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はじめての掲示板回

初出:pixivFANBOX

https://usagiya.fanbox.cc/posts/11084132

C:ヴ「こんこんばんばん!」

C:ナ「こんばんは」

C:レ「コンコンババンババンバンバン」

C:ツ「こん〜」


 チャット欄の上からヴォルフ、レイマン、ナイトハルト、そしてツェルト。かれらはオンライン・ゲーム『クリスタル・ライジング』の冒険団クラン、沈黙騎士団の団員クラン・メンバーである。

 この冒険団、今時「ヴォイス・チャット禁止」が団則という不思議な集まりだが、ツェルトは自分の声を出すのが恥ずかしいので、まったく気にならない。むしろ好都合だと思っている。


C:ナ「今夜は『ジャンフロ』の更新があった割に、早かったですね」


 ナイトハルトが、その団則の発案者で団長クラン・マスターだ。


C:ヴ「むしろ『ジャンフロ』読んだから早かった、って感じ?」


『ジャンフロ』とは『ジャンピング・フロンティア』の略で、ヴォルフがハマっているウェブ小説のタイトルだ。ツェルトも布教されて少し読んだことがあるが、時間が惜しくて脱落した。

 だって、余暇があったらゲームしたいし。

 ヴォルフはといえば、更新があったら必ず二回は読んでからログインするので、いつも遅めのログイン時間がさらに遅くなる。純正ゲーマーとはいえないだろう。


C:ナ「ほう。どういう意味でしょう?」


 ナイトハルトが興味を示している……べつに珍しくはない。どんな話題でも熱心に聞く。それがナイトハルトだ。


C:レ「『ジャンフロ』で『クリライ』を連想するような、なにかがあったん?」

C:ヴ「レイマンさん、するどい!」

C:レ「ふっ。俺は針のように営利な男!」

C:ナ「誤変換いただきました」

C:レ「拾うな、内藤!」


 しかし、ナイトハルトは「拾われたくないところを拾う」のが得意なタイプだ。


C:ツ「キメ台詞の誤変換は、ちょっと恥ずかしいよね」

C:レ「俺ちゃん、痛恨のミス……」

C:ナ「そんなことより、『ジャンフロ』を読んだから来たというのは?」


 そんなことを指摘したのはナイトハルト本人なわけだが、それを蒸し返しても反撃されるに違いないので、ツェルトはつっこまなかった。この冒険団で身につけた保身術だ。


C:レ「そんなこと……」

C:ナ「ん? 重大事扱いをお望みですか?」


 ……ほら! こんな感じになるから!


C:レ「メッソウモナイデス」

C:ヴ「なんかの呪文みたいだな!」

C:ナ「末尾がデスなのが効いてますね」

C:レ「エッソウカナソウカモデス」


 ノリが良過ぎて、どんどん脱線していく。ここは、つっこんでも痛手を受けないポイントだろう。そう見極めて、ツェルトはキーを叩いた。


C:ツ「ところで、ヴォルフはなんだったのよ。ジャンフロ→クリライの流れを説明せよ」

C:レ「三行くらいで」

C:ヴ「あ、それな。実は今日更新の話が掲示板回でさ」

C:ツ「掲示板回?」

C:ナ「ネットゲームを舞台にした小説では、よくある回ですね」

C:レ「なんそれ?」


 ネットゲームを舞台にした小説など、ヴォルフに布教された『ジャンフロ』くらいしか読んだことがないレイマンとツェルトに、ナイトハルトが説明する。


C:ナ「小説の主人公は、往々にして、その舞台となるネットゲームでよく知られた攻略とはまったく違う方法で難敵を倒したり、隠しエリアを発見したり、超絶レア・アイテムを手にしたりするのです」

