膚をかすめていくのがはっきりと分かった。


彼女の動きは非常にゆっくりとしていて慎重だった。


指先が肌の上を滑るときに走る痺れるような感覚が、この死の恐怖の中でありながら、闕恆遠に言いようのない罪深いざわめきを覚えさせた。


「恆遠……」


「あなたの心臓……」


「すごく速く打ってるよ、」


「今にも飛び出そうなくらいに……」


伊凝雪は小さく呟いた。


彼女の指先は鎖骨のまわりを不安げにさまよい、記憶の中にあるその印を探し求めている。


記憶がその瞬間、指先の感触と重なり合った。


それは小学五年生の真夏の午後だった。街を呑み込みかねないほどの激しい夕立が突然降り注いだときのことだ。


体育の授業が終わったあと、五人は体育の先生に呼び出され、プールサイドのビート板の籠を片付けるのを手伝わされていた。


当時のプールサイドには誰もおらず、雨が採光ドームを打ち叩く音が耳をつんざくほど響き渡っていた。


闕恆遠は重い用具の籠を運んだため全身が雨でびしょ濡れになり、白いシャツが肌にすっきりと張り付いていた。


彼はそのときあまりの暑さと息苦しさに耐えかね、自らシャツのボタンを乱暴に引きちぎるように外した。


そのとき、伊凝雪はすぐそばで片付けを手伝っていた。


彼女は彼の鎖骨の下にあるその小さな黒子にすぐ気づき、泥かゴマでもついたんだと勘違いして、大声を上げながら指で払おうと手を伸ばしてきたのだ。


あのとき、彼の鎖骨に初めて触れた指先の温度は、今この瞬間と寸分違わず同じだった。


「見つけた……」


伊凝雪の指先が、小さく少しだけ硬さのある盛り上がりにぴたりと止まった。


彼女はまるで何かの神託でも確認したかのように、その指の腹でその黒子を二度、そっと撫でた。


その瞬間、伊凝雪の張り詰めていた精神が完全に限界を迎え、彼女は手にしていた布から手を離すと、そのまま闕恆遠の胸の中に激しく飛び込み、声を上げて泣きじゃくった。

あふれ出た涙が、瞬く間に彼の肩を濡らしていく。


「本物だ……」


「あなたが本物の恆遠だわ……」


「うっ、うっ……」


その正真証明の確認が済んだ瞬間、教室の上方から耳障りなきしみ音が響いてきた。


闕恆遠がハッと顔を上げると、斜め前の最前列の席に、いつの間にか一人の女子生徒が座っているのが目に入った。


それはクラスメイトの欧陽凝だった。


彼女は全身がびしょ濡れで、今にも水滴が滴り落ちそうな青いジャージを着ており、濡れた長髪がねっとりと肩に張り付いていた。


彼女は振り返ることもせず、首を骨が砕けるような不気味な角度で、ぐにゃりと一八〇度ねじ曲げた。


その整った顔立ちはすっかりむくみきった青白い死人のようであり、瞳孔の消え失せた両目には、ただ魚の死んだような灰白色だけが宿り、闕恆遠の開け放たれた襟元をじっと見つめていた。


