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放課後の禁区(N1-1)  作者: 闕恆遠


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消えた五階 第1章:2. 幽霊教室の点呼

「邵秉坤……」


「あいつ、本当に……」


「落ちちゃった……」


千慕羽の壊れたような声が冷たい空気に溶けていく。


彼女はまるで全身の骨が抜けたように闕恆遠の背中にもたれかかり、両腕で彼の首をきつく締め上げた。


極度の恐怖からか、彼女の爪が彼の肉に食い込んでいた。


闕恆遠は、千慕羽の涙が制服の背中を濡らしていくのを感じていた。


その湿った熱さが、この死んだような静けさの中でやけに熱く感じられた。


「恆遠、離さないで、」


「お願いだから、私たちを置いていかないで……」


伊凝雪は恆遠の右側に縮こまり、激しい雨に打たれる枯れ葉のように体を震わせ、小さな両手で彼の腕にしがみついた。


その細い指が痙攣しているのが、嫌でも伝わってきた。


「邵秉坤が落ちたとき、着地の音すらしなかったわ。」


玥映嵐は一歩引いた位置に立ち、その声は氷のように冷たかった。


だが、その美しい切れ長の目が、底知れぬ闇の広がる下方を恐怖に満ちた視線で睨みつけているのを、闕恆遠だけは知っていた。


「こんなところで突っ立ってちゃダメよ。」


悦清禾は眼鏡の位置を直すと、完全に開ききった防火扉へと鋭い視線を向けた。


「あの声は、中に入って自習しろって言ってる。」


「ここであの腐った魚の臭いに飲み込まれるのを待つくらいなら、」


「中に入って出口を探したほうがマシよ。」


彼女は手を伸ばし、闕恆遠の左手をしっかりと握りしめた。


悦清禾の手のひらは氷のように冷たかったが、その握力には確かな意志が宿っており、極限のプレッシャーにさらされた恆遠の心をわずかに支えてくれた。


「でも……中、真っ暗だよ……」


千慕羽は彼の背中に顔をうずめたまま、か細くつぶやいた。


「中ではぐれないようにするためには、お互いを繋ぎ止めておく必要があるわ。」


悦清禾は三人の少女を見据え、恐怖すら覚えるほど冷静な口調で言った。


「制服の上着を脱いで。」


「上着?」


伊凝雪はぽかんと口を開けた。


「袖を使うのよ。」


「上着の袖同士を結んで、一本のロープみたいにして、」


「私たち五人をそれで縛りつけるの。」


悦清禾は手際よく自分の上着を脱ぎ、見本を見せ始めた。


「紐さえ切れたりしなければ、どんなに暗くてもはぐれることはないわ。」


死と未知の恐怖に支配された階段の踊り場で、五人はその儀式のような「縛り付け」の作業を始めた。


袖を結び合わせ、確実に固定するため、五人の距離は必然的に極限まで縮まっていった。


悦清禾が先頭に立って導き、彼女の上着の袖が闕恆遠の上着と結ばれている。


闕恆遠はその二番目に立ち、反対側の袖が伊凝雪と結ばれていた。


伊凝雪は恆遠の脇にぴったりと寄り添うように移動し、その肩が恆遠の腕にそれとなく擦れていた。