C:ヴ「そうそう。『ジャンフロ』でも、アクバーがいろいろやるんだよ」


 アクバーとは『ジャンフロ』の主人公である。


C:ナ「それを目撃した一般プレイヤーが『なんだあいつ』『どこそこで変なやつ見た、あの進度ではあり得へん武器持っとった』みたいな話題で、掲示板で盛り上がる回があるわけです」

C:レ「回……」

C:ナ「連載第何回の回ですよ」

C:ヴ「今回、それがすごく面白くてさ〜! 一般プレイヤーからしたら、アクバーのやってることって全部変! みたいな」


 わかるような、わからんような……。


C:ツ「それ、『クリライ』でいったらどんな感じ?」

C:ナ「そうですね……ツェルトさんは、攻略wiki はご覧になってますか?」

C:ツ「青wiki は見てる」

C:レ「俺ちゃんも、青は見てる! 黒は最近、更新なくなったからなぁ」


 青wiki はユーザー有志が集まって更新しているタイプ。黒wiki は企業の攻略ページ。それぞれ背景やデザインの色からそう呼ばれているだけで、正式名称は別にある……が、ツェルトは覚えていない。

 たしか青の方はシンプルにゲーム名+攻略wiki だった気がするが、黒の方は究極裏技どうたらこうたらと、長い名前なのだ。

 その長い名前の黒wiki は、更新頻度が落ちている。企業運営wiki の更新頻度が落ちるということは、管理人のやる気がないか、あるいは『クリライ』の人気が落ちてユーザーの流入量が減ったか……。後者の可能性はサービス終了に結びついてしまう。よって、ツェルトは管理人説をとっている。心の安寧のために。


C:ナ「コメント欄も見ますか?」

C:ツ「たまに。でも、揉めてることあるし、あんまり見てないかな……」

C:レ「あ〜、あるある! 迂闊にどのジョブが最強かって話になったり! 本題と関係ない話題で揉めたりさ〜」


 ツェルトは画面の前でうなずいた。あるある過ぎる。


C:ナ「なるほど。では、今期の究極クエストのページをイメージしてください」

C:ツ「見なくていいの?」

C:ナ「イメージで大丈夫ですよ。究極クエストには、適切というか、やりやすいジョブの組み合わせがありますよね?」

C:ツ「前衛後衛でうまくバランスとってとか、最速は盾、回復、前衛、後衛のバランス型とか、そういうの?」

C:ナ「そういうのです。そこに、そうですね……奏楽士二人でクリアしたという書き込みがあったとします」

C:ツ「え、今期の? 無理でしょ……」

C:レ「サポジョブのペアじゃ、無理というか……できるかもだけど、究極クエってタイム制限あるじゃん。火力足りないよな?」

C:ヴ「って、盛り上がるのが掲示板回なんだよ!」

C:ナ「そういうことです。『奏楽士募集があったから気楽に入ってみたら、ふたりでやってみたい、戦術はこう、装備はこれ、手順はこんな感じ……と説明されて、まぁ無理だろうが暇だしつきあってやるか、って。やってみたら、クリアできたわwwww ていうかあの奏楽士、各所で目撃されてる赤毛くんだった疑惑』みたいな書き込みからスタートして、えっ無理だろとか、あの赤毛くんかとか、そういう感じで盛り上がるわけです」


 ……わかるような気はしないでもないのだが。


C:レ「なるほどな! で、それがなんで『クリライ』に早めに出勤する理由になんの?」


 ツェルトの疑問をレイマンが代弁してくれた。さすが頼れる兄貴、レイマン!


