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はじめてのコラボカフェ

初出:pixivFANBOX

https://usagiya.fanbox.cc/posts/11514451

 ひとりで採掘ポイントを巡り、ついでに途中の植物採取ポイントでワシャッと良い音をさせていると、チャット欄が動いた。


C:レ「おいっすおいっす!」

C:ナ「こんばんは」

C:ツ「こんばんは」


 戦闘していたわけではないので、ツェルトもそれなりの速度で反応したつもりである。しかし、ナイトハルトには負けてしまった。

 内藤さんほんと謎、とツェルトは思う。なにやってんだろう、いつも。

 ツェルトは、MOゲーム『クリスタル・ライジング』に存在する、団員クラン・メンバー四名の弱小冒険団(クラン)、〈沈黙騎士団〉の一員である。唯一の団則が「ヴォイス・チャット禁止」なせいで、全員打鍵が速い。ツェルト自身、もともと不自由ない程度にはキーボードでチャットできていたが、〈沈黙騎士団〉に所属したせいで、その技術が磨かれまくってしまった感がある。


C:レ「挨拶してくれてありがとぅ〜、ヴォルフ以外の皆!」


 ヴォルフというのは、〈沈黙騎士団〉の団員である。今夜はまだオフラインだ。

 学生で早めに落ちるくせに来るのも遅いため、平日の活動は控えめだ。そのぶん、根を詰めてやるときゃやる、の波ありタイプである。毎日コツコツのツェルトとプレイスタイルは違うが、全ジョブをレベルキャップまで上げてあるのだから、到達点は似たようなところといえるだろう。

 この冒険団、弱小ではあるが、団員全員がそこそこ廃人なのだ。究極の廃人からすれば、まだまだだね……と鼻で笑われそうではあるが、世間的には間違いなく廃人といわれそう。そんな微妙なラインの集まりだ。


C:ナ「挨拶は基本ですからね」


 ヴォルフはいいとして、ナイトハルトはほんとに謎だ。

 ツェルトがログインするときは、九割オンラインだ。レベリングも素材集めも熱心にやっている割には、チャットの反応が神速である。『クリスタル・ライジング』――略してクリライには、アクション要素がある。序盤のゆるゆるなエリアにいるならともかく、最新アプデに対応したエリアにいるなら、片手チャットに片手ゲームで凌げない場面も多いはずなのだ。


C:ツ「内藤さんて、チャット入力にAI使ってたりする?」

C:ナ「百パーセント人力ですが……いやすみません、違いました。魔王力でした」

C:レ「今日は破壊神じゃないのん?」

C:ナ「今日の気分は魔王ですね」


 ナイトハルトは非常に残念な厨二病患者でもある。


C:ツ「なんだっけ……終焉を齎す破壊神?」

C:ナ「今日は魔王ですよ。終焉を齎すに匹敵するインパクトと良さがあるフレーズ、魔王の方にもほしいですね」


 インパクトはあるが、良さはよくわからない。ツェルトはあまり厨二病に理解が深いとはいえないのだ。


C:ナ「ところで、レイマンはわたしに用があるのでは? 愛ちゃん対策ですか?」

C:レ「うっ……」


 図星ぃッ! みたいな反応を見せたレイマンは、たいへんわかりやすい。

 愛ちゃんとは、レイマンに粘着ストーキングするプレイヤーの通称である。ひっつきはじめた当初は、レイマンさんモテモテじゃんヒューヒュー! みたいに見守っていたのだが、そんな可愛らしい話ではなかった。粘着具合が常軌を逸しているのだ。

 そんな愛ちゃんには、名前を変更しまくるという特性がある。「レイマン☆ラブ」とか「永遠の愛を☆レイマン」だったか……。独特のセンスであるが、まぁ……とにかく。団内では、謎の愛ちゃんと呼べば通じる。


C:ツ「当たりなんだ……また、なにかあったの?」

C:ナ「レイマンがオフラインでログインしている時点で、察するものがあります」


 いわれてみれば、レイマンはオフライン表示だ。


C:ツ「それだけで察しちゃうの? 内藤力が高くない?」

C:ナ「わたしは本家内藤ですからね」


 わけのわからない会話になってきたところで、レイマンの泣きが入った。


C:レ「察してくれて助かるけど……相談、いいかな? いいよね? いいって許可して!」

C:ナ「もちろんですとも。どうぞどうぞ」

C:ツ「どうぞどうぞ」

C:ナ「で? コラボカフェに誘われましたか?」


 いきなり打って出るナイトハルト!