布越しに伝わる少女の体温は、カビ臭さと腐った魚の臭いが立ち込める空間の中で、あまりにも異質だった。


千慕羽は恆遠の後ろに結ばれており、安心感を求めるように全身を恆遠の上着の中に埋めるようにして息をひそめていた。


彼女の息遣いは少し荒く、狭い空間の中で、闕恆遠は彼女がさっきまで飲んでいたミルクティーのほのかな甘い香りさえ嗅ぎ取ることができた。


一番後ろは玥映嵐で、彼女は殿(しんがり)を務め、その袖は千慕羽と結ばれていた。


彼女は冷徹に前の三人を見据え、その視線は終始、闕恆遠の背中と伊凝雪の肩が触れ合うあたりに釘付けになっていた。


「準備はいい?」


悦清禾は振り返り、ロープでしっかりと一つに繋がれた四人を見渡した。


「……ああ、大丈夫だ。」


闕恆遠は深く息を吸い込み、ロープから伝わってくるそれぞれの力加減と体温を感じ取った。


五人はまるで結合双生児のように一つに繋がり、あの防火扉の向こうへと足を踏み入れた。


扉の向こうは果てしなく続く長い廊下だった。


このあたりの造りは四階と全く同じだったが、どこか生気を失った灰色の質感を帯びていた。


天井の蛍光灯は消えておらず、まるで心臓の鼓動のような、極めてスローな周期で明滅を繰り返している。


「パタッ」と響く電流の音が一つ鳴るたびに、ピンと張り詰めた彼らの神経が引き裂かれそうになっていた。


廊下の壁には、いくつもの焦げたボロボロの掲示板が掛けられており、どこからともなく吹いてくる微風に揺られてかすかに揺れていた。


空気中からあの腐った魚の匂いは消え、その代わりに、長年放置されたホルマリンと、古びた試験用紙が腐敗したような、濃厚な臭いが立ち込めていた。


「ねえ……」


「ここって、静かすぎない?」


千慕羽が声をひそめて尋ねた。

彼女の声は廊下に微かな反響を呼んだが、その直後、彼ら五人のものとは違う音が聞こえてきた。


それは廊下のロッカーのあたりから響く、ぬちゃりと泥の中を引きずられるような重い足音だった。


ズリ……ズリ……


「恆遠、見ないで……」


伊凝雪はさらに身を縮こまらせた。


彼女の鼻先が闕恆遠の首筋に触れるほど近く、恐怖で熱を帯びた息が肌を撫でた。


この道のりはあまりにも険しかった。


この「命のロープ」に縛られている以上、彼らは歩調を完全に合わせなければならない。


一歩一歩の移動が、五人の体温と心臓の鼓動を複雑に交錯させていく。


千慕羽は怖さのあまり上着の中にすっぽりと身を隠したまま動き、


伊凝雪ははぐれないようにと、その長い髪を他的肩に散らしていた。


そこから漂う青りんごのような淡い香りが、この窒息しそうな空間にあっては、かえって焦りを誘うような甘ったるさを感じさせた。


「恆遠、あそこを見て。」


悦清禾がふと足を止めた。


きれいに並んだロッカーの脇に、数冊の開きっぱなしのノートが散らばっている。


闕恆遠はかがみ込んで、そのうちの一冊を拾い上げた。


表紙に書かれた名前を見た瞬間、彼の瞳孔がキュッと縮み上がった。


『高二甲組 羿采葳』。


羿采葳は隣のクラスの、おとなしい女子生徒だった。

自習が始まってすぐ、体調が悪いと言って早退したはずだ。


「羿采葳って……」