C:ヴ「やってみたくなったから!」

C:ツ「は?」

C:レ「へ?」

C:ナ「ほほぅ」


 ナイトハルトが興味を示している……。


C:ツ「ここにはアクバーはいないのに?」

C:ヴ「誰を目撃するかってのは、問題だよなー。でも、環境はちょうどいいのがあるだろ」

C:レ「ちょうどいい?」

C:ナ「冒険団専用掲示板ですね」

C:ヴ「さすが内藤さん、わかってる!」


 冒険団専用掲示板とは……ゲーム内にある冒険団専用の掲示板である。そのまんまだ。

 チャットは流れてしまうし、インしていないと読めないし、ログを遡ることもできない。

 ではメールを使えばという話になるが、最大規模――たしか百人だったと思うが、それくらいの冒険団になるとメールも大変だろう。送るだけなら一斉メールで済むが、反応があったら個別に対応せねばならない。そして、そういう大規模冒険団の方が、団内で共有しておかねばならない情報などが多そうな気がする。

 ……ツェルトは〈沈黙騎士団〉以外の冒険団に所属したことがないから、あくまでイメージ上ではあるのだが。


C:ナ「なるほど、団専用の掲示板でしたら、ほかに迷惑をかける心配もありませんしね」

C:ヴ「だよねぇ? うち、掲示板ほとんど使ってないし。ちょっとふざけ倒してもいいかな、と思ってさ」

C:ヴ「あ、もちろん皆がよければ、だけど」


 ツェルトが考えているあいだにレイマンが応じる。


C:レ「べつにいいけど、その掲示板回ってやつがよくわかってないから、うまくいっしょに遊べるかは不明だぞ?」

C:ヴ「それは、知ってる俺と内藤さんが盛り上げてく係でしょ!」


 勝手にナイトハルトも巻き込んでいる……。

 たまに、ヴォルフは大物だと思うのは、こういう瞬間だ。なにも考えてないなコイツ、とも思うのだが。


C:ツ「わたし、クエスト行っていい? デイリーの残り、終わらせたい」

C:ヴ「ぇー」

C:レ「ぇー」

C:ツ「ぇーっていわれてもさぁ……わかんないもん。掲示板使うぶんには文句ないから、勝手に遊んでよ」


 わたしも勝手に遊ぶからさ、とツェルトは思う。お互い、やりたいことをやればいいのだ。


C:ナ「わかりました。ツェルトさんはクエストを優先してください」

C:ツ「ではではー」


 ツェルトはステータスを「取り込み中」に変更し、クエスト受注のために移動した。

 デイリーの報酬など大したものではないが、それでもコツコツやりたいのだ。それに、掲示板回なるものがワケわからな過ぎて、いっしょに楽しめる気がしない。

 ツェルトが実質離脱しても、チャットはどんどん流れていく。


C:ナ「先ほどから、誰を目撃したらよいのかについて考えていたのですが」

C:ヴ「ぁー……それね、どうしようね?」

C:レ「目撃って?」

C:ナ「常識外れのプレイをする誰かの目撃談で盛り上がるのが、掲示板回なのですよ」

C:レ「なるほど……?」

C:ヴ「皆の変な体験談をまとめて、架空のプレイヤーを作る……とか?」

C:ナ「ヴォルフさんが素手でボスに殴りかかっていた話とか、採用したいですね」


 ナイトハルトが、ヴォルフの忘れたい過去をほじくりだした! さすが過ぎる。


C:ヴ「内藤さんwww それw やwめwてw」

C:レ「あやしい展開になってきたぞぉ〜。次にピンチになるのは俺だろ!」

C:ナ「先んじて、わたしの黒歴史を指摘してくださってもよいのですよ?」

C:ヴ「内藤さんの歴史は真っ黒だろ……」


 ヴォルフ! ヴォルフのメンタルが強い!