C:レ「内藤ぅ〜! わかってくれるって信じてたよぉ〜!」


 ホームランだったらしい。


C:ツ「コラボカフェって、全国十都市で開催っていうやつ?」


 ツェルトはリアル・イベントにほとんど興味がない。

 そもそも、同じゲームをやってる相手に会いたいか? ツェルトは会いたくない。なんというかこう、自分を認識されたくないというか……そんな感じである。

 ツェルトが把握するところ、レイマンとヴォルフはそのへんにこだわりがなく、ナイトハルトは「それを遠くから観察したいですね」派だ。

 ……怖いよ、うちの団長クラマス


C:レ「そそ。いつもの首都開催なら、地方住みなんでって断りやすいんだけどさぁ……」

C:ナ「へたに応じると居住地がバレますよ」

C:レ「それなんだよなぁ」

C:ツ「応じなければ問題ナシでは?」


 レイマンは、妙にやさしい。つきあいが良い。

 だから、謎の愛ちゃんのような人物につきまとわれてしまうのだ。ときには毅然と! 厳しく! お断りする姿勢を見せるのも必要だろう。


C:ナ「それができない?」

C:レ「全国十都市ぶん、ペアでチケット買ったんだって」

C:ツ「なにそれ」


 ひとりで行脚するならわかるが、ペア? 謎の愛ちゃんに、レイマン以外にこう……つきあいの深いプレイヤーがいるとは思えない。


C:ナ「レイマンを連れ回す想定ではないでしょうね」

C:レ「そなの?」

C:ツ「え、連れ回したいんじゃないの?」

C:ナ「連れ回したいか否かでいえば、連れ回したいでしょう。ですが、まず『ここまでされたのだから、家に近い一箇所くらいは……』という譲歩を引き出すのが狙いと思われます」

C:レ「ひぃー」

C:ツ「ひぃー」


 その発想はなかった!

 ……というか、愛ちゃんが本気過ぎて怖い。そこまでやって、会ってみて――リアルのレイマンが好みのタイプじゃなかったら、どうするんだ。

 ツェルトにはとても真似できない。真似したくもない。


C:ツ「恐ろしいことを考えるなぁ、愛ちゃん」

C:ナ「悪魔的発想ですね。わたしも魔王的発想でこれに対抗せねば」


 できるよ、とツェルトは思った。ナイトハルトなら、間違いなくできる。


C:レ「つまり俺ちゃん、全会場お断りするしかない……?」

C:ナ「なんなら、友人が行きたがってるから、譲ってもらえる? なんて選択肢もあると思います」

C:レ「友人?」

C:ツ「って誰?」

C:ナ「おや、わたしはレイマンの友人のつもりでいましたが」

C:ツ「えっ待って、待って待って」

C:ナ「お利口な魔王なので、ステイもできます」

C:ツ「内藤さん、愛ちゃんに会いに行く気なの!?」

C:ナ「まぁそうですね……」


 一拍置いてから、次の行が表示された。


C:ナ「愛ちゃんを観察しに行く、というべきでしょうか」


 あーっ! 姿は見せずに遠くから眺めるっていう! ナイトハルトらし過ぎる!