「もうとっくに帰ったはずじゃ……」


伊凝雪も顔を寄せ合ってノートを覗き込み、小さく身震いした。


闕恆遠がノートを開くと、中の文字はひどく歪んで乱れ、まるで極限の恐怖におののきながら書き殴ったかのように荒れ果てていた。


どのページも、まったく同じ一文で埋め尽くされていた。


『彼がまだこっちを見ている。』


『彼がまだこっちを見ている。』


『彼がまだこっちを見ている。』


最後のページでは、文字が紙を突き破り、真っ黒な穴があいていた。


「恆遠、そのノートには関わらないで。」


玥映嵐が冷たく言い放った。

彼女の手は暗闇の中でロープをきつく握りしめていた。


「あんなの、私たちが見るものじゃないわ。」


彼らは歩調を早め、廊下の突き当たりにある、惨めな白い光を放つ教室へと向かった。


その光はかすかなものだったが、死の世界のような静けさの中に、ぼんやりと人の影を浮かび上がらせていた。


彼らは一番手前にある教室へと飛び込んだ。


この教室の明かりは青白く、めまいを覚えるほどに強烈だった。


四階の教室の乱雑な机や椅子とは違い、ここにある机と椅子は不気味なほど整然と、まるで硬直しているかのように並べられていた。


だが、それ以上に異様なのは、そこに座っている「人間」たちだった。


皆一様に同じ制服を身にまとい、長い髪を肩に垂らしたまま、五人とは背を向け、規則正しく体を揺らしていた。


それはまるで押し殺して泣いているようでもあり、何かをぐにゃぐにゃと咀嚼しているようでもあった。


教壇の上には、無表情な少女が一人立っていた。


彼女の手には、黄色く変色した出席簿が握られている。


それは卓以琳だった。


彼女はいわゆる「勉強し始めるとすぐに不安神経症になってしまう」タイプの女子生徒で、闕恆遠は朝のホームルームで、担任の先生が「家庭の事情で今日は欠席する」と告げているのを覚えていた。


だが、今この瞬間、卓以琳は教壇の上に立ち、感情のない目でその黄ばんだ出席簿を見下ろしていた。


規則正しく机を叩く音が、何か不吉な刻限の訪れをカウントダウンしているかのように響いていた。


「恆遠、」


「あなたも残って……」


「一緒に自習してくれるの?」


その声は彼女の口から発せられたものではなく、五人の脳内に直接響き渡った。


「私たち……」


「ここに閉じ込められたってこと?」


玥映嵐は冷たい視線を一瞬千慕羽に向けたあと、あの防火扉へと視線を走らせた。


卓以琳が顔を上げた。


その大きな両目には黒目がなく、ただどんよりとした灰白色の濁りが広がっていた。


彼女の口元には不気味な笑みが貼り付いていた。


それは耳の付け根まで裂けんばかりの歪んだ笑みであり、彼女は出席簿を開くと、抑揚のない乾いた声で名前を読み上げ始めた。


「高二甲組……」


「藍語昕。」


「はい……」


三列目に座っていた女子生徒が小さく返事をした。


彼女の体は自分の名前を呼ばれた瞬間、まるで何者かの巨大な力に激しく引っ張られたかのように、そのまま席から浮き上がり、階段の手すりを飛び越えて、底知れぬ中央の吹き抜けへとまっさかさまに墜落していった。