 雑魚キャラの攻撃にパリィを決めながら、ツェルトは思う――でも、たしかにナイトハルトの歴史は黒そうだ。

 やたらと察しのいい我らが団長は、深刻な厨二病患者でもある。装備はできるだけ黒と銀で揃え、妙に生え際の立ち上がりがいい銀髪ロングをファサァッとやりながら、封印した右腕が疼く……などと口走ることがあるのだ。眼帯装備で呪われし左眼が! のパターンもある。魔王だったり破壊神だったり、いろいろある。

 ナイトハルトの中の人は中年らしいのだが、清々しいほどストレートに厨二病である。


C:ナ「我が血塗られし過去を覗き見んと欲するか? ならば」

C:レ「ならば?」

C:ナ「話が長くなるが、かまわぬか?」


 ……妙に親切だな、おい。


C:ヴ「掲示板に書いて盛り上がれそうなら、それでもいいよー」

C:レ「暗黒の破壊神を目撃しました! ってやるの?」

C:ヴ「……やってみる?」

C:ナ「某サーバで重篤な厨二病プレイヤー発見、みたいな盛り上がりになりそうですが」


 厨二病を患う本人が、それをいうのか。

 でもまぁ……そういう話は実際、聞いたことがある。だいたいは、過剰な厨二病表現が嘲笑われることになるし、そういうプレイヤーはゲームが下手だと相場が決まっている。

 ナイトハルトはゲームは上手いし、ちゃんと場の空気も読む。遭遇しても、おおむね「腰が低く礼儀正しい、ちょっと残念な厨二のひと」くらいに思われるだけだろう。

 団長の恐ろしさを知っているのは、団員だけだ……。


C:ナ「そこで、思いついたのですが」

C:レ「なにをよ?」

C:ヴ「なになに?」


 どうせ、ろくでもないことだろ……と思いながら、ツェルトは拠点から拠点へ飛ぶ。次は納品クエストのはずだ。アイテムは引き出してあるから、記憶違いでない限りはすぐ終わる。


C:ナ「掲示板に書き込むのに自分の武勇伝をでっち上げては、ただの痛いヤラセになってしまうではないですか」

C:レ「それはそう」

C:ヴ「なる」

C:ナ「ですので、ここはこの遊びに参加しないひとをターゲットにしてはどうでしょう」

C:レ「!!」

C:ヴ「ツェルトかぁ」


 ほら! ほらほら! やっぱり、ろくでもなかった!


C:ナ「ツェルトさんって、意外と独特のエピソード持ちだと思うんですよね」

C:レ「ん〜、まぁタイム・アタックでランキング入りしてるの、うちじゃツェルトだけだもんなぁ。こういうの、どうすんの? さっき内藤が話してた例だと、TAで奏楽士使ってランクインしてたプレイヤーじゃね? って、答え合わせに出すのがよさそうな気がする」

C:ヴ「レイマンさん、センスあるね!」

C:レ「あらやだ、ほんと? よーし、頑張っちゃうぞ!」


 頑張るな。


C:ナ「フレンド申請できないタイプっていうのも、なんとかして入れ込みましょう」

C:ヴ「究極クエで完璧なスキル回ししてた奏楽士が、終わってから皆でフレンド申請し合ってる最中にフッと消えたとか?」

C:レ「やりそう〜」


 ……当てるな!

 実際、やったことがあるのだ……パリピっぽいウェイウェイした人々で気が合わなさそ〜、と思ったときに。クエスト終了直後にさっと消えたのだ。いかにも、皆フレンドになろうよ〜! という流れになりそうだったから。


C:ナ「やってるでしょうね」


 確信を持つな!


C:ヴ「マジ? アツッ!」


 アツがるな! アツ苦しかったのは、ウェイウェイしてたプレイヤーである……。

 いろいろつっこみたいところはあるが、チャットに乱入したら負けっぽい気がした。うん、無視だ無視。

 ツェルトは次のクエストの受注に向かった。


C:レ「じゃあ、奏楽士に焦点当てるかぁ。あのジョブ、けっこうマイナーだし使ってるプレイヤー少なめじゃない?」

C:ナ「そうですね。野良でジョブ指定なしでマッチングしたとき、奏楽士がいたら珍しいくらいですし」

C:ヴ「たしかに〜! てか、ツェルトってうまいよな。ふだんソロが多いせいか、補助しながら的確に回避して攻撃にも参加するじゃん?」

C:ナ「お上手ですよね」

C:レ「ツェルトは、うちのエース」


 ……いたたまれない!