C:レ「そんなことできるかな……今回はカフェがメインだからイベント会場も狭いっぽいよ。時間帯も決まってるし、人数も少ないだろ」


 いわれてみれば、たぶんそうだろう。大規模イベントより、紛れづらいはずだ。ツェルトはそういうのに参加したことがないので、完全に憶測でしかないが。


C:ナ「店に入らなければ問題ないので。愛ちゃんがどんな人物かだけ、遠目に確認できたらいいでしょう」

C:ツ「チケットもったいな……」

C:ナ「ではツェルトさんが『友人』役に立候補なさいますか? 女性というだけで大いに敵視されますし、お勧めはできませんが」


 謎の愛ちゃんは、〈沈黙騎士団〉の面々を「レイマン(はぁと)との仲を引き裂く悪いやつら」認定している節がある。誰に対しても当たりがキツいし、ツェルトなど、ほぼ無視である。女性キャラだからだろうと皆にいわれている。


C:ナ「中身も女性だとバレたら、さらに面倒なことになる気がしますね……」

C:ツ「立候補しないよ! しない!」

C:ナ「良い判断です。その方が賢明かと思います。まぁ、友人に譲ってくれるなどということは、あり得ないでしょうが」

C:レ「そうなの?」

C:ナ「ぎりぎりまでレイマンを待ちますよ。愛ちゃんですからね」


 謎の愛ちゃんへの謎の信頼! そして謎の説得力!


C:ツ「謎の愛ちゃんって、ほんとに謎だね……」

C:ナ「ええ。ぜひ解き明かしたいですね」


 うちの団長も謎いよ――とツェルトは思ったが、言葉にはしなかった。

 代わりに、もっと現実的な話をする。


C:ツ「ていうかさ、コラボカフェってなにするところ?」

C:レ「根源的疑問!」

C:ナ「カフェですから、基本は飲食でしょう」

C:ツ「キャラのイメージに寄せたメニューが出てくるんだっけ?」

C:レ「そそそ。人気NPCが勢揃いって感じ」

C:ツ「ふーん……NPCっぽいものを飲んだり食べたりするのに、お金払うんだ」

C:レ「ぐはぁ」

C:ナ「ツェルトさんは、ほんとうにリアル・イベントに興味がないですね」

C:ツ「うん」


 ツェルトは、ぺちぺちとキーを叩いた。


C:ツ「だって現実で出かけてる時間がもったいなくない? その時間、ゲームする方が楽しいじゃん」

C:レ「……本物だ、このひと」

C:ナ「知ってましたか、ツェルトさん。今回のコラボカフェ、入場するだけでもお金がかかるんですよ」

C:ツ「えっ、なにそれ」

C:ナ「展示スペースもありますからね。カフェを使わない人はいないだろうという前提の催しなので、呼称はコラボカフェですが」


 まったく興味がなかったので、そこまで知らなかった。

 ツェルトはブラウザを開き、コラボカフェを検索してみた……。


C:ツ「げっ。入場だけで四千円くらいとるの!?」

C:ナ「ランダムで、キャラクターの缶バッジその他がもらえます」

C:ツ「いやいやいや、缶バッジの値段じゃないでしょ!」

C:ナ「もちろんですよ。キャラへの愛の値段です。コンプリートする、あるいは自分の推しキャラが出るまで通うのも愛です」

C:ツ「……地獄じゃん」


 自分とは関係ない世界でよかった。


C:ナ「しかも、会場ごとにご当地アイテムがありまして、本気でコンプリートしたければ全国を巡る必要があります」

C:ツ「地獄が全国に広がってるじゃん」

C:レ「そういわれると、なんか怖くなってきたな」

C:ツ「レイマンさんなんか、愛ちゃん付きの地獄だよ」

C:レ「やめてッ!」

C:ナ「さらに、コラボカフェもメニューひとつ頼むとコースターがもらえるシステムです」

C:ツ「コースター?」

C:ナ「ええ、人気NPCのイラストが入ったコースターです」


 ツェルトはブラウザをスクロールし、「SAMPLE」という文字がデカデカと入ったコースターの見本画像を発見した。たしかに、人気のあるNPCが、いつもと違うオシャレ感満載の服装でポーズを決めていて、可愛かったりかっこよかったりする。