「藍語昕が落ちちゃった……」


千慕羽はあまりの恐怖に声を上げそうになり、闕恆遠はとっさに手を伸ばして彼女の口をふさいだ。


彼の手のひらに、彼女の唇の柔らかさと湿り気が伝わってくる。

そして、極度の恐怖から彼の手に押し殺されたような、か細い嗚咽が漏れていた。


千慕羽は見開いた目で彼を見つめていた。

その瞳には恐怖だけでなく、小学生の頃以来見たこともなかったような、少女特有の恥じらいと切ない執着の色がかすかににじんでいた。


「恆遠……見ちゃダメ……」


伊凝雪の声はひどく歪んでうつろで、まるで何かがぽたぽたと滴り落ちるような湿った音が混じっていた。


卓以琳は点名を止めなかった。

彼女の手にある黄ばんだ出席簿から、乾いた、わずかに電磁音を帯びたノイズが響き渡る。


生徒たちが波のように教室からあふれ出ていく。


邵秉坤が一番に教室を飛び出した。

挨拶す後ろに何か得体の知れないものが追ってきているかのように、振り返りもしなかった。


「高二甲組……」


「羿采葳。」


返事はない。


その時、防火扉が勢いよく押し開けられた。


女の子の悲鳴が響き渡る。


それは商夢恬の声だったが、姿は見当たらない。


だが、すぐ近くに、ぼんやりとした人影が背中を向け、給水機の脇にかがみ込んでいた。


その人物は彼らと同じ制服を着て、長い髪を肩に垂らし、両肩を規則正しく上下させていた。


それは押し殺して泣いているようでもあり、何かをぐにゃぐにゃと咀嚼しているようでもあった。


「羿采葳?」


闕恆遠は探るように声をかけた。


人影がぴたりと動きを止めた。


その直後、その人影はありえないほどの不自然な角度で首をねじ曲げた。


骨と骨が擦れ合う耳障りな音が、廊下に生々しく響き渡る。


それは羿采葳の顔だったが、その瞳には黒目がなく、ただどんよりとした灰白色の濁りが広がっていた。


口元には耳の付け根まで裂けんばかりの、不気味な笑みが貼り付いていた。


「恆遠、」


「お前も残って……」


「一緒に自習してくれるのか?」


その時、静まり返った廊下の奥から、誰もが背筋を凍らせるような影が現れた。


その黒い影の体つきや歩くリズムは、なんと闕恆遠本人とそっくりそのまま同じであり、手には一本の精巧な万年筆が握られていた。


「あれって……」


千慕羽は目を凝らし、一瞬で息を呑んだ。


「あれ、私たちが小学校を卒業するときに文房具屋で一緒に選んだ記念の万年筆じゃない?」


「どうしてあいつが持ってるの?」


闕恆遠は無意識のうちに自分のカバンの内ポケットを探った。


顔面がみるみる真っ青に染まっていく。


そこにあるはずの万年筆が、消えていた。


狭い教壇の空間の中、伊凝雪は恐怖のあまり恆遠の脇腹にすっぽりと身を寄せ、千慕羽は後ろから彼の腰を両腕でしっかりと抱きしめていた。


二人は「安全な場所」を奪い合うように、わずかに体を押し付け合っていた。


この真っ暗で、狭く、死の脅威に満ちた空間の中で、五人の体温と心臓の鼓動だけが、この狂った世界における唯一の現実だった。


卓以琳が出席簿から読み上げる名前は、聞けば聞くほど耳に馴染むものばかりだった。


それはすべて、高校時代に事故や自殺でこの世を去った生徒たちの名前だったからだ。


「恆遠、」


「聞いちゃダメ……」


「あれは罠よ……」


悦清禾の声は氷のように冷たかった。


「あの名前は全部、私たちを誘い込む罠なの。」


「この場所には……そもそも地面なんてないんだから。」


その言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、教室中の蛍光灯がものすごい音を立てて一斉に爆発し、世界は完全に漆黒の闇へと沈み込んだ。


その時、それまで固く閉ざされていた教室の後門が、重々しくゆっくりと開いた。


廊下の冷ややかな白い光が再び灯る。


だが、今度の廊下の突き当たりには、誰もいないはずの場所に、もう一人の「闕恆遠」が立っていた。


その闕恆遠の手には、あの万年筆が握られており、不気味な笑みを浮かべながら、こちらに向かって手招きをしていた。


本物の闕恆遠は、自分を取り囲む四人の少女たちの力が、一瞬にしてふっと緩むのを感じた。


彼女たちの瞳は次第にうつろになり、まるで戸口の外に立つその影に引き寄せられているかのようだった。


「本物の闕恆遠はここにいる!」


悦清禾が大声で叫び、制服の襟をぐっと引っぱって、闕恆遠の鎖骨の下にある、彼女たちだけにしか知られていないほくろを指し示した。


「このほくろをよく見て!」


「これ、私たちが小さい頃に一緒に川遊びしたときに見つけたものよ!」


扉の外の影がぴたりと動きを止めた。


彼はまるで空気中の匂いを嗅ぎ取るかのように、じっと佇んでいた。


「見つけたぞ……」


「お前たちを……」


その直後、青白く、爪の黒ずんだ手が、戸口の縁にそっと這い上がってきた。


それは、巧妙に仕組まれた罠だった。

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