 この褒めは、どこまで本気なのだろうか。たぶん、ナイトハルトはツェルトの出方を予想しながらチャットに参加しているはずだ。いつ乱入してくるか、どれだけ耐えられるかにヤマを張って、当たったら喜ぶゲームをしてるだろう。

 いや、たぶんではない。絶対に、だ。


C:ナ「あと……これは話してもいいのかな」


 やめろ! なんだかわからないが、やめろ!


C:レ「なになに?」

C:ヴ「なになに?」

C:ナ「以前、ツェルトさんとふたりで究極クエに行ったことがあったのですが……2シーズンくらい前でしたか」

C:レ「わくわく」

C:ヴ「どきどき」


 なんの話だ。ツェルトはもう、デイリー・クエストどころではない。完全にチャットを凝視するタイムになっている。


C:ナ「たしかボスが雑魚を召喚するタイプのやつで」

C:レ「ぁ〜……あったな! あのウザいの」

C:ヴ「あれ爽快感なかったよねー」

C:ナ「あの雑魚をわたしが引き受けまして。盾でしたから」


 ナイトハルトのメイン・ジョブは、盾役だ。挑発スキルもあるので、そりゃ雑魚の引き付けくらいはお手のものだろう。野良でも、ちゃんとした盾なら仕事する……たまに、ちゃんとしてない盾もいるので油断はできないのだが。


C:ナ「で、ツェルトさんがソロでボスを倒しちゃったんですよね」

C:レ「えっ。2シーズン前って、ツェルトもう奏楽士やってなかった?」

C:ナ「そうなんですよ」

C:レ「奏楽士ソロで倒せんの!?」

C:ヴ「アツッ」

C:ナ「わたしも目を疑いましたね。本人はバグ技だといってました。毒を与えるデバフが異様に効果があったそうです」

C:レ「え、俺見たことないぞ、そんなの。けっこう野良でやってるし、もちろんツェルトとも遊んだはずだよな?」

C:ヴ「俺も俺も」

C:ナ「バグ技なので、ふだんは封印していたそうです。そのときは、ふたりだったし早く寝たかったから、さっさと倒したくて使ったとか……あ、そのバグはもう修正がかかってますから、再現は無理です」

C:ヴ「あの頃、毒って評判悪かったしなー。誰も使わないよな」

C:レ「初期に強過ぎてナーフされて、今度は弱過ぎになってまた強化されたという、運営迷走の軌跡……」

C:ヴ「これは掲示板採用だな!」


 ……あったなぁ、とツェルトは遠い目になった。

 まだ攻略法が確立していなかった頃、状態異常を順に試してみたのだ。野良で試してみたときは、アタッカーがすごく強かったのかな? と思ったのだが、どうしても気になってソロで行ったところ、ボスだけ設定がどうかしていたらしく、毒を当てれば即殺できてしまったのだ。

 ただし、ソロだと雑魚に囲まれた時点でどうにもならず、ボスを倒しても消えない雑魚は毒の効果がふつうだったので……まぁ負けた。


C:ヴ「そういえばさ、ツェルトって奏楽士の前は近接拳闘士も多かったじゃん? ドルゴム戦で、神回避連発してたの見たことある」

C:レ「えっ、ドルゴムってあの鉱山にいる巨大ゴーレムだよな? あれ紙装甲の拳闘士で行くの、怖くない?」

C:ヴ「俺も同ジョブだったけど、ぶっちゃけツェルトみたいな立ち回りはできなくてさー、悔しかったからすげぇ覚えてる!」


 ……あったなぁ、とツェルトはまたしても遠い目になった。

 だが、いわせてほしい。あの頃のヴォルフは、溜めスキルに熱中していたのだ。浪漫スキルとかいって。ドルゴムは動きが鈍いからうってつけの相手! などと、ほざいていた。

 しかし、実のところドルゴムはそこまで鈍くない。溜めモーション強攻撃の印象が強いからそう思ってしまうが、けっこう早めの連続攻撃を出してくるし、強攻撃以外は隙がほとんどない。その上、強攻撃と連続攻撃の予備モーションがぱっと見で似ているタチの悪さだ。