 ……するが、カフェのメニューはお値段もそれなりである。


C:ナ「もちろんランダムで」

C:ツ「鬼畜仕様じゃん」

C:ナ「魔王もびっくりの鬼畜さです。少々、敵愾心を覚えます」

C:ヴ「それなんて読むの?」


 ヴォルフが乱入してきた。よくあることだ。


C:レ「こんばんは」

C:ツ「こんばんは」

C:ナ「てきがいしん、ですよ。こんばんは」

C:ヴ「こんこん〜。で、なにに対してその……的外心? あれっ、変換しない」

C:ツ「すごくアホっぽい言葉になったな……」

C:レ「的外れっぽくない? 心を読むのに的を外したことがない内藤には似合わなくない?」

C:ツ「ほんとだ……」

C:ナ「さすがヴォルフさんですね。敵愾心、ですよ」


 なにが、さすがなのか。


C:ヴ「敵愾心……よし、変換した!」

C:ナ「なにに対して敵愾心を覚えていたかというと、コラボカフェの鬼畜仕様についてですね。魔王として負けているかもしれないと危惧の念を抱いてしまいました」

C:ヴ「あれ、内藤さんてコラボカフェとかに興味あるひとだっけ?」

C:ナ「わたしはすべてに興味がありますよ」


 知ってた……。


C:レ「魔王は人間界が好きなんだよ、きっと」

C:ナ「な、なにっ。これは好きなどという感情ではなく、ただの理知的な興味のはず」

C:ヴ「小芝居ウケる」

C:ツ「待って、わたし気がついちゃったんだけど、謎の愛ちゃんって全開催地でチケット二枚ずつ確保してるんだよね?」

C:ナ「そういう話ですね」

C:ツ「二枚で約八千円……それを十カ所ってことは八万円?」

C:ナ「交通費も必要ですね。それに、入場だけで済ませたりはしないでしょう。コースターをコンプリートするまでメニューも頼むはずです」


 うわぁ、とツェルトは思った。

 うわぁぁぁ!


C:ヴ「謎の愛ちゃんって、お金ありそうだよな〜」


 驚愕しているツェルトをよそに、なぜか納得している風のヴォルフである。なんでだ。


C:ツ「なんでお金ありそうって思うの?」

C:ヴ「だって、いっつも最前線走ってるじゃん、あのひと。レベルキャップ到達も、相当な速さでしょ。無課金であのスピードは無理だよ。つまり、ゲームに課金するのに躊躇いがない性格で、実際に課金できるだけの資産もあるってこと」

C:ツ「ヴォルフが……頭良さそうなこといってる!」

C:ヴ「微妙に失礼だが、許す」

C:ツ「内藤さんみたい!」

C:ヴ「それはちょっと」

C:レ「ウケる」

C:ヴ「たしかに」

C:ナ「魔王の弟子として認定しましょう」

C:ヴ「それもちょっと」


 笑いながら、ツェルトは提案した。


C:ツ「いいじゃん、内藤さんの弟子。魔王か破壊神の座を継げるってことでしょ」

C:ヴ「俺が目指してるの、どっちかっていうと勇者系だからなぁ。魔王とか破壊神とかは、倒しちゃう方」

C:ナ「なんと、敵対勢力でしたか」

C:レ「内藤を倒せるのか」

C:ヴ「それな〜。難しそう!」

C:レ「弟子のふりで懐に入り込んで、裏切って倒すのは?」

C:ナ「くっ……卑怯なり!」

C:ヴ「ダメダメ、勇者はもっと正面から突っ込んでかないと。そういう姑息なのは、仲間にまかせる。ツェルトどう?」

C:ツ「はぁあー?」


 急にふられた!