「確認、完了したわね……」


欧陽凝の唇は一切動いていなかったが、その声はまるで排水管の奥底から響くように、空間全体にこだました。


「点呼の人数……」


「一人、多い……」


「名前を呼ばれなかった者は……」


「誰もここから出られない……」


コツ、コツ、コツ。


教室の木の扉が突然、激しく叩かれた。


そのリズムは、まるで鉄槌が胸を直接打ち付けるかのように重かった。


「自習の時間を過ぎているぞ。」


かすれ、感情のかけらすらない男の声が、後門のあたりから響いてきた。


色褪せ、黒い汚れのついた青い教官服をまとった范姜峻が、錆びついた、先端に血の跡の残る鉄の棒を引きずりながら立っていた。


彼は廊下の床をゆっくりと歩きながら、鉄棒で「キィーーッ……」と耳障りな金切り声を立て、それが猛烈な焦燥感をかき立てた。


彼は出入り口の前に立ち、あの顔の不鮮明な「偽物の恆遠」と肩を並べていた。


「校則違反者は、」


「学籍を取り消す。」


范姜峻はゆっくりと鉄棒を持ち上げ、制服のロープでしっかりと縛り付けられた五人を指し示した。


「この階層において……」


「一度学籍を失えば、」


「それはすなわち、存在そのものが消え去る権利を与えられるということだ。」


扉の外にいた偽物の恆遠が、突如として口の端を吊り上げて笑った。

それまでかろうじて形をとどめていた顔が激しく溶け崩れ、まるで炎に炙られた蝋人形のように歪んでいく。


彼はあの記念の万年筆を掲げた。

そのペン先からどろりとした黒赤色の液体が滲み出し、空中に奇妙な文字の記号を描き出す。

その文字符号の内側の空間が、まるでガラスの破片のように次々と亀裂を生じさせ、崩落を始めていた。


「恆遠、」


「奪い返すのよ!」


「早く、あの万年筆を取り返しなさい!」


悦清禾は闕恆遠を強く突き飛ばした。


それは彼がバランスを崩して飛び出しそうになるほどの凄まじい力みであり、彼女の声は蛍光灯が爆発した静寂の中で異常なまでに鋭く響き渡っていた。


闕恆遠は全身の筋肉がその命令によって一気に火がついたのを感じた。


彼は悦清禾の狂気じみた押し出す力と、あの「記念の万年筆」――五人の無垢な思い出を繋ぐ唯一の絆に対する執念を頼りに、扉の前に立つ偽物の恆遠めがけて猛然と飛び出した。


二人の指先が交錯したその瞬間、闕恆遠は指先から全身へと駆け巡るような刺すような冷気を感じ、まるで魂まで凍りつきそうになった。


彼の視線が、あの化け物の溶けかけた顔とぶつかった。


本来なら目鼻立ちがあるはずのその場所には、ただどんよりとした灰白色の濁りだけが広がっており、その手にある万年筆だけが、残酷なまでの冷たい光を放っていた。


二人の指が交差したその瞬間、彼は骨の髄まで凍るような冷たさが指先から全身へ伝わるのを覚えた。


彼は万年筆の軸を必死の思いで掴み、化け物側もまた、執念深くそれを離そうとしなかった。


こうして、狭い出入り口の枠組みを挟んで、二つの力が激しく引っ張り合いを始めた。


パキッ!


乾いた、鋭い破裂音が響いた。


闕恆遠は勢いのあまり後ろへ尻餅をつき、飛び散ったインクが彼の手のひらを真っ黒に染め上げた。


彼は慌てて手元を見下ろした。


彼が奪い返したのは、キャップがつき、繊細な刻印が施されたほうの半分だった。

もう片方の軸は、偽物の男の青黒く濁った手のひらの中で消え失せていた。


「行こう!」


「早く走れ!」


闕恆遠は起き上がるやいなや、大声で叫んだ。


彼が走るように叫んだのには理由があった。


最後尾を歩いていた玥映嵐の足首を、いつの間にか欧陽凝のむくんだ青白い手がガシッと掴んでいたからだ。


さらに教官の范姜峻が錆びた鉄棒を大きく振りかぶり、出入り口の床めがけて猛烈な一撃を叩きつけた。


床は無数のデジタルな破片となって飛び散り、足元には漆黒の底知れぬ虚無がむき出しになっていた。


「離しなさいよ!」


玥映嵐の瞳が鋭く光った。


彼女の骨の髄まで染み込んだ孤傲さは、極限の恐怖の中で暴力的な反抗心へと変貌を遂げていた。


彼女は革靴を履いた足で欧陽凝の手指を思い切り踏みつけ、五人はその引き合う勢いに乗じて、崩壊を始めた点名教室から飛び出した。


「振り返るな!」


「急ぐんだ!」


闕恆遠は砕けかけた半分だけの形見をきつく握りしめ、四人の少女を引き連れて廊下を疾走した。


彼の背後では、教官である范姜峻の巨大なシルエットが廊下の突き当たりで揺らめいていた。


男が鉄棒を引きずりながら床を引っ掻く「キィーーッ……」という耳障りな音が響き渡り、空気中の腐ったホルマリンとテスト用紙が腐敗した臭いはますます濃くなっていった。


五階の廊下全体が激しく揺れ動き始めた。


天井の石膏ボードが次々と剥がれ落ち、その隙間からは色あせたデジタルの線と黒い霧がむき出しになっていた。


廊下の壁にあった焦げた掲示板は、いつの間にか漆黒の渦へと姿を変え、五人をその中に引きずり込もうと待ち構えていた。


彼らはまるで結合双生児のように一つに繋がり、「命のロープ」の制約に従いながら、息を合わせて歩調を保ち続けるしかなかった。


「恆遠、前を見て!」


千慕羽の絞り出すような声はひどく震えており、まるで自分のものではないかのようだった。


階段の踊り角に、ずぶ濡れで黒ずんだ制服を着た人影がゆっくりと振り返った。


彼女の口元は耳の付け根まで裂けんばかりの歪んだ笑みを湛え、その濁りきった両眼は闕恆遠の握る折れた万年筆をじっと見つめながら、うわごとのようにつぶやいた。


「名前を呼ばれなかった者は……」


「ここから出られない……」


「学籍を取り消さなきゃ……」


闕恆遠は真っ黒にインクが染みついた手のひらで、その折れた万年筆の軸を力いっぱい握りしめた。


そして、逃げ場のない四人の少女を引き連れ、不気味に「5」の数字を掲げ続けるその階段の出口めがけて、再び全速力で駆け出した。

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