 当然、ヴォルフはかっこよく溜めをはなつ前に攻撃を食らい……そのとき組んだヒーラーがせっせと治していたので、うちの冒険団の若いのが済まないねぇ……という気分を味わったのを覚えている。


C:ナ「採用!」

C:ヴ「採用された!」

C:レ「俺もなんか捻り出したい……」

C:ナ「頑張ってください」

C:レ「染め粉を譲ってくれるとかくれないとか話したことしか、心に残ってない……」


 それはそれで、なんか嫌だ……。


C:ナ「染め粉ですか。たしか、ツェルトさんは貯蓄量が異常なんですよね」

C:ヴ「染め粉に限らなくない?」

C:レ「たしかに」


 そりゃツェルトは集めるのが好きだから……そして集めたものをあまり使わないから……。


C:ナ「脇エピソードくらいにはなりそうですね」

C:ヴ「内藤さん、けっこう本気だねw」

C:ナ「もちろんです。わたしは、遊びには本気を出すタイプです」


 出すなー!

 いや出してもいいけど、ここでは出すな! 出さないでくれ! 出さないでください、お願いします……。

 ツェルトは、諦めた。


C:ツ「ちょっと皆さん、いいでしょうか?」

C:ナ「取り込み中なのに、大丈夫ですか?」


 こまけぇよ、と思いながらツェルトはキーを叩いた。


C:ツ「変なエピソードが多いってことなら、内藤さんに勝てるひとはいないと思うんですよね」

C:レ「あ〜。ん〜……まぁ……それはそうかぁ」

C:ヴ「でもさ、掲示板で評判になるような話はなくない? 地味なんだよな〜」


 地味?

 ……地味かもしれない。誰がなにをやってるかを当てたからといって、掲示板で話題になったりはしないだろう。そもそも、ナイトハルトは団員以外にそういう話をしていなさそうだ。

 だから、たいていの相手には「腰が低い厨二のひと」くらいの印象しか与えないのである……。


C:ツ「じゃあ、謎の愛ちゃんはどう?」

C:レ「げっ」

C:ナ「……それは盛り上がりそうですね」

C:ヴ「ウケるw」


 謎の愛ちゃんとは、ぶっちゃけレイマンのストーカーである。やたらと名前を変更するため、団内での通称は謎の愛ちゃんで定着した。

 つきあいがよく、断れないタイプのレイマンは、辟易しながらも完全に逃げきることはできないでいる。もうズルズルと……それこそ何シーズンも引っ張っているのだから、ある意味すごい。


C:ナ「今日もタゲられてるんでしょう、レイマンは。今の反応から見るに、同じ場所にいますよね」

C:レ「……ナンデワカルノデス」

C:ヴ「レイマンさんが呪文唱えだしたw」


 これ。ナイトハルトのこれ! ほんとに当て過ぎなのでマジで怖い。


C:ツ「レイマンさん、愛ちゃんのとっておきのエピソード、たくさん持ってるんじゃない? たしか、ペアで冒険に行くと、愛ちゃんが無双するのを眺める催しになるとか話してなかったっけ?」