C:ナ「ツェルトさん、修行しに来ます?」

C:ツ「いえ、無理です、絶対」

C:レ「ガチめにお断りされてるwww」

C:ツ「適性ないんで」

C:ナ「まぁそうですね。ですが、魔王の後継者を目指さなくとも、優秀な下僕になる道が」

C:ツ「遠慮しておきます。レイマンさん、どう?」

C:レ「お、俺ちゃん? 俺ちゃん、魔王の素質ある?」


 少し長めにスクロールが止まった。


C:ヴ「ウケるw」

C:ツ「下僕の素質ならあると思う」

C:ナ「レイマンはすでにわたしの下僕ですよ」

C:ツ「キャッ。まさか魔王の下僕だったんなんて……!」

C:ナ「わたしは有情な魔王なので、謎の愛ちゃんの情報を集めるために現地派遣したり、はしませんよ」


 話が、ふりだしに戻った。


C:ツ「まー、レイマンさんは全会場お断り一択じゃん」

C:レ「そうだね……」

C:ヴ「謎の愛ちゃんがレイマンさんをコラボカフェに誘ってるって話なの?」

C:ツ「そう。全会場のチケットあるから、どれか一緒に行こうって」

C:ヴ「すげー」

C:ナ「お断り一択ですね。八万円かけていたとしても、レイマンがそのことに責任を感じる必要はありません」

C:ツ「そだよそだよ」

C:レ「うん……。皆、ありがとな。自分でもさ……気にする必要ないって、わかってんだけど」


 それでも、相手のことを気にしちゃうのがレイマンなのだ。ナイトハルトでなくても、わかる。レイマンは、そういうやつだ。


C:ナ「愛ちゃんを否定するのがやりづらいなら、コラボカフェというシステムを否定してみればどうでしょう」

C:レ「システム?」

C:ナ「魔王もびっくりの悪辣さですからね。ランダムに課金させること自体、馴染めない……といった論調で」

C:レ「あ〜……。なるほど。でも俺、ゲーム内のガチャ的な要素……けっこう遊んでるかも……」

C:ナ「良い機会ですから足を洗えばどうですか?」

C:レ「ぐっふぅ」

C:ヴ「レイマンさんが潰れた」

C:レ「ガチャ禁は……ガチャ禁はできたことがない!」


 なんと、レイマンはガチャ禁経験者だった。……しかもダメな方だった!


C:ツ「禁までしなくても。ガチャとは、節度あるおつきあいに留められれば」

C:ナ「それが難しい、ということでしょうね」

C:レ「はい……」

C:ヴ「レイマンさんは、オンラインカジノとか手を出さない方がいいね」

C:ツ「急になに」

C:ヴ「あれ、ユーザー・データを分析して、回すのやめられない人を抽出した上で、ギャンブル依存に育てるんだってさ」


 今夜のヴォルフは妙に賢い。


C:ツ「ヴォルフ、アカウント乗っ取られてない?」

C:ヴ「なんでだよ」

C:レ「ギャンブル依存に育てるって、どうやって……」

C:ヴ「負けがこんできたら、ちょっとだけ無料でできますって優待したり、そこでパカッと勝たせたりして引き留めるんだって。で、当たりがきもち〜〜、って体験を植え付けて、依存に持ち込むんだとさ」

C:ツ「ヴォルフなんでそんなの詳しいの」

C:ナ「テレビでやってましたから」

C:ヴ「あ、内藤さんも見た?」

C:ナ「はい」

C:ヴ「親がつけててさ〜、ちょっと面白かったからいっしょに見たんだけど、おまえはこういうのはやってないだろうな、ガチャも似たようなシステムだから気をつけろ、って。もう、死ぬほどいわれた」


 ヴォルフの親御さんは、すごく常識人で良識がありそうだ。いわば、ネトゲで徹夜したりしないタイプ。というより、そもそもネトゲなどには手を出さないだろう。

 そんな環境で生まれ育ったヴォルフが、なぜ廃人に近いネットゲーマーなのか。親御さんたちも、解せぬと思っているに違いない。


C:ナ「そのシリーズで少し前にやっていた、ネトゲで未成年者を囲い込んで性的虐待をする回も見ました?」

C:ヴ「見た〜! 親がもう、ほんっと! うるさくって!」


 そんな回もあるんだ……。


C:ナ「レイマンは成人男性ですから未成年ほどあやうくはないでしょうが、気をつけてくださいね。ふたりきりになる、ふたりだけの秘密を持つ――なんていうのは、束縛してくる側の常套手段です。なにかあったら、今回のように報告してください。秘密だなんていわれても、相手が勝手に主張していることですから」

