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過去のこと
昔はもう一人いた。
私と同じ、分ける側の人間が。
彼はいつも淡々としていた。
私よりも、迷いがなかった。
子供が泣こうが、縋ろうが、目を逸らさずに
黙々と子供と向き合っていた。
―――それが正しいと、私も、彼もそう思っていた。
ある日、彼はふと手を止めた。
ほんの数秒だった、と思う。
それでもその手の止まった時間は、あまりにも長く感じた。
次の瞬間。
―――彼の頬には、涙が伝っていた。
彼は何も言わなかった。
名を与えることも、与えないこともせず、
ただその場に立ち尽くしていた。
周囲がざわついた。
みんな、理由は理解していた。
――壊れてしまったのだ、と。
その日を境に、彼は誰の前にも姿を現さなくなった。
どこへ行ったのか、誰も何も知ろうとしなかった。
―――知ってしまったら、辛くなるだけだから。