C:レ「……あるけど、あんまり思いだしたくないというか?」

C:ナ「ですが、逸話を集めて傾向を割り出せば、対策しやすくなるかもしれませんね。それこそ、どこのサーバによくいるとか、何時頃にいるとか……」

C:レ「どこにでもいるし、いつでもいるんだよ……」


 レイマンがマジでげんなりしている。

 ツェルトとしては苦し紛れにぶっこんだネタだったが、変な具合にヒットしてしまい、どうしよう……というところだ。


C:ヴ「レイマンさんが、お疲れさんだ。俺、邪魔しに行ったげようか?」

C:レ「いいの?」

C:ヴ「いいよ〜。フレンドリストからレイマンさんのいるとこに飛べばいい? それとも、パーティー組んでる?」

C:レ「組んでない……さっき声かけられたばっか」

C:ヴ「じゃ、組む前にさっさと行くね」

C:レ「アリガタイノデス」


 罪悪感に襲われたツェルトは、あわてて口を挟んだ。


C:ツ「わたしも行く?」

C:ナ「ツェルトさんは、やめておいた方がいいでしょう。女性キャラでレイマンに近づくと、謎の愛ちゃんのヘイトがすごいことになりますから」

C:レ「ソウナノデス……ヤメテオイタホウガ イイノデス」


 いわれてみれば、そうかもしれない……謎の愛ちゃんとの遭遇回数はさほど多くないのだが、常時、レイマンとのあいだに立たれていた気がする……。


C:ナ「レイマンが嫌でなければ、掲示板の活用はしたいところですね。真面目に考えておいてください」

C:レ「ハイ」

C:ナ「あと、加勢が必要なら呼んでください」

C:ヴ「だいじょぶ、だいじょぶ! 俺が暑苦しく追い払っちゃうから!」


 暑苦しく……。

 よくわからないが、ヴォルフならできるのだろう。なにしろ、ナイトハルトを躊躇なく巻き込んでいけるメンタルの強さだ。謎の愛ちゃんくらい、ものともしないに違いない。


C:ナ「ツェルトさんは、まだデイリー終わってないでしょう。そろそろ終わらせないと、今日の究極クエを逃しますよ。まだですよね?」

C:ツ「まだ……」


 なぜバレている?

 これくらい時間があれば、いつもならだいたい終わっているのだ……ツェルトはデイリーの効率を極めているので。

 そういう意味では、掲示板で話題になってもおかしくないかもしれない。デイリーの効率をここまで詰めているプレイヤーは、そう多くないだろう……ただし、これも地味ではある。


C:ナ「掲示板関連の話題もなかなか盛り上がりましたよ」


 知っとるわ。


C:ナ「わたしが試しに少し書いたものがあるので、あとで読んでくださいね」


 ……えっ!

 ツェルトはあわてて団専用掲示板を開こうとした。……が、開きかたがわからなかった!

 メニューのどこにあるんだ……冒険団のメニューってどっかにあったっけ? いやわからんぞ、わからん……!


C:ツ「団専用掲示板ってどうやって開くんだっけ?」

C:ナ「まずデイリーを終わらせて、究極クエに行きましょう。でないと、ツェルトさん報酬取る前に寝落ちしちゃいますよ」

C:ツ「……内藤さん!」

C:ナ「大丈夫、掲示板は逃げません。デイリーを終わらせる頃に、わたしがレイマンとヴォルフをパーティーに引っ張りますから、そしたら合流してささっと終わらせましょう」

C:レ「イエス、ナイトゥ〜」

C:ヴ「了解だけど、早くして。俺そろそろ落ちないとやばい、レポートの提出期限を忘れてた。というか、思いだした。明日だ」

C:レ「激アツじゃん……」

C:ヴ「火傷しちまうぜ」

C:ナ「というわけなので、ツェルトさん早く」


 気になるぅ〜! むっちゃ気になって寝落ちどころじゃない〜!

 と思いながらデイリーをクリアしたツェルトは、そのまま究極クエをやらされ、それからようやく団専用掲示板の開きかたを教わった。

 開かれたところに書いてあったのは。


ナイトハルト「当面、謎の愛ちゃんの出没傾向の分析に使います。レイマンはもちろん、見かけたら誰でも、場所と時刻を書き残してください」


 ……内藤ぅ〜! と、心で絶叫したツェルトだった。


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