C:レ「はい……」

C:ナ「わたしがいないときは、団員なら誰でもいいので。ふたりきりの世界になってしまうのが、もっとも危惧すべき状況ですからね。皆も、よろしくお願いします」

C:ヴ「うぃっすー! まかせられた!」

C:ツ「了解〜」


 ナイトハルトの要請に応じつつ、ツェルトは思った――でも内藤さんて、誰よりも、いつも、いるじゃん。


C:レ「みんな……ありがとう!」

C:ヴ「げっ」

C:レ「ひっ」

C:ツ「ちょっとヴォルフ」

C:ヴ「いやごめん、急にリディさんからチャット来て。昔の団員と揉めてるとかなんとか……なんなんだこれ」


 リディさんとは、ヴォルフが前に所属していた冒険団の、元団長である。たしかそう。最低身長に最大バストというキャラ・メイキングが印象的なせいで、ツェルトは心の中で「ロリ巨乳氏」と呼んでおり、ちゃんとしたキャラ名を覚えられない。


C:ナ「なんでも相談してくれてかまいませんよ」


 ナイトハルトの発言は、一見すると善意にあふれている。

 しかし、実際には人間関係のごたごたに興味を持ち、観察したがっているだけだろう。ナイトハルトは、そういうタイプだ。

 ただのゴシップ好きなら迷惑なだけだが、ナイトハルトはそこから解決策までみちびいてくれるので、一概に否定もできない。


C:レ「俺ちゃんも、お礼に相談に乗るよ〜」


 レイマンの方は善意百パーだろうが、あまり役に立つとも思えない。たぶん、同調しかしないからだろう……。

 もっとも、そういうレイマンの気質が助かるときもある。嬉しいときも、しょんぼりなときも、ムカついてるときも。レイマンなら、分かち合ってくれる。そういうタイプなのだ。

 しかし、かつてロリ巨乳氏が団長をつとめていた冒険団は、面倒な事情で爆発四散したらしいし……メンタル鋼鉄で関係者のヴォルフはともかく、そんな話に無関係なレイマンを巻き込むのは気の毒だ。


C:ツ「レイマンさん、わたしにもお礼してよ」

C:レ「おっ、ご指名? いいよ、なになに?」

C:ツ「クエスト行きたい。虹輝石がたりないんだよね、絶望的に。あれ、ふたりいれば高効率で回せるし。ヴォルフのことは、内藤さんにまかせておけば万事うまくいくっしょ」

C:ナ「あふれる信頼……感無量です。ツェルトさんも、採取素材集めは終わったんですね」


 なんでわたしがチャットのかたわら採取してたってわかるんだよ、怖いよ。


C:ヴ「ウケるw あっ、リディさんの方は勝手に噴き上がって勝手に解決しそう。俺もクエスト行っていい? 虹輝石ほしいし」

C:レ「無限にたりないよな、あれ」

C:ヴ「ほんそれ!」

C:ナ「待ってください、そういうことなら、わたしも行きます」

C:ツ「ぇぇ〜、どうしよっかな〜。パーティーに魔王がいるとか、なんか危ないし」

C:ナ「わたしを仲間にすれば、謎の愛ちゃんのブロマイドが手に入るかもしれませんよ」


 ナイトハルトが急に変なことをいいだした!


C:ツ「……なんそれ」

C:ヴ「ほしくない」

C:レ「同じく」

C:ナ「レイマンにたのめば、謎の愛ちゃんのコラボカフェ参加スケジュールがわかるじゃないですか。たぶん、メールで送られてるでしょう?」

C:レ「そうだけど……まさか現地に行って確認する気?」

C:ナ「べつにチケットを譲ってもらう必要はないんですよ。自分で購入すれば良いだけなので。あるいはチケットを買わなくても、会場入口で張っていれば観察できますし」


 いかにもナイトハルトがやりそうなことだが、ツェルトは顔をしかめた。

 やりそうなことではあるが、やらせてはならないことではないか?


