覚醒
なんという急展開!?(◎ω◎)
書いていて心が痛くなります
夕刻から天気は崩れ、外は雨が降っている。
リニスはデイニーの作ったご馳走を無言で食べていた。
「お母様と兄様は今頃楽しんでいるのかな……」
カチャカチャとナイフとフォークを空いたお皿の上で遊ばせながら、リニスは小さい溜息を何度かついた。
時折頷いたり、自分の中で考え事をしたり、たまにニヤケたりと忙しい様だった。
「でも、お母様から頼まれた大事な役目だからしっかりしなきゃ!」
リニスは椅子から無造作に立ち上がり、デイニーのいる厨房へと向った。
「デイニー、ちょっとお願いがあるんだけど」
厨房のドアから頭をのぞかせ、デイニーを呼んだが返事がない。
「デイニー?」
「……ニス……様……」
微かだがデイニーの声が厨房の奥から聞こえたので、リニスは安心し、デイニーの声がした方へと向った。
「デイニー、いるならいるって言って――」
その瞬間、リニスは濡れた床に足を滑らせた。
「ったぁ、ビックリしたぁ……」
立ち上がろうとしたリニスは、自分が滑った床を見て小さな悲鳴をあげた。
リニスの周りに血の水溜りが出来ていたのだから。
思考が止まる、息が出来ない、身体が動かない、ただ目の前に自分のものではない血がある事実にリニスは恐怖を感じていた。
誰の?
私じゃない。
じゃあ誰の?
「……デ…イニ……」
微かに漏れた息のような言葉。
今アルファール家には自分とメイドのデイニーしかいない。
「……デイニー……?」
「デイニー……?」
デイニーのじゃないと信じたい。でも床についた手に流れてくる血は暖かい。
厨房の奥にいるのはデイニーしかいないはず。
不安と恐怖と混乱で立ち上がれないリニスは、震えながら身体を引きずって行った。
心臓が脈打つ度に口から出てきそうになる。
今までに感じたことのない恐怖や不安で胸が押し潰されそうだ。
そして、リニスは見つけた。
四肢を切り取られ、まるで子供が遊んだ後の玩具の様なデイニーを。
斬られた首筋からはまだゆっくりと暖かい血が流れている。
「ゔおぇっ!」
我慢出来ずにリニスはその場で吐いた。
デイニーが作ってくれたご馳走を全部吐いた。
デイニーの血、涙と鼻水、嘔吐物が混ざり合い、酸っぱい臭いが辺りにたちこめる。
「なんで……なんで……」
リニスは肉塊となったデイニーを揺すりながら、己に対する後悔や、失望、悲しみを吐き出すように嘆きかけた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
意識が朦朧とする中、リニスは屋敷の中をフラフラと彷徨い歩いていると、前の方から数人の男達が見えた。
「みーつけた」
身なりの汚い男が一人リニスの方へと近くが、リニスはその男に気づいていないのか、まるで壁にぶつかるかのように力無く男にぶつかった。
「おっと、お嬢さん。どこへ行くのかな?」
男はニヤニヤしながらリニスの腕をつかむ。そして無理矢理仲間の方へと引っ張って行こうとした。
動かない。
男はびっくりした。小さな少女はそこに生えているかのようにビクともしないのだから。
「魔学……か?」
しかし、依頼者からは魔学は使えないから簡単な仕事だと言われていた。
「……ですか?」
「ん? 何だって?」
男はリニスがボソッと呟いたのがわかり、聞き返した。
リニスは男の顔をゆっくりと見上げてもう一度呟いた。
「あなた達がデイニーを殺したんですか?」
「あー、あの女はそんな名前だったのか! 名前を聞く前に殺っちまったからな」
男達は笑う。
それが当たり前かのように笑う。
「俺達は依頼を受けて殺す。ただそれだけの仕事だからな」
「……誰から頼まれたんですか」
男はニヤリと笑うと、リニスの耳元で囁いた。
『リシーア・アルファール』
身体中の力が抜け、リニスは床へ座り込んだ。
痙攣と思えるほどガクガク震えだし、辺りに歯がガチガチとぶつかり合う音がし始める。
「お、お、おかあ、さ、さま……が……」
「可哀想だよなぁ、母親から見放されて棄てられ、挙げ句に殺されるんだからなぁ」
男達はゲラゲラと下品に笑い、不幸を愉しんでいる。
「う、うそ……嘘なんで……嘘なん……でしょ……」
涎を垂らし、魂の抜けたような顔をしながらリニスは男にすがる。
「ちっ、きたねぇな!」
男は汚物塗れのリニスの顔を、持っていた鉈の柄で撲った。
リニスは勢いよく吹き飛ぶが、男の腕を握ったまま離さなかった。
「離せよガキがっ!」
何度も何度も男は鉈の柄でリニスを撲る。
鈍い音や、歯の落ちる音、血が飛び散る音だけが屋敷に響く。
「ハァ……ハァ……っ、畜生が……。死んだか?」
ピクリとも動かなくなったリニスだが、掴んだ腕だけは離さなかった。
そして男は少しだが異変を感じていた。
異変というか違うのだ。
同じだが何かが違うのだ。
圧倒的に優位な立場にいるのだが、目の前の死んでいるのか生きているのか分からない少女に、感覚が恐怖している。
見えない圧力に押し潰される感覚。
まるで大型の野獣に捕まり餌にされてしまうような。
男は思い出した。
この感覚は以前感じたことがある。
一人の男と対峙した時だ。
手も足も出ず、たった一人の男に一味を崩壊させられた。
「……ハリム・ジルーク」
「まさか……こいつ、力学をーー」
刹那、リニスが握っていた左腕が急にフッと軽くなった。
その左腕を見て男は愕然とした。
無いのだ。
さっきまであった自分の左腕が千切れて無くなっているのだ。
そして脳が認識したと同時に、猛烈な痛みと熱さが溢れてくる。
目の前には千切れた腕を持った少女が笑っていた。
男は叫んだ。
「逃げろおおおおおおおお!!!」