C:ツ「内藤さん、それ一線超えてる」

C:ナ「そうでしょうか」

C:ツ「わたしの感覚では、そう。眺めるだけでもアウト気味だけど、盗撮したら完全アウトだよ」

C:ナ「盗撮……。なるほど、そういわれればそうですね」


 そういわれれば! そうですね! じゃ、ねーだろ!


C:ツ「さすが魔王、倫理観がヤバい……」

C:ヴ「つーか、どれが愛ちゃんか見分けられなくね?」


 それもそうだ。


C:ツ「現地に行かないって約束するなら、クエストに一緒に来てもいいよ」

C:ナ「ツェルトさんは、ツェルトさんですねぇ……」

C:ツ「なんですか、急に」

C:ナ「いえ、リアルよりゲームの方が面白いという信念があるんだな、と。あらためて感服しました」

C:レ「なるほど」

C:ヴ「ツェルトはゲーム好きだよなー」


 好きで悪いか! 好きだから遊んでるんだぞ!


C:ナ「わかりました、コラボカフェへの参戦は諦めます。師匠について、ゲーム道を究めます」

C:レ「師匠! 俺も俺も!」

C:ヴ「俺も俺も!」

C:ツ「誰が師匠じゃーい! とにかく、パーティー呼ぶぞ……あ、愛ちゃん同じサーバにいたりする?」

C:ナ「大丈夫です。今、混雑サーバで究極クエストを回してるっぽいですね」


 フレンド欄のステータスだけで、そこまで読むのが変態である……が、ナイトハルトはそういうキャラなので、今さらだ。


C:ツ「じゃ、このまま呼ぶわ」


 パーティー申請の作業にとりかかったツェルトをよそに、団員たちはチャットをつづけている。


C:レ「あらためて紹介ページ見たけど、コラボカフェってマジでランダム要素まみれだな……」

C:ヴ「ガチャに弱いタイプはヤバそうだよね。レイマンさんは、そういう意味でも行かなくて正解じゃない?」

C:レ「ううう……」


** レイマンにパーティー要請を送りました **


C:ヴ「ランダム性は、なんだっけ……なんかを煽るんだよ」

C:ナ「射倖心」

C:ヴ「あっ、それそれ、そういう雰囲気のやつ。射倖心……よし変換した」


** ヴォルフにパーティー要請を送りました **

** レイマンがパーティーに参加しました **


C:ナ「射倖心を煽ることで、ギャンブルにハメていくんですよ」

C:レ「ガチャは悪い文明……」

C:ナ「もっとも、我々がこれから赴くクエストも、報酬のドロップにランダム性があるんですけどね」


 ナイトハルトが、嫌なことを指摘してくる。

 たしかに、報酬がランダムだからこそ燃えるというか、ヤケになる面がなくもないが……ツェルトは確定報酬の方が好きだ。だって周回数が少なくて済むし。


** ナイトハルトにパーティー要請を送りました **

** ナイトハルトがパーティーに参加しました **

** ヴォルフがパーティーに参加しました **


C:ツ「ま、人生にある程度のランダムは必須ということで納得しましょ。納得できなければパーティー抜けてもらっていいんで」


 軽く流して、ツェルトは走りだした。そんなことよりクエスト、クエスト。虹輝石、虹輝石!


C:レ「師匠! 連れてってください!」

C:ヴ「同じく!」

C:ナ「笑止! 魔王であるこのわたしが参加したからには、ランダムなど軽く捻ってみせようぞ」

C:ツ「……期待してるわー(棒読み」

C:レ「移動しながら長文打つの、内藤うまいよね」

C:ナ「魔王ですので」

C:ヴ「なんでも魔王で解決するの、ウケる」


 冒険中でも、チャット欄は止まらないのであった。


実は、人生初! ゲームのコラボイベント(カフェあり)に行ったんですわ……。

初日に商品がなくなって、物販はもとより、オマケ(カフェのドリンクについてくるはずの飾りとか……一定金額以上購入したら貰えるものとか……)まで品切れになっており、なにやら虚無を味わってまいりましたわ……。


謎の愛ちゃんは、虚無らずに済むといいですね。

ランダムのフルコンプという任務もあるわけですし……大変そうだなぁ、愛ちゃん